Battle: Los Angeles


世界侵略: ロサンゼルス決戦  (2011年3月)

アメリカ西海岸に大量のエイリアンが降り立つ。彼らはその数と武器で圧倒し、徹底的に人類を殲滅しにかかる。引退間近の歴戦の海兵隊員ナンツ (アーロン・エッカート) も駆り出され、前線で新米指揮官マルチネス (ラモン・ロドリゲス) 配下で、まだ戦闘地区にとり残されている一般市民の救出に当たる。タイム・リミットは3時間で、その後、軍は同地区に大型爆弾を投下する手はずになっていた。しかし前進は容易ではなく、そうこうしているうちにも刻々と時間ばかりが過ぎ去っていく。さらにナンツには、かつて戦地で仲間を救えなかったという過去があり、それらの事実を知っている他の海兵との間に微妙な齟齬が来たし始める‥‥


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意を決して「世界侵略: ロサンゼルス決戦」を見に行く。本当なら先々週に見に行くつもりでいたが、東日本大震災が勃発、現実に多くの人が死んでいるのに、さらにエイリアンによって人間が殺される作品を見に行く気になれなかった。それで2週間待って、震災の最初の衝撃もいくらか薄らいで、もうここで見ないならたぶんもう見ないで終わるだろう、見るなら今しかない、どうする、ということで、決心したわけだ。


現実の話、震災報道の映像は、ハリウッド特撮を完全に凌いでいた。へえ、本当にハリウッドの津波シーンみたいな映像もあるんだなというのもないこともなかったが、それでも現実に震災の時にその場にいた人が撮った映像には、単純に息を呑んだ。正直言って、あの映像を見せられた後で「世界侵略」を見に行く意味などほとんどないと薄々思ってはいたのだが、それでもつい劇場に足を向けてしまうのは、虚構が果たしてどれだけ現実に迫れるか、あるいは現実を上回ることができるのかという疑問を、自分の目で確認したかったからなのかもしれない。


エイリアンが地球征服を目論むというエイリアン襲来ものは昔からあり、ほとんどハリウッドの定番という印象すらあるが、それでも近年のエイリアンは来襲して有無を言わさず地球に攻撃を加えるという印象が定着したのは、「クローバーフィールド (Cloverfield)」の影響を抜きにしては考えられない。近年のこのジャンルを代表するものとして、2008年公開の「クローバーフィールド」と2005年公開の「宇宙戦争 (War of the Worlds)」があるが、両作の間には、明らかに時代を画す一線が引かれている。


「宇宙戦争」だって地球に侵略してきたエイリアンの話であり、人類は防戦一方、というかやられまくるのだが、それでも、「クローバーフィールド」に横溢していたペシミスティックな徒労感は、「宇宙戦争」にはない。そしてもちろん昨年の「スカイライン (Skyline)」も、「クローバーフィールド」の影響下にある。


これがTVの場合だと、ABCの「V」、もしくはNBCの「ジ・イヴェント (The Event)」のように、エイリアンの侵略ものでも、エイリアンとネゴしたり、いつの間にか人類内部に潜入していたエイリアンにじわじわと内部から壊されるという、「インベージョン (The Invasion)」みたいな話になる。その方が話を展開させて続けやすいからだろう。


いずれにしても「世界侵略」だ。それにしてもこのタイトルはどこかおかしい。エイリアンが攻めてくるのだ。ここはやはり「世界侵略」ではなく、「地球侵略」だと思う。「War of the World」でさえ、ちゃんと意を汲んで「宇宙戦争」にしているのに、「世界侵略」にしてしまうと、エイリアンではなく、どこかの国や秘密組織が世界征服を企んでいるような気がしてしまう。「バトル・ロサンジェルス」という、オリジナルのタイトルではとある地域戦に過ぎなかったものを世界レヴェルに敷衍した意気は買うが、しかしもう一歩足りない。


さて、上映が始まると、冒頭、間髪を入れずに地球を侵略し始めたエイリアンが、LAの海岸沿いに降り立つ。水平線上から海岸に向かって押し寄せてくるエイリアンの大群の襲来はまるで津波を思わせ、ちょっとぎくりとさせられる。こんなんでどきりとするのは、やはり津波に対して過敏になっているからだろう。クリント・イーストウッドの「ヒアアフター (Hereafter)」は、今だったら確かに見れないと思う。


海上地上に降り立ったエイリアンは人類とコンタクトをとる様子すら見せずに、すぐさま攻撃に移る。宇宙旅行をして他の星に攻め入る文明を持ったエイリアンなら、その気になれば何らかの意思の疎通を図ることも可能じゃないかと思えるが、「クローバーフィールド」以降、エイリアンは単に攻撃部隊を地球に送り込んでくるだけの場合が多い。たぶん本隊は、遠い場所からその模様を遠隔で把握しているんだろう。


本気で地球を滅ぼす気があるなら、原爆水爆中性子爆弾の類いを大量に撃ち込んで来れば、それで地球は一巻の終わりだと思う。彼らにはそのくらいの文明力はあるだろう。それをしないのは、これまでのこの種の話で描かれているように、故郷の星の寿命が近づいてきているために、まず人類を滅ぼし、その後に移り住もうとしているか、あるいは人類が使えると思って奴隷化するためのどちらかに違いない。


だいたい、「クローバーフィールド」-「スカイライン」-「世界侵略」と続くエイリアン侵略ものにおいて、地球に降り立つのはどう見ても初動部隊で、エイリアンというよりも、いくつもの長い触手を持つ偵察ロボット、もしくは最初から破壊を目的としたゴジラのような飼い馴らされた巨大生物という印象が濃厚だ。そしてこれらの作品において、人類がエイリアンに勝つ可能性はほとんどない。「クローバーフィールド」では完全にやられて終わり、「スカイライン」ではよくわからないがやはり人類に将来があるとは思えず、そして「世界侵略」に至っては、どう見ても勝てる要素はまるでないのに、海軍バンザイ、みたいな米軍称揚で幕を閉じられると、いくらなんでもこれはポイントをずらし過ぎなのではないかと思ってしまう。


エイリアン侵略SF映画を見に来たつもりなのに、実は見ていたのはアメリカ軍士気鼓舞作品だったと知った時のなんとも騙されたような気分は、かなり脱力させてくれる。実は「世界侵略」における仮想敵はエイリアンではなく、たぶん新開発の武器を使う中東のテロリストだったんだろう。それを考えると、作品タイトルが「地球侵略」ではなく、「世界侵略」であることも納得できる。邦題はそのことを見越してのものだったか。


主演は「ダーク・ナイト (The Dark Knight)」のアーロン・エッカート、共演の一人シェル・ロドリゲスは、「アバター (Avatar)」といい、最近どこで見ても何かを運転操縦している軍人という印象がある。マイケル・ピーナ (「大いなる陰謀 (Lions for Lambs)」) はともかく、ミシェル・モイナハン (「ブルー・ブラッズ (Blue Bloods)」) はちともったいない使われ方。演出は「テキサス・チェーンソー: ビギニング (The Texas Chainsaw Massacre: The Beginning)」のジョナサン・リーベスマン。


話は変わるがちょうど「世界侵略」の公開が始まったその翌日に、ケーブルのSyFyチャンネルは、誰もが同じ作品と間違えるに決まっているタイトルのTV映画、「バトル・オブ・ロサンゼルス (Battle of Los Angeles)」をプレミア放送した。「世界侵略」のオリジナル・タイトルである「バトル: ロサンゼルス (Battle: Los Angeles)」に限りなく近いが、まったく似て非なる別ものであることは言うまでもない。「メガ・パイソン vs ゲイタロイド (Mega Python vs Gatoroid)」の項でも書いた通り、やはり同様に感動的なまでにチープなTV映画だった。これだけ堂々とパクリ番組を放送されると、それはそれで感心する。


さてと、次の地球侵略映画でエイリアンは、またニューヨークに降り立つかもしれない。ワシントンD.C.という線も捨て難いが、実はかなりの確率でフロリダという気がする。シカゴのような内陸部は、まずないのではないだろうか。「第9地区 (District 9)」のヨハネスブルグもあるように、まず、人類に自分たちの姿を見せる場合、これまではまずほぼ100%海沿いの大都市だ。さもなければニューメキシコの人里離れた砂漠の中に人知れず着陸し、隠密行動をとるかのどちらかになる。最近の傾向から言って、やはり海岸沿いの街に現れて好き放題やりまくると思うのだが。








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