Batman v Superman: Dawn of Justice


バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生  (2016年4月)

かつて「アベンジャーズ (The Avengers)」について書いた時、この分だとバットマンとスーパーマンが共闘する映画ができるかもしれない、それはそれで興味を惹かれないこともないかも、というようなことを書いた。とはいえその時は、半分は冗談だった。


その後実際に、バットマンとスーパーマンが共闘する「ジャスティス・リーグ (Justice League)」というコミックスがあることを知った。既にTVではアニメ化されているが、さすがに実写でバットマンとスーパーマンが一緒に出ている作品はなかった‥‥これまでは。来秋にはついに実写版「ジャスティス・リーグ」が公開される。というか、今回の「バットマン vs スーパーマン」こそが事実上その第一弾に他ならない。


ついでに言うと、「ジャスティス・リーグ」はバットマンとスーパーマンだけのものではない。実はそれにさらにワンダー・ウーマンも加わっている。バットマンとスーパーマンの共闘というだけでもかなり頭を悩ませられるのに、さらにワンダー・ウーマンか。スーパーヒーローが多過ぎてため息ついてしまう。


私の感覚から言うと、まったく種の違うスーパーヒーロー同士を一つの作品の中に共存させてしまうという感覚がよくわからない。なぜスーパーヒーロー一人に任せられないのか。たとえスーパーヒーローでも、一人だけでは荷が重いので責任を分担させるのか、あるいは一人では対応できなくなるほど敵が強大になってしまったということか。しかし今回の敵は基本的にレックス・ルーサー一人で、あとはバットマンとスーパーマンが勝手に仲違いしているという印象の方が強い。


だいたい、元々二人は活躍する場所が違う。二人の住む場所は一見ニューヨークだが、それでもバットマンが君臨するところはゴッサム・シティであり、スーパーマンの働くデイリー・プラネットはメトロポリスにある。共にニューヨークのようであってニューヨークではない。たぶん時代も微妙に違うと思う。明らかに違う世界なのだ。基本的に二人が邂逅する理屈はどこにもない。ワンダー・ウーマンに限っては、彼女は不死で世界中の異なる時代の至るところに出没しているようだから、バットマンにもスーパーマンにもかする可能性はなきにしもあらずだが、それでも三人が集う可能性というのは限りなく零に近いと思う。


一方で今回は構成としては「マン・オブ・スティール (Man of Steel)」の続きだ。舞台はゴッサム・シティではなくメトロポリスで、そこにバットマンが客演しているという印象の方が強い。それなのにバットマンことブルース・ウエインは、自分のことを棚に上げてスーパーマンの粗探しに熱中する。スーパーヒーローとしては最も内省的でありながら、いざ敵に回すとねちねちと厄介なことこの上ない。昔からあんたは自我の強い扱い難いスーパーヒーローだったよ。


バットマンが絡むのは今回が初めてなので、そのためバットマン=ブルース・ウエインの幼い頃まで遡って、そもそもなぜバットマンがバットマンになったのかという発端を復習する。これはクリストファー・ノーランの「バットマン」トリロジーでもやっていたし、FOXの「ゴッサム (Gotham)」でもやっていたので、話としてはほとんど耳タコなのだが、バットマン初心者というのもいるだろうから、端折るに端折れないというところだろう。「スーパーマン」だって新シリーズになる度に惑星クリプトンが壊滅するところから始めるし、それはCBSの「スーパーガール (Supergirl)」も例外ではなかった。今思うにブライアン・シンガーの「スーパーマン・リターンズ (Superman Returns)」がシリーズにならなかったのは、スーパーマンが子供を作ってしまったというタブーに触れてしまったことと共に、スーパーマンの生い立ちを描くことを無視してしまったことも関係しているかもしれない。


今回最も皮肉が利いているというか目が回るのが、バットマン/ウエインに扮するベン・アフレックの存在だ。アフレックはかつて、「ハリウッドランド (Hollywoodland)」において、スーパーマン、正確に言うとスーパーマン役を演じたジョージ・リーヴスを演じたことがある。過去スーパーマン、現バットマンだ。アメリカの2大スーパーヒーローを両方とも演じたことのある俳優は、たぶん後にも先にも彼一人だけだろう。さらにアフレックはそれ以前に、今度はDCコミックスのライヴァルであるマーヴェルの「デアデビル (Daredevil)」を演じたこともある。これだけ媒体の枠を超えてスーパーヒーローを演じた俳優は他にいない。彼は仁義なきスーパーヒーローなのだった。


今回は基本的に話が「マン・オブ・スティール」の延長だから、悪役も「スーパーマン」のレックス・ルーサーだ。しかしスーパーヒーローが二人、ワンダー・ウーマンも合わせると三人もいると、さすがにルーサー一人だけでは勝ち目がないと見えて、最後には新種の怪獣みたいなクリーチャーまで登場する。スーパーマンとバットマンとワンダーウーマンが組むから敵も強大になるのか、敵が強大だからスーパーヒーローが一致団結しないといけないのか、いずれにしても話がどんどんでかくなる。


「アベンジャーズ」にせよ「ジャスティス・リーグ」にせよ、スーパーヒーローが集まると収拾がつかなくなることには変わりはない。ただでさえ人より強力な自我を持つ者たちの集まりなのだ。ここ数年間のスーパーヒーローは、彼らが自分自身の存在意義を見失って苦悩するというポイントを描かずにはいられなかったが、それも一段落し、今度はスーパーヒーローたちがお互いにエゴと主張を剥き出しにしていがみ合うという構図に変わりつつある。元々強大なパワーとキャラクターを持つ者たちだ、仲間割れすると外部に与える影響も大きい。ブルース・ウエインはスーパーマンの存在はむしろ社会にとって害になり得ると断罪していたが、それはあんた自身にも言える。というか、ノーラン版トリロジーでそのことを嫌というほど学習させられたのはあんた自身じゃなかったのか。


実はもうすぐ公開の「アベンジャーズ」系「キャプテン・アメリカ」シリーズ最新作「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ (Captain America: Civil War)」において、既にこのスーパーヒーロー同士の確執というテーマは掘り下げられている。アイデンティティの再確立を達成したスーパーヒーローたちは、今度は自我とプライドを満足させるために、ほとんど世界平和とは無縁のところで自分たちだけによる自分たちだけの戦いを戦い始めた。このままではスーパーヒーローは本当に邪魔者になってしまう。いったいスーパーヒーローはこれからどこへ向かおうとしているのか。









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スーパーマンがゾッドを倒した時、メトロポリスは大きな被害を受けたため、人々はスーパーヒーローの存在意義に懐疑的になっていた。バットマンことブルース・ウエイン (ベン・アフレック) もその一人で、スーパーマンに否定的な立場をとっていた。スーパーマンことクラーク・ケント (ヘンリー・カヴィル) もまた、ウエインの行動を察知して注視していた。一方、レックス・ルーサー (ジェシ・アイゼンバーグ) が武器商人と接触を図り、フィンチ議員 (ホリー・ハンター) を説得してクリプトナイト獲得に動く。ルーサーの真の狙いは何か。そのルーサーが開いたパーティ会場に偵察に来たウエインは、そこで謎の美女ダイアナ・プリンス (ガル・ガドット) と出会う。彼女の素性や狙いもまた謎だった‥‥


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