America’s Toughest Jobs

放送局: NBC

プレミア放送日: 8/25/2008 (Mon) 21:00-22:00

製作: オリジナル・プロダクションズ、バーマンブラウン

製作総指揮: ソーン・ビアーズ、ゲイル・バーマン、ロイド・ブラウン

ホスト: ジョシュ・テンプル


内容: 参加者に肉体的に最もタフな仕事を経験させる勝ち抜きリアリティ。


_______________________________________________________________


近年、アメリカでは人間の限界に挑戦させる的な、参加者や番組ホストを様々なきつい危険な仕事に従事させるリアリティ・ショウが盛んに製作されている。特にドキュメンタリー専門のディスカバリー・チャンネルやナショナル・ジオグラフィック・チャンネル (NGC)、それにヒストリー・チャンネルらが、その手の番組の中心だ。


なかでもアラスカのカニ漁をとらえたディスカバリーの「ベーリング海の一攫千金 (The Deadliest Catch)」と、昨年の氷結した湖上を走るトラック・ドライヴァーをとらえたヒストリーの「アイス・ロード・トラッカーズ (Ice Road Truckers)」、はこの種の番組の代表と言える。そして現在では、それらの「タフな仕事」系リアリティ・ショウはケーブル・チャンネルだけではなくネットワークをも巻き込み、一過性のブームではなく、一つのジャンルとして定着している。


これらの流れは昨年の「アイス・ロード・トラッカーズ」や今年の「DEA」の項でも書いたので重複は控えるが、それでも、今春書いた「DEA」以降も、雨後の竹の子のようにこの手の番組が登場している。そうすると次は何が来るかなと私も考えて、今春の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」で描かれた石油発掘なんかどうだ、あれはきついぜえと思っていたら、ちゃんとトゥルーTVが「ブラック・ゴールド (Black Gold)」という私が予想した通りの番組の放送を始めた。因みにトゥルーTV (TruTV) とは元コートTVという法廷実況やその手のリアリティ・ショウ専門チャンネルが、間口を広くして再出発したケーブル・チャンネルだ。


では炭鉱はどうだ、こいつも命がけだと思っていたら、こちらは単体の番組としてではなく、「スーパーサイズ・ミー」のモーガン・スパーロックがギニー・ピッグとなってありとあらゆる職業に一と月間身を投じる「30デイズ」のエピソードの一つで、ちゃんと炭鉱労働者のきつい現実がとらえられていた。


その後もLAの高層ビル建築現場で働く者たちをとらえたNGCの「LAハード・ハッツ (L.A. Hard Hats)」、自動車窃盗対策ユニットに密着したA&Eの「ジャックト: オート・セフト・タスク・フォース (Jacked: Auto Theft Task Force)」、ニューヨークの地下鉄労働者をとらえるヒストリーの「サンドホッグス (Sandhogs)」等、この種の番組は枚挙に暇がなく続々放送されている。つい先頃放送されたNGCの「ワールズ・タフスト・フィックスズ (World’s Toughest Fixes)」の1エピソードでは、放射能防御スーツを着て原子力発電所の蒸気タービンの中に入って補修する仕事なんてのがあり、こいつは命かかっているなと思わざるを得ない。警察官や消防士より危険度は高いという気がする。


そしてこれまではケーブル・チャンネルの寡占に等しかったこのジャンルに、ついにネットワークが乗り込んで放送を始めたのが、この「アメリカズ・タフスト・ジョブス」だ。だいたいこの種の番組だと、登場人物に密着してその仕事振りをとらえるだけだと単調になりやすいから、そこにどうしても勝負事や競争を持ち込みたくなるのがアメリカのリアリティ・ショウの特色だ。「アイス・ロード・トラッカーズ」や「ブラック・ゴールド」、「アックス・メン」等は、ただでさえきつい仕事に参加者を2チームに分けて競争させるというファクターを持ち込むことで、より番組を面白くしようとしている。


そしてそれをただの競争ではなく、それらのきつい仕事を毎週週替わりで経験させ、勝ち抜きにして最後まで残った者に賞金を与えるという趣旨で始まったのが、「タフスト・ジョブ」だ。要するにきつい仕事版「サバイバー」と言ってしまえばかなり近いかもしれない。ただし「タフスト・ジョブス」は参加者は一人ではできない仕事はチームを組んだりして共同作業をさせられるが、基本的に仕事は個人作業であり、「サバイバー」のように裏での駆け引きや根回し等があるわけではない。各回で誰が落とされるかはその時の仕事の監督の胸先三寸で決まるから、そんなのをやることに意味はないのだ。


番組のクリエイター/製作総指揮は「ベーリング海」、「トラッカーズ」のソーン・ビアーズで、現在この種のきつい汚い危険の3K番組を撮らせたら右に出る者のない第一人者という評価が定着している。そして当然、全米から集められた13人の参加者がまず送り込まれるのは、寒空の下のアラスカのカニ漁、そして次がトラック輸送のドライヴァーなのであった。当然っちゃあ当然の選択か。


第1回では出漁に当たり、全員にイワシのような生魚が配られ、頭を食いちぎれという指令が降りる。要するに伝統的な海の男たちの豊漁祈願の儀式だ。そこでいきなりウォール・ストリートで働いているという40歳の女性エイミーが、私はできない、生魚にアレルギーがあるからそんなことをしたら死んでしまうという。これには海の男たちもどう反応していいか困った。


実際の話、重篤のアレルギー反応であるアナフィラキシー反応が起こると命にかかわる可能性もある。いつだったか、ピーナツにアレルギーを持つ少女が、それと知らずにピーナツ・バターを食べたばかりの男の子とキスして呼吸困難に陥り死んでしまったという事件が実際にあった。だから彼らもだったらなめるだけでいいとは言うが、しかしそれで本当にいいかは確信があるわけじゃあるまい。エイミーが本当に死んじゃったら過失致死だ。しかし出漁前からまさか問題が起こるとは予想していなかったに違いない。結局その様子をそばで見ていたLAから来た53歳の彫刻家エリックが助け舟を出し、彼女の分まで魚の頭を齧りとることでその場は収まった。それにしても先が思いやられる。


いざ荒い海に出ると、人によってツライのは船酔いだ。こればかりは大人も子供も男も女も関係なく、弱いやつは弱い。実際、真っ先に船酔いしてげろっぱゲロゲロになったのは最もガタイのいいリックだった。そこへ船員の一人がやってきて、もったいない、カニの餌になるからこの中に吐けと、プラスティック容器を差し出すのだった。


さらに船に揺られ、ディーゼル・エンジンの匂いを嗅ぎ、カニの餌にする魚をさばいて内臓を掻き出し、7時間ぶっ通しで働き続け身体を酷使した後で休憩時に出されるメシは、脂のこってりしたベーコンだ。おえーっ、見ただけでこっちまでムカムカする。今度は女性のセンタが、いきなり流しに向かって直行で吐いた。それを見ていた一人は、そこでメシの準備をするんだけどな、とニヤニヤしている。あー、やめてくれ、本気でこちらまで吐きそうになるから。しかしこないだのG4の「ハール」といい今回といい、なんでこんなに吐きまくる番組ばかり最近見てんだ。


実は私も船に強い方ではなく、船に乗るとだいたい船酔いする。ではあるが、学生時代に一度、測量船に乗ってなんかの機材を海に沈めるというバイトをしたことがある。東京から確か水戸まで行き、一泊して翌朝早くに出航して午後帰ってくるというスケジュールで、特に荒い波だったわけでもないが、それなりに揺れる甲板上で身体を動かしていると、酔って手すりから海に向かってげーげー吐いた。一度吐くと身体が楽になって慣れるが、しかしカニ漁のきつさとは比較にならない。うーん、私はカニ漁、とてもじゃないができないわあ。


特に女性にはやはりきつそうで、どう見ても肉体労働向きの身体をしていないエイミーは、ブイを海に投げ入れるという二人一組の仕事をしている時に、力が足りなくてブイが手すりを越えず、代わりにパートナーのエリックの頭をブイが直撃、エリックはもう少しで海に落ちるところだった。たぶん落ちたら一巻の終わりだろう。その後さらに、ロープを海に投げ入れたベンが自分の前ではなく後ろにロープを回してしまい、それを確認しないままサンディが機械的にブイを海に投げ入れたため、ベンは落ちていくロープによって絡めとられたまま海に落ちそうになった。あれは本当にやばかった。本人も真っ青だが、指導していた者もそうやって人は死ぬんだよと、本気でやばそうだった。怖えーっ。


結局第1回ではその中から最も働きが弱かったと見られたエイミー、エリック、センタ、スティーヴンの4人が再度カニ漁に駆りだされ、この中から追放される者が選ばれる。怠けてたために下の4人の中に入った若いスティーヴン以外は、女性か歳がいっているかでどうしても非力で、不利なのはいたし方なかった。そして落とされたのはセンタ。元々この番組に参加しようと考えていた者は、今の自分の職業になんらかの不満を持っていたり転職を考えていたりする者がほとんどであるため、このようなまったく別の世界を見、新しい経験をさせられると踏ん切りがつくようで、番組の最後では、センタはその後、職を辞め、またわざわざアラスカに渡って自然公園で働いているというテロップが入った。


ところで番組は勝ち抜きで最後に残った優勝者が賞金の総取りということになっているが、その賞金額は設定されていない。その理由は、番組が一回ずつ進むに連れて、その回で参加者が挑戦する職業の、1年、もしくは1シーズンの平均的な初任給をその回の賞金にして、それを毎回積み重ねていくというシステムをとっているためだ。むろんサラリーの平均なんて事前にわかることだが、それを回毎に開示することで、段々掛け金が高くなっていくというギャンブル的な面白さの提供を狙っている。因みにカニ漁で新人の船員がもらう平均的な1シーズンの給与は約3万ドルということで、その金額がまず最初の賞金となった。


番組第2回は上記で述べた通りアラスカでの長距離トラックのドライヴァーを経験させる。とはいってもそこはやはり素人ドライヴァー、事前に講習や練習を受けさせても、本当に凍結した湖上を走らせるわけではない。番組プロデューサーは本当はそうしたかったのかもしれないが、場所や日程の都合でそういうわけにはいかなかったのかもしれない。いずれにしても参加者は18輪トラックを駆って、湖の上ではないとはいえ、ところどころ氷結した道を一人250マイルずつ運転する。それだって充分危険なのは言うまでもない。


大型車の運転は、むろん練習や努力、慣れもあるだろうが、ほとんど才能というのが私の意見だ。特にニューヨークの街角の込み入った場所にある消防署で、左右30センチずつの間隔をキープしながらバックで一発ではしご車を車庫入れする消防士を見ていると、本当にそう思う。あれは持って生まれた才能があるからできるのであって、練習や技術云々ではない。できないやつはどんなに練習してもできないだろう。むろん私もその口だ。


この回では口の減らない中年親父のクリスが、隣りに座っているインストラクターに向かっていちいち一言多くやり返したために、逆鱗に触れて途中でトラックを降ろされた。バカな親父だ。あんだけとろとろ運転して何度も立ち往生して、よく自分のことは棚に上げてインストラクターに言い返せるもんだとほとんど感心する。一方、まったくブルー・カラー・ジョブ向きではないエイミーはこの回でも失敗が続く。下り坂で18ホイーラーに加速がつくと簡単には止まらないだろうというのは、慣性の法則を習っていなくても経験上誰でもわかる。エイミーはしかし、エンジン・ブレーキを効かせているつもりでギアがニュートラルに入って加速するトラックにかなり長い間気づかず、本気でインストラクターを焦らせた。こっちも見ていてかなり緊張した。事故らなくて本当によかった。


結局ここで追放者を決めるための下の4人に指名されたのは、やはりエイミー、クリス、それにブライスとロンメルの4人。ブライス、ロンメル、クリス、エイミーの順で続いた試技は、バックでドック付けの後、荷台を離すというもので、案の定クリスが最も手こずり、ドック付けを何度もやり直してしまいにはホストのジョシュ・テンプルが何度目かもうわからなくなったという始末で、結局25分近くかけてやっとテストを終わる。そして最後のエイミーは、綺麗に一直線にはならなかったとはいえ、ほとんど僥倖で一発でドック付けに成功、しかしその後が問題だった。


圧倒的に非力なエイミーは、荷台を本体から切り離すための鋼鉄製のピンがどうしても抜けない。簡単に抜けてしまっては危険だから頑丈なのは当然とはいえ、しかしそれを抜くことができなければドライヴァーは務まらない。尻餅をつきながら何度も何度もトライしたエイミーだったが、しかしピンを抜くことができず、そのままいたずらに時間が過ぎて結局クリスより時間が経ってしまい、万事休す。彼女はねえ、ウォール街ではともかく、ブルー・カラーの仕事に就くにはいくらなんでも非力すぎた。


その後番組第3回は、やはりアラスカで身を切るように冷たい川の中に入っての砂金とり、第4回はモンスター・トラック・ジャムという巨大4輪トラックで潰し合いながらのレースに挑む。第5回は石油発掘、第6回はブル・ファイティング (闘牛)、第7回は大規模ブリッジの上で汚れ落としと、身体や心臓の弱い者には務まらない仕事が続く。第6回のブル・ファイティングでかなり雄牛に接近したベンのカウボーイ・ハットには角であけられた穴が開いており、ロンメルも肩を脱臼と、結構本気で命がけ。あと、残っているのは材木伐採 (やっぱり) と山岳レスキュー隊の仕事だそうで、見ている分にはともかく、体力的には当然きつそうな仕事ばかりだ。


番組終了時に発表になるそれまでのサラリーを合わせた賞金は現在では約20万ドルに達しており、なかなかの金額だ。最終的には30-40万ドルくらいにはなるだろう。さて、恒例で現在残っている者の中から優勝者を占うと‥‥体力勝負とはいえ、サンディは充分男性の中に入っても伍しており、ほとんどハンディキャップを感じさせない。もう一人残っている女性のミケーラはちょっと無理そうだ。しかしやはり勝つのは若い男性 – ブライス、ベン、ロンメル、スティーヴンの中の誰かだろう。空手の先生をしているロンメルの運動神経のよさを買いたいところだが、しかし彼はブル・ファイティングで肩を脱臼しているし、トラックの運転では下の4人の中に入っていたからなあ。ここは次に動きの軽そうなベンを一押しにしておこう。



追記 (2008年10月)

ベン、スティーヴン、サンディ、ミケーラと男女二人ずつが残った最終回は、これまでやってきたことに再度挑戦して一人ずつ落としていく。最初はブル・ファイティングで、サンディが牛に大きく突き倒され、その時点で時計が止まり、退場。これでサンディが落ちるのかと思いきや、その後のミケーラは、闘牛場に飛び出してカウントが始まった直後に、なんと牛が蹴り上げる後ろ足が頭を直撃し、もんどりうって倒れた。退場どころがいきなり控えていた救急車に乗って病院送りで、これでミケーラが脱落。特に大きな怪我ではなくてよかった。


次は石油採掘孔で一連の仕事の速さを競う。単純な力仕事だけにどう見ても男有利で、実際、サンディは頑張ったものの僅差で及ばず、彼女が落ちた。最後が木材伐採で速さを競うもので、これでスティーヴンを下したベンが優勝、賞金約30万ドルを手にした。どう考えても、どれも率先してやりたい仕事でないことだけは明らかだ。







< previous                                    HOME

 

America's Toughest Jobs


アメリカズ・タフスト・ジョブス   ★★1/2

 
inserted by FC2 system