American Hustle


アメリカン・ハッスル  (2013年12月)

先週の「アウト・オブ・ザ・ファーナス (Out of the Furnace)」に引き続き、またまたクリスチャン・ベイルの主演作だ。そして今回ベイルが演じるのは、ぶよぶよの身体にハゲ頭、手八丁口八丁のイカサマ詐欺師と、精悍な面構えの前作から印象が180度変わった。こっちとしては一週間で体重が40kg増えてハゲたようにしか見えないため、この変貌振りに驚嘆する。性格まで怠惰になったように見えると言ったら、ハゲやデブに対しての蔑視と糾弾されるのだろうか。


そのベイル演じるアーヴィンは、地方のケチなイカサマ野郎に過ぎないが、たまたま相性のいいビジネス感覚抜群の相棒の女性シドニーと巡り会ったため、それまでとは人生が一変する。イカサマ投資ビジネスによって懐は大きく潤うが、しかしそこに目をつけたFBIのディマソは、せいぜい小物詐欺師に過ぎないアーヴィンを餌に、腐敗した政界の大物を釣り上げようと画策する。


「ザ・ファイター (The Fighter)」のベイルとエイミー・アダムズ、「世界にひとつのプレイブック (Silver Linings Playbook)」のブラッドリー・クーパーとジェニファー・ロウレンス、それにロバート・デニーロという、デイヴィッド・O・ラッセルの代表作の主演俳優陣を配した、ラッセル・ガラとも言える遊び心溢れるコン・ドラマ・ケイパーが、「アメリカン・ハッスル」だ。これで「ザ・ファイター」、「スリー・キングス (Three Kings)」主演のマーク・ウォールバーグがジェレミー・レナーの代わりに政治家ポリートに扮していれば、ラッセル組総出演総大成という印象になったと思うが、イタリア系政治家であるポリートにウォールバーグが扮するのは、確かに無理があったかもしれない。


この手のコン・ゲーム・ドラマは、誰が誰を騙そうとしているのか裏の展開が読めず、作り手も観客の裏をかくことに全力を尽くすので、後半になるとまったくなにがなんだかわけがわからなくなってストーリーについていけなくなることがよくあるのだが、「アメリカン・ハッスル」は最初に時間軸を操作しているくらいで、特に観客をひっかけようとはしていない。単純に話の面白さ、演技で引っ張る。むろん最後にどんでん返しはあるのだが、私はもう一捻りくらいあるかと思った。コン・ゲーム・ドラマとしては、むしろほとんどストレートフォワードな作品と言える。


その点で近いのは、同様にガラ・ケイパーのスティーヴン・ソダーバーグの「オーシャンズ (Ocean’s)」トリロジーという気がする。一方「オーシャンズ」が華やかでキザ、スタイリッシュという印象なのに較べ、「アメリカン・ハッスル」がどんくさい印象がするのは、登場人物の造型がまず一つ、それに70年代という時代や、片や人々がお洒落して集うギャンブルの街ラスヴェガス、片やニューヨークの田舎町という時代と場所の設定も大きかろう。もちろんどんくさいとはいっても別に貶しているのではなく、意図的にどんくさくしているラッセルの力量は大したものだと思う。


というか、ラッセルが演出すると、意図的だろうがなかろうが絵がお洒落ではなくなるのは、やはり本人がそういう美的感覚の持ち主だからだろう。絵作りをする時、よけいなものをできるだけ省いてシンプルにすることを心掛けているというソダーバーグに対し、そのよけいなものをごちゃごちゃと配して過剰なものからエッセンスが湧きあがってくるみたいな演出をするのが、ラッセルの特色だ。あるいは、「アメリカン・ハッスル」は事実を基に脚色しているそうだから、それも関係しているのかもしれない。


先頃発表されたゴールデン・グローブ賞では、主演男優賞にノミネートされたベイルを筆頭に (会場には来ていなかったが)、主演女優賞アダムズ、助演男優賞クーパー、助演女優賞ロウレンスと、「アメリカン・ハッスル」から大挙してノミネートされていた。このうちベイルとクーパーの二人は賞を逸し、アダムズとロウレンスは受賞した。ベイルははっきり言って悪くない、というか積極的にここではとてもいいと思うが、冒頭、ハゲ頭を隠そうとする演技を筆頭に、えげつなさ過ぎると思われたのかもしれない。一方のクーパーはハゲ頭を隠そうとするのではなく、ストレート・ヘアをパーマでわざと縮らせようとするやはり髪型へのこだわりが、これは却下と思われたような気がする。今回は二人の髪型への執着に対する反感、とは言わないまでもうざいと思わせたところが、おしゃれに敏感なヨーロッパ系やアメリカ以外の投票者が主体のゴールデン・グローブ賞にアピールしなかったのが、受賞を逸した要因の一つじゃなかろうか。


一方主演女優のアダムズの受賞にはまったく異議はない。他方助演女優のロウレンスの受賞は、彼女、演技じゃなくて自分出しているだけのように見え、確かにはまってはいるが、それとこれは違うような気がする。旬の女優だからすごく目を惹きつけるオーラを発しているのは確かではあり、今ノミネートされている各種映画賞を総舐め中だ。


こないだの確か俳優協会賞 (SAG Awards) のレッド・カーペットでは、ロウレンスはショウタイムの「ホームランド (Homeland)」のデミアン・ルイスとたまたま隣り合わせになり、話の流れでその時彼女にインタヴュウしていた女性が、つい口を滑らせてロウレンスがまだ見ていない第3シーズンのシーズン・フィナーレの展開をバラしてしまった。ショックを受けたロウレンスは、インタヴュワーに向かって、「You’re monster」と激怒していた。インタヴュワーも、しまったと思った時は既に時遅しで、苦笑いしてごまかすしかなかった。


実はロウレンスは結構ミーハーなようで、昨年もなんらかのレッド・カーペットでたまたま一緒になったジェフ・ブリッジスを見てキャーキャー言ってはしゃぎ回り、周りを驚かせていた。ブリッジスといいルイスといい、趣味は悪くないがどうもオジサン好みのようだ。性格的にはUPN (現CW) の「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル (America’s Next Top Model)」初代優勝者であるエイドリアンをかなり思い出させる。いずれにしても、やはり彼女が「アメリカン・ハッスル」で演技していたとは到底思えないのだった。たぶん演出のラッセルも、何も言わず地のままやらせた、あるいはそれでいいとたきつけたのではと推測する。「アメリカン・ハッスル」に較べれば「世界にひとつのプレイブック」の方がまだ演技してた。










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1970年代、小物の詐欺師紛いの仕事で口を糊しているアーヴィン (クリスチャン・ベイル) は、上昇志向の塊であるシドニー (エイミー・アダムズ) と出会う。二人の相性は抜群によく、手を組んだことで商売は急激に上向きになる。そこにFBIのディマソ (ブラッドリー・クーパー) が目をつけ、二人を利用することで、裏のある政財界の大物を釣り上げられると画策する。アーヴィンとシドニーはニュージャージーの政界で人気のあるポリート (ジェレミー・レナー) に接近する。意外にもアーヴィンが持て余している妻のロザリン (ジェニファー・ロウレンス) がポリートの妻に気に入られ、アーヴィンたちはポリートの信頼を得ることに成功する。一方、ロザリンとアーヴィンの仲は冷めていく。後先考えず思ったことをすぐ行動に移すロザリンは、アーヴィンたちにとって時限爆弾のような存在になり始める‥‥


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