At the Movies   アット・ザ・ムーヴィーズ

放送局: シンジケーション(NY地域ではFOX)

プレミア放送日: 9/18/1986 (Thu) (Siskel & Ebert at the Movies)

最終回放送日:  8/15/2010 (Sun) 18:30-19:00

製作: ディズニー

製作総指揮: デイヴィッド・プラマー

初代ホスト: ジーン・シスケル、ロジャー・エバート

現ホスト: マイケル・フィリップス、A. O. スコット


内容: 歴史ある映画紹介/批評番組の最終回。


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かれこれ20年近く前にアメリカに来た当時、さすがに映画を見る環境が激変したので、手っとり早く最新公開の映画や見たい映画、巷で評価の高い映画を知る必要があった。かといって当時の私にはニューヨーク・タイムズやヴィレッジ・ヴォイスの映画評は敷居が高過ぎて意味を解読するのにえらく時間がかかり、「手っとり早く」見る映画を決めるための参考にはほとんどならなかった。


その点、TVは視覚媒体でもあり、解説も老若男女を対象にしているため、簡潔が旨であり、気持ちわかりやすい。英語のヒアリングの訓練にもなった。それで一時期よく参考にしていたのが、ジーン・シスケルとロジャー・エバートがホストを担当していた、「アット・ザ・ムーヴィーズ」前身の「シスケル&エバート (Siskel & Ebert)」だ。


彼らは瘦せぎすのシスケル、太縁メガネをかけた太っちょのエバートという凸凹コンビで、視覚的にも印象に残った。しかし、それよりも彼らを有名にしたのが、よい映画、推薦する映画には手の親指を立ててサムス・アップ (Thumbs up)、ダメだと思ったら親指を下に向けてサムス・ダウン (Thumbs down) という、評価を単純なよい悪いの二項分類で断裁した、その評価スタイルにあった。


もちろんそれまでも親指を立てたり下に向けるジェスチャーはあった。ほとんど全世界共通のサイン・ラングエッジだったと言ってもいい。しかしそれを今あるように、物事の評価の基準として広く流通させたのは、ひとえにシスケルとエバートの貢献による。特に何か悪いこと、ひどいことを意味する時に、親指を激しく下に向けて振るというジェスチャーを定着させたのは、明らかにこの二人が嚆矢だ。


因みに「シスケル&エバート」がその時の公開映画の参考になったならば、過去の映画の参考になったのが、レナード・マーティン著の年鑑「ムーヴィ・ガイド (Movie Guide)」だ。毎年更新されるこのペイパー・バックは年々分厚くなり、現在では片手ではつかめないほど厚みがある。私もある時期までは毎年買っていたが、それよりもインターネットで調べる方が早く安く上がるようになったため、いつの間にやら買わなくなった。


マーティンはシンジケーションの芸能情報番組「エンタテインメント・トゥナイト (Entertainment Tonight)」内で映画紹介コーナーを受け持っており、90年代、シスケル&エバートとマーティンによって映画情報を得ていた者は多いだろう。マーティンは今でもこのコーナーを担当しているし、現在では映画専門チャンネルのリールズ (Reelz) でも自分の番組「マーティン・オン・ムーヴィーズ (Maltin on Movies)」を持っている。


話は戻って「シスケル&エバート」だが、この二人は元々はシカゴの新聞の映画批評家で、「シスケル&エバート」以前に、1975年から公共放送のPBSで「スニーク・プレヴューズ (Sneak Previews)」という映画紹介番組のホストを担当しており、それが1982年から「アット・ザ・ムーヴィーズ」というシンジケーション番組に発展した。これが「シスケル&エバート」の原型だ。しかしこの番組を製作しているトリビューンと揉めたため、1986年に番組を去って新しく映画紹介番組を始めた。それが長らく続いた「シスケル&エバート」だ (ちなみにオリジナルの「アット・ザ・ムーヴィーズ」はホストを代えて1990年まで続いている。)


ただしこの番組、始まった当時の正式名称は「シスケル&エバート&ザ・ムーヴィーズ (Siskel & Ebert & the Movies)」といった。それが現在知られているように「シスケル&エバート」になったのは、1989年のことだ。「シスケル&エバート」はその後1999年まで続くが、そこでシスケルが病に倒れる。脳腫瘍だった。シスケルは一時的に番組を退いて闘病生活に入ったが、しばらくして帰らぬ人となった。


残されたエバートは、1999-2000年は単独で「ロジャー・エバート&ザ・ムーヴィーズ (Roger Ebert & the Movies)」ホストを務め、2000-2001年シーズンから長年慣れ親しんだ相棒をリチャード・ローパーに代えて新しく再出発する。それが「エバート&ローパー (Ebert & Roeper)」だ。


しかし今度はエバートが病魔に侵される。喉頭ガンだ。エバートの代わりに臨時ホストが代わる代わる番組ホストを担当し、ローパーも2008年に番組を去る。番組はマイケル・フィリップス、ベン・ライオンズ、ベン・マンキーウィッツらが交代でホストを務めた後、昨年、フィリップスとニューヨーク・タイムズの映画欄を担当しているA. O. スコットの二人がホストに就任、そして今年、番組のキャンセルが発表され、このほど最終回が放送された。


この間に咽喉の大部分を切除するという大手術を受けたエバートは、番組に復帰こそしなかったが、手術後、度々人前には現れている。スティーヴン・ホウキングみたいに人工音声によって発声も可能だが、大手術だったのだろう、顔面の下半分が人工顎に付け替えられたようで、完全に人相が変わっていた。特徴の一つだった太縁メガネもsかけなくなったため、よけい人相が変わって見え、最初、誰だかさっぱりわからなかった。死を潜り抜けたからか、むしろ印象は昔より柔和になっており、一瞬女性かと思ったくらいだ。





























さて番組最終回は、前半をいつも通りの映画批評、後半を番組の歴史の回顧およびシスケルとエバートに対するねぎらいの言葉で締めくくった。因みに最終回に採り上げられた映画は、ジュリア・ロバーツ主演の「食べて、祈って、恋をして (Eat Pray Love)」、マイケル・セラ主演の「スコット・ピルグリムvsザ・ワールド (Scott Pilgrim vs. the World)」、そしてシルヴェスタ・スタローン主演の「エクスペンダブルズ (The Expendables)」だ。35年にわたる番組の歴史のトリがスタローン作品であることになにやら暗合というか、感慨深いものがないわけでもない。あれもガラ・アクション・ムーヴィであったわけだし、ま、華やかでいいか。実際スコットもフィリップスも、質が高いわけではないが楽しめると、私と似たようなことを言っていた。映画というのはそういうのもありだから。


ただし、いずれにしてもシスケルとエバートのいない番組では、ホストがトレード・マークのあのサムズ・アップ・サムズ・ダウンを使わないため、多少寂しいというか、めりはりがなくなったような気がするのは否めない。サムズ・アップ・サムズ・ダウンはシスケルとエバートの専売特許のようなものだったから、他の者がこれを使うのは、どうしても抵抗があるだろう。「シスケル&エバート」時代は、TV画面に親指を立てたサインか下げたサインがインサートされて、視覚的にも印象に残った。


たぶん今後、人はTVを、見る映画を決める選別の手段としてはますます利用しなくなるだろうと思われる。明らかにインターネットがそのメディアとしてTVにとって代わっており、今後その位置関係が逆転することはないだろう。マーティンがまだ頑張ってはいるが、基本的に彼の番組を放送しているリールズは、弱小ケーブル・チャンネルの中でもさらにマイナーなニッチ・チャンネルで、今後も大きな視聴者増は見込めない。


一方でエバートは番組を、来年からPBSで復活させる企画があることを発表している。「ロジャー・エバート・プレゼンツ:・アット・ザ・ムーヴィーズ (Roger Ebert Presents: At the Movies)」と題されたその番組は、来春から放送予定だ。その中でエバート自身も登場して、コンピュータ合成による人工音声で自身も批評を述べるらしい。既にパイロットは収録済みだそうだ。どうやら「アット・ザ・ムーヴィーズ」はまだまだ終わらないようだ。








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アット・ザ・ムーヴィーズ   ★★1/2

 
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