American Animals


アメリカン・アニマルズ  (2018年6月)

何はともあれ「アメリカン・アニマルズ」は、昨年「聖なる鹿殺し (The Killing of a Sacred Deer)」で強い印象を残したバリー・コーガンの主演作品ということで気になった。「鹿殺し」におけるコーガンの不気味さはただ事ではなく、昨年のホラーは「鹿殺し」のコーガンと、「ゲット・アウト (Get Out)」のベティ・ゲイブリエルの二人のブレイクアウト・パフォーマンスに止めを差す。 

 

ゲイブリエルは今年既に「アップグレイド (Upgrade)」、HBOの「ウエストワールド (Westworld)」にも出ており、注目株だ。そしてコーガンの最新作が、「アメリカン・アニマルズ」だ。大学の図書館に収められている稀覯本を強奪しようとした青年たちを描く、現実に起こった事件のドキュドラマだ。 

 

コーガンが扮するのはアートを学んでいる学生スペンサーで、世の中を斜に構えて眺め、何か大きな仕事がしたいと思っている。多かれ少なかれ若者というものはそういうものだが、スペンサーの場合、たまたまツアーで見学した大学の図書館に、値段のつかない稀覯本があり、アート専攻のスペンサーはそれに大いに興味を持ってしまい、しかも大学のセキュリティは甘そうで、そのことを話した悪友のウォレンは乗り気になってしまう。スカウトしたオタク系のエリックと体育会系のチャスまでが計画に難色を示すどころか参加を表明する。いくら可能性がありそうでも、実現の見込みがあるとは到底思えなかった計画が動き出す。 

 

 

(注) 以下ネタバレ。 

 

しかしそれでも、プロの犯罪者であるわけではないスペンサーとウォレンの立てた計画は穴だらけで、決行当日、いかにも事件を起こしそうには見えないからと念入りに老人に変装してみたはいいものの、その日、大学図書館では見学の団体がいて、これでは無理だと計画を断念せざるを得ない。なんでこれくらい事前に調べておかないんだ。 

 

後日、今度はビジネスとしてアポをとり、堂々と司書と面会にこぎつけるが、暴力は使わないはずだったのに、ウォレンは暴れられると面倒だと女性司書を縛って動けなくしてしまう。いざ本を目の前にすると、それは思ったよりも重くて到底一人では運べず、二人して持ち上げるのがやっとだ。しかもエレヴェイタは使えず、階段で運ぼうとするといったん人々が勉強している本館に足を踏み入れなければならない。 

 

さすがにそれは人々の不審を買い、慌てたスペンサーとウォレンは結局本を置き去りにして逃げる。それでも小さな稀覯本数冊は持ち出しに成功する。後日オークション・ハウスのクリスティに連絡して本を買ってもらおうとするスペンサーだったが、当然クリスティ側は本の真贋や歴史を確かめようとする。責任者がいないため明日また来るようスペンサーに告げてその日は引き取ってもらうが、スペンサーが担当者に上げた携帯番号は自分のもので、かかってきた電話にはスペンサーが自分の本名を名乗ってヴォイスメイルに誘導していた。当然彼らの所業所在はFBIに筒抜けで、やがて彼らは踏み込まれたFBIによって全員逮捕され、有罪判決を受ける。 

 

もう、なんというか見ていてじれったくなるというか、ケツがむず痒くなるくらいド素人の犯罪者丸出しで、なんでこんな成功の見込みゼロの犯罪が、少なくともモノを盗み出すという半分くらいのところまでは成功したのか。あまりにもあり得ない犯罪は人々の想像を超えてしまうため、誰もそれが本当に起こっていることとは思わないのだ。 

 

「アメリカン・アニマルズ」を見て思い出したのがクリント・イーストウッドの「15時17分、パリ行き (The 15:17 to Paris)」で、ともに事実のドキュドラマ化という共通点があるだけでなく、主人公の名が共にスペンサーであり、しかも両作品においてそのスペンサー本人が出てくる。これで「アメリカン・アニマルズ」でもスペンサーをスペンサー本人が演じていたらどうなっていたかと怖くなる。因みに「アメリカン・アニマルズ」における本物のスペンサーは、コーガンより線が細く、アート専攻というのも納得だ。 

 

最後、ウォレンは刑務所から出所後、フィラデルフィアの大学で映画製作を勉強しているというテロップが入る。もしかして本当に自分で自分自身を演じるという可能性があったかもしれない。ただし彼らの場合、服役していた時間があるから事件が起きてから既に時間が経っており、今回自分自身を演じようにも無理があったろうとは言える。 

 

他に印象に残るのが、図書館の司書に扮しているアン・ドウド。先週「へレディタリー (Hereditary)」で見たばかりのドウドが、また出ている。ドウドはhuluの「ザ・ハンドメイズ・テイル (The Handmaid's Tale)」でエミー賞を獲得するなど、こちらもある意味旬の俳優だ。「ハンドメイズ・テイル」の鬼看守、「へレディタリー」のカルト信者、「アメリカン・アニマルズ」では普通のおばさん的な図書館司書と、役幅広い。かなりマーゴ・マーティンデイルと重なる印象がある。 

 











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2003年ケンタッキー州レキシントン。アートを学んでいる学生のスペンサー (バリー・コーガン) は、何も起こらないつまらない人生に嫌気が差していた。ある時トランシルヴァニア大学の図書館のツアーに参加したスペンサーは、特別室に陳列されているオーデュボンの鳥類図鑑に興味を惹かれる。スペンサーは悪友のウォレン (エヴァン・ピーターズ) と共に、図鑑並びにレア本を盗むという計画を立てる。二人はさらにオタク系のエリック (ジャレッド・エイブラハムソン)、体育会系のチャス (ブレイク・ジェナー) を仲間に引き入れ、計画を練る。そして決行の日が来る。それらしく見えないようにと全員老人に変装して図書館に乗り込むが、その日はツアーがあって予想以上の人で混んでいた‥‥ 


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