ザ・プリンスズ・オブ・マリブー

放送局: FOX

プレミア放送日: 7/10/2005 (Sun) 20:30-21:00

製作: GRBエンタテインメント

製作総指揮: ゲイリー・ベンツ、ブラント・ピインヴィディック、スペンサー・プラット

出演: ブロディ・ジェンナー、ブランドン・ジェンナー、デイヴィッド・フォスター、リンダ・トンプソン


ブラット・キャンプ

放送局: ABC

プレミア放送日: 7/13/05 (Wed) 20:00-22:00

製作: シャピロ/グロドナー・プロダクションズ

製作総指揮: アリソン・グロドナー、アーノルド・シャピロ


内容: 勝手好き放題の若者たちを主人公に据えたリアリティ・ショウ2種。


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3年前のMTVの「ジ・オズボーンズ」以来、アメリカのリアリティ・ショウでは、セレブリティ、並びにセレブリティの子女を主人公に据え、その一挙手一投足をとらえたセレブ系の番組が根強い人気を保っている。元々芸能ニューズはTVの歴史と同じくらい古くからある人気のあるジャンルでもあるが、「オズボーンズ」は、有名人の奇矯な振る舞いはメシの種になるということを改めて証明した感があった。


さらに一昨年のMTVの「ニューリーウェズ」およびFOXの「ザ・シンプル・ライフ」、昨年の「ニューリーウェズ」姉妹編の「ジ・アシュリー・シンプソン・ショウ」等によって、このジャンルは新たに息を吹き返した。そのため、現在でも同系統のリアリティ・ショウが至るところで製作されている。


特に最近製作されているこれらの番組の特長は、比較的若いセレブリティに密着してその行動をとらえたところにある。その中でも「シンプル・ライフ」は、ほとんど社会通念や常識を無視して我が儘し放題のパリス・ヒルトンとニコール・リッチーに密着し、傍若無人の悪行を重ねる二人の行動をつぶさにとらえて、このジャンルでは最も高い人気を勝ち得た。


この場合、セレブリティとしての二人の主人公というよりも、ポイントは、二人が常識を知らないバカねーちゃんというところにあった。視聴者は、我が儘に育てられたねーちゃんたちの常識知らずの行動を見て、喝采を送ったり眉をひそめてみたりして楽しんだのである。


この、スポイルされて育てられた無軌道な若者像をとらえるというのが、リアリティ・ショウの新ジャンルとして最近頭角を現し始めている。この場合、若者が常識を無視してやりたい放題やらかすのを見て驚いたり楽しんだりするというのが番組の主旨だから、登場人物は特にセレブリティやセレブリティの子女に限らない。本人にネイム・ヴァリュウがあればいいのはもちろんではあるが、それはプラス・アルファであって、必須条件ではない。


そうやって登場した2本の新番組、FOXの「ザ・プリンスズ・オブ・マリブー」と、ABCの「ブラット・キャンプ」は、そういう、最近の常識のない若者を主人公とするリアリティ・ショウだが、その素材の料理の仕方がまるで違う。「マリブー」は、何度もグラミー賞を獲得している音楽プロデューサー、デイヴィッド・フォスターと、後妻の二人の連れ子に焦点を当てる。フォスター家はカリフォルニアの最高級住宅地マリブーにある豪邸であり、フォスターは後妻の連れ子の教育を誤った。気がついた時には既に遅く、ブロディとブランドンの二人の息子は、完璧なスポイルされた放蕩息子と化していた。


ブロディとブランドンの父は、名にし負うアメリカの十種競技のオリンピック代表ブルース・ジェンナーであり、はっきり言って彼らは二人共顔とガタイはいい。すごくいい。ハンサムでスポーツができてその上ユーモアのセンスがあり、バックに使い放題の金が唸っているとあるならば、当然女の子はほっておかない。彼らは毎晩自宅の庭のプールの周りで連日連夜パーティに明け暮れるのだった。


とはいうものの、別にフォスターに実際には血の繋がっていないブロディとブランドンを養う義務なぞない。二人共既に成人しているのだからなおさらだ。いい加減自分で使う金は自分で稼げ、もっとしゃっきりしろと、フォスターは始終切れてばかりいる。さて、ブロディとブランドンは気持ちを入れ替えて社会人としてやっていけるのだろうか。


一方、「ブラット・キャンプ」に登場する若者たちは、別にセレブリティの子女でもなんでもない。ただし、彼らには共通する項目がある。それは、スポイルされて育てられたあまり、彼らはいわゆる問題児となってしまったということだ。手に負えないくらいハイパーなガキやドラッグに走ってしまったガキ、嘘をつかずにいられないガキ等、9人の不良少年少女たちが、ついに親から最後通告をもらい、オレゴン州にある、自然 (というか荒野だ) での生活を通して問題のある少年少女を矯正する施設、セイジウォーク (SageWalk) に送り込まれる。番組は、これまで自分の住んでいた世界から、厳しい規律と自然の中でもがく彼らの行動をとらえる。


実際の話、夜は氷点下という世界でキャンプを張り、大した食料や防寒具もないまま生きのびるためには、セイジウォークの指導者の言うことに耳を傾け、規律を守り、皆で共同して物事に当たらなければならない。独断による軽挙妄動は、ここでは文字通り命取りになりかねないのだ。


とまあ、同じ最近のろくでもない糞ガキどもに焦点を当てた両番組であるが、その手触りはかなり異なるものとなっている。「マリブー」の場合、明らかに「シンプル・ライフ」と同じ路線を狙っており、主人公のおバカさんたちのとてつもない行動と、それに振り回される周りの親どもを見て笑ってしまおうというのが番組の主旨だ。そして実際の話、この番組、私にとっては「シンプル・ライフ」なんかより何倍も面白い。


「シンプル・ライフ」では、常識ゼロのスポイル娘たちの社会をなめきった言動が、私を含む一部の視聴者の怒りを買いこそすれ、まったくエンタテイニングとは言いがたかった。しかし「マリブー」では、同様にスポイルされたジェンナー兄弟が迷惑をかけるのは、基本的に自分たちの親だけである。カメラは基本的に豪邸の外にはそれほど出ず、ほとんど一人で彼らの所業の尻拭いをさせられるのは、育ての親のフォスターのみだ。この場合、それがたとえ自分の本当の息子ではなくても、育てたのは自分であり、因果が巡りめぐってそのしっぺ返しが自分に跳ね返ってきても、視聴者はそれを自業自得と笑って見ていられる。


働かずに毎晩遊んでばかりいる息子どもに愛想を尽かしたフォスターは、ついに堪忍袋の緒が切れ、彼らに持たせたクレジット・カードを使えなくしてしまう。金づるのなくなった兄弟はなんとかして自分たちで働くなりビジネスを起こすなりして金を稼がなければならないが、それまでほとんど働いた経験のない彼らに頼れる伝手などない。


とはいえ、そこは遊ぶことだけは人一倍やってきた彼らには、ガール・フレンドだけは腐るほどいる。そこで彼らは自分たちの家の車回しを解放して、そこに水着姿のゴージャスなガール・フレンドたちをはべらせ、彼女らに洗車させるというお手軽なビジネスを考えつく。このアイディア、なかなかツボを得ていたと見えて、ほとんど人件費も材料費もただみたいなものなのに、場所柄、いい車に乗っている女の子には目のない男どもが、いきなりフォスター家の門前に列をなすのだった。


とはいえ、いくら豪邸といえども私邸であり、門から玄関までと続く車回しは一車線の幅しかない。その先端で車を停めて洗車なんかされたら、ただフォスター家を訪れた友人や、フォスターのビジネスの相手が車を中に入れることができず、なんだこれはと途方にくれることになる。そのうちの一人は、この日、フォスターと打ち合わせのあったチャカ・カーンで、車がつっかえて動かないために、業を煮やして兄弟たちに食ってかかる。


「私、チャカ・カーンなんだけど」

「‥‥知らないなあ」


いや、これには笑ってしまった。一時飛ぶ鳥を落とす勢いのあったチャカ・カーンといえども、今の若い子にはまるで知られていないのだった。そんなこんなでフォスターはまたぷっつんと切れ、水着姿の女の子や洗車してもらおうと待っている者たちを皆自分の家の庭から出て行けと追い出すのだった。


一方、「ブラット・キャンプ」の場合、こちらはマジもマジ、大マジである。まるっきり笑える番組ではない。もう息子娘の教育に疲れ、このままでは一家離散、あるいは一家心中かというくらい思いつめた親たちが、最後の手段とばかりに望みを託して子供たちをセイジウォークに送り込んできたのだ。こんな辺境に送られてきたやつもきついが、心を鬼にして送り込んだ親も辛い。その責任が両肩に乗りかかるセイジウォークのスタッフもきついのも言うまでもない。


これまでは好き勝手放題だったガキどもが、ほとんど生まれて初めてたった一人、別世界に投げ込まれるのだが、そこにはTVもラジオもヴィデオ・ゲームもiPodも携帯もドラッグもない。それまでは相手が親だから好き勝手に我が儘を通すことができたが、ここではそうはいかない。別に相手は自分のご機嫌をとる必要なんかさらさらないのだ。


結局誰もが、自分はクールだぜ、なんて態度は自分から取り払わざるを得ない。厳しい自然の中での共同生活では、チーム・ワークがまず第一義であり、一人が落ちこぼれたり単独行動をとったりすると、周りの全員に迷惑がかかる。しかも単独行動をとろうにも、周りは荒野だ。勝手に自分一人だけ逃げ出したりしても、まかり間違うと本当に凍え死んでしまう。野生の狼やクマに襲われるかもしれないし、食量もない。さらに何十kgものバック・パックを担いでの強行軍の途中では、逃げ出すことなんか考えることすらできない。いきなりエゴが崩壊したように泣き崩れるデレク。そこにはこれまでハイパーな彼が見せていたエネルギーの発露はない。しかし周りの誰も彼を助けることはできない。彼自身が立ち上がってまた歩き始めるしかないのだ。


私くらいの年代では、セイジウォークを見て即座に思い出すのは、同様にひねくれたガキどもをスパルタで鍛え直していた戸塚ヨット・スクールだ。今でもあるのだろうか。海の上では、人は甘えたことなんか言ってられず、周りの気象条件に即座に対応していかないと、ほとんど死を意味してしまう。素人考えでも、アマちゃんを鍛え直すには、海というのは悪くないと思えた。ところがこのヨット・スクール、本当に死人を出してしまい、警察沙汰になった。セイジウォークだって、海の上ほどたるんだ根性が即、死に直結しているとは思えないとはいえ、指導者もなかなか大変だろう。


それに、どんなに親身になってガキどもの相談に乗ったり、世話を焼いたりしたおかげでガキどもが悔悛の徴候を見せようとも、そんなの一時的なもので、うちに帰ればまた元の木阿弥ということにもなりかねない。実際、セイジウォークで進歩の気配が見られたアイゼアは、うちに戻ってから、黒人の学校の先生の自宅のドアに人種差別的な落書きをしたかどで告発されたことがニューズになっている。やはり人の中身なんてそう簡単に変わるものではないのだ。


「マリブー」と「キャンプ」は、このように異なった視点から現在の若者像を摘出して見せる。「マリブー」が若者に強いFOX、「キャンプ」が家族向けエンタテインメントに力を入れているABCの放送というのは、さもありなんと思う。一方、FOXに負けず劣らず若者に強いケーブルのMTVでは、老舗の「ザ・リアル・ワールド」以外にも、現在、「ラグナ・ビーチ (Laguna Beach)」とか、「マイ・スーパー・スウィート・シックスティーン (My Super Sweet 16)」なんて、やはり今時のティーンエイジャーをとらえたリアリティ・ショウを編成しており、ティーンにはかなり人気だ。


「ラグナ・ビーチ」は、副題が「ザ・リアル・O.C.」となっているのを見てもわかる通り、FOXの人気ドラマ「O.C.」の舞台であるオレンジ・カウンティの本当の金持ちの子女をとらえた番組で、かなり「マリブー」に印象が近い。「シックスティーン」の方は、女の子が16歳になった時にやる、成人式並みの派手なお祝いのドンちゃん騒ぎを繰り広げるバカな女の子たちをとらえるもので、これまた金を持っている家庭の子女が中心なのは言うまでもない。


これらの番組はMTVでも人気の高い番組なのだが、私が、こちらの方こそ面白いと思ったFOXの「マリブー」は、実は視聴率低迷を理由に、2回放送されただけで既に番組はキャンセルされている。私としては、ただのおつむの足りない金を持っているバカなガキどもをとらえただけにしか見えない「ラグナ・ビーチ」や「シックスティーン」よりも、断然「マリブー」の方を推したいところだが、実際に同年齢の子たちにとっては、どうもそうじゃないようだ。また、「キャンプ」も、最初の方こそかなりいい視聴率を上げていたが、今ではそれもかなり下落している。


いったい、「マリブー」や「キャンプ」より「ラグナ・ビーチ」や「シックスティーン」の方が人気のある理由は何かと考えてみるんだが、よくわからないとしか言いようがない。特に「マリブー」と「ラグナ・ビーチ」、「シックスティーン」は、登場するのが金持ちの子女で、彼、彼女らが好き勝手気ままに行動するのをとらえるという番組の骨子はまったく同じなのだ。唯一異なるのは、「マリブー」のジェンナー兄弟は既に20歳を超えており、「ラグナ・ビーチ」、「シックスティーン」は現役ばりばりのティーンが出ているということで、はっきり言って、両者で人気が分かれたのは、これしか理由がないんじゃないかと思う。


つまり、ティーンエイジャーの子にとっては、本当に同年代の子と20歳を超えた子との間には、それこそ埋まることのない深い溝があり、既にものの考え方が違う、別世界の住人になってしまっているのだ。実際、私が高校の時には、大学生は既に大人に見えたものだ。つまり、ティーンエイジャーにとっては、ジェンナー兄弟は既に自分たちの仲間ではないのだ。20歳を超えたばかりでしかないジェンナー兄弟だが、既に世代交代の波は金持ちであろうとハンサムであろうとなかろうと、誰にでも皆平等に押し寄せているのだった。はあーっ、しみじみ。






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