放送局: FOX

プレミア放送日: 11/2/2003 (Sun) 21:30-22:00

製作: イマジンTV、20世紀FOXTV

製作総指揮: ロン・ハワード、ブライアン・グレイザー、デイヴィッド・ネヴィンス、ミッチェル・ハーヴィッツ

製作: ヴィクター・シュー

クリエイター/脚本: ミッチェル・ハーヴィッツ

監督: アンソニー・ラッソ、他

撮影: ジェイムス・ホウキンソン

編集: リー・ハクソール

音楽: デイヴィッド・シュワーツ

美術: デニー・デュガリー

出演: ジェイソン・ベイトマン (マイケル・ブルース)、ポーシャ・デ・ロッシ (リンジー・ブルース・ファンケ)、ジェフリー・タンボー (ジョージ・ブルースSr.)、ジェシカ・ウォールター (ルシル・ブルース)、デイヴィッド・クロス (トバイアス・ファンケ)、トニー・ヘイル (バスター・ブルース)、ウィル・アーネット (ジョージ・オズワルド・ブルース (ジョブ))、マイケル・セラ (ジョージ・マイケル・ブルース)、アリア・ショウカット (ミービィ・ファンケ)


物語: バツ一男のマイケル・ブルースは、冷凍バナナの露天商から成功してそれなりの家族ビジネスを成功させた父のジョージ・ブルースSr.の跡を継ぎ、息子のジョージ・マイケルとより家族の絆を深めようと、将来の展望を持っていた。ところが、いざ父が引退する段になって脱税が発覚、IRS (税務署) の手入れが入り、ジョージは刑務所入りしてしまう。マイケルはファミリー・ビジネスを存続させようと四苦八苦するが、母のルシル、兄のジョブ、弟のバスター、姉のリンジーとその夫のトバイアス、さらにその娘のミービィまで皆自分のことしか考えない者ばかりで、マイケルの奮闘は、今日もまた空回りするばかりであった‥‥


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FOXというネットワークは、どうしても愛憎相反する感情を見る者に喚起させる。実は私は、シットコムではFOXの番組が最も面白いのではないかと思っているのだが、「90210」以来のティーンエイジャーをターゲットにしたドラマには、かなりくだらないものが多い。そして、そのくだらないと思える番組の方がヒットしたりする。例えば、今シーズンのこのティーン向けドラマには、「O.C.」と、「スキン」があった。「O.C.」とはカリフォルニアの高級住宅地オレンジ・カウンティを意味しており、ずばり「90210」の衣鉢を継ぐ番組だ。一方の「スキン」は、現在アメリカのTV界で最も高い成功率を誇るプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーが製作する番組で、舞台をポルノ業界に設定した「ロミオ&ジュリエット」と銘打たれていた。


この2本を並べた場合、私が気になるのはどうしても「スキン」の方で、果たしてブラッカイマーがポルノ業界をどのようにティーンエイジャー向けソープに翻案したのか、かなり興味を惹かれる。それに較べれば、見る前から既に最終回に至るまでのストーリー展開が予測できそうな「O.C.」なんか、別にどうでもいい番組にしか見えない。「O.C.」でたった一つだけいいのは、「シックス・センス」で、継母に毒を飲まされて殺され、亡霊となって夜な夜な主人公のオスメント坊やの前に口から緑色の液体を吐きながら現れた、ミーシャ・バートンの成長した姿を見ることができるということだけだ。


それが「O.C.」がヒット番組として確立しているのに、「スキン」が早々とキャンセルされてしまったのは、ただ、今夏、「O.C.」がフライング気味に編成され、ライヴァル番組のない時期にいち早く視聴者をつかまえることに成功したからにしか私には見えない。結局、視聴者は「O.C.」を先に見ちゃったから、似たようなティーン・ソープに見える「スキン」はパスしただけなのではなかろうか。いずれにしても、相も変わらず忘れ去られそうになると同工異曲の番組を連発するFOXのティーン・ソープは、どうしても私は好きになれない。


また、同様の視聴率至上主義の安易さは、リアリティ・ショウでも顕著だ。今春、ほとんどセンセーショナルとも言える大ヒットとなった「ジョー・ミリオネア」のたった一回しか有効でないはずの人権無視アイディアを、ヒットしたからといってまさかまたもう一度使用するとは、FOXのえげつなさを充分把握していると思っていた私の理解の、さらに上を行っていた。こんなことをするから2流のネットワークなんだと人から散々言われても、視聴率をとるためならどんなにあこぎなことでも辞さないその姿勢は、日テレのさらに上を行っていると言えよう。もしアメリカで視聴率調査会社のニールセンが視聴率調査世帯情報を漏らすものなら、FOXはお百度参りしてでも買収行為に走るに違いない。


とまあ、視聴者を呆れ返させる言動の多いFOXなのだが、だからといって編成する番組がすべて低俗かというと、そうでもないのが不思議なところだ。それどころか逆に、特に30分シットコムでは、FOXが編成する番組はかなり上質なものが多い。現在人気のあるシットコムとしては、NBCの「フレンズ」とCBSの「ヘイ! レイモンド (Everybody Loves Raymond)」が双璧だが、個人的な嗜好から言うと、「バーニー・マック・ショウ」「マルコム・イン・ザ・ミドル」が続けて編成される日曜夜のFOXのシットコム群は、私はかなり好きだったりする。


「バーニー・マック」や「マルコム」は、どう見ても高齢者に受けるとは思えないから、エミー賞に引っかかってくる確率は低いし、これらはスタジオ撮影のシットコムというよりもシングル・カメラ撮影のコメディであるから、お仕着せの観客の笑い声であるラフ・トラックも被さらず、従って、「フレンズ」のようなシットコムと比較すると、確かに笑える回数は少ない。しかし、私は笑いを強制させられるよりは、たとえ時にはずれで笑えない回があっても、自発的に笑える番組を見たいと思う。というわけで、FOXシットコムはかなり私のひいきなのだ。これらの上質シットコムに対する、十年一日が如くのティーン・ソープ、さらには低劣リアリティ・ショウから「24」のような時代の先端的ドラマまでが過不足なく収まってしまうところが、FOXというネットワークの不思議な身上だ (単に節操がないだけとも言えるが。)


そして今、新たにFOXの日曜夜のシットコム群に編成されるのが、御大ロン・ハワード/ブライアン・グレイザーのコンビがプロデュースする「アレステッド・デヴェロップメント (AD)」だ。「AD」は、「バーニー・マック」、「マルコム」同様、ラフ・トラックなしのコメディ路線の延長線上に連なる番組で、これでFOXの日曜夜の編成は、8時半の「バーニー・マック」、9時の「マルコム」、そして9時半の「AD」まで、非ラフ・トラック指向の番組が3本並ぶことになった。その直前のアニメーションの「シンプソンズ」も「キング・オブ・ザ・ヒル」も当然ラフ・トラックはないから、FOXの日曜夜は、3時間もの間、ラフ・トラックなしのコメディ/アニメーションが並ぶことになる。


これは、考えてみたら実に快挙だ。現在、アメリカのネットワークは、一ネットワークにつき、8-10本程度のシットコムを常時編成している。ABC、CBS、 NBC、FOX、UPN、WBの6大ネットワークで、だいたい50本程度のシットコムがあるわけだが、そのうち、ラフ・トラックなしのコメディは、「AD」を入れてたったの4本で、そのうち3本をFOXが放送し、3本とも同じ日の夜に放送されている (残る1本が、NBCの「スクラブス (Scrubs)」だ。) 現在休止中の「オリヴァー・ビーン (Oliver Beene)」が運よくキャンセルされないで帰ってくるならば、FOXが4本のシングル・カメラ・コメディを連続で放送することになる。


もちろんFOX以外にも、過去、他のネットワークがこのジャンルを試みたことはあった。デニス・リアリーが主演したABCの「ザ・ジョブ (The Job)」はかなりいい線行っていたと思うし、ジュリア・ルイス・ドレイファスが主演したNBCの「ウォッチング・エリー (Watching Ellie)」だって、別に悪くはなかった。FOX自身の「グレッグ・ザ・バニー (Greg the Bunny)」なんてのもあった。ただし、そのどれもがそれほど批評家評は悪くなかったわけにもかかわらず (「ジョブ」は積極的にかなりよかった方だと言える) せいぜい1シーズンちょっとでキャンセルされちまったのは、やはりこの体裁では視聴者の笑いをとることが難しいからに他ならない。一応コメディであるからして、上質なのはともかく、見て笑えなければやはり視聴者はチャンネルを合わせなくなり、視聴率がとれなければ、どんなに質が高かろうが番組はキャンセルの憂き目に遇うのは避けられない。


特にラフ・トラックなしのコメディは、キャラクターに存するオフ・ビートのユーモアが基調になりがちだ。主流がスタジオ撮影での、ギャグを連発してのべつ幕なしに視聴者を笑わせることを最上とするシットコムだから、どうしても30分コメディはそういう支流に走るのだろう。そして、その中でも、この「AD」のオフ・ビートぶりは堂が入っている。笑えないわけではない。むしろ、口を歪めたような笑いは始終のべつまくなしに起こっており、にやりとする回数は、「マルコム」よりも「バーニー・マック」よりも多いと言える。


とはいえ、この番組を見て声を上げて爆笑する人間は皆無なのではないかと思える。主人公の周りの人間が、無能な奴らと、頭はあっても力は貸してくれない奴らばかりという状態で、さらに不運が連続して起こり、にっちもさっちも行かなくなる、というようなシチュエイションを描くわけだが、その主人公のマイケルを演じるジェイソン・ベイトマンが、ヘンに演技力があって実際に哀れを催させるため、可哀想という気にはなっても、あまり笑おうという気にはならない。主人公はただ耐え忍ぶだけなのだ。


笑いをとるのは、まず第一に、刑務所に入ってもそこから家族を仕切ろうとする一家の長ジョージ、マイケルの兄弟のバスターとジョブ、さらに下手なマジシャン転じて俳優志望のトバイアスなのだが、この癖のある面々に、マイケル、およびマイケルの息子のジョージ・マイケルがどのように振り回されるかが番組の見所と言える。


現在、回は進み、なんと、今年デイヴィッド・ゲストとの結婚離婚暴力訴訟問題で物議を醸したライザ・ミネリがゲスト出演中だ。ライザは金持ちの有閑マダムといった役どころを演じているのだが、彼女、ゲストと喧嘩して痩せたかと思いきや、またさらに横に肉がついたようだ。きっとストレス溜まるとやけ食いに走るタイプなんだろう。少なくとも「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド」を見る限り、母のジュディもまさしくそのタイプのようであった。


因みに番組タイトルの「アレステッド・デヴェロップメント」とは、元々は発達が止まってしまった異常な状態を指す医学的な用語らしいが、ここでは、一族経営のブルース・デヴェロップメント社の経営者ジョージが逮捕 (アレスト) されたことにかけている。ところが、現在では、この単語を聞くと、反射的に同名ロック・バンドを思い浮かべる者の方が多い。私も当然、一瞬頭に思い浮かんだ。バンド自体そうだったと見えて、この番組を相手取って、自分らのバンド名を悪用しているとして、訴訟を起こしている。


今夏、バカ男スパイク・リーが、新規立ち上げを予定していた新ケーブル・チャンネルのスパイクTVに対し、おれの名前を悪用しているとして訴えたという話は、「ジョー・シモ・ショウ」でも書いたが、少なくとも今回は、私ですら番組タイトルを聞いて、バンドの方を連想した。リーの訴訟は当てこすりにしか過ぎないが、今回は、確かに番組タイトルからバンドを思い浮かべる者はかなりの数に上りそうだ。なんとなく番組側に勝ち目は薄そうに見えるが。







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Arrested Development

ブルース一家は大暴走 (アレステッド・デヴェロップメント)   ★★★

 
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