Boston Med  ボストン・メッド

放送局: ABC

プレミア放送日: 6/24/2010 (Thu) 22:00-23:00

製作: ABCニューズ

製作: テレンス・ロング


内容: ボストンを代表する3つの病院、マサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタル (Massachusetts General Hospital)、ブリガム・アンド・ウーメンズ・ホスピタル (Brigham and Women's Hospital)、チルドレンズ・ホスピタル・ボストン (Children's Hospital Boston) の内部に密着する。


_______________________________________________________________





















医療ドラマは刑事ドラマと並んで、ドラマの両輪と言っていいほどポピュラーなジャンルだ。どちらも人の生と死、善と悪、そしてアクションをとらえる。ドラマの花形であるのも当然だろう。医療ドラマと刑事ドラマがポピュラーでなかった時代なぞない。


特に昨シーズンから今シーズンにかけては、NBCで長年人気を誇った医療ドラマ「ER」が最終回を迎えたせいもあるだろう、その後を継ぐべく、というか、大きなライヴァルが消えた今をチャンスと見たか、FOXの「メンタル (Mental)」を筆頭に、雨後の竹の子のように続々と新医療ドラマが編成された。ただしそれらの新番組の中で、「ER」に匹敵する人気を獲得しそうな番組は、現在ではまだ現れていない。


一方、医療ドラマではないが、医療に関連したリアリティ・ショウやドキュメンタリーというのもある。その場合、気づくのがそれまではタブーととらえられていた状態の描写、端的に言って死体や臓器の描写に対する垣根が低くなってきたことが挙げられる。この傾向を最も顕著に体現しているディスカバリー・ヘルスの「ドクター・G (Dr. G.)」は、いまだにカルト的人気がある。医者自身の成長をとらえる「ドクターズ・ダイアリーズ (Doctor’s Diaries)」なんてのもあったし、実際の医療の現状や対処法を教える「ザ・ドクターズ (The Doctors)」や「ドクター・オズ (Dr. Oz)」なんて番組もある。


さて、「ボストン・メッド」だが、これはABCのニューズ部門、ABCニューズが製作した医療ドキュメンタリーだ。ABCは一昨年、同様の医療ドキュメンタリー「ホプキンス (Hopkins)」を放送した。これはボルティモアの総合病院ジョン・ホプキンス・ホスピタルに密着取材した番組で、結構評価は高かった。「ボストン・メッド」はその姉妹編とでも言うべき番組だ。


実はABCは「ホプキンス」に先立つ2000年に、そもそものきっかけとなった「ホプキンス24/7」を放送している。「ホプキンス24/7」は医療ドキュメンタリーの先駆けとして、当時としてはここまでカメラを持ち込むのかとかなり話題になった記憶がある。この番組があったからこそ、8年後に「ホプキンス」が再度撮られたのだし、今回の「ボストン・メッド」にも繋がっている。


「ボストン・メッド」は、体裁としては「ホプキンス」両作とほとんど変わるところはない。病院内における医者、患者、その医療の最前線を捉える。さらにそのうちの何人かは、オフの私生活にも密着する。今度デートの予定がある研修医のデートの現場にくっついていったり、ヴァケイションのクルーズに同行したりする。つまり、「ER」や「グレイズ・アナトミー (Grey’s Anatomy)」が描いている世界のドキュメンタリー版というか、現実版が「ボストン・メッド」なのだ。


「ER」や「グレイズ・アナトミー」では、当然奇病難病が後から後から現れる。ドラマを盛り立てるために必要だから当然だ。ところが「ボストン・メッド」では、それらが事実としてそこにある。話を盛り上げるためのプロットとして病人がいるわけではなく、そこに本物の病人がいる。本当に怪我をして痛い思いをしていたり、ほとんど不治の病だったり、いつ実現するかわからない臓器移植を待っている者が現実にそこにいる。この怪我は本当の怪我で、この血は血糊ではなく本物の血で、痛さのあまり挙げる苦痛の声は、思わず出てしまった嘘偽りないうめき声なのだ。


番組第1回では、肺移植を待つ二人の中年女性と、勤務中に撃たれた警官の3人の話がフィーチャーされる。肺移植の手術を同時に二人するというのが、実に現実的で納得させる。肺移植を待つ者は何人もいるが、臓器提供者はすぐにそう何人も現れるものではない。一方、肺は少なくとも一つあればそれでかなり賄えるものと思われる。あるいは、肺移植が必要なのは一つだけで、もう一方の肺は平常なのかもしれない。それで手に入った両肺を、二人の患者で分けるのだ。二人は肺の到着に合わせて隣り合った手術室で麻酔をかけられ、今すぐに執刀が始められるよう既に眠りについている。


手術が始まり、カメラもその模様をとらえる。患者からほとんど機能していない肺が摘出される。どす黒く変色して萎びた肺だ。一方、移植用の肺はピンク色でつやつやとしている。こんなにも違うのか。確かにあの肺では機能していなかったろうと思われる。彼女らがスモーカーだったという説明はなかったが、しかし、私も数年前にタバコをやめてよかったと思う。手術は2例とも成功し、1週間後には二人共退院する。一週間前は文字通り死にかけていたのに、今では第二の人生が目の前に開けている。車椅子での退院とはいえ、気持ちは飛び上がらんばかりだろう。


話は変わるが、私んちの飼いネコは典型的な内弁慶で、家の中では自由気ままに振る舞っているが、定期健診とかで動物クリニックに連れて行こうとすると、とたんにパニクる。注射をうたれたり色んなところを触診されると怖いようで、検診台の上で暴れまくり、医者や助手に噛みつこうとする。それで視覚を防いで安心させるためにそれ用のマスクのようなものを被せようとすると、よけい怖がってさらに暴れるという悪循環で、しまいには医者がさじを投げた。


これ以上無理強いをしてクリニックに連れてきても、むしろ小さな身体と心臓に負担をかけるだけ、しかもうちのネコはもう10歳以上の高齢で、こんなに暴れさせたら逆に心臓麻痺を起こしてしまうかもしれない。どうせ家ネコならあまり病気をもらう心配もないだろうし、もうクリニックに連れてくる必要はないと言われた。


一方、この女医の前にかかった男性の医者は非常に怜悧な印象を与えるやつで、いけ好かない野郎だったのだが、腕はよかった。この時もやはりうちのネコは暴れようとしたのだが、この医者が有無を言わせずにうちのネコの首根っことを押さえつけると、そのままぐっと言って動けなくなった。一発で急所を押さえつけたから、本当にぐうの音も出ずになすがままにされるしかなかった。そのまますべての必要な処置を済ませた手際のよさは見事なものだった。うちのネコに対して手袋もせず、マスクも被らせずにあっという間に検診を済ませたのは後にも先にもこの医者だけだ。


ただし、この医者が腕がいいのを認めるのが吝かではないが、だからといってこの医者を尊敬したり好意を持てるかというと、それはまた別の話だ。自分の飼いネコがほとんど物のように急所を押さえられて寝かしつけられるのを見るのは、あまり気分のいいものではない。眼で助けてと哀願して来る。ペットですらそうなのだ。これが人間の家族を手術する医者が、そりゃあ薮なのは論外だが、しかし、どんなに腕がいいからといって、人を人とも思わぬ態度をとるやつだったりすると、信頼する気にはならないだろう。


なんてことを考えさせるのは、番組に出てくる肺移植を担当する、たぶん腕とキャリアは一流の医者が、この時のうちのネコを扱った男性医者を思い出させたからだ。この医者、休暇と手術を秤にかけると病院で手術する方を選ぶという典型的な仕事中毒で、おかげで腕の方は一級のようだが、カメラを前にべらべらとしゃべりまくる。自尊心を持つのはかまわないが、自信過剰は禁物だぞ、と言いたくなる。


もう一人フィーチャーされる患者は、職務の過程で撃たれて運ばれてきた警察官だ。一発は腕を貫通、それはまだいいとして、もう一発はあごを割って銃弾が咽喉の辺りで止まっている。女医が、もうちょっと位置がずれていたらダメだったろうというすれすれのところで死を免れた。とはいってもだからといって事態が楽観できるわけではない。なんといっても本人の痛みは相当のものに違いない。うめくとあごの辺りに負担がかかってさらに痛そうだ。かといってうめかずにはいられない。


私の知人に腎臓結石を持っている女性がいて、あれは痛いのだそうだ。ある時、どうしても痛みに耐えられなくなって救急車を要請した。病院に運ばれたはいいが、ニューヨークだって慢性的な医師、病院不足だ。命にかかわるような重篤な患者から先に治療される。こちらだって死にそうなくらい痛いのだが、看護士から痛いか、と訊かれて痛いと答えると、逆にほっとかれるのだそうだ。痛みのあまり気絶するくらいじゃないと見てくれないらしい。返事ができると、この子はまだ大丈夫と判断されて後回しにされる。結局医者が見てくれたのは救急車を呼んで数時間後だったそうだ。


上の警察官の場合、痛みは10段階の7くらいだと言っていた。たぶん気絶するくらいの痛みが10なのだろうと思う。屈強な大の男が7の痛みでうんうん呻いている。10の痛みを考えるだけで気が遠くなりそうだ。痛いのは苦手なのだ。実は私は今春、どうしてもやらざるを得ないということで、この歳になって親知らずを1本抜いた。丸々2日ほど、痛くてものが噛めず、ドリンクとおじやだけで過ごした。それでもなかなか咽喉をものが通らなかった。ちゃんと麻酔をかけた正規の治療でそうなのだ。それなのに割れたあごを繋いで再構築する手術か。結局この警官は痛みを緩和するため、強制的に薬で眠らされていた。


番組は、こちらではレジデントと呼ばれるインターンの医者にも密着する。この女性レジデントは、こともあろうに心臓発作を起こした患者に気道を確保する適切な処置を施すのが遅れて、死亡させてしまう。これって本当に死んじゃったわけ? ドラマじゃないからそうだよね。延々と施される心臓マッサージの甲斐なく、ついに医者の一人がこれまでと宣言、淡々と死亡時刻を宣告する。上位医者や病院関係者から批判を受け、自責に押しつぶされそうになるレジデント。医者は人を何人か殺して一人前とか言うが、人を死なせてしまう立場になる医者にも、病院に運ばれる患者にもなりたくないと思うのであった。


「ボストン・メッド」のプロデューサーが「ER」や「グレイズ・アナトミー」を意識していないことはないだろう。ただし、むろんだからそのことが番組としてできを保証するものになったか、あるいは、本当の患者には失礼だが、番組として面白いものになったかを判断するのは難しい。特に、医者の私生活の部分の描写は,私はほとんど不要と感じた。これなら「ドクターズ・ダイアリーズ」の方が何倍も深く突っ込めているし、物語としては「ER」の方が面白い。 やはり、虚は虚、実には実の面白さがあるとしか言いようがない。


ただし、これが本当に起こったことという認識から来る痛さを想像させる点では、ドキュメンタリーの方がより痛さを伝えているとは言えるかと思う。後の回では、全米でも2例目にしかならない顔面移植をする患者がとりあげられるという。こういうのは、ドキュメンタリーが持つ事実の重さの方が強く訴えかけるものがあると言えるだろう。









< previous                                    HOME

 

Boston Med


ボストン・メッド   ★★★

 
inserted by FC2 system