アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。



6. 人気番組ストリーミング花盛り


新しいメディアとして、TV放送の敵になるか味方になるか共存が可能なのか、その展開が注目されていたインターネットにおけるTV番組のストリーミングは、現在ではどのネットワークも自社番組をストリーミング提供することでほぼ定着している。ストリーミングにおいてもコマーシャルを挟むことは可能だし、ストリーミングにおいて新しく番組を発見したユーザがTV放送にチャンネルを合わせるといるプラスの方の効果も大きいことが立証されたからだ。


現在ではどのネットワークも、自社ホーム・ページにおいてオリジナル番組を提供することでネット・ユーザを増やそうと努力している。一時はユーチューブに自社番組からの一部がアップロードされるだけで目の色を変えて抹消を迫ったものだが、NBCはユーチューブを買収することで逆に内部に取り込み、現在では自社番組のパブリシティとして利用している節が見受けられるなど、インターネットを番組普及のツールとみなすという考え方が定着し始めている。


番組視聴に必要なブラウザ等はだいたいどこも独自のオリジナルを開発するなどしており、無料で視聴者にストリーミング提供する一方で、ネットワーク側も今では非常に入手しにくくなった個人情報を手に入れることができるなどのメリットもある。むろんiPodやアマゾン等で有料ダウンロード販売も継続している。今後もこの分野におけるネットワークの注力は続くだろう。



7. 「ロスト」2010年の最終回確定


ドラマ、シットコムに限らず、アメリカのシリーズ番組は人気がある限り永遠に続く。それはそれで煮詰まる弊害もあるだろうが、視聴者としては番組が面白ければそれでいいわけで、番組の質が落ちない限りいつまで続こうが特に気にはしない。とはいえ、このことは一般的に一話完結型のドラマ/シットコムについて言えることであって、回が続く毎に謎が深まっていくタイプのシリアル・ドラマになると、話は違ってくる。


特にそのことを強く感じさせるのが、今ABCが放送している人気ミステリ・シリアル・ドラマの「ロスト (Lost)」だ。「ロスト」は、とにかくそもそもの最初から、なぜある者たちが同じ飛行機に乗り合わせてそれが無人島に墜ちたのか、それは単なる偶然か、それともある者の意志が働いているのかという謎で視聴者の興味を引っ張った。


むろんそれはそれで構わないが、しかし、その提示される謎が深まるばかりでいっこうに解決される気配が見えないとなると、今度は視聴者も困る。人気があるといつまでも続くという構造上、このままでは番組における謎は解決するどころか拡散して深まっていくばかりで、永遠に解決を見ないという事態も起こりかねない。それで結局視聴者離れして人気が落ちていけば、謎は解決されないまま番組はいきなりキャンセルという事態も大いにありうるのだ。それは困る。ここまで番組を見続けて、特にファンは全エピソードを見続けて、それで謎が解決されずに番組がキャンセルされたりなんかしたら、ファンが暴動を起こしてもおかしくない。


そういう懸念をABCは敏感にも感じとったか、とにかくどんどん謎が謎を呼ぶ展開に多少の危惧を感じたのだろう、まだ充分人気のある番組としては非常に稀なのだが、「ロスト」は2010年に最終回を迎えるということが発表になった。まず最初に最終回の日程を決め、逆算してストーリーを構築することによって、すべての謎をちゃんと解き明かして番組を終えるという筋書きだ。


この手の番組に限って言えば、これはいい判断だと思う。実際の話、私もこの話、いったいどう収拾をつけるつもりなんだと思い始めていた。これ以上話がこんぐらがってくると、番組プロデューサーのJ. J. エイブラムスが以前製作して、途中で敵味方が交錯して何がなんだか話がまったくわからなくなった「エイリアス」の二の舞い、というか、少なくともそれに近くなって、時に見逃すエピソードもある一般的視聴者では話を追えなくなる可能性が高い。そうなると本末転倒というか視聴者泣かせだ。視聴者も離れていってしまうだろう。そのことに予め布石を打っておいたわけで、これで視聴者は安心して結末までの道程を楽しむことができる。というわけで、私もあと2シーズンは番組を追っかけるかという気になるのだった。



8. お騒がせ三人娘報道加熱


今年、アメリカTV界はパリス、リンジー、ブリトニーの乱痴気三人娘を中心に各種スキャンダルで揺れた。アメリカはこんなガキんちょどもに振り回されているのかと、溜め息をつかせられるのに充分だったが、その中でもその中心となったのが、酒気帯び運転による刑務所入りとその前後の話題で注目されたパリス・ヒルトン、および娘の養育権騒動や本人の無軌道言動が耳目を集めたブリトニー・スピアーズの二人だ。この二人に較べると、いくら三人娘と呼ばれようとリンジー・ローハンはまだ可愛気があった。一方パリスとブリトニーの二人は舞台をTVというメディアだけに限っても、それなりの話題を提供している。


まずパリスは刑務所入りに際し、行きたくないとごねまくったが、さすがのヒルトン家の跡取り娘も法を曲げるわけには行かず、収監された。とはいえせいぜい数週間という、ただ単に頭を冷やすくらいの期間しか収監されなかったわけだが、それでも出所後のパリス・インタヴュウ獲得を巡り、各TV局が入り乱れての独占インタヴュウ権獲得に凌ぎを削った。通常なら当然公的なニューズということもあり、こういうインタヴュウに金が動くことはないわけだが、金を出しても独占でインタヴュウしたいと各ネットワークが思うくらい、注目度は高かった。


当初はパリスと個人的にもつき合いがあったバーバラ・ウォルターズのいるABCという線が濃厚だったが、それをNBCが6桁の金額を提示して横からぶんどった。しかしこういう展開が表沙汰になると、視聴率優先の報道姿勢や、公平な報道を標榜するネットワークにあるまじき行為という批難が集中し、NBCはいったん手に入れたかに見えた独占放映権を手放さざるを得なくなった。しかもこういう内部情報をパリス側が故意にリークすることで放映権の額を吊り上げようと操作し、それにネットワークが振り回された気配が濃厚で、さすがに外野からは叩かれ、自分たちのプライドまで傷つけられた天下のネットワークはこれ以上小娘の言いなりになることに我慢がならなくなったようで、いきなりこの独占権獲得競争からネットワークが降りてしまった。


結局漁夫の利を得る形になったのが、CNNの長寿ニューズ・マガジン「ラリー・キング・ライヴ (Larry King Live)」で、たぶんほとんど金を払わずに、独占的に出所後のパリスにインタヴュウした。もちろん、ほとんど雑談にしか見えなかったこのインタヴュウ自体は大したものではなく、その点では、放映権獲得競争から降りたネットワークの判断は正しかったと言える。


パリス・インタヴュウではこれよりも圧倒的に面白かったのが、秋口にデイヴィッド・レターマンがホストのCBSの深夜トーク「レイト・ショウ」にパリスがゲストとして呼ばれた時で、既に刑務所入りは過去のものとして、自分のデザインしたファッション・ラインの宣伝のために乗り込んできたパリスに対し、レターマンはその話題を嫌がるパリス相手に、で、刑務所のことだけど‥‥ 刑務所の中では‥‥ と執拗にその話題だけに専心、しまいには耐えられなくなったパリスはじわじわと涙を浮かべ始めた。いやあ、もっとやれデイヴ、こんなバカ娘の鼻っ柱なんて叩き折ってやれ、と私がTVに向かって喝采を送ったのは言うまでもない。


さらにその後、ヒルトン家の遺産は97%が慈善事業に寄付され、パリスにはほんの僅かしか残されないということが発表になった。それでも豪勢な一軒家が建つくらいの金は手に入るようだが、そんなもん何十億ドルといわれる遺産総額から見れば屁のようなもんだろう。世界有数の企業の跡取り娘として、遊び人パリスが内心その金に舌なめずりしていたことは明らかだ。これまたざまあ見ろと私が快哉を叫んだことは言うまでもない。こういうわがままねーちゃんにはどこかで誰かがお灸を据える必要がある。


一方、もう一方の雄、ブリトニーもパリスに負けず劣らず話題を提供した。一昨年に「ケイオティック」に描かれた、あれほどアツアツだったケヴィンとの仲は今ではこじれて南極並みに冷え、自分の素行不良から娘の養育権を取り上げられ、心神衰弱で入院、パパラッチを振り切ろうとしてそのパパラッチの足を車で轢いてしまい、ブリトニーの車のタイヤの跡がついた靴下がeBayで売りに出されて結構な値がつくなど、こちらもパリスに負けず劣らずの所業が続いた。


そういうブリトニー話題の極めつけが、秋のMTVの「ヴィデオ・ミュージック・アウォーズ (VMA)」のオープニング・パフォーマンスだろう。元々踊りながらでは歌えないブリトニーは、ステージでは口パクだったわけだが、今回はさらに練習不足でうまく踊れず、しかもはっきり言ってでぶでぶになってしまったブリトニー、歌えない踊れない見苦しいという三重苦のままステージに登場、会場の観客、TVの前の視聴者を唖然とさせた。この動く肉布団はいったい何?


ブリトニーの場合、さらに妹のまだ16歳のジェイミー-リンまで妊娠発覚となって騒ぎとなる始末で、この姉妹ったら‥‥ 結局ブリトニーとパリスの二人の話題は他のセレブリティを何馬身も引き離し、誰もついてこれなかった。さて、来年はまだ何かあるか?



9. 「ハイ・スクール・ミュージカル」ケーブル記録樹立


昨年もディズニーのTVミュージカル「ハイ・スクール・ミュージカル (HSM)」旋風はすごかったとこの欄で書いているのだが、今年のその続編「HSM2」は、それに輪をかけてすごかった。「1」の方は昨年頭のプレミア放送時に770万視聴者を獲得、むろんたかだかケーブル・チャンネルのTV映画でこの数字は非常に高いものだが、とはいえこの記録は夏に990万人という視聴者を獲得したAMCの西部劇ミニシリーズ「ブロークン・トレイル」にあっさり抜かれる。それでも話題性や注目度の点で「HSM」が上回ったのは、なによりもロウ・ティーンの子が再放送されるたびに何度も番組を見たことにあり、そのたびに視聴率上位に食い込んだからだ。そのため、視聴者累計としては「ブロークン・トレイル」より「HSM」の方が上回っている。いずれにしても再放送のたびに付き合わされる親こそいい迷惑だった。


因みにスクリプト番組のケーブル記録は、2001年トム・セレック主演のTNTの西部劇「クロスファイア・トレイル (Crossfire Trail)」の1,200万視聴者なのだが、今夏放送された「HSM」続編「HSM2」は、その記録をもあっさりと塗り替える1,730万視聴者を獲得、「1」の倍どころか「クロスファイア・トレイル」の持つ記録に500万視聴者以上を上乗せした。こんなに簡単にこんなに大差をつけて新記録なんて樹立しちゃっていいものなのかと、番組関係者ですら唖然とするレコードだった。


少なくとも「1」の熱狂振りから察するに「2」もそれなりに視聴者を集めるのは必至だったから、私も「2」の時はちゃんと家にいてプレミア放送時に見ているのだが、で、感想はと訊かれると、うん、まあ、ティーンエイジャーは喜んで見るんじゃない、くらいの印象しかない。それがこんな大記録か。因みに「2」は、フィリピンでもほとんど同じくらいの視聴者を集めた記録を作ったそうだ。フィリピンって、いったい人口ってどのくらいだから似たような数字になるんだ? ティーンエイジャーはほぼ全員この番組見たんじゃないのか。


一方、これくらい注目されるとスキャンダル・ネタにもなりやすく、番組主演のヴァネッサ・ハジェンスのヌード写真がネットに流出するという事件が起きた。ハジェンスはこれがコラージュではなく自分であることを認め、つき合っている番組共演のザック・エフロンへのプレゼントとして撮ったことを告白した。世間が持つディズニーのイメージからはかけ離れた振る舞いであったわけだが、ディズニーはこれを不問にし、番組続編「3」、そして充分ありえるだろう「4」と、ハジェンスを起用すると発表している。多少不行状が発覚しようと、パリス、ブリトニーあたりに較べれば、恋人のために脱いだことくらいなんでもないし、それよりも続編がまたどれくらいの視聴者を獲得するのかを考えれば、どんなスキャンダルを起こそうと気にする経営者なぞいないのだった。



10.「ザ・ソプラノズ」最終回


(注) 番組最終回の幕切れに触れています。


21世紀以降の番組で最も影響力のあった番組を挙げろと問われれば、少なくとも業界人の10人中9人が「ソプラノズ」を挙げることはまず間違いないと思う (あとの1割は「サバイバー」「アメリカン・アイドル」を挙げるという気がする。) いくらスティーヴン・ボチコの「NYPDブルー」が既に始まっていたとはいえ、その風呂敷を広げ、セックス、ヴァイオレンス、4文字言葉をふんだんに番組内に散りばめながら、その上さらにできのよいドラマという所業を成し遂げたのが「ソプラノズ」だ。よくも悪くも「ソプラノズ」は、アメリカのドラマのあり方を変えた。


その最終回がどういう結末で終わるかに耳目が集まったのは当然のことで、さて、ついにトニーは殺られてしまうのか、それともFBIに逮捕されてしまうのか、あるいは逃げ切るってのはありか、カーメラは? AJは? メドウは? と、視聴者はそれぞれに自分の結末を胸に思い描いていたはずだ。いずれにしても、誰もああいう結末だけは想像していなかったろうというのだけは言える。


結局、あれはいったいどういうことだったわけ? あれだけ気を持たせた挙げ句、もしかして結末は視聴者が自分で考えろってこと? あるいはこの後FBIが乗り込んでくることを示唆しているようにも見えるが。そしてなによりも、長々と続いたあのブラック・アウトは、余韻というには視聴者を突き放しすぎてはいないか。それともそれこそが狙っていたものか。結局何やかやと物議を醸し続けたドラマは、最後まで我々視聴者を唖然とさせたまま終わった。この結末は秋のエミー賞セレモニーのオープニングでいきなりパロられていたが、当然だろう。誰だってなんか言いたくなるに決まっている。



番外: その他のセレブリティ・ネタ、エレンのブレイクダウンおよびマリー・オズモンドの失態


今年の芸能界スキャンダルは、ほとんど上記のお騒がせ三人娘で占められた感があるが、むろんそれだけではない。やはり「ザ・ヴュウ」におけるエリザベス・ハッセルベックとロージー・オドネルの喧々囂々のどちらも引かない罵り合いは前半期の白眉という気がするし、昨年あれだけ業界を騒がせた挙げ句「グレイズ・アナトミー」をクビになったアイゼア・ワシントンにもやはり一言くらいは言及しておきたい。特にTVに限るわけではないが、死んだ後も遺産跡目相続や子供の本当の親探し等で話題を提供した、スキャンダル・パーソナリティとしては人後に落ちないアナ・ニコール・スミスの死にも一言あってもいいかと思う。


しかし、何か問題を起こしたせいでTVが追っかけたのではなく、TVの画面の中で起こったことが話題を提供したという点で今年最も印象に残ったのは、エレン・デジェネレスとマリー・オズモンドという二人のパーソナリティが番組内で自制を失った瞬間であった。エレンの場合、イヌ好きの彼女はシェルターからイヌを引き取って育てていたのだが、彼女の仕事仲間の娘がそのイヌをたいそう気に入り、仲よくなった。その仲を引き裂くのに忍びない、というか、とても仲がいいためにいつも一緒にいさせてあげようと思ったエレンが、その子にそのイヌをプレゼントした。


しかし、シェルターから引き取った動物というのは、それを引き取り主が勝手にまた他の人間にあげたりしてはいけないのだ。当然だろう。また勝手に人にあげられたりしたのでは、せっかく救ってあげた動物がまたどういう人間の手に渡るかわからないし、その跡も追えなくなる。その動物がまた虐待されたり売られたりしない保証はどこにもないのだ。自分としては人のためイヌのためにしてやったつもりのエレンのしたことは、ルール破りの自己満足でしかなかった。


結局その事実が明るみに出ると、シェルターからやってきた者の手によってイヌは取り上げられて連れて行かれた。エレンもショックだったろうが、せっかく仲よくなったイヌをとり上げられた子はもっとショックだったろう。そこでエレンは自分の番組「ジ・エレン・デジェネレス・ショウ」でその間の事情をあけすけに話し、私が悪かった、お願いだからイヌを子供に返してくれと涙ながらに訴えた。


このシーンは一時かなり話題になり、ありとあらゆるゴシップ・ショウ、芸能ニューズで流された。私はこの瞬間を、たしか「エンタテインメント・トゥナイト」か「アクセス・ハリウッド」の芸能ゴシップ番組で見たのだが、最初、あまりにも真剣に食い入るようにTVを見ている女房の方が先に目について、いったいなんだなんだと思ってTVを見たら、そこに泣いているエレンが映っていた。それで女房に、なんでエレンが泣いてんの? と訊いたら、そもそもの事の顛末を詳しく説明してくれた。「エレン・デジェネレス・ショウ」は昼のシンジケーションのトーク・ショウとして人気は高いが、女房の反応とかを見ていると本当に人気があるんだなと思う。


一方、オズモンドの方は、まあ過去は一時人気者だったかもしれないが、最近ではとんと名を聞かず、そういう芸能人専用の素人ダンス番組「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」に出てお茶を濁す、というかキャリア復活を目論んでいた。「ダンシング‥‥」はTV番組としては私はまったく評価していないので、こちらも生ではなく後日芸能情報番組で見ただけなのだが、そこでオズモンドは緊張に耐えられなくなって生放送中のステージの上で気絶して崩れ落ちた。それがまた話題になったわけだが、こういう注目が落ち目の芸能人にとってプラスに働かないわけはなく、その後オズモンドは来シーズンに自分がホストのトーク・ショウを持つ話がとんとん拍子に決まったそうだ。棚からぼた餅瓢箪から駒濡れ手に粟捨てる神あれば拾う神あり溺れる者は藁をもつかむ‥‥そういう故事成語が次々と頭の中をよぎるのであった。







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2007年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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