ペイン・スチュワート・ショックも落ち着いて舞台はスペイン、アンダルシア。タイガー・ウッズが3週連続、彼がプレイしたトーナメントでは4ツアー連続という、50年代のベン・ホーガン以来の記録に挑む。ついでに1シーズン8勝は74年のジョニー・ミラー以来25年ぶり、1シーズン獲得賞金650万ドルはもちろん史上初。ついでに言うとこの金額はあのジャック・ニクラウスの生涯獲得金額よりも多いそうだ。なんとまあ、あやかりたいものだ。


トーナメントの方は3日目を終わった時点でウッズは首位のミゲル・アンゲル・ヒメネス、クリス・ペリーに1打差の3位。他にニック・プライス、トム・レーマン、ジャスティン・レナード、ハル・サットンら過去のメイジャーの覇者がずらりと並ぶ。その1打下にはホゼ・マリア・オラハボル、リー・ウエストウッドらが、さらにその1打下にはセルジオ・ガルシアがおり、まだまだ勝負の行方はわからない。しかしラウンドが始まった途端、ウッズとヒメネス以外は次々と沈んでいき、フロント・ナインを終わった時点で勝負は完全にこの二人に絞られた。特にウッズのできがよく、16番を終わった時点で9アンダー、一時は10アンダーまで行った。ヒメネスに3打差がついた時点で、勝負はもう決したかに見えた。しかし勝利の女神は一方的なゲームを許さなかった。勝負はこれからが面白くなる。


17番パー5は風さえなければバーディ・ホール。しかし風が吹くと途端にコースで最も難しいホールに豹変する。しかしこの時点で2打差リードしていたウッズは、安全策を取って刻んでいく。3打目は池越えのショットだが、ウッズのショットは池際に刻まれたカップを6フィート超えた地点をとらえ、バック・スピンのかかったボールはカップめがけてゆるゆると下っていく。考えられ得る最高のショットで、この瞬間、誰もがウッズの勝利を確信した。本人もそう思ったのは間違いないのは画面からもありありだった。しかし、カップに向かって転がっていくボールが止まらない。カップを過ぎてもまだ転がる。あれ、あれ、え、え、という間もなく、加速度を増したボールは無情にも池の中へ。茫然自失のウッズ。茫然自失の観客。茫然自失の私。楽勝だなと思ってカウチの上に横になってTVを見ていた私は、やおら姿勢を正してあとはTVに釘付けとなったのであった。


二度と同じミスは冒せないウッズは、次のショットをグリーン・オーヴァーのラフに入れてしまう。そこで思い出すのは2年前のヴァルデラマでのライダー・カップ。まったく同じこのホールで、ウッズはバック・ラフからの似たようなショットを似たようなピン位置に寄せようとして、行き過ぎて池に落としてしまったのだ。その時の記憶が頭をよぎる。もしもう一度池に落とせばクアドラブル・ボギーは堅い。ほとんど去りかけた優勝を再び呼び戻す可能性は皆無になってしまう。緊張の一瞬。ソフトにソフトに打ったショットはしかし、無情にもまたカップを過ぎて転がる、転がる、げー、またかよ、そんな、止まれー、という願いをやっと聞き入れたか、ボールはカップを10フィート過ぎて、ほとんどグリーン・エッジ手前でやっと止まる。あと数回転分勢いがあれば、またもや池の中に落ちるところであった。心臓が止まるかと思った。


ウッズは返しのパットも外し、結局トリプル・ボギー8。2打差リードどころか、17番を終わった時点で何とヒメネスに2打差つけられるという展開。しかしヒメネスも直後に16番でボギーを叩き、1打差。が、勝負どころの17番では第3打を慎重にグリーン奥に乗せ、2パットで手堅くパー。ウッズは18番をパーで上がり、1打差のまま勝負はヒメネスの両腕に委ねられた。18番ホール、ヒメネスのラフからの第2打はグリーン手前で止まり、第3打のチップ・ショットはカップを越えてグリーン奥のファースト・カット・ラフまで行ってしまう。続く第4打、15フィートのデリケートな下りのチップ・ショットは、カップのエッジに当たりそのまま入るかと思われたが、勢いのあったボールは弾かれて痛恨のボギー。あと1インチ右なら入っていたのだが、そんなこと言ってもどうしようもない。


同じ18番でのプレイオフは、ウッズの300ヤードのフェアウェイ・ドライヴに対し、ヒメネスはラフ。ウッズはピン手前15フィートに第2打を乗せるが、ヒメネスは20ヤードも離れたバンカー入り。ヒメネスの次打はカップを越えてラフに入ったため連続してヒメネスが打つが、これを外し最低でもボギー。2パットでも優勝のウッズはしかし、15フィートのパットを沈めて貫録のバーディで勝利をもぎ取った。一時は完全に手から離れたと思われた勝利を力ずくで取り戻した実力は、世界ランキングNo.1の座に恥じないものだった。彼がいるおかげでゴルフは本当にエキサイティングなものになったなあ。Congratulations, Tiger!







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アメリカン・エキスプレス・ワールド・チャンピオンシップ

1999年11月   ★★★★

ペイン、ソトグランデ、ヴァルデラマ・ゴルフ・コース

 
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