Anger Management   アンガー・マネジメント

放送局 FX

プレ間放送日: 6/28/2012 (Thu) 21:00-21:30-22:00

製作: ライオンズゲイトTV

製作総指揮: ブルース・ヘルフォード

出演: チャーリー・シーン (チャーリー・グッドサン)、セルマ・ブレアー (ケイト・ウェールズ)、ショウニー・スミス (ジェニファー・グッドサン)、ダニエラ・ボバディラ (サム・グッドサン)、ノウリーン・デヴルフ (レイシー)、マイケル・アーデン (パトリック)、デレク・リチャードソン (ノーラン)


物語: チャーリーは元MLBプレイヤーだったが、短気が災いして自分で自分の選手生命を絶ってしまい、今ではそういう経験を活かして性格を矯正するカウンセリングの仕事をしている。その一方でいまだに完璧に自分の感情をコントロールできているわけではないチャーリーは、自分自身も同業者のケイトのカウンセリングに通い、しかも、ケイトとできているという始末だ。チャーリーには前妻のジェニファーとの間に娘のサムがいるが、サムも偏執狂的な性向がある。さらにサムのボーイフレンドとチャーリーはどうしても折り合いが悪いなど、チャーリーの周りはいつも落ち着かない‥‥


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Anger Management


アンガー・マネジメント   ★★1/2

あまりの騒動のでかさに私も我を忘れて昨年のアメリカTV界の10大ニューズのNo. 1に選んでしまったほど話題と物議を醸したチャーリー・シーンの一人舞台は、やはり昨年最も注目され、人々が話題にした事件と言えよう。事件の詳細は上述した項を参照してもらいたいが、とにかく自分を過信してやりたい放題やった挙げ句CBSの「ハーパー★ボーイズ (Two and a Half Men)」をクビになり、人々からも見放されたという近来稀に見る事件だった。


ただし、機を見るに敏で変わり身が速くないと生きていけない芸能界、シーンも、自分がやり過ぎた、このままではまずいと気づいてからは、低姿勢に転じ、今度は様々なトーク・ショウ等で殊勝な態度を見せ、形勢挽回に努めた。案外と鷹揚なアメリカの視聴者はすぐにシーンの非を忘れ、許す姿勢を見せた。あるいは、今度はおだててまたシーンがどうするのか見てみたいという悪魔的な欲望のせいで、ちょっとシーンに好きなことさせてみようと考えたのかもしれない。


いずれにしてもそのせいで、本来ならあと5年は干されて仕事が来るはずはないと思われたシーンに、間髪を入れずに次のコメディの主演話が舞い込んだ。それが「アンガー・マネジメント」だ。元々話題性という点ではこれ以上ないくらいの注目度を誇るシーン、少し悔い改めた態度を見せれば、彼を使いたいというプロデューサーはいないわけがなかった。やはりポイントは、ビジネスになるかどうかだ。


そのプレミア・エピソードの冒頭、シーンはカメラに向かい、オレをクビにしたなんて思うなよ、オレはクビになったんじゃなくて自分から辞めたんだ、オレがいなくなったらそれはもう元のままじゃないんだ、と啖呵を切って、バンバン! と殴る真似をするというシチュエイションで番組が始まる。アンガーをどうマネジメントするかという例をてっとり早くカウンセリングしている者たちに教えているのだが、もちろんこの場面が本当に意味しているのは、かつての「ハーパー・ボーイズ」関係者に向けての発言に他ならない。やっぱり根に持っているようだ。


番組でシーンが演じるのは、かつて自分の短気のせいで選手生命を絶ってしまったという元MLBプレイヤーだ。これまた自分の経験を暗示しているのは言うまでもない。シーンは元キャッチャーで、バッターのファウル・ボールをスタンド間際まで追いかけて、ボールが落ちてくるところをキャッチしてアウト、となる寸前、スタンドのファンが手を伸ばしてそのボールをキャッチしてしまう。怒ったシーンはバットを叩き折ろうとして逆に自分の膝の骨を折ってしまい、アスリートとして道を絶たれたというもの。このくらいの自虐センスがなければコメディは務まらない。


思い出すのは「メジャー・リーグ (Major League)」で、ここでシーンが演じたのはノー・コン・ピッチャーだった。それがここではキャッチャーだ。キャッチャーというのはベイスボールで唯一顔を隠しているポジションで、縁の下の力持ち的な印象が強いが、唯一スポット・ライトが当たるのが後ろに飛んだファウル・フライを追っかける時だ。それまではただ一人、顔を隠してその上自分だけ他の8人のチームメイトと逆向きになって、できるだけ目立たないよう座っているというほとんど差別されているポジションにいるプレイヤーが、ファウル・フライが上がった時だけ、俄かにキャッチャー・マスクを地面に投げつけ、素顔をさらして時の人となってボールを追う。その一瞬の晴れがましさが一試合に一度もない時もあることに堪え続けなければならないポジションが、キャッチャーなのだ。怪我することになろうがなるまいが、シーンが遅かれ早かれゲームと縁を切ることになるのは、キャッチャーというポジションをあてがわれたことからでも明らかだ。まったくシーン向きのポジションではない。


そういう経験のために、短気な者たちの性格を矯正するアンガー・マネジメント専門のカウンセラーとなったチャーリーだが、実は本人だっていまだ完全に自分の短気を矯正できているわけではない。そのため自分自身も同業者のケイトのカウンセリングに通い、しかもケイトとできてしまっている。別れた妻との間にできた娘のサムも行動に病的なところがあるなど、周りは行動に問題を抱えている者ばかり。そして一番問題があるのは自分自身という世界を描く。


設定としては悪くないと思うが、ではそれがとても面白いかというと、私としては正直に言うと、残念ながら「ハーパー・ボーイズ」の方がもっと笑えた。「ハーパー・ボーイズ」における主人公チャーリー・ハーパー役がはまっていたと本人も回りもわかっているから、今回も似たような、女癖の悪いキャラクターになっているのだが、やはり「ハーパー・ボーイズ」のはまり具合いにはかなわない。シーンとしてはもう「ハーパー・ボーイズ」はどうでもいいと思っていたかもしれないが、本人がそう思っていても、なぜだかそういう時の方がうまく物事が回転して、できのいいものが作れたりする。


一方「アンガー・マネジメント」も、あるいは今後シーンがこの役に馴染むに連れ、番組ももっとよくなっていくかもしれない。注目度は高かったから、FXは既にもう何十本分 -- ネットワーク換算だと4年分 -- の番組製作をオーダー済みだ。それくらいあると、今後番組が充分化ける可能性もある。あるいは、結局シーンがまたドラッグとアルコールに溺れて一人舞台で番組を台なしにする -- いや、シーンに限って言えば、その方がどんどん番組が面白くなっていくという気も、本気でかなりする。










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