Be Good Johnny Weir  ビー・グッド・ジョニー・ウィアー

放送局: サンダンス

プレミア放送日: 1/18/2010 (Mon) 22:30-23:00

製作: オリジナル・メディア、リトリビューション・メディア

製作総指揮: ジェイムズ・ペレリト、デイヴィッド・バーバ、サラ・バーネット、リン・カービー、アン・ロー

製作/監督: ジェイムズ・ペレリト、デイヴィッド・バーバ

出演: ジョニー・ウィアー


内容: 冬季五輪アメリカ代表のフィギュア・スケーター、ジョニー・ウィアーに密着する。


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Be Good Johnny Weir


ビー・グッド・ジョニー・ウィアー   ★★1/2

オリンピックは国家的行事であり、アメリカでも注目されるが、だからといって全国民が熱狂するというわけでもない。ちょうど今新シーズンが放送中のFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」と人気という点ではどっこいどっこいであり、ヴァンクーヴァー五輪中継の視聴率の方が高い時もあれば、「アイドル」の視聴率の方が高い時もある。


それでも今回、予想よりも五輪中継が頑張った理由としては、なんといってもまず第一に西海岸と時差のないヴァンクーヴァー開催であり、屋内で行われる主要競技の決勝が、生中継で見られるからという点にある。生中継至上主義のスポーツ・ファンの多いアメリカでは、録画だと途端に熱が冷めるのだ。特にインターネットがこれだけ普及してしまうと、生で見てないと結果の方を先に知ってしまうことになりやすい。それが気に入らない者は非常に多い。


しかもいざ競技が始まると、それまでは特に期待されていなかったアメリカの選手たちが善戦、メダルを獲得し始めた。もうダメかと思われていたアルペンのボディ・ミラー、練習滑走で怪我してこちらもダメかと思われたリンジー・ヴォン、それにジュリア・マンクーソの活躍と二人の確執、その他スピード・スケートやショート・トラック、フリー・スタイル、それまでアメリカが苦手としていたノルディックまでメダルをとり始めると、俄然注目が集まり始めた。


そしてフィギュア・スケートだ。元々アメリカのフィギュア界は歴史的に結構強い。それでだいたい五輪はフィギュアが中継の目玉だったりする。しかも今回の男子のアメリカ代表は、エヴァン・ライサチェク、ジェレミー・アボット、そしてジョニー・ウィアーという、実力も癖も人一倍というキャラクターが揃った。どれも金メダルを狙えるタマだ。一方で女子が、今回はメダルは無理だろうという若い子ばかりのために今一つ盛り上がらないというのはあるが、しかし、キム・ユ-ナはアメリカでも知名度は抜群であり、それでも注目度は高かった。


私たち夫婦は昔からフィギュア好きで、アメリカに来てからはUSナショナルも毎年欠かさず見ている。それが昂じてたぶんつまらないのは間違いとは思いつつも、フィギュア・ネタの勝ち抜きリアリティ・ショウ「スケーティング・ウィズ・セレブリティーズ (Skating with Celebrities)」も、「スケーティングス・ネクスト・スター (Skatng’s Next Star)」も、しまいには過去のオリンピック・チャンプ、ブライアン・ボイタノがホストをしているというだけで、クッキング・ショウの「ホワット・ウッド・ブライアン・ボイタノ・メイク (What Would Brian Boitano Make?)」なんて番組まで見てたりする。私たちも今回の五輪のフィギュアを楽しみにしていたのは言うまでもない。


基本的に今回の五輪は、技か美かで勝負が決まったという印象があり、クアドを決めたエフゲニー・プルシェンコをライサチェクが抑え、トリプル・アクセルを決めた浅田真央をキムが凌ぐなど、高い技ではなく、クリーンな演技をした方が勝った。そのことの是非はともかく、見ていて非常に面白かった。特に日本人としては、男子の高橋、女子の浅田と男女共にメダルに絡んだので、応援にも身が入った。


個人的に冬季五輪のフィギュアは、男子シングルスではボイタノとブライアン・オーサーのブライアン対決、女子シングルスではカタリーナ・ヴィットとデビ・トーマスのカルメン対決、それに伊藤みどりのトリプル・アクセル、ペアのゴルデーワ/グリンコフ、アイス・ダンスのクリモワ/ポノマレンコ等、見所の多かった1988年のカルガリが最も面白かったという記憶がある。今回はそれに勝るとも劣らぬ面白さがあった。両方ともカナダにおける開催というのは偶然か。


アメリカ人の視点から見た場合、前述のように代表が優勝に絡まなかった女子よりも、競技的にもスキャンダル的にも常に話題を事欠かなかった男子の方が注目されたと言える。むろん女子シングルスはフィギュアの華であり、いつも注目はされるのだが、今回に関する限り、少なくとも男子の方が注目度が高かった。ジュニア時代から常にライヴァル争いを繰り広げているライサチェクとウィアー、その二人を抑えてナショナルで優勝したアボットは、スケーティング自体やエッジさばきに関してはコーチでもある佐藤有香譲りのクリーンなスケーティングで、ライサチェク、ウィアーよりも見映えがし、ジャンプのでき不出来の差が激しいという癖さえなければ、彼こそがアメリカのエースになってもおかしくない。さらにこれに日本勢の高橋大輔、織田信成、小塚崇彦らも上位入賞が狙えるとなれば、こちらも観戦にも身が入る。


結局勝負はショートを終わってプルシェンコ、ライサチェク、高橋の争いとなり、フリーでクアド-トリプルのコンビネーションを決めてもその他のトリプルがぐらついたロシアのプルシェンコでも、クアドに失敗した高橋でもなく、クアドには挑戦しなかったが、最初から最後までクリーンに滑ったライサチェクが優勝した。それはともかく、ライサチェク同様わりとクリーンに滑ったと思われるのに、かなり辛い点数をもらった者がいた。ウィアーだ。


前述のようにウィアーとライサチェクはジュニア時代からライヴァル関係にあり、熾烈な争いを繰り広げてきた。力が伯仲していることもさながら、なんといっても二人共見た目麗しい。さらに優等生タイプのライサチェクと、何をしでかすかわからない悪ガキタイプのウィアー、ストレートのライサチェクとゲイ (であることは間違いないと思われる) のウィアーという好対照が、二人を格好のマスコミの注目の対象にした。


ウィアーがゲイなのは99%間違いなく、そのことを隠している素振りも見せないが、しかしそれでも公に自分がゲイであることをまだ認めていない (はずだ。) 元々男性のフィギュア・スケーターには歴史的にゲイが多い。技術だけではなく美も競う競技の特質上、それは納得できる。キムのコーチのオーサーはカミング・アウト済みだし、現役でもステファン・ランビエールは間違いなくそうだ。パトリック・チャン辺りも怪しいし、小塚もかなりそのように見えるが、どうなのだろう。


ウィアーは2004年から2006年にかけて3年連続でナショナルを制すなど、一時ウィアーが連続でライサチェクを抑えていたという印象があったが、その後壁にぶち当たったか、近年はライサチェクの方がウィアーを上回る成績を収めていた。しかしそれでも、その言動や衣装が毎回何かと話題を提供するウィアーに、スポットライトが当たらないということはなかった。


私たち夫婦も、ウィアーが今回はどういう衣装で出てきて何してくれるか、毎年楽しみにしていた。なんか昨年の「アメリカン・アイドル」のアダム・ランバートが、今回何してくれるのかと毎回わくわくして待っていたのと同じ種類の期待を抱かせるのが、ウィアーという存在だ。なかでも印象的だったのは2007年のUSナショナルで失敗して、得点の掲示を待ちながらぼろぼろ泣き出してしまった時だ。その時以来、二人でウィアーの話をする時は、いつも必ず「泣き虫」ジョニーと、「泣き虫」という形容詞が入る。よくも悪くも話題性抜群なのがウィアーなのであった。


特に今シーズンは起死回生を期しているためか、衣装や髪型、化粧に例年に較べてさらに念入りに手と時間をかけているという印象がある。五輪で最初にショートで滑った時なんか、まるでどこのマダムですかという、紅白にのぞむ美川憲一と同じ種類の気迫を感じた。私たち二人共絶句して爆笑したのは言うまでもないが、むろんだからこそ目が離せないとも言える。ただし、少しやり過ぎではないかという懸念もなくはなく、今回、ほとんどミスなしで滑ってもライサチェクに差をつけられたのは、スケーティングの技術的な内容だけでなく、その辺の審査員への心証も関係してないかという気がする。


いずれにしても、そのウィアーに密着して彼の日常をカメラに収めることができれば、面白いスポーツ・ドキュメンタリーができると考える者がいても不思議はない。ジェイムズ・ペレリトとデイヴィッド・バーバの二人がその考えを実行に移して製作したのが、「ジョニー・ウィアー 氷上のポップスター (ポップ・スター・オン・アイス Pop Star on Ice)」という、1時間半のドキュメンタリーだ。ウィアーの昔からのプライヴェイト・ヴィデオも収めるなど、ウィアーその人の成長を記録した作品だ。


その内容は、冒頭からウィアーの半ヌードのクロース・アップ描写で始まるなど、ゲイ感覚満載の作りになっている。ペレリトとバーバの二人もゲイなのはまず間違いないだろう。ウィアーのプライヴェイト・ヴィデオ以外は2005年冬からウィアーに密着して撮り始め、銅メダルをとった2008年のイエテボリの世界選手権の模様までが収められている。2007年に東京で行われた世界選手権も当然入っている。ゲイ好きの日本の女の子に囲まれて嬉しそうだ。


特に2008年のナショナルでは、雪辱を期すウィアーと当時チャンプのライサチェクとの死闘となり、フリーを滑り終わった時点で、優勝を争う二人のスコアが同点という史上初めての事態が出来した。結局フリーを勝ったライサチェクの2連覇となったわけだが、ウィアーは今度は感極まって滑り終わったとたんに泣き始めるなど、やはり泣き虫ジョニーの名に恥じない事態を演出して見せた。


等々、「ポップ・スター」はフィギュア好き、特にアメリカのフィギュアを見ている者にとっては非常に興味深い作品だった。そしてフィギュアに興味がない者にとっても、ウィアーという存在は興味深いものとして映ったに違いない。今回サンダンス・チャンネルが製作した「ビー・グッド・ジョニー・ウィアー」は、「ポップ・スター」を第1回と位置づけ、新しく撮ったフッテージを加えて第2回以降が製作されている。「ポップ・スター」のクライマックスであったが、時間がなかったためか端折られた嫌いのあるイエテボリの世界選手権のおさらい、かつ詳細という印象の第2回の後、時間軸順に番組は進む。


今回もフィギュア・スケーターとしてのウィアーに注目するのはもちろんだが、時間をふんだんに使えることもあり、さらにプライヴェイトの素のウィアーが前面に押し出されているという印象がある。ほとんどケツの割れ目を見せて得意気なサーヴィス精神満載のウィアー、あんたがゲイでない理由はどこにもない。番宣コマーシャルでは、「When I’m good, I’m good. When I’m bad, I’m better (オレはいい時はいいが悪い時はもっといいぜ)」なんて思わせぶりなセリフを吐くウィアー、いや、期待してしまいます。


ウィアーには一緒に住んでいるパリスという「ベスト・フレンド」 (と彼は言っている) の男性がいる。パートナーではなくベスト・フレンドだから自分はゲイと認めたわけではないということか。実際、私も大学進学時に金を浮かすために一年ばかり同性の友人と共同生活をしていた時期があるので、男二人が一緒に住んでいるからといって必ずしもゲイというわけではないのはもちろんだが、しかし一応は金にゆとりがあり、いいところに住んでいるウィアーが、食費や住居費を浮かすために共同生活しているわけではあるまい。実際見てると、パリスは炊事洗濯その他の家事の手伝いなどまるでしておらず、むしろ意外なことにウィアーがパリスの世話をしているという印象すら受ける。結構マメなのだ。


パリスは黒目が大きく、一見しての印象は、オノ・ナツメの描くマンガのキャラクターがそのまま現実に現れたという感じだ。それでカメラは時々二人で一緒にバスタブに浸かってふざけているシーンをとらえたりする。二人はウィアーの練習に便利な、NYに近いニュージャージーに住んでおり、実は私んちから結構近い。車で10分から15分くらいのところだろう。思わず親近感を持ってしまうのだった。


シーズン中は世界を転戦するウィアーにとって、パリスはかなりの部分心の拠り所のようだ。ところがそのパリスが、ウィアーと袂をわかって出て行く決心をする。要するにウィアーは冬のかなりの部分家を空けているために、一人ぼっちにされるのがどうも嫌らしい。そのため新しいルームメイトを見つけて出て行ってしまう。その新しいルームメイトもゲイかというと実はカップルであり、パリスは今はハッピーだと言っているところを見ると、パリスはどうもゲイというよりはバイで、一緒に住んで居心地のいい人と一緒にいるだけというネコ科の人間のようだ。まあそれはウィアーにも言えるのであるが。いずれにしても傷心のウィアーは、パリスが帰ってきてくれないかと願っている。一方パリスは全然そんな気はなさそうだ。


シリーズとしての番組は、2010年のUSナショナルまでの模様が収められている。ウィアーは3位に入ってアボット、ライサチェク共々ヴァンクーヴァーに行ったのは周知の通りだ。昨年末にウィアーが風邪を引きながらも2位につけた昨年の長野のNHK杯の模様も詳しく追っており、ウィアーの母親が善光寺参りをするシーンとかもある。その後の代々木でのグランプリ・ファイナルでは、さらに時間をかけて東京のファンと戯れるウィアーをとらえている。焼き肉を食べにいこうとして場所を見つけきれず右往左往するなど、なかなか興味深い。


しかし結局、ウィアーの今回の五輪での成績が不本意なものに終わったのは皆の知るところであり、4回転はたぶん無理と思えるウィアーの、フィギュア・スケーターとしての今後のキャリアはかなり怪しい。こないだ芸能ニューズの「エキストラ (Extra)」を見ていたら、五輪を終えたばかりのそのウィアーが、特別レポーターみたいな形で出ていた。彼は既に芸能界に今後のキャリアを見出そうと考えているのかもしれない。納得できる選択ではある。さらに、その同じ番組で、ライサチェクがABCの「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ (Dancing with the Stars)」に出るという発表もあった。


「スターズ」は、ほとんどジジババしか見ていない番組としてはつまらないものであるが、出演者によっては確かに私も見たりする。今回の五輪でも活躍したショート・トラックのアポロ・アントン・オーノも第4シーズンのこの番組に出て優勝している。フィギュアでもかつての五輪金メダリスト、クリスティ・ヤマグチは第6シーズンの優勝者だ。ついでに言うとやはり五輪体操金メダリストのショーン・ジョンソンは第8シーズンで優勝しているなど、要するに、やはり運動神経のいい者が勝っている。あとは素人ばかりなんだからほとんど当然の結果だろう。ライサチェクが新シーズンの「スターズ」で優勝する確率は90%以上と見た。


さて、私の想像ではウィアーの引退は近い。次のオリンピックはたぶん無理だろう。一方ライサチェクはたぶんウィアーは苦手だろうし、ウィアーもライサチェクは好きじゃないだろうが、 しかしウィアーがいてこそのライサチェクの今の栄光があると、やはり思う。果たしてウィアーはプロになるか、それとも芸能界入りするか。あのキャラクターだ、どちらでもなんとかやっていけそうな気はする。









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