Bar Karma   バー・カーマ (バー・カルマ)

放送局: Current (カレント)

プレミア放送日: 2/11/2011 (Fri) 22:00-22:30

製作: スチューピッド・ファン・クラブ、ワールドワイド・ビギーズ、ファイヴ・オルツ・プロダクションズ

クリエイター: ウィル・ライト、オルビー・ヘクト

出演: マシュウ・ハンフリーズ (ダグ・ジョーンズ)、ウィリアム・サンダーソン (ジェイムズ)、キャシー・ハワース (デイナ)


物語: インターネット成金のダグは信じられないほど強運の持ち主で、ポーカーをしても負け知らずだ。ある朝、一夜の情事から抜け出してドアを開けたダグが踏み入れた先はとあるバーだった。これはまだ夢かと訝しむダグに、バーテンダーのジェイムズとウエイトレスのデイナはTVを見せる。そこには、昨晩一夜を一緒に過ごした女性を殺した罪で逮捕されたダグ自身が映っていた。これはまだ夢かそれともなんかの罠かとバーを飛び出したダグは、気がつくとまたバーの中に戻っているのだった。実はダグの類い稀なる強運は人の運命をも変える力を持っていて、その力が時の狭間に存在するバーに引き寄せられ、そこでダグは人々の様々な運命の転変に力を貸すことになるのだった。今日もバーのドアを開け、運命に翻弄された者どもがバー・カーマに足を踏み入れる‥‥


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Bar Karma


バー・カーマ   ★★★


カレントTVは数年前からサーヴィスを開始した新参のケーブル・チャンネルだ。チャンネル名が示すように、今を生きる我々のための情報、環境、エンタテインメントを提供する。創立者は元米副大統領のアル・ゴアで、かつて500チャンネルTV時代を宣言し、「不都合な真実 (An Convenient Truth)」に登場したゴアらしく、ちゃんといまだに映像ビジネスに片足突っ込んでいる。


とはいえ、現時点ではカレントの編成は自社オリジナル番組というよりも他社製作番組の再放送が主体で、もう少しなんか華のようなものが欲しいという感じはする。現在の編成を見ると、元ショウタイムの「ディス・アメリカン・ライフ (This American Life)」、英国製番組の「キル・イット、クック・イット、イート・イット (Kill It, Cook It, Eat It)」、それに警察やFBI等の取締機関に密着するといった体のドキュメンタリー・リアリティが主要番組だ。


「ディス・アメリカン・ライフ」のオフ・ビートなテイストは捨て難いものがあるし、「キル・イット、クック・イット、イート・イット」は番組参加者を牧農場に連れて行き、目の前で牛や豚等の家畜を屠殺、皮を剥いだり頭を切り落としたりさせ、その肉をそのまま晩御飯にして皆で食べる。ただ肉をおいしいおいしいと言って食べるのではなく、そこには生き物の死が関係していることも納得した上で、食べることを考えようという趣旨の番組だ。


さっきまでその辺で草や餌を食んでいた牛や豚を機械で吊り上げ、頚動脈を断ち切って屠り、内臓をとりわけ、皮や肉を切り刻んでいく様をしっかり見せる。正直言ってかなり食欲が萎え、実際気分悪くなる参加者もいたりするが、最後はちゃんとみんな肉料理を食べる。


私の実家は沖縄なのだが、そこではヤギはご馳走だ。精力剤としても知られ、祭事には欠かせない。同じく沖縄出身のうちの女房は、子供の時にそういった親族の集まりで、木に繋がれているヤギと一緒に遊んでいた。そしたら、その日の晩御飯にそのヤギがヤギ汁 (ヒージャー汁という) として出てきた。ぐっと来て、それ以来ヤギが食えないそうだ。「キル・イット、クック・イット、イート・イット」で最後に皆一緒に食事しているのを見ると、一応成人すると皆タフになるのだと思う。いずれにしても、こういう番組が環境問題に敏感なゴアが提供するチャンネルに編成されるのは、納得できる。


そして、よりエンタテインメントに力点を置いた番組として登場してきた初のオリジナル番組と言えるのが、今回投入された「バー・カーマ」だ。このバーは酒を提供するだけではなく、人の過去や将来を変える契機を提供する場所でもあった。ある意味三途の川であり、パーガトリーだ。二進も三進も行かなくなった者たちがなんらかの理由や拍子によってバー・カーマに足を踏み入れる。そこで彼らは重大な選択を迫られる。果たしてその選択は吉と出るか凶と出るか。


プレミア・エピソードでは、インターネット・モーグルの億万長者ダグがバーに足を踏み入れる。そこにはいつからそこにいるとも知れぬバーテンダーのジェイムズと、ウエイトのデイナがいた。彼らの持つ未来を示すTVには、誤って一夜を共にした女性を殺して逮捕されるダグの姿が映っていた。このままではダグは殺人犯になってしまう。それを防ぐためには、バーで自分の過去と将来をやり直す術を学ぶしかない。ジェイムズは言う。あんたの類い稀なる強運こそがここにいる理由であり、自分の、そして人類の未来をよりよいものに変えることのできる力があると。ダグはバーに残り、ジェイムズ、そしてデイナと共同でバーに足を踏み入れる彷徨う者たちに助言を与えるのだった‥‥


3人体制になって初めてのゲスト? はNYで自由の女神をスケッチしていた男で、彼がスケッチしていた自由の女神が爆破されるシーンがバーのTVに映し出される。しかし彼自身がテロリストというわけではなく、彼はマンガ家であることが知れる。そのマンガがヴィデオ・ゲームとして利用された挙げ句、ヴァイオレントな部分が一人歩きしてテロリストが参考流用したのだ。しかしそのマンガは、いまだにいい歳して仕事のないその男がやっと出版にこぎつけた大事な作品だった。男はその絵が悪用される結果になろうとも、スケッチ・ブックを手放すことを拒む‥‥


なかなかツイストが利いていて、30分番組としてはよくできていると思う。未来を垣間見、現在の何かを変えることで将来を変えるというメイン・プロットは、最近でも「アジャストメント (The Adjustment Bureau)」で使われていた。先頃ネット・ニューズを呼んでいたら、中国ではあまりにパラレル・ワールドやタイム・マシン・ネタで将来を変えるという話題がネットではびこり過ぎ、当局がその手の話を取り締まっているという記事があった。タイム・トラヴェルが人を魅了するのは洋の東西を問わない。


ところで「バー・カーマ」、話としてもそれなりに面白いが、番組が話題になったのはそのせいだけではない。実はこの番組、クリエイターはウィル・ライトだ。と言ってわからなければ、大流行したシミュレイション・ゲームのザ・シムズ (The Sims) 開発者のライトといえば通りがいいだろう。「バー・カーマ」は、実はシムズのTV版とすら言える。なんとなれば番組は、今後視聴者からのインプットによってどんどん話が展開していくからだ。


かつて視聴者の意向を反映した番組作りとしては、NBCの「ロウ&オーダー: クリミナル・インテント (Law & Order: Criminal Intent)」において、2通りのエンディングを用意して、視聴者の投票によって放送する方を決めたということがあった。しかし、それでも話は二者択一であって、展開を視聴者が決めたわけではない。


「バー・カーマ」の場合は、ライトが製作した番組だけあってもっと徹底している。視聴者、もしくはユーザはカレントの番組サイトにアクセスし、そこで提供されるストーリー作成ソフトのストーリーメイカーを使ってもいいし、あるいは独自に自分のアイディアを開陳できる。実際、見ていると番組最後のクレジットではスペシャル・サンクスに大量の名前が出ているので、視聴者から出た色々なアイディアを篩いにかけているのは間違いなさそうだ。こうなると今後話が続いていった時、番組の著作権や脚本のクレジットに果たして誰が相応しいかという問題が起きてくる気がしないでもないが、しかし面白い試みだと言うことはできる。








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