アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




1. 深夜トーク・ショウ界改編


本当はここで今年最大ニューズとして、アメリカの深夜トーク・ショウ界を襲った大激震 – もとい、端的にNBCの深夜トークをめぐる大波乱について書きたいのは山々だ。しかし、その種火は秋から年末に向けて常につきっぱなしだったとはいえ、いきなり燃え盛ったのは年が明けてからであり、2010年のニューズとして書くのが適当だろう。


というわけで、「その後の」波乱万丈の展開の詳細は持ち越すとして、しかし、それでも2009年にアメリカを代表する深夜トーク・ショウ「ザ・トゥナイト・ショウ (The Tonight Show)」のホストがジェイ・レノからコナン・オブライエンに移動し、そしてレノはNBCで夜10時からという、深夜ではないプライムタイムで「ザ・ジェイ・レノ・ショウ (The Jay Leno Show)」を始めたことは、それだけで特筆に価する出来事だ。


さらに彼等が移動したことで、それまでオブライエンがホストを担当していた「レイト・ナイト (Late Night)」の新ホストにはジミー・ファロンが就任、NBCはトーク・ショウを基調とした新編成で乗り切っていくのかと思われた。しかし意に反し、現時点ではファロンの「レイト・ナイト」を除き、オブライエンの「トゥナイト」、レノの「ジェイ・レノ」両番組共に失敗したのは、誰でも知っている通りだ。


これだけでも大きな事件だが、レノが10時台に毎夜編成の番組を持ったことは、NBCがその時間帯にドラマを編成しなくなったことを意味する。つまり、レノの移動は間接的にハリウッドの多くの俳優、プロデューサー、その他のスタッフの仕事を奪った。結果として、レノは業界内でほとんど悪役になった。現在、意外なくらいレノが叩かれているのは、そういったことの反動という意味も大きい。現時点ではオブライエンが「トゥナイト」から降ろされ、レノが再度「トゥナイト」に就任することが決まっているわけだが、そのことが今度は業界にどういう影響を与えどのような結果を生むのか、まだまだ深夜トーク界から目が離せない。




2. バカな親/素人/一般人花盛り


厳密に言うと、これらは必ずしもTV番組というわけではない。しかし、俳優ではないごく一般人、あるいは既になんらかの理由で知られてはいたかもしれないが、それでもTVやマスコミの住人ではない人たちが今年TV画面の上でさらした失態醜態スキャンダルは、ほとんど今年、特に後半のTV界の話題をさらってしまった。


もちろん一般的なリアリティ・ショウは素人参加型であり、そして今年スキャンダルを起こした人たちは、実際の話かなり元々この種のリアリティ・ショウに関係していたことも事実だ。とはいえ、一般人か芸能人かと問われれば、やはりフツーの人ではないかと思われる人々が、続け様に大きな事件に関係したりして注目を集めた。


この、フツーの人のくせに注目度は映画スター並みという点で、TLCの「ジョン・アンド・ケイト・プラス8 (Jon and Kate Plus 8)」に登場する二人、ジョンとケイトはその流れの嚆矢であり頂点であったと言える。そして彼らに追いつき追い越そうと自分たちのリアリティ・ショウを製作しようと考えていた、「バルーン・ボーイ」ヒーニー一家は、実際に世界中に知られる有名人となってしまった。その後やらせが判明するが、バルーン・ボーイが生中継でNBCの「トゥデイ (Today)」のメレディス・ヴィエイラからTVインタヴュウを受けている最中、いきなりげろっぱゲロゲロして家族が慌てふためいたのは、あれはいい気味だったと後で溜飲を下げた視聴者も多かったに違いない。あんまり視聴者をなめるんじゃないぞ。


他にも、有名人になりたいばかりに8つ子を産んだバカ親オクトマム、TVスターを夢見て殺人犯となって自害した男、本気で女を殴って人気番組になってしまった「ジャージー・ショア (Jersey Shore)」等、あんたらヘン、この番組サイテーという人間や番組が続出した。ホワイトハウスのパーティをクラッシュして超有名人になってしまったサラヒ夫婦、そしてできればTVなぞ出たくなかったろうが、TVカメラから追いかけられまくったタイガー・ウッズ等は、TVを意識していたわけではないだろうが、結果として彼らこそが年末のTVの顔になった。それにしてもウッズはいつ復帰してくるのか?




3. デジタルTV元年


既にほとんどの者が忘れている気配すらあるが、今年はデジタルTV元年だった。とはいってもほんとは数年前にはデジタル化予定で、それだって2002年にデジタル化と言われていたのを、間に合わないというので後ろ倒しにした日程だった。


そしてついにアメリカはデジタル放送時代を迎えたわけだが、巷で言われていたほど不満も混乱もなかった。閉局に追い込まれたTV局や、デジタルTVに買い替えを余儀なくされた家庭もあったわけだが、それだってデジタル化しようがどうしようが既に赤字のTV局だったり、政府が一般家庭のデジタル・コンヴァータの購入に補助金を出すなどしたおかげで、特に大きな不満は聞かれなかった。


既に数年前から製造販売されていたTVはデジタル対応になっていたし、放送局はデジタルで番組を提供していたし、番組を供給するケーブルTVおよび衛星放送はデジタル・サーヴィス化していた。つまり、都市部の視聴者は、本人が何もしなくても既にデジタル放送を享受していた。騒いだのは20年前に買ったTVを買い換えるつもりのない、アンテナを使って地上波しか見ない一部の視聴者だけだった。


かれこれ7、8年前、40インチ1万ドルのプラズマHDTVを前に、高くて買えない、ほぅーつと溜め息をついていた私の家のリヴィングにも、今ではその10分の1の値段で買ったパナソニックの42インチのHDTVヴィエラが鎮座ましましている。時にテクノロジーの進歩は本当に有難い。



4. マイケル・ジャクソンの死


今年も何人もの著名人、TVスターが他界したが、マイケル・ジャクソンほどその死が衝撃を与えた者もいない。近年、ジャクソンはポップ・スターとしてよりもたまさかのスキャンダル・メイカーとして世間を賑わせていたが、それでも「スリラー」の衝撃は今なお色褪せない。彼は間違いなく世界の音楽シーンを変えた。


私がマイケルの死を知ったのはFOXの勝ち抜きダンス・リアリティ「アメリカン・ダンスアイドル (So You Think You Can Dance)」でだったのだが、だいたい、ニューズでもないエンタテインメント番組の生放送を、いきなり訃報からなんて始めないだろう。それだけでも彼の影響の大きさが知れる。


その後、ほとんどのチャンネルが24/7で追跡/垂れ流したマイケル報道の数々は、オバマ大統領就任時の報道合戦に勝るとも劣らぬものがあった。自治体はフリーウェイを遮断して先導追随するパトカーや白バイと共に遺体を運ぶ霊柩車を走らせ、それを午前中いっぱいTVカメラが空からヘリコプタで追いかけ、追悼メモリアル・サーヴィスを全ネットワークがコマーシャルなしで生中継したのだ。


公的でもない人間でそれだけのことをさせることができるのは、本当に後にも先にもマイケル以外思いつかない。公的な人間を含めたとしても、大統領が死んだのでもなければ、このような扱いは受けないだろう。私も、これだけ一つの事件を追ってTVスクリーンを長時間見続けていたのは、9/11以来だ。冥福を祈る。




5. 「ガイディング・ライト」最終回、および「ザ・シンプソンズ」最長放送記録樹立


アメリカのTV番組で最も長い間にわたって放送されてきた番組としては、まず真っ先に昼のソープ・オペラが思い浮かぶ。TVの黎明期から一緒に歩み続けているソープ、中でもその最長老格の「ガイディング・ライト (Guiding Light)」が、今年、ついに70余年の放送に終止符を打って最終回を迎えた。


一方、今度は放送記録を伸ばし続けている番組もある。それが「ザ・シンプソンズ (The Simpsons)」だ。むろん単純な放送記録では「ガイディング・ライト」の方が圧倒的に放送期間が長いが、最も多くの視聴者がTVを見るプライムタイム放送のスクリプト番組では、これまでの最長記録は、1975年に終了した西部劇「ガンスモーク (Gunsmoke)」の持つ20シーズンだった。


「シンプソンズ」は現在それに並ぶ20シーズン目を放送中で、FOXは既に番組の21シーズン目の製作放送を公式に発表しており、来シーズンには新記録を樹立することになる。ただし、実写番組の「ガンスモーク」と、出演者が永遠に歳をとらないアニメーションの「シンプソンズ」とでは、厳密に言うと同じ土俵で比較するのは筋違いという意見もある。


その点を考慮すると、NBCの「ロウ&オーダー (Law & Order)」は、「シンプソンズ」におくれをとること僅か1年の、現在19シーズン目を放送中だ。しかし、それでも生き馬の目を射抜くアメリカTV界で20年間も番組を続けることの難しさ、偉業は変わらない。スプリングフィールドは永遠だ。








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2009年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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