American Psycho

アメリカン・サイコ  (2000年4月)

80年代のウォール街の証券マンを戯画化して、出来はともかくも評判となったブレット・イーストン・エリスの話題作を「I Shot Andy Warhol」のメアリ・ハロンが映像化。要するにホイチョイ・プロダクションの「気まぐれコンセプト」に流血ホラーを足し、ブラックな笑いで包んだのが「アメリカン・サイコ」である。殺人が趣味という、27歳にして自分のオフィスと秘書を持つエリート証券マンの主人公パトリック・ベイトマンに扮するのは、クリスチャン・ベイル。その秘書ジーンに「ボーイズ・ドント・クライ」のクロイ・セヴィニー。失踪者を捜査するキンボール刑事にウィレム・デフォーという布陣。


この作品、一応ジャンル分けするとブラック・コメディということになるのだろう。冒頭、自分を若々しく保つために、パックやらローションやスクラブやら何種類もの化粧品で肌の手入れに余念のないパトリックを映すシーンはそれなりに皮肉が効いてておかしい。パトリックと同僚がお互いに名刺を見せ合って誰の名刺のフォントが最も魅力的か較べ合い、ライヴァルの一人の名刺にすかしまで入っているのを見て負けたと思ったりするのも笑えた。


これまで見下していた奴が自分のよりも上等の名刺を作ってきたために殺そうとするのも笑えるし、手袋をはめてバス・ルームで首を締めようとしたら何やら勘違いされてうるうるした眼で見つめ返されるところなんて爆笑だった。死体の入っているバッグを深夜車のトランクに運び込もうとして知り合いに見られ、サスペンスが盛り上がるそのシーンで知人が気にしているのは中身の死体よりもそれをくるんでいる上等のバッグで、バッグのブランドを訊ねられジャン・ポール・ゴルチエだと答える辺りのシーンのブラック・ユーモアも非常に利いている。その他、当時のヒット曲に蘊蓄を傾けたり、3Pをしながら自分の姿を鏡に映してポーズを決めたりするところなんかもおかしい。


しかし問題はそういうブラック・ユーモアがあまりにも単発で、全体としてみると皮肉の効いた風刺劇にはなりきっていないということだろう。実際、2時間にも満たない作品であるにもかかわらず、途中何度かだれるため私は何度も腕時計に目をやった。この作品はまだ切れる。なんで90分じゃ駄目なんだ。最後のクライマックスの大量殺戮シーンも、ホラーにもなりきれずブラック・ユーモアにも欠け、今一つ意図が見えない。


この作品、残酷シーンがあまりにも多いため、NC-17のレイティングがつけられそうになったのを、いくらかカットを施してRレイティングに持ってきたそうだから、そのへんに理由があるのかも知れない。17歳未満入場禁止のNC-17レイティングがつくと、映画としては興行収入の半分は捨てたような格好になるので、製作者としてはどうしてもせめて成人同伴ならガキでも見てもよいという1ランク下のRレイティングで公開したい。さもなければ製作資金の回収すら難しくなってしまうからだ。その残酷シーンをカットしていなかったら、もしかしたらヴァイオレンス・シーンがあまりにも突拍子もなく、一線を超えてしまっているために突き抜けて哄笑を産むような作品になっていたのかも知れない。今となってはそれをどうこう言うのも詮ないことだが。ヴィデオになった時のディレクターズ・カットを見るのがこの作品の正しい観賞方という気がする。


ベイルはスティーヴン・スピルバーグの「太陽の帝国」で主人公の少年ジムを演じているから、既に芸歴は長い。成長してからは「若草物語」でウィノナ・ライダーと、「ある貴婦人の肖像」でニコール・キッドマンと共演している。セヴィニーは「ボーイズ・ドント・クライ」にも出ており、HBOのオムニバスTV映画「イフ・ディーズ・ウォールス・クッド・トーク2」でもその中の1話で主演するなど現在注目株である。ウィレム・デフォーは少なくとも現在では登場人物の中で一番知名度があるため上位にクレジットされているが、実質上の出番は少ない。ストーリーにもあまり絡んでこず、肩透かし。彼の役はもうちょっと使いようがあっただろうに。


この作品、「タイタニック」後のレオナルド・ディカプリオが主役としてサインする寸前まで行ったことで知られている。結局ディカプリオは「ザ・ビーチ」を選び、「アメリカン・サイコ」はパスしたわけだが、しかしどちらに出ても同じことだったろうと思う。特に「アメリカン・サイコ」のクライマックスでパトリックが切れて暴走する辺りのシーンは、「ザ・ビーチ」の後半、一人で暴れまくって作品をぶち壊したディカプリオと相通じるものがある。ディカプリオによるパトリック、見たかったような見なくて済んでよかったような。






< previous                                      HOME

 
inserted by FC2 system