うーん、マジかよと思ってしまった。だいたい、このサイトではTV欄は日本ではまだ紹介されていないものについて書くことを基本にしている。当然スターズ作品の「アメリカン・ゴッズ」が日本で紹介されるのは、まだまだ先のことになるものだとばかり思っていた。
そしたら、あらすじまで書いた段階で念のためと思って調べてみると、「アメリカン・ゴッズ」は日本では2007年5月1日からAmazonプライムが提供開始とあった。なんだ、それ。アメリカで4月30日放送開始のスターズ番組が、日本では翌日からAmazonで見れるってか。時差の関係もあるから、実質的にはほぼ同時に日本でも見れていることになる。
2か月前から日本でも紹介されていることにまったく気づかなかったのは間抜けもいいとこだが、番組を見終わって資料にも目を通し、あらすじも書き終えたのにこのままお蔵入りさせるのも業腹なので、この項は書き続けることにする。
「アメリカン・ゴッズ」は、ニール・ゲイマンの同名SFファンタジーの映像化だ。ゲイマン自身は英国人であるにもかかわらずアメリカが舞台なのは、八百万の神が跋扈するのは、ひとえに国土が広く、多くの移民とその歴史を抱えるアメリカが舞台として適していると考えたからと思われる。
実際、番組の冒頭はいきなり紀元前に北欧のヴァイキングが北米大陸に漂着したと思われるシーンで幕を開ける。しかしネイティヴ・インディアンかそれともネイティヴ・ゴッズは彼らの漂着を喜ばず、内陸に足を踏み入れるものは何人たりとも許すまじの姿勢を貫いて、近づいた者には大量の弓矢を一斉に浴びせてくるため、ヴァイキングたちは立ち往生する。結局自分たちで殺し合いをして神に捧げものをした後にようやっと神風が吹き、ヴァイキングたちは浜から立ち去ることができる。
と、次のシーンはいきなり現代だ。とすると、このオープニングにはいったいどんな意味があったのかと、かなり戸惑う。要するにアメリカの神々は乱暴で争い好きということを言いたかったのか。それにしても目え突き刺したり腕が千切れ飛んだり血飛沫飛びまくりで、かなりスプラッタ指数高い。
現代の主人公シャドウは現在傷害の罪で服役中だ。刑期も終わりに近づき、あと数日で出所という時に、早く刑務所から出たい最大の理由だった妻のローラが交通事故で死亡したという知らせが届く。しかもなお悪いことにはローラはシャドウの親友と浮気していて、二人一緒に死亡した。今度は娑婆にいる理由もなくなってしまったシャドウは、道中で出会った謎の男ミスター・ウエンズデイからオファーされたボディガードの仕事を継続する。しかしそこへ現れた謎の男テクニカル・ボーイは、シャドウからミスター・ウエンズデイのことを根掘り葉掘り聞き出そうとした挙げ句、シャドウを殺そうとする。しかし目に見えない何かがシャドウを助けるのだった。
はっきり言って予習復習なしには、ストーリーを理解することは難しい。実はミスター・ウエンズデイは古き神を代表するオーディンで、彼にとって変わろうとする、テクニカル・ボーイのような新しい神々と対立しているという構図は、誰かがどこかで説明してくれない限り理解不能だが、少なくともプレミア・エピソードを見る限り、そのことをちゃんとわからせてくれるような箇所はなかった。
ワン・シーンだけ現れる女神? ビルキスにもあっと言わされる。彼女は誘った男とお楽しみの最中、なんとおまんこの中に男を取り込んでしまうのだ。愛の女神なんだろうが、しかしあまりにも意外な描写に、思わず声を出して笑ってしまった。これ、マジで撮ってんのか。
このわかり難さに、ヘンな美意識、ヴァイオレンスの過剰描写等、番組は見る者を選ぶと思われる。今放送中のショウタイムの「ツイン・ピークス: ザ・リターン (Twin Peaks: The Return)」も、25年前も今もこのヘンさ加減は健在で、さすがデイヴィッド・リンチと感心したりもするが、意味わからなさにおいて、「アメリカン・ゴッズ」も負けてはいない。いや、やはりわからなさ勝負では「ツイン・ピークス」が上か。
いずれにしても、神々の争いでなぜ人の力が必要になる? あるいはミスター・ウエンズデイが求めたものはシャドウのヘルプではなく、人間側の証人を必要としただけのことかもしれない。ま、神は人の質問に答える必要を認めないだろう。
元々神々というのはギリシア神話にしても日本神話にしてもやたらと人間くさいものだが、「アメリカン・ゴッズ」においてはその上、さらに好戦的、暴力的だ。人間だけの世界でも近い将来に文明崩壊の危険が日増しに高まっているというのに、その上、神々の面倒なんか見ていられない。それとも神々は、人が滅亡しようがしまいが、関係なく自分たちだけのプライドや縄張り争いを繰り広げるのだろうか。あの好戦的な態度を見ていると、それもあり得そうな気もする。