放送局: WB

プレミア放送日: 7/29/2004 (Thu) 20:00-20:30

製作: バー・スモール・プロダクションズ、パラレル・エンタテインメント・プロダクションズ、リヴァーサイド・プロダクションズ、ワーナー・ブラザースTV

製作総指揮: ファックス・バー、アダム・スモール、ジェフ・フォックスワーシー、jp・ウィリアムズ、ゲアリ・キャンベル、ブライアン・ハート

監督: ポール・ミラー

出演: ジェフ・フォックスワーシー、ビル・イングヴォール、ダン・ホイットニー (ラリー・ザ・ケーブル・ガイ)


内容: アメリカで人気の「ブルー・カラー・コメディ・ツアー」をTVシリーズ化。


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アメリカには、スタンダップ・コメディアンといういわゆる漫才師がおり、通常、全米各地のクラブやシアター等を渡り歩いて日銭を稼いでいる。一人だと心細いから、何人かでつるんで全米を巡業するという形態も数多くあり、その中からは、全米中に知られるようになるコメディアンやツアーもしばしば現れる。


つい最近までこの種のツアーで最も知られていたのが、現在FOXで人気の「バーニー・マック・ショウ」に主演しているバーニー・マックが注目されるきっかけとなった、「キングス・オブ・コメディ」ツアーだ。マックを含む黒人4人のコメディアンが、主として人種差別ネタを中心に繰り広げるギャグが大受けとなり、スパイク・リーが彼らを題材にドキュメンタリー映画を撮り、かなりヒットしたのも記憶に新しい。


また、NBCの「ラスト・コミック・スタンディング (Last Comic Standing)」は、何を隠そうその手のスタンダップ・コメディアンを発掘する勝ち抜きリアリティ・ショウで、昨年から始まっているが、今年の方が人気を上げているなど、この種のツアー、番組の需要は決して少なくないことを証明している。そして今回WBが放送を始めた「ブルー・カラーTV」は、現在アメリカで人気を博している「ブルー・カラー・コメディ・ツアー」をTVシリーズ化したものだ。


とはいえ、実は私はこの番組が始まるまで、そういうコメディ・ツアーがあることなんかまるで知らなかった。実際の話、ニューヨークで「ブルー・カラー・ツアー」のことを知っている人間がどれだけいたかはかなり疑わしい。この番組のおかげで、こういうコメディ・ツアーがあるということを知った人間がほとんどだろう。


番組収録に関しても、通常この種の、スタジオに観客を入れての公開型の番組は、当然のことながら観客を集めやすい大都市でやるのが普通で、基本的に、ニューヨークかLAのどちらかであることがほとんどだ。この種の番組でははしりとも言える「SCTV」発祥の地シカゴという例もあるが、いずれにしても大都市ということがほとんど絶対的条件となる。それが「ブルー・カラーTV」の収録地は、南部アトランタなのだ。


もちろんアトランタはオリンピックを開催したほどの都市であるから小さいわけはないが、それでも、なぜアトランタなのと首を傾げる者の方が多いだろう。その理由としては、「ブルー・カラー・コメディ・ツアー」が、読んで字の如く、頭を使わない、非知的労働に従事しているような人間を対象にしたコメディのツアーだということがまず第一に挙げられる。


頭を使う高度なジョークや皮肉とかとはまったく無縁で、ビール片手にお笑い番組を楽しみたい、というような観客を対象としている「ブルー・カラー」ツアーは、多少は知的な印象を与えるNYやLAといった大都会のイメージとあまりそぐわない。実際、このツアーは現実にアメリカ中南部を中心に人気のあるツアーであり、だからこそ例外的に、このツアーが最もよく知られている南部のアトランタが番組収録地として選ばれたのだ。


プレミア・エピソードの冒頭で、ツアーの主要メンバーであるジェフ・フォックスワーシーが、我々は世界平和のためというような高邁な思想に基づいてではなく、ちょっとだけ人生を過ごしやすくするためにこの番組をやっているのだと宣言している通り、徹頭徹尾、知的なものからは無縁な庶民ギャグ、あるいは下品ギャグを連発するのが、「ブルー・カラーTV」だ。


番組はいくつかのギャグ・スキットから構成されているため、視聴者が「ブルー・カラーTV」を見て真っ先に連想するのは、たぶんNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」か、あるいはFOXの「マッドTV」だろう。しかし「ブルー・カラーTV」は、その下世話さ、はしたなさにおいて、上記両番組をいとも簡単に凌駕している。よくもこんなくだらないギャグを連発する番組を、弱小のWBとはいえ天下のネットワークで放送するよなという感じだ。この俗悪趣味、何も知らないでこの番組を見せられたら、10人中10人がFOXの番組だとカン違いするのは間違いあるまい。で、つまり、要するにここまで低俗に徹したこの番組、思わずかなり笑ってしまう。


「ブルー・カラーTV」は毎回テーマが設けられており、因みに番組第1回のテーマは「家族」だ。とはいえ、そのテーマが特に重要かというとそうでもない。ここでは、ただ単に、ほとんどのギャグにおいて家族が絡んでいるというくらいの意味しかない。第2回以降も、一応「休暇」だとか「仕事」だとか「結婚」だとかあるが、そんなもの気にしている視聴者なんていないだろう。要するに、つまるところテーマなんかどうでもいいのだ。


で、その栄えある第1回の最初のギャグは「ハウス・オブ・グレイヴィ (House of Gravy)」と題されたもので、これがまたいかにも、なんにでもグレイヴィをかけないではいられない南部気質をおちょくっている。もちろん北部の人間だってグレイヴィ好きは多いし、私もボストン・マーケットやケンタッキー・フライド・チキンでマッシュド・ポテトを頼んだら、当然グレイヴィもかける。しかしここではそれを極端にして、すべてのフードにグレイヴィをかけてしまう。その下の食材が見えないくらいてんこ盛りにかけてしまうというところがミソで、スシやデザートにまでグレイヴィをかけてしまうのだ。


最後には当然、レストランの中でグレイヴィがけ合戦みたいな感じになって、全員でグレイヴィをぶつけ合うのだが、フードを使うギャグ、それも無駄に投げ合うみたいなギャグは、パイ投げに端を発するアメリカ的どたばたギャグの基本みたいなもんだ。とはいえ、まだまだ日本的文化に染まっている私は、こういう、食い物を粗末にするギャグには、少しばかり抵抗を覚えるのも事実。地球の裏側には、今日食う分にも困っている飢えている人たちがいるというのに。


その次が「400パウンドの干渉 (400 Pounds of Intervention)」と題されたスキットで、これまたどんどん肥大化していく南部の人間を茶化している。お相撲さん並みの体格の父と母を持つ、やはりこれまた巨大な娘が、隠れてダイエットしているのを見つかって親から非難されるという内容だ。本当に、別に南部に限らず、アメリカの人間は現在どんどん肥満化しているのだが、要するにそれをおちょくっている。


3番目のスキットは「ビッグ・キッズ (Big Kids)」と題され、この回ではこれが最もおかしかった。ということは、これが最も下品だったということでもある。子供の格好をした3人が車の中でぐずる様をとらえたもので、母親から、勝手にクッキーを食べちゃいけませんと言われてゲロを吐き出し、おちんちんをいじっていちゃダメとたしなめられ、最後には盛大におしっこを撒き散らす。キョーレツだが、やはりこういう生理ネタ、下ネタほど直接こちらに響いてくることは事実で、要するにファレリー兄弟のTV版みたいなものか。いや、しかし、おゲレツだけどやっぱり笑ってしまう。


「SNL」と「マッドTV」は、共に番組開始時間が夜11時台なのに対し、「ブルー・カラーTV」は、幼い子供もまだ起きている夜8時台の放送だ。こんなお下劣番組を子供に見せちゃってもいいのと思ったりもするが、しかし、はっきり言って、子供というのはこういう汚いものが好きなのだ。考えたら、かつて日本のPTAが嫌っていたお笑い番組の代表格「8時だよ! 全員集合」だって、8時台の番組だった。とはいえ、「全員集合」はここまで下ネタ的とは言えなかったが。


「ブルー・カラーTV」を代表するジェフ・フォックスワーシーはWBと縁が深く、以前WBでシットコム「ジェフ・フォックスワーシー・ショウ (Jeff Foxworthy Show)」に主演していたことがある。今回「ブルー・カラーTV」がWBで放送される運びとなったのは、たぶんにこのフォックスワーシーとWBの昔からのコネが大きくものを言っているのだろうが、しかしここまでフォックスワーシーが下ネタが好きだとは思いもよらなかった。「ブルー・カラーTV」は、ネットワーク一のおゲレツTV番組として、たぶん良識ある一般市民からは顰蹙を買うことになるんだろうが、しかし、エンタテインメントとは名ばかりで、見る者にストレスを与えるような番組が増え続けている現在、こういう番組は貴重だなと思うのである。






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Blue Collar TV

ブルー・カラーTV   ★★1/2

 
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