American Utopia


アメリカン・ユートピア  (2020年12月)

実はこの作品を見たのは2020年年末で、書いているのは年も明けて2021年になってからなのだが、そのたった1週間程度の間に、アメリカでは国家の屋台骨を揺るがせかねないほどの驚天動地の大事件が起きた。ドナルド・トランプ大統領先導による国会議事堂襲撃事件を指しているのは言うまでもない。 

 

いったい、一国の大統領が民衆を扇動して自国の国会議事堂乱入を教唆するなんてことがあっていいのか。中南米や共産圏ならともかく、民主主義の国でそれはないだろう。しかもアメリカは民主最先国ではないのか。 

 

あれはもうテロリズムであって、単なるデモではない。これを教唆したトランプは国家反逆罪の可能性もあると言っている有識者もいるし、トランプのメンタルが異常だとして、残りの在職期間が2週間を切っているのにもかかわらず、大統領を辞めさせようとしている議員たちもいる。 

 

しかもトランプは、国会まで一緒に行進していこうと民衆を煽るだけ煽っておいて、実は自分はホワイトハウスに残ってTVを見ていたそうだ。自分さえよければいいというだけの、信じらない無責任な自己満足の塊。本当に、なんでアメリカはこんな無能な利己主義者を大統領にしたのか。口だけはうまい無責任男ということにとっとと気づけ。 

 

さてデイヴィッド・バーンの新アルバム「アメリカン・ユートピア」は、2018年に発表されている。当時既にアメリカでは人種差別、人種間格差が問題になっており、それを大きく憂えながら、いかにもバーンらしいテイストで問題喚起する内容になっている。 

 

実はかれこれ30年くらい前、バーンがフロントマンだったトーキング・ヘッズのコンサート映画「ストップ・メイキング・センス (Stop Making Sense)」を、今はもうなき五反田の名画座で見たことがある。たぶんその時そこでしかかかってなかったんだろう、五反田なんて、普通はそこまで遠出しないところまで行ったこと、および内容の印象の強烈さのために、今でもよく覚えている。 

 

いったい、ズート・スーツというよりは、当時は相撲取りの着ぐるみとしか思えなかったスーツを着て、まるで痙攣しているような動きで所狭しとステージ上で歌い踊りまくるのが、なぜこんなに格好いいのかよくわからないのに圧倒的に格好いいというパフォーマンスにしびれた。トーキング・ヘッズは、私にとって1980年代を代表するバンドの一つだった。 

 

そのバーンの「アメリカン・ユートピア」は、2019年にブロードウェイでミュージカル化されている。あれはコンサートというよりは、やはりミュージカルなのだろう。2020年にも再度時期限定のパフォーマンスが予定されていたが、周知のように2020年はブロードウェイは閉鎖された。2021年に再度公演が予定されている。 

 

このブロードウェイ・パフォーマンスを収録したのが、今回の「アメリカン・ユートピア」だ。「ストップ・メイキング・センス」を撮ったのは白人のジョナサン・デミだが、「アメリカン・ユートピア」は黒人のスパイク・リーが撮っている。今回はテクノロジーが進歩して、楽器にコードが繋がっていないため、ステージ上で誰もが縦横無尽に歌い踊りまくる。ドラムスですら、肩から引っ掛けるマーチング・バンドのようなドラムスにその他の打楽器をプラスして、全員動きながらのパフォーマンスだ。 

 

それもかなり綿密にコレオグラフィーが施されており、実際の話、一瞬マーチング・バンドを連想させるが、しかしやっぱりでき上がったものはバーンのパフォーマンスと言うしかない。選曲は「アメリカン・ユートピア」以外にもトーキング・ヘッズ時代のヒット曲も含まれており、ファンには懐かしい。パフォーマーはバーンを含め、全員「ストップ・メイキング・センス」を思い起こさせもするグレイのスーツを身にまといながら、一方で裸足だ。痙攣ダンスと言われたバーンの動きも健在だ。 

 

パフォーマーの周りはカーテンらしきもので三方を囲まれ、シンプルなステージだが、しかしコンピュータ制御の照明で、随所に印象的なライティング効果がある。カメラも頭上からを含め、パフォーマンスの臨場感を遍くとらえようと頑張っている。最後は全パフォーマーがステージから観客席に降りての行進で、やっぱりバーンって面白い。コロナ問題が沈静化したら、ブロードウェイに生ステージを見に行くかな。 












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2018年発表のデイヴィッド・バーンの新アルバム「アメリカン・ユートピア」を題材にしたブロードウェイ・ミュージカルの舞台を収録。 


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