放送局: Logo (ロゴ)

プレミア放送日: 5/14/2007 (Mon) 22:00-22:30

製作: MYエンタテインメント・カンパニー、カラット・エンタテインメント、グッドライフ・エンタテインメント、リントン・メディア

製作総指揮: マイケル・ユディン、クリス・モナコ、サラ・シャゼン、キャサリン・リントン

クリエイター: サラ・シャゼン、アイリーン・オパチュ


内容: ゲイをテーマにしたドキュメンタリー・シリーズ。


___________________________________________________________________________


アメリカはゲイに対して開かれている部分も多いが、それはだいたいにおいて、ニューヨーク、ロサンジェルスを中心とする都市部においてである。それ以外の実際の多くの場所においては、ゲイとつきあうことなぞ考えたこともないという、保守的な層が圧倒的多数を占める。根本的にアメリカを支えているのはやはりそういう保守的な人々なのだ。


「ブロークバック・マウンテン」に描かれていた時代は別に特にそれほど古い話でもなんでもなく、ゲイのマシュウ・シェパードが牧場の柵にくくりつけられて死んだのはほんの数年前の話に過ぎない。カミング・アウトした直後のエレン・デジェネレスやロージー・オドネルの番組は視聴率が落ちてキャンセルされた。


一方で、ゲイが人々の間に市民権を得たというか受け入れられているという傾向も顕著に見られるようになってきた。TVでは「クイア・アズ・フォーク」、「ザ・L・ワード」、「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」等のゲイが主人公/ホストの番組がそれなりに人気がある (あった) し、特に「エレン」におけるエレン・デジェネレスのカミング・アウト以来、シットコムにおいてはかなりゲイのキャラクターが増えたという印象がある。少なくとも表面的には、ゲイに対する人々の反応というのは以前とは微妙に異なったという感触を受ける。


最近のその最も典型的な例が、「グレイズ・アナトミー」においてゲイの共演者のT. R. ナイトいじめが伝えられていたアイゼア・ワシントンが、番組をクビになったことだろう。これが20年前なら、番組を辞めざるを得なくなるのは、いじめられていたナイトの方だった。それにしても先シーズンの「グレイズ・アナトミー」のシーズン・フィナーレで、ワシントン演じるバークとサンドラ・オー演じるクリスティーナとの結婚問題がああいう風に決着を見たのは、ワシントンを辞めさせるという案が既にプロデューサーの腹の中で固まっていたからだったのか。あるいはその時はまだ辞めさせることが確実ではなかったとはいえ、当然どちらに転んでも納得できる匂わせ方をしていた。今になってあの終わり方をなるほどと思ってしまう。


さて、そのゲイという人種にはクリエイティヴな人間が多い。なんとなればハリウッドや米TV界が基本的にゲイをサポートする姿勢を見せているのは、この業界にゲイが多いからだ。だからいくらニッチェに過ぎないとはいえ、そのゲイのためだけのTV専門チャンネルがあることは素直に納得できる。その、一番最初にできたゲイ専門チャンネル、ヒア! (Here!) は2002年からサーヴィスを開始している。とはいえヒア!の場合、そのプラットフォームが私の住むクイーンズではRCNケーブルのオン・デマンド・チャンネルとしてカテゴライズされている。


オン・デマンド・チャンネル/番組はだいたいにおいて有料だが、リモートをクリックしてオン・デマンド・チャンネルの選択肢からヒア!を選ぶと、番組名と共に無料という表示が現れた。ペイTVのHBOやショウタイムは月10数ドルという月極めの視聴料を支払うが、一般的にオン・デマンド・チャンネルというのは、それとも異なり、番組ごと、あるいは日替わりで見るたんびに金を払わなければならないシステムになっている。私は一応、一般視聴者ならあまり見ていないかと思われる、マイナーなチャンネルを集めたデジタル・チャンネルも契約しているので、それで無料で見れるのかもしれない。


あるいは無料で見れるベイシック・チャンネルのロゴが現れたことで、ヒア!も無料化に移行しようとしているとか。それにしては放送権を持っている番組が少ないので24時間の編成が組めないため、オン・デマンドという形態でいることもあり得る。最近のアメリカのケーブルとか衛星放送は、チャンネルの数や視聴オプションの数が多過ぎて、それぞれのチャンネル内容を把握するのが難しい。いずれにしてもこないだTVガイドの新番組案内を見ていたら、ヒア!の新番組「ザ・レア (The Lair)」のことが載っていた。登場人物がほとんど全部男のヴァンパイアものだそうで、なるほど、いいとこついているかもしれないと思わせた。写真を見るとやはりいい男を揃えており、これなら確かにゲイなら金を払ってでも見るかもしれない。


その次にできたゲイ・チャンネル、Qテレヴィジョン・ネットワーク (QTN) の場合、2004年にサーヴィス開始、1年半後には解体している。こちらはRCNケーブルではラインナップに含まれてすらおらず、見るチャンスはまったくなかった。そして2005年からサーヴィスを開始している最も新しいゲイ・ネットワークが、ロゴだ。ロゴは基本的にケーブル・チャンネルでもベイシック・チャンネルに分類されており、要するに追加料金なしで見ることができる。おかげで今回私もそのロゴが編成した新ドキュメンタリー・シリーズの「ビー・リアル」を見ることができたわけだ。しかし、ロゴがベイシックで基本的に無料でサーヴィスを開始している現在、ヒア!も幸先がいいとは言いかねるな。


以上の3チャンネルが一応アメリカで実際にサーヴィスを開始したゲイ・チャンネルで、そのうちQTNが瓦解、ヒア!を視聴する敷居が高いとなれば、多くのゲイが見ているチャンネルは必然的にロゴになるだろう。実際、ロゴはかなり色々な番組をカヴァーしており、過去放送された様々なゲイ関係の番組の再放送権を買ってきて放送しているだけでなく、最近はオリジナル番組製作にも力を入れている。ゲイによるゲイのためのスケッチ・コメディ「ザ・ビッグ・ゲイ・スケッチ・ショウ (The Big Gay Sketch Show)」なんて番組の放送を始めるなど、実際に注目されて話題を集めているという感触を受ける。むろんゲイ・カルチャーにまるで関心のない者にはまるで目に入ってないだろうが。


簡単にゲイ・チャンネルというが、これらのチャンネルはだいたいLGBT向けサーヴィスと分類されることが多い。私も初耳で最初まったく何のことかわからなかったのだが、LGBTとはLesbian, Gay, Bisexual, Transgenderを意味するのだそうだ。だいたいアメリカではレズビアンとゲイを特に区別することは少なく、普通レズビアンだろうとゲイと呼ばれるが、さらにバイや性倒錯までを含む。厳密にはゲイには同性以外には興味をまったく持てないという者もいるから、彼らとバイでは嗜好は異なるし、はっきり言ってゲイと性同一障害はまったく別物と感じるゲイも多いだろうが、それらを一くくりにまとめてしまう感覚もわからないではない。


今回放送が始まった「ビー・リアル」は、そのLGBTの現在をとらえるドキュメンタリー・シリーズだ。30分の間に2本のセグメントが交互に入れ子で挟まるという構造になっている。なんでこのテーマで15分放送したら次のテーマで15分というシンプルな構造じゃダメなんだと思うが、プロデューサーの意向が優先されたんだろう。その第1回は、黒人のゲイであるカルヴァンと、ゲイ・カメラマンのクリスティンがとり上げられる。


カルヴァンはサンフランシスコのホームレスのための施設でフード・ディレクターとして働いている。一見して掘りの深い顔は、ドラッグ・クイーンにすると似合いそうな派手な顔立ちだなと思わせるが、カメラが彼のアパートを訪れると、そのワードローブには実際、頭に被るいかにもドラッグ・クイーン的な孔雀もかくやの羽飾り帽があったりして、やっぱりと納得する。カルヴァンはしかしその生い立ちは決して楽じゃなかったようで、昔はゲイということでだいぶいじめられたらしい。サンフランシスコのゴールデンゲイト・ブリッジを背景に、自殺を考えたこともあった、それができなかったのは単に自分が勇気がなかったからだと述懐するカルヴァン。こないだの「ブリッジ」といい、また新たな自殺予備軍がここにもいた。今では吹っ切れて、堂々とゲイとしてカミング・アウト済みのカルヴァン、きっとあの孔雀帽を被っての次のパレードが待ち遠しくてたまんないんだろう。


一方、クリスティンは30歳を超えてから乳ガンにかかる。母親もそうだったと言っていたからどうやらガン家系のようで、しかしガンの場合、その原因がはっきりとわかっているわけではないから、わかってはいても予防は難しい。結局乳ガン家系の場合なら、毎年マモグラフィ検診を受け、しこりができていたら摘出したり抑えたりするなどの早期発見に努めるしかない。たぶんクリスティンもそれくらいはしていたと思うのだが、それでも結局ガンにかかり、乳房を切りとるしかなかった。


クリスティンはある日、同様に乳ガンによって乳房を切りとるしかなくなった女性たちのポートレイトを撮ることを思い立つ。そのことが自分自身を見つめ直し、新しい自分を発見することになるかもしれない。そうやってクリスティンの意見に賛同した何人もの乳ガン・サヴァイヴァーが服を脱いでクリスティンのカメラの前に立つ。ある者は片方だけの乳房を切除し、ある者は両方の乳房を切除していたりする。そうやって堂々と自分の切除した乳房後の身体を公にすることで、彼女らは人生の次のステップに進んでいけるという感じが濃厚にする。


このセグメントは私にとって結構意外だった。というのも、アメリカでは乳ガン患者に対し、一般的に乳房切除は最後の手段にとっておいて、とにかく腫瘍が小さい時はその腫瘍だけを切除しようとするか、キモセラピーといってだいたいはとにかく薬で抑えようとするからだ。乳房を切除した女性が、もう自分は女性でなくなったとがっくりと落ち込むことが多いことを避けるためで、とにかく若ければ若いほど、なるだけ乳房自体には手をつけないでおこうという治療法が主流だ。いかにもフェミニズム的な考えをする欧米流の治療法である。日本ならほとんど患者の意見も訊かずに切除となりそうな場合でも、できるだけ切らずに済ませようとするそうだ。


実際私の知人にもこのキモセラピーで乳ガンを克服した者がいる。ただしこのガンの薬というものはだいたいにおいて副作用が強く、髪が抜けたり気分が悪くなったり生理不順になったりいいことない。その女性は、こんなに苦しいことが最初からわかっていたら、躊躇せず最初から乳房を切っていたと言っていた。とにかく立って歩けないらしい。特にアメリカで身体がひと回り小さいアジア系の人間がキモセラピーを受けると、薬が効きすぎて辛い思いをすることが多い。向こうはそんなことなどまるで頓着していないからだ。


私も昨年の暮れ、ジンマシンを出して飲み薬を処方してもらって逆に死ぬほど苦しんだ経験があるし、うちの女房も耳に小さな腫瘍ができたのでそれを摘出するという簡単な手術を受けたことがある。午前中に手術が終わり、2、3時間で麻酔が覚め即日退院のはずだったのに、夜遅くまでリカヴァリー・ルームのベッドから動けなかった。後で訊くと、指一本持ち上げただけで猛烈に気分が悪くなったそうで、それだけ強い麻酔をかけられていたわけだ。アジア人の体質をあまり理解していない医者にかかるなら、こちらもそのことを理解して最初に充分注意を促しておくなり、あるいはこちらでもらった薬の量を案分するくらいの配慮が必要だ。この治療にはこれくらいの量の薬が必要だという医者の意見を信用してはいけない。後で苦しむのはこちらの方なのだ。


いずれにしてもそういうわけで、できるだけ乳房を切りとらない、患者だって切りとりたくないと思っている者の多いアメリカにおいて、乳房を切除した乳ガン・サヴァイヴァーが結構いることに驚いたわけだ。そしてやはり、そういう切開した手術痕がなくなった乳房の場所に残っているのを見るのは、視覚的にインパクトがある。このセグメントがプレミア・エピソードに選ばれているのも、そういう印象に残りやすいことを鑑みてのことだろう。それにしても、片方の乳房の切除だけで済んでいる者の方が、両方の乳房を切除した者より痛々しいという感じがする。要するにすぐそばに健康な乳房があることで、逆にその隣りの切除された乳房痕が強調されてしまうのだ。とはいってもまさかバランスをとるために健康な乳房まで切りとるなんて論外だし、うーん。たぶん将来は、切りとった乳房痕にシリコンを埋めるなどして、一見わからないくらいにするくらいの治療法が確立されるんではないかという気がする。


当然このセグメントでは被写体となった女性たちはみな裸、あるいは上半身裸になっている。これを見て最近お上の権力を振りかざしてヌードだの暴力だのの描写規制に余念のないFCC (米連邦通信委員会) は、いったいどう思うのだろうか。ロゴは子供だろうが誰だろうがTVをつければ誰でも見れるベイシック・チャンネルだ。それなのに「ビー・リアル」では女性の裸がしっかりと映っている。乳房がないから裸とは認識しないなんて理由でFCCが「ビー・リアル」をお咎めなしなんて判断したら、それこそ女性に対して侮辱もいいとこだろう。


ジャネット・ジャクソンのおっぱいが予想できなかったアクシデントのせいで一瞬ポロリと画面に映っただけで何万ドルもの罰金なら、確信犯の今回は放送免許停止処分くらい当然という気もするが、そんな話はまったく伝わってこない。もっとも、本当にそんなことやったなら、いくらなんでも全米の放送事業者および視聴者は本気で怒って関係者退陣を求めるだろう。要するに、FCCは女性の裸くらいでちまちました規制してんじゃないよ、ということを私は声を大にして言いたいのだった。おまえらのやっていることは恐怖政以外の何ものでもない。


番組第2回では、女子プロ・ボクサーのアン-マリー、および元軍パイロットのチョリーンがフィーチャーされる。アン-マリーは近日中に無敗のチャンピオン、ホーリー・ホルムと戦うことが決まっており、その調整に余念がないが、結局判定で敗れる。一方、チョリーンはハリケーン・カトリーナのせいで壊滅的打撃を受けたニュー・オーリンズの現状に心を痛め、なんとか自分にできる手伝いをしようとヴォランティア活動に従事する。


見ていて気づくことの一つに、だいたい登場する人物のほとんどに、既に一緒に暮らすか、あるいはかなり親密な同性のパートナーがいることが挙げられる。上記のクリスティン、アン-マリー、チョリーンには、3人とも既にパートナーがいて二人三脚の体制ができ上がっているのが見てとれる。一方、それが男性のゲイの場合、まあカルヴァンしかまだ見ていないのだが、どうやら彼には決まったパートナーはいないようだった。とはいえ、今が単にたまたまそういう時期だったというのはあるかもしれない。


実際、私の身の回りにいるゲイを見わたしても、実は今初めて、あ、そうだったのかと気づいたのだが、全員パートナーがいる。男性のゲイだろうと女性のゲイだろうと、シングルはいない。ニューヨークだからすぐに両手の指では足りないゲイの知人が思い浮かび、歳も多様なのだが、全員相手がいるのだ。これがストレートの知人だと、たとえ幾つであろうと半数はまだシングルである。やはりゲイというのはニューヨークという都会であろうとまだ少数派なので、早く相手を見つけて安定したいと思うからか。ゲイという存在がその体質上、パートナーを必要としているDNA上の理由でもあるのか。うーん、よくわからない。   






< previous                                    HOME

 

Be Real

ビー・リアル   ★★1/2

 
inserted by FC2 system