アメリカン・アイドル (American Idol)

放送局: ABC

ABCプレミア放送日: 3/11/2018 (Sun) 20:00-22:00

製作: フリーマントルメディア・ノース・アメリカ、ナインティーン・エンタテインメント

製作総指揮: サイモン・フラー、ジェニファー・ムラン

ジャッジ: ライオネル・リッチー、ケイティ・ペリー、ルーク・ブライアン

ホスト: ライアン・シークレスト


内容: ネットワークを替えて復活した、勝ち抜きシンギング・コンペティション。


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American Idol


アメリカン・アイドル  ★★1/2

一昨年、15シーズンの長きにわたって放送されたFOXの人気番組、「アメリカン・アイドル」が最終回を迎えた。いくらまだ多少の人気は残っていようとも、視聴者数は全盛期の半分以下に落ち込んでいたし、人気を取り戻そうと番組梃入れのために手を入れ過ぎ、最後の数シーズンは毎回進行とルールが変わって逆に興を削いでいたから、確かにこの辺が潮時かなという感じはした。ところが、その最終回をいまだによく覚えている現在、ABCが番組を再開させるという。


一ネットワークでキャンセルされた番組が他ネットワークに目をつけられ、番組が継続するという例は、ないわけではない。というか、結構ある。近年ではCBSでキャンセルされた「スーパーガール (Supergirl)」が、CWで息を吹き返したという例がある。つい先頃もFOXでキャンセル発表があった「ブルックリン・ナイン-ナイン (Brooklyn Nine-Nine)」が、NBCで復活するという発表があったばかりだ。


ストリーミング・サーヴィスのNetflixやHuluは、ネットワークでキャンセルされた番組を復活させることが多いため、近年ではカルト的人気だった番組がネットワークでキャンセルされた場合、Netflixで番組を継続させようと嘆願運動が起きる。そうやってNetflixでWBの「ギルモア・ガールズ (Gilmore Girls)」やAMCの「ザ・キリング (The Killing)」、FOXの「ブルース一家は大暴走! (Arrested Development)」が復活し、HuluがFOXの「ザ・ミンディ・プロジェクト (The Mindy Project)」を復活させた。


という例は結構あるが、しかし、「アメリカン・アイドル」は、正直意外だった。なんといっても人々は飽き始めているという印象は強かったし、歌番組では既にNBCの「ザ・ヴォイス (The Voice)」という、「アイドル」に代わる番組が出現している。たとえ「アイドル」」が復活しても、そのコンペティションには勝てなさそうに思えた。「アイドル」を復活させるメリットは、それほどないと思われた。とはいっても、歌好きの我々夫婦は、やっぱり見てしまうのだった。


復活「アイドル」の新ジャッジは、ライオネル・リッチー、ケイティ・ベリー、ルーク・ブライアンの3人。ホストは従来通りライアン・シークレストが務める。ジャッジに関しては、リッチーは結構やれている。ブライアンは可もなく不可もなく。実はカントリー・シンガーのブライアンは、私はまったく知らなかった。ペリーは、私の意見では不可だ。


ペリーはエゴが強過ぎるというか、時折りスタンド・プレイに走り過ぎる。格好いい男を見ると自分からナンパしてキスするし、参加者と一緒にフロアで踊ってこけてパンツ見せてTV画面にぼかし入るし、なにやってんだ、あんたと思う。番組を盛り立てようとしているのもわからないではないが、本末転倒という印象は拭えない。ジャッジならまず的確なコメントを優先しろと思う。


一方、私の女房に言わせると、ペリーは思ったよりいいらしい。これは事前のペリーに対する期待値の違いに拠っている。現在の人気シンガーの一人であるペリーに対し、私はもっとやってくれると思っていたが、案に反してそれほどでもなかったので、点が辛くなる。一方、女房は、私とは逆に、ペリーはビッチという印象を強く持っていたので、意外に参加者のことも慮って悪くないじゃない、という印象を受ける。


一方ペリーが楽しみなのは、毎回の衣装だ。「アイドル」ではこれまでもジェニファー・ロペスが毎回どんな衣装を着てどんな髪型をしてくるのかが楽しみの一つだったが、ペリーはそれを一段階上げ、ほとんど毎回仮装大会みたいになっている。正直言ってやり過ぎなのだが、これだけやると気になるのも確かだ。回を重ねる毎にどんどん派手になってきて、あんた、それ、一人で歩いて来れないでしょ、みたいな衣装で登場する。ディズニー・テーマの回では白雪姫になり切って登場、あれは最初から知らなければペリーだと気づかない。


「アイドル」皆勤賞は、ただ一人、ホストのライアン・シークレストだけだ。シークレストは自分のラジオ番組を持っているだけでなく、昨秋からABCの毎朝のトーク・ヴァラエティ「ライヴ・ウィズ・ケリー・アンド・ライアン (Live with Kelly and Ryan)」でケリー・リパと共同ホストを担当しているので、今回のリメイクではまさかホストは担当しないだろうと思っていた。「ライヴ」は平日毎朝ニューヨークからの生放送、「アイドル」は本選が始まったら毎日曜LAからこちらも生放送だ。


実際「アイドル」放送が始まって各地のオーディション風景になると、ホストはシークレスト一人しかいないのに、かなり彼の出番が少ない。やはり忙しくて全部のオーディション会場に同行する時間がないんだろう。FOXで放送していた時は、オーディション・ステュディオの出口には必ずシークレストが待っていて、予選を通った参加者とは一緒に喜び、落ちた参加者は慰めていたのに、それがない。やっぱり一緒に喜んだりがっかりしたりしてくれる者がいつもいるといないのとでは、結構番組の印象が変わってくるんだなと思った。


実際のパフォーマンスの部分に関しては、今度はまだ前回からそんなに時間も経ってないことだし、あんまり期待してなかったのだが、実はこれが結構いい。後から後から若い埋もれていた才能が無尽蔵に現れる。やっぱりアメリカの懐って深いよなと思わざるを得ない。


特に今回は、トランスのエイダ、天然のケイティ、子持ちの二人の黒人デニスとマルシオ、一見ギャグ・キャラだがどんどんうまくなったマイケル、若い頃のショーン・ペンみたいなロッカーのケイドなど印象的なキャラクターが多く、なかなかレヴェルが高い。だいたいいつもは、どんなに上手でも所詮うまい素人レヴェル、実際にセミ・プロ、元プロが出てくる「ザ・ヴォイス」に較べると負けるという印象が強かったのだが、今シーズンばかりは私は女房と顔を見合わせて、なんか、「ヴォイス」より「アイドル」の方がレヴェル高くないか、とすこぶる感心せざるを得なかった。


「ヴォイス」は、一番面白いのは参加者同士が同時に同じ歌を歌う、バトル・ラウンドだと思っている。二人が一緒に歌うことでミックス・アップ効果が生まれ、歌いながら上達するみたいな印象があった。今回の「アイドル」では、バトルではないが、参加者にメンターがついて、一緒にデュエットするラウンドが新たに設けられた。これが結構いい。プロと一緒に歌うことで安心して力が出せること、あるいは実力以上のものが出せるというのもあるのだろう、ほとんどの者がプロ並みに聴かせる。これはジャッジの面々も本気で感心していた。それにしても皆綺麗にハモる。二人で違う音程で歌うと、すぐつられてしまう私から見ると、感心することしきりなのだった。


現在「アイドル」は最後の3人まで絞られており、その中には前掲の私が挙げた参加者は残念ながら誰も残っていない。結局最後の方は実力というよりも人気勝負になってしまい、「アイドル」にせよ「ヴォイス」にせよ、TV以外にあまり娯楽のない内陸部の人間にアピールするカントリー・シンガーが残る可能性が高い。今回の「ヴォイス」のブリットン、「アイドル」のケイレブ等、そのいい例だ。失敗したよなと思っても残る。それでもその中から勝つのはというと、アンチ・カントリーで「ヴォイス」ではブリン、「アイドル」ではマディを推すが、さてどうなるか。



追記 (2018年5月)

珍しくも私の予想通り、というか願い通り、「ヴォイス」ではブリン、「アイドル」はマディが優勝した今シーズン、実はブリンは番組史上最年少の15歳で、要するに彼女は出ようと思えば「アイドル」にだって出られた。一方、マディのハスキー・ヴォイスこそ、玄人の多い「ヴォイス」向きだったとも言える。こんなこともある。


 


 








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