Bad Company

9デイズ  (2002年6月)

最近能天気なアクションものをまったく見てないので、「9デイズ」の予告編を見た時には、面白そうだから見に行こうと決めていた (「007」の新作はいつ公開されるんだ)。コメディアンのクリス・ロックはともかく、アンソニー・ホプキンスをアクション・コメディに起用するアイディアは悪くないと思える。それに今週末はゴルフの全米オープンとワールド・カップのTV観戦に浸りきりで、脳細胞が疲れていることもあり、気軽に見れる作品が見たかったこともある。


ニュージャージーでケチなダフ屋として働きながら賭けチェスで小遣いを稼いでいるジェイク (ロック) のもとに、CIAのゲイロード・オーキス (ホプキンス) が現れる。生まれた時にジェイクと生き別れになった双子の兄弟のケヴィンは実はCIAで働いており、大きな仕事の詰めに入っていたが、邪魔が入りプラハで殺されてしまう。それでケヴィンと瓜二つのジェイクに白羽の矢が立ったのだ。ガール・フレンドのためにも金が必要だったジェイクは、何の危険もないことを条件に仕事を引き受ける。しかしそうは簡単に問屋が卸すはずもなく、ジェイクは敵に命を狙われる羽目になる‥‥


クリス・ロックは、少しは異議はあるかもしれないが、多分、現在アメリカで最も人気のあるコメディアンだろう。黒人ということを逆に武器とし、差別を受ける側からのきついギャグを連発する彼のジョークは、同じ黒人だけでなく、白人からも圧倒的支持を得ている。一方、最近ではハンニバル・レクターとしての印象の方が強いアンソニー・ホプキンスがこういう肩の力を抜いたコメディに出ることは、本人の気晴らしにもなっていいだろう。次はまたハンニバル・レクターに扮する「レッド・ドラゴン」が控えているわけだし。そういう、方やアメリカを代表するコメディアン、方やシリアル・キラーが代表作というシリアスな役者が共演するという、ミス・マッチ感覚がこの映画のミソだ。


ロックは「天国から来たチャンピオン 2002 (Down to Earth)」のような主演作もあるが、やはり演技はそれほどうまくない。「9デイズ」でもうまくギャグでごまかしてはいるが、多少は演技力が必要とされるような部分になると、こいつ、下手だなあと思ってしまう。アクション・コメディを見に行っているわけだから演技力なんかあまり関係なさそうに思えるが、それでもやはり、必要最小限の演技くらいこなしてもらいたい。彼が笑いをとるところ以外の部分ではアクションにもあまり冴えがないし、ロックがやるべきところをちゃんとやって初めて、受けに回るホプキンスにも味が出てくるはずなのに、ロックの部分でだれるから、ホプキンスも空回りしている。これじゃミス・マッチ感覚じゃなくて、本当にただのミス・マッチだ。ジャッキー・チェンだって抑えるべきところはちゃんと抑えてるぞ。あるいはクリス・タッカーみたいに最初からハイ・テンションでずっと飛ばすとかさ。


しかし、私は、まあこんなものかと思いながら見ていたのだが、時々、場内がバカ受けになるのにはびっくりした。私だってわりとくすくすしながら見ていたが、そんなにおかしいかあと思うくらい場内が受けるところが何か所もあった。私がはそれほど面白いとも思えないところで場内の爆笑が入ると、いったいどこがそんなにおかしいのか理解に苦しむ。私の英語のセリフの聞き取りが弱いというよりも (確かにロックの言い回しは早口で聞き取りにくいが)、セリフより身体を張った視覚的ギャグでもそうなのだ。これはロックの出演ということで、頭が既に笑いモードに入っている観客が、ほんの些細なギャグにでも過剰反応しているとしか思えない。ニューヨーカーってのは雰囲気に乗りやすいからなあ。乗りそこねた私の負けだ。


ジョエル・シューマッカーの演出は大味で、ここぞというポイントに欠ける。こんなに大ざっぱな人だったっけ? 私は見てないが、前作の「タイガーランド」はわりと誉められていたはずなんだがなあと思いながら見ていた。「バットマン」シリーズですらこんな大味じゃなかったぞ。これはプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーとも大いに関係しているかもしれない。元々ブラッカイマーがプロデュースする映画は質よりも量で勝負みたいな印象があり、それはそれでハリウッドの大型作品と相性がいいからわりとヒット作品を連発してきたんだが、さすがにもう種切れかと思ってしまった。


現在、ブラッカイマーはTVにも進出しており、CBSの「CSI」「アメイジング・レース」と、そこでもヒット作を連発している。この秋からは「CSI」スピンオフ、「CSI: マイアミ」もスタートする。それらを見ていると感じるんだが、実はブラッカイマーって映画よりもTVという媒体の方が相性がいいんではなかろうか。特に「CSI」の人気ぶりを見ているとそう思う。TVとしては金をかけたゴージャスな製作規模は、ハリウッド譲りだろうが、適度にはったりが利いてて視聴者を楽しませる。つまり、「9デイズ」は、映画としてではなく、TVで「CSI」の一エピソードみたいな感じで見たら、非常に面白いと思う (まあ、TVだとあれだけの金はかけられないだろうが。) いずれにしても今度プロデュースする映画作品は、はったりだけの作品じゃなく、もうちっと大人の映画ファンも楽しめるものにしてもらいたい。


ところで「9デイズ」にも先週見た「トータル・フィアーズ (The Sum of All Fears)」よろしく、悪者どもが核爆弾を利用しようとするというシチュエイションが用意されている。当然、そのため本当なら昨秋公開予定であった「9デイズ」も、公開が半年以上延期されている。ただし、私の見た限りでは爆弾は単に小道具として使われているだけで、「トータル・フィアーズ」の様なシリアスなものではなく、別にこの映画を見たからといって昨年の同時多発テロを思い出したりはしなかった。場内で爆笑していた観客もいちいちそのことに思いを巡らせてはいなかったことは明白であろう。しかし後半、空撮でニューヨークの摩天楼をスクリーンに収めるところでは、自由の女神やエンパイア・ステイト・ビルを見せるくせに、ワールド・トレード・センターが現れることはなかった。当然撮っただろうということは間違いないのに。そこだけ少し昨年のテロを思い出した。








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