Ant-Man


アントマン  (2015年7月)

どこまで行くのかマーヴェル・コミックスの映像化の最新版は、「アントマン」だ。いくらスーパーヒーローといえども、近年のスーパーヒーローの叩き売り状態には、正直言って時について行けなくなる。特に多数のスーパーヒーローを抱えるマーヴェル・コミックスにこの傾向が顕著で、「アベンジャーズ (Avengers)」におけるスーパーヒーローのガラ化の成功が、この傾向に拍車をかけた感がある。


マーヴェル側に立つと、別に金儲けのためにスーパーヒーローを新たに捏造しているわけではなく、ほとんどが戦後すぐくらいから発表されている、それぞれが歴史を持つ立派なスーパーヒーローということであるらしいが、しかし、それでもスーパーヒーロー過多という印象は拭えない。


既に何者かよくわからない、スーパーヒーローというよりは宇宙から来た木偶の坊カン違いにいちゃんという印象が濃厚な「マイティ・ソー (Thor)」が出てきた時からして、もうこの分野は飽和状態かという印象を受けたのに、それなのに、さらにまだ後から後から新たなスーパーヒーローが登場する。


「ソー」が公開された時に、いったいマーヴェルってあとどれだけスーパーヒーローのストック持ってんだと思って、ちょっと調べてみたことがある。「アベンジャーズ」にも色々とヴァージョンがあって、時代によって多少スーパーヒーローの入れ替わりがある。映画化する場合は当然人気のある者から順に選ぶから、遅く映像化される者ほど人気のないスーパーヒーローであるのは当然だ。そして「アントマン」は、どちらかというとどうやらその人気のない方のスーパーヒーローであると言えるだろう。


「アントマン」は文字通りアント、蟻をスーパーヒーロー化したものだ。これまでスーパーヒーローは、ソーのように元々でかい、あるいはハルクのように、変身してでかくなるという印象があった。これは特に「ウルトラマン」に馴染んで育った私と同世代以降の日本人には、ほとんど刷り込まれていると言っていいくらい当たり前の認識だろう。スーパーヒーローは変身して巨大化することはあっても、小さくなるということはない。


それがアントマンにおいては堂々とその逆を行く。小さくなっていったい何ができるのか。それまで持てていたものが持てなくなり、届いていたものに届かなくなり、場合によっては、目に入らないがために知らず知らずのうちに叩き潰されているかもしれない。どう考えても、小さくなることによるメリットはないように思える。


それをなるほど、と思わせるのが作り手の腕の見せ所で、確かに「ミクロの決死圏 (Fantastic Voyage)」ではないが、極小の視点から世界を見ることで、ヴィジュアル的に面白いものを作れるかもしれないとも思う。しかしそれを悪と戦うスーパーヒーロー化するのはまた別問題のような気もする。果たして物理的に悪と戦えるだけの力があるのか。とまあそれくらいは誰でも考えるわけで、極小化したアントマンは、文字通り相手と戦う場面になると、今度は巨大化=人間化して、アクションをこなすことになる。


しかしあまり極小化/巨大化を繰り返すと、どう考えてもその急激な変化に細胞がついて行けるはずもないだろうと思ってしまう。むろんそれはウルトラマンにも言え、変身して身体がいきなり20倍以上もでかくなるという急激な変化に堪えられる細胞なんてあるはずもない。骨格が伸び縮みするのはさらに考えられないし、スーツが身体と共に伸縮するというのに至っては、あり得ないと断言できる。そのためアントマンもウルトラマンも、ソーやハルク以上に言語道断な設定と言える。


例えばスパイダーマンもスパイダーに噛まれたことがきっかけでピーター・パーカーの細胞に異変が起こって超人化するが、それだって細胞が大きくなったり小さくなったりするわけではない。しかしやはりガキの頃はなんの疑いもなくウルトラマンに熱中していたが。


日本ではアリまで小さな生き物をスーパーヒーロー化したものはないと思うが、しかしバッタをスーパーヒーロー化した仮面ライダーならいる。ただし、これは変身しても極小化するわけではない。大きさは普通の人間のままだ。いずれにしても日本産でアリに最も近いスーパーヒーロー化した生き物となると、バッタ=仮面ライダーしかないだろう。


アントマンに扮しているのがポール・ラッドというのもなにやらおかしい。ラッドはアメリカの俳優としては珍しく頭がでかく、バランス的にはアリみたいと言えないこともない。少なくともキャスティングとしては悪くないなと思ってしまう。あんまり誉め言葉にはならないか。


結局、スペシャル・エフェクツを楽しみはしたが、ー絵空事という点では、ますますマーヴェル・コミックスのリアリティは減じてきたなと思わざるを得ない。やっぱり、地球平和をアリやハチに頼むくらいなら、自分の力でなんとかしなきゃと思うのだった。










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優れたIT技術者だが、義賊的なハッキングの罪で有罪となり、刑期を終えて出てきたスコット (ポール・ラッド) が次の職を探せる見込みはほとんどなかった。そんなスコットを、ルイス (マイケル・ペーニャ) を筆頭とする昔の悪事の仲間がまた誘う。とにかく金を得る必要のあったスコットは、金持ちのピム (マイケル・ダグラス) の家に忍び込む。最新のセキュリティ・システムと大型金庫を破ったスコットが見つけたものは、よくわからないつなぎのようなスーツと、揃いのヘルメットだった。それを着てみたスコットは、いきなり身体がアリほどの大きさに縮小してしまう。実はこれはすべてピムが仕組んだことで、スコットの能力を試していたのだ。ピムは人がアリほどの大きさになって超人的能力を持つ特殊スーツを開発していたが、それが軍事目的に利用されるのを嫌がったために自分の会社を追われ、一人で開発を続けていた。しかしピムの後継者のクロス (コーリー・ストール) がイエロージャケットと称する同様のスーツの完成までもう一歩というところまで迫っており、ピムはそれを完成させるわけにはいかなかった。ピムの娘でクロスの下で働いているヴァン・ダイン (エヴァンジェリン・リリィ) は、必ずしも100%父の味方というわけではなかったが、少なくともこの件に関してはピムに同意し、スコットがアントマンとして活躍できるよう協力するが‥‥


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