American Gladiators

放送局: NBC

プレミア放送日: 1/6/2008 (Sun) 21:00-23:00

製作: MGM TV、リヴィール

製作総指揮: デイヴィッド・ハーウィッツ、マーク・クープス、ハワード・オーウェンス、クレア・オドノホー

ホスト: ハルク・ホーガン、ライラ・アリ


My Dad Is Better Than Your Dad

放送局: NBC

プレミア放送日: 2/18/2008 (Mon) 21:00-22:00

製作: リヴィール、マーク・バーネット・プロダクションズ、ホッチキス・インダストリーズ

製作総指揮: マーク・バーネット、ハワード・オーウェンス、マイク・ニコルズ、ジョン・ホッチキス

クリエイター: ジョン・ホッチキス

ホスト: ダン・コルテス


内容: 体力勝負系勝ち抜きリアリティ・ショウ2種。


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「アメリカン・グラディエイターズ」とは、80年代から90年代にかけて人気を博していた体力勝負系のリアリティ・ショウであり、今回はそのヴァージョン・アップしたリメイクになる。一方の同様の体力勝負番組「マイ・ダッド・イズ・ベター・ザン・ユア・ダッド」は新番組だ。リメイクにせよ新番組にせよ、こういう体力勝負系番組が続けて製作された背景には、「モスト・エキストリーム・エリミネーション・チャレンジ (MXC)」「ニンジャ・ウォリアー (Ninja Warrior)」という2本の番組の存在があるのはまず間違いあるまい。


「MXC」すなわち「風雲! たけし城」と、「ニンジャ・ウォリアー」すなわち「Sasuke/Kunoichi」という東京放送の誇る体力勝負系リアリティ・ショウは、アメリカでも人気が高い。「MXC」は一時はスパイクTVの看板番組だったし、今ではその人気はG4の「ニンジャ・ウォリアー」に受け継がれている。G4は最近では「筋肉番付」まで「アンビータブル・バンヅケ (Unbeatable Banzuke)」と題して放送を始めており、この種の体力勝負系番組は洋の東西を問わず人気のあることを証明した。今回の2本の体力勝負系リアリティ・ショウの編成は、これらの和製番組の影響を抜きにしては考えられない。


とはいえ、むろんこちらとそちらではそのテイストは微妙に異なる。アメリカでこの手の番組を製作すると、どうしてもそれは参加者の競争、勝負事となり、参加者が一対一、あるいは複数同時に、障害物や人間を相手どったレースで勝負する。あるいは同時勝負ではなくても、最終的にはそれはタイム・レースとなって、いずれにしても相手との時間差で優劣を決める。勝者と敗者を決めることが番組の最終目的なのだ。勝ち抜き、あるいは勝者総取りがアメリカのリアリティ・ショウの基本である。


一方、「Sasuke/Kunoichi」の場合、競技はむろん時間との戦いであったり、誰が最後まで勝ち残るかが興味の焦点となるわけだが、それでもそれが参加者が他の誰かを蹴落とすことを意味しない。もし何人も最終ゴールに到達したとしたらそれは完全制覇者が何人も現れたというだけのことであり、同時に称揚されるだけで、それらの制覇者の間に優劣はない。どちらかというと、相手との戦いというよりも己との戦いという印象の方が強いのが日本製体力リアリティの特色だ。


これがアメリカ製番組だと、何度も勝負をリセットして、とにかくまた一から勝負して勝敗を決める。それがタイムだろうが実際の肉弾戦だろうが、最終的には相手を打ち負かすというのがその骨子だったりする。それを最大限にショウ・アップして、エンタテインメントの領域まで高めたのがプロレスに他ならない。素人参加番組だろうができレースだろうが、とにかく最後にはなんらかの優劣、勝敗の決着が着くのがアメリカ産体力系リアリティ・ショウの最大の特色と言っていいだろう。


そしてやはり「アメリカン・グラディエイターズ」も「マイ・ダッド・イズ・ベター・ザン・ユア・ダッド」も、そういう番組なのだ。それで晴れて一番になった時の褒美はといえば、それはもちろん金だ。「グラディエイターズ」では優勝した時の賞金は10万ドル、「マイ・ダッド」では5万ドルで、参加者はその賞金獲得を目指してお互いに凌ぎを削る。インセンティヴが金というのは、わかりやすいっちゃあわかりやすい。「Sasuke/Kunoichi」だって完全制覇者には賞金が出るそうだが、そのことを知らずに見ている視聴者の方が多いんじゃないだろうか。


「グラディエイターズ」は確か一時日本でも放送されたことがあるから、その内容を知っている者も多いだろう。グラディエイターズと呼ばれる屈強の男女の猛者が行く手を阻む中を、参加者がその隙をかいたりしながらミッションを遂行するという趣旨の番組だ。参加者は一対一でそのタイムを争い、最後まで残った者が優勝だ。


たとえばこれが「たけし城」なら、確かに迷路の中にプロレスラーとかが待ち受けて参加者を水の中に投げ落としたり、ゾウ相手に綱引きしたりという光景も見られたが、これほど最初から相手の行く手を阻むという明白な目的をもって参加者の邪魔をしていたわけではなかった。行く手を阻むというよりも、視聴者の笑いをとるためにそこにいて邪魔をするという印象の方が強かった。


しかしグラディエイターズは、最初から参加者の行く手を阻み意志をくじく障害として存在している。そのグラディエイターズという障害をなんとかくぐり抜けないとポイントが得られない。因みに番組第1回では、グラディエイターズの隙をかいくぐってボールをかごの中に入れる勝負の「パワー・ボール」で、女性参加者の一人がグラディエイターズの女性からタックルを食らって膝を痛め、あえなく棄権せざるを得なくなった。


参加者は怪我をしても番組を訴えないという契約書にサインをしているのは間違いないだろうが、時にはかなり派手に投げ飛ばされるので、ヘッドギアやサポーター装着で競技に挑んでいるとはいえ、怪我をする確率をするのはかなり高いと言える。同じエピソードでは別の女性参加者が、鼻血を出しながら (額を切っていたのかもしれない。ずっと動いているのでよく見えなかった) 競技に挑んでいた。そこまでしてやっているのを見て興奮するというよりも、もしその女性がHIV保持者なら、次その上を通る参加者に感染しなくていいかと考えながら見ていたのは私だけか。


「グラディエイターズ」にはその種の競技が10種あって、参加者はそのうちのいくつかで相手参加者とタイムを競う。毎回最終競技の「エリミネイター」で最終的な勝敗を決める。この「エリミネイター」だけは、グラディエイターズが立ちはだかるその他の競技と異なり、跳んだり泳いだり上ったりぶら下がったりと、完全に己の体力だけによる勝負だ。つまり、この競技は最も「Sasuke」に近い。ただし頭上で火の燃えているプールの中を泳いだりと、やはり競技自体は派手で、その隣りで相手も負けじと競技中と、どうしても勝負事に徹してはいるが。


その他の競技では、筋肉モリモリのにーちゃんねーちゃんのグラディエイターズが参加者の行く手を阻むわけだが、実は見ていて思うには、グラディエイターズは参加者に対してかなり手加減している。最もその印象を強く受けるのが、単純に前に立ちはだかるグラディエイターズの横をかいくぐってゴールに達しないといけない「ガントレット」で、時に参加者が小さめのアジア系だったりする場合、体重差で2倍あるんじゃないかと思われるグラディエイターズを3人も振り切る可能性は、まず限りなくゼロに近いだろう。グラディエイターズがその気になれば、ほとんどの参加者は最初の一人を振り切ることすらできまい。概ねその他の競技も、グラディエイターズが本気を出せばほとんどの競技で参加者はグラディエイターズに勝利することはできないと思えるものばかりだ。


つまりグラディエイターズは、TV番組として競技が最も面白くエキサイティングに見えるよう手心を加えながら参加者の相手をしている。むろんグラディエイターズは特に誰かに有利になるように相手しているわけではないのだが、それでも半分はできレースと言えないこともなく、そのことで番組が最も印象が似通ってくるのは、やはりプロレスだ。


一方「マイ・ダッド・イズ・ベター・ザン・ユア・ダッド」は、そういう勝負事を親子対決にした番組だ。時に親子一緒に競技に参加することもあるが、基本的に競技に挑むのは父親の方だけだ。子の方は父親に声援を送ったりして援助する。因みに母親は参加しない。そうやって父親対決をして、勝った父の子がうちのパパの方があんたのパパより偉いんだ、と自慢する番組が、「マイ・ダッド」だ。


番組ではまず4組の親子が登場、最初の競技は制限時間内にハンマーで机を叩き壊し、その壊した総量を競う。机の破片は穴の開いた大きなプラスティック・ゲージの中に入れないといけないため、その穴を通るくらいには小さく砕かなければならない。ストレス発散によさそうだが、普段から身体を動かしなれていないパパたちはいきなり汗だくでよれよれになり、思うように作業は進捗しない。


次の競技は親子競技で、頭上からワイヤーで吊るされた子に吸盤式の矢を持たせ、正面のダーツの的を巨大化したような得点盤に向けて滑らせる「ヒューマン・ダート・ボード」だ。無事矢を得点盤に突き立てることができれば得点が加算される。盤の真ん中が最も得点が高く、失敗して矢を落とした場合は零点だ。その次が親子揃ってのクイズで、自分のパパが答えられると思った質問に対して子がボタンを押し、パパが答える。むろん間違った場合は減点だ。


次が家を模したセットの前に立った、アイス・ホッケーのキーパーのようにプロテクトした父に対し、もう一組の父が砲撃し、相手の防御をかいくぐって家の窓ガラスを割るとそれが得点になるというもの。こいつは少なくとも射手の方は本気でストレス発散できそうだが、右へ左へと動き回らせられる家のガード役の方はかなりへばっていた。とはいえ、それもせいぜい1、2分のことで、正直言ってこれくらいでへたばるようじゃ、これらの父たちは「Sasuke」じゃ第1ステージの半ばにも到達できないだろうと思わざるを得ない。


これらはポイント制の勝ち抜き競技であり、一競技につき一組の親子が脱落していく。そして優勝した父に対する最後の競技は、体力競技ではなく、子について父がどれだけ知っているかを試すクイズだ。例えば子供の好物とか好きなプロ・スポーツ・チームなんてのを父がどれだけ知っているかが出題される。このクイズにどれだけ正しく答えられるかによって獲得賞金が決まるのだが、結構父は答えを間違える。子はそれで失った賞金よりも、パパはボク・ワタシのことを知っていなかったという驚愕というか、傷心が顔に出、それがわりと面白い。皆10歳程度の幼い子供なのだ。


「マイ・ダッド」は子も参加するため、「グラディエイターズ」よりはアット・ホーム的な雰囲気を持っているが、それでもどうしても勝ち抜きにして勝者敗者を決めずにいられない。もっとも、そのため特に負けた側の子が悔しいと思う感情を抑えきれず、それがどうしても表情に出るのを見るのは、実はこの手の勝ち抜きリアリティの醍醐味ではある。この手の面白さは勝ち負けを決めるからこそあるのであって、「Sasuke」とは別種の面白さは確かにある。今アメリカで最も人気のある勝ち抜きリアリティの「アメリカン・アイドル」が面白いのは、ひとえに勝者に対して敗者が存在し、両者の感情の昂ぶりを見ることができるからだ。それはやはり子供が関係していても同じだ。というか、子供だからこその生の感情がストレートに表に出て、それが面白いとも言える。


そんなわけで、「Sasuke」や「MXC」によってアメリカでも人気再燃してきた体力勝負系リアリティ・ショウであるが、その発展は日本のその手の番組とは異なる展開になるだろう。一方で「Sasuke」とかのキッチュな味わいを持つ体力リアリティも人気がある。それでアメリカTV界がどうするかというと、その種の番組はそのままで、参加者をアメリカから送り込み、番組をそのままアメリカで放送して楽しむという、「ニンジャ・ウォリアー」でG4が試みた黒船来襲的編成がにわかに脚光を浴びている。


ABCはこの夏、アメリカ人参加者を大挙して日本のリアリティ・ショウに送り込み、その様を見物して楽しむという「アイ・サヴァイヴド・ア・ジャパニーズ・ゲーム・ショウ (I Survived a Japanese Game Show)」なる番組を企画しているのだ。一方FOXはこちらはリメイクの方で、フジTVの「とんねるずのみなさんのおかげでした」の一コーナーだった「脳カベ」を、「ホール・イン・ザ・ウォール (Hole in the Wall)」と題して放送することが決まっている。日本のリアリティ・ショウに対する視線が熱い。







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American Gladiators
アメリカン・グラディエイターズ   ★★1/2
My Dad Is Better Than Your Dad
マイ・ダッド・イズ・ベター・ザン・ユア・ダッド   ★★

 
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