Beirut


ベイルート  (2018年4月)

「ベイルート」はジョン・ハム主演のポリティカル・スリラーなのだが、それよりもまたロザムンド・パイクが出ているということで目についた。


パイクは今春、西部劇の「ホスタイルズ (Hostiles)」で印象を残し、その後すぐさま「セヴン・デイズ・イン・エンテベ (7 Days in Entebbe)」にも出て、おっと思わせた。それでも、それだけならふーんそうだったのかで終わっただろうが、その印象も冷めぬ間にさらに「ベイルート」となると、なんでまた、とこれは気になる。


ニコール・キッドマンと並んで (ほぼ) オーヴァー・リアクション女優の双璧と言えるパイクは、出る作品を選ぶ。普通なら出演作が連続して公開されるなんてまず考えられない。キッドマンならあの美貌でいざとなったら黙って立っててもそれなりに絵になるから出演作がそれなりにあってもわかるが、さらに癖のあるパイク出演作が連続であると、こちらの方が動揺してしまう。


しかもそのうち2本が、近過去のポリティカル・スリラーだ。「セヴン・デイズ・イン・エンテベ」ではドイツ人テロリストに扮し、「ベイルート」ではCIAエージェントだ。法のこちら側の取り締まる側にも追われる側にも身を置く。パイクってそういう使い方があったのか。


ついでに言うと「ベイルート」のオープニングで主人公の家を襲うテロリストは、ミュンヘン五輪時の襲撃事件と関係があるという設定だ。パイクは「セヴン・デイズ・イン・エンテベ」ではそのドイツのテロリストに扮していた。実際私が「エンテベ」を見て思い出したのは、そのミュンヘン五輪のテロ事件だった。パイクってなんかタイム・ループに陥ってないか。


とまれ「ベイルート」だ。オープニングは1972年、中東のパリとも呼ばれ栄えたベイルートの、最後の栄華の時代を舞台にしている。というのも、1975年にはレバノンで内戦が勃発するからだ。元々世界の交通の要所である中東は、歴史的に政情が不安定だ。そのことはレバノンも例外ではなく、お隣りのシリアとイスラエルは、今でも内戦、小競り合いが続いている。


「ベイルート」は、外交官として赴任している主人公メイソンが豪邸でパーティを開いている描写で幕を開ける。そこをテロリストに襲撃され、妻を殺されたメイソンはアメリカに帰国後、ほとんど廃人のようになって生きていた。10年後、メイソンは要請を受けて再びベイルートを訪れるが、その時のベイルートは、かなりの部分が瓦礫の山だ。今、シリアの内戦で我々がTVで目にする惨状と寸分違わぬ光景が眼前に広がっている。


実はメイソンがわざわざベイルートに呼ばれた本当の理由は、かつて友人であったCIAエージェントのカルがテロリスト・グループに拉致されたからだった。そのテロリストのリーダーこそ、かつてメイソンが自分の子同様に可愛がっていたアラブ系のカリムだった。


かつてカリムをメイソンの元から拉致していったカリムの兄ラミは、現在アメリカが確保しており、カリムはカルとラミの人質交換を要請、そのネゴシエイターとしてメイソンが指名されたのだ。しかし、実はラミはアメリカの手にはなかった。メイソンはイスラエルがラミを拘束しているに違いないと踏んでイスラエルと交渉を開始するが、その予想は外れていた。ではいったいラミはどこで誰が拘束しているのか。


脚本を書いているのが「ジェイソン・ボーン (Jason Bourne)」シリーズのトニー・ギルロイであるからして、もちろん一筋縄では行かず、人質交換は簡単には成立しない。思った場所に人質はおらず、実はしかも相手はそれを知りつつ無理難題を要求し、カルの妻はメイソンを責める。果たしてメイソンは約束の時間内にラミを探し当てることができるのか、カリムの真意はそれだけなのか、サンディは? CIA上層部の思惑は? メイソンに突破口はあるのかと、話は二転三転する。ハムというと、どうしてもAMCの「マッド・メン (Mad Men)」のスーツをばりばり着こなした洒落者という印象が強いが、あの濃さはこういう中東ものでもはまる。


現在ベイルートは、この時の瓦礫の山の惨状からだいぶ回復してかつての美しい街並みをとり戻しつつあるらしい。しかし既に中東の経済の拠点はドバイに移ってしまっているし、いったん離れてしまった観光客がまた戻ってくるのはまだまだ時間がかかりそうだ。











< previous                                      HOME

1972年、メイソン・スキルズ (ジョン・ハム) は火種が多くきな臭いベイルートで、手練れのアメリカ人外交官として顔を利かせていたが、ある日自宅でパーティを主催中、テロリストに襲われ、妻のナディアを失い、自分らの子供のように可愛がっていたアラブ系のカリムを拉致される。襲ったテロリスト・グループは、カリムの兄ラミが指揮していた。10年後、外交の一線を退いたメイソンはアメリカで企業ブローカーとしてアル中の廃人寸前で生きていたが、ベイルートで講演を乞われる。ベイルートに飛んだメイソンは、CIAエージェントのサンディ・クロウダー (ロザムンド・パイク) らと会い、かつて一緒に働いたCIAのカル (マーク・ペルグリノ) が拉致され、そのネゴシエイターとしてメイソンが指名されたことを知る。カルを拉致したのは、今では成長してテロリスト・グループの指導者になっていたカリムだった。カリムは現在アメリカが拘束している兄ラミとカルとの交換を要求するが、実はラミはアメリカとは無関係だった。メイソンはまずラミの所在を明らかにすることから始めなければならなかった‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system