アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。



1. ホーム・リニューアル/リフォーム・ショウの興隆


今年、アメリカTV界で最もヒットしたのは、「ジョー・ミリオネア (Joe Millionaire)」「アメリカン・アイドル (American Idol)」というFOXが編成した2本のリアリティ・ショウであり、ここ数年間にわたるリアリティ・ショウのブームが一過性のものではなく、アメリカTV界の基盤を根底から覆しかねない新たな潮流であることを改めて証明して見せた。しかし、「ミリオネア」と「アイドル」という二大番組の陰に隠れて見逃されがちだが、今年、ほとんどすべてのチャンネルを巻き込んで、底辺からのリアリティ・ショウの大きなうねりを巻き起こしたのが、TLCの「トレイディング・スペイシズ (Trading Spaces)」に端を発する、家屋改修、いわゆるホーム・リニューアル/リノヴェイション番組の勃興にある。


元々このジャンルは、家屋リニューアルという点だけに限れば、古くから様々なハウ・トゥ的番組があった。PBSの「ディス・オールド・ハウス (This Old House)」なんて、その最たるものだろう。しかし「トレイディング・スペイシズ」は、そこに競争 (と言えるほどのものでもないのだが) の要素を持ち込み、よりエンタテインメント性を高めることで、単にハウ・トゥ番組の枠を超えて、多くの視聴者にアピールすることに成功した。昨年からの視聴者の伸びはすさまじく、今秋、リニューアル予算をいつもの1,000ドルから、その100倍の100,000ドルに上げて編成した特番は、あっさりとTLCの視聴率記録を更新した。


こういう視聴者の嗜好を、各TV局が黙って見ているわけがない。どのチャンネルも競って同工異曲の番組を立ち上げ、気がつくと、世の中はホーム・リニューアル・ショウが花盛りとなっていたのであった。最初の方こそ、私も新たなブームの始まりかとこの動きに注意していたのだが、後から後から雨後の竹の子のように現れるこの手の新番組にうんざりして、あとはいちいち番組を見るのは諦めた。だって、本当にきりがないのだ。私がチェックした番組だけでも十何本にも及ぶこの手の番組が今年新たに始まったのだが、あまり小さなチャンネルでの小さな番組だと、宣伝予算もないから、もしかしたら私の知らないところで、まだ新しく始まったこの手の番組があるかもしれない。ついでに言うと、この動きは2004年にも続いており、A&Eの「ハウス・オブ・ドリームス (House of Dreams)」を筆頭に、HGTVがこれでもかとばかりに新番組を投入している。


その中で、Weの「ミックス・イット・アップ (Mix It Up)」なんかは、番組製作総指揮を「フレンズ」のコートニー・コックスが務めているなど、それなりには注目された。しかし、「トレイディング・スペイシズ」に続くヒット最右翼にいるのは、ABCの「エキストリーム・メイクオーヴァー (Extreme Makeover)」からのスピンオフ番組、「エキストリーム・メイクオーヴァー: ホーム・エディション (Home Editiion)」だろう。


「エキストリーム・メイクオーヴァー」は人間改造 (メイクオーヴァー) を行うリアリティ・ショウで、金を惜しみなく使って、出演者をまったく別人に生まれ変わらせる。その体裁で今度は家屋リフォームを行うというもので、資金力のあるネットワーク番組ということを考えても、ヒットの可能性は高い。実際、この番組、最初は「エキストリーム・メイクオーヴァー」のスペシャル版として一回限りの特番として編成されたものが、好評だったためにシリーズ化したものだ。さらに、「トレイディング・スペイシズ」で人気のカーペンター、タイ・ペニントンを引き抜いて番組レギュラーに抜擢しており、彼目当てにチャンネルを合わせる女性視聴者もかなりいると思われる。「ホーム・エディション」が2004年の台風の目になる可能性は、かなり高いだろう。



2. 人間メイクオーヴァー・リアリティ・ショウ


上の「エキストリーム・メイクオーヴァー」に端を発し、こちらも続々と似たような番組が立ち上がっているジャンルが、人間のメイクオーヴァー番組だ。こちらはホーム・リニューアル番組に較べてそれほど数があるわけではないが、「エキストリーム・メイクオーヴァー」を筆頭に、わりと人気がある。それよりもこのジャンルを一躍メインストリームに押し上げたのが、一弱小ケーブル・チャンネルに過ぎなかったブラヴォーによる、「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ (Queer Guy for the Straight Guy)」の大ブレイクであろう。


このジャンル、その他にもシンジケーションで放送されている「アンブッシュ・メイクオーヴァー (Ambush Makeover)」、ケーブルのディスカバリーの「メイクオーヴァー・ストーリー (Makeover Story)」、TLCの「ホワット・ナット・トゥ・ウェア (What Not To Wear)」等が今年から始まっており、家屋リニューアル・ショウほどではないにせよ、着実なブームとなっている。「クイア・アイ」の圧倒的な成功は、さらに今後、同種の番組が増えることを予想させる。



3. セレブリティ・リアリティ・ショウからセレブリティ・キッズ・リアリティ・ショウへ


セレブリティに密着して、その私生活を視聴者に垣間見せるというセレブリティ系のリアリティ・ショウは、番組としての起源自体は、ほとんどTVの歴史と同じくらい古い。とはいえ、このジャンルに新風を吹き込み、新たにこのジャンルの人気を復活させたのが、2年前のMTVの「ジ・オズボーンズ (The Osbournes)」であった。MTVは今年も「ニューリーウェズ (Newlyweds)」というヒット番組を編成、このジャンルでは随一の成功率を誇る。一方でABCの「ザ・リアル・ローザンヌ (The Real Roseanne)」のような、無残な失敗作もありはしたが。


さて、このジャンルに、今年になってさらに新しいサブ・ジャンルが出現した。これまで焦点の当たっていたセレブリティの代わりに、セレブリティの子供たちに注目するというもので、有名人の親を持った子供たちが、いったいどういうものの考え方をし、世界をどう受け止めているのかを記録する。HBOが放送した「ボーン・リッチ (Born Rich)」のような、比較的製作姿勢が真面目な番組もあれば、MTVによる「ニューリーウェズ」系のリアリティ・ショウ、「リッチ・ガールズ (Rich Girls)」のような番組もある。しかし、このジャンルの極めつけが、12月にFOXが編成した「ザ・シンプル・ライフ (The Simple Life)」であるということには、疑問の余地はあるまい。


「シンプル・ライフ」は、ホテル王ヒルトン家の長女、パリス・ヒルトンと、ミュージシャン、ライオネル・リッチーの長女ニコール・リッチーの二人に密着、これまでスポイルされまくりで育てられた二人をアーカンソーの田舎の農家に放り込み、家畜の世話をさせたり、ファスト・フード店で働かせたりさせ、その模様を記録するというものだ。この番組、プレミア放送直前になって、パリスが前ボーイ・フレンドとHしているところを録画したヴィデオ・テープがインターネットを介して全米中に広まるという事件のために空前の注目を集め、あっという間に人気番組の仲間入りをしてしまった。因みに私のE-メイル・アドレスは、一時パリスHヴィデオ関係のジャンク・メイルでパンク寸前だった。勝手に人のアドレスにジャンク・メイルなんて送りつけんじゃねーよ!


元々パリスの方は、色々と夜遊びしたり、それなりに整った顔を利用してモデル稼業のバイトをしたりしていたため、以前からよくゴシップ欄に登場しており、私も顔くらいは知っていた。一方のニコールの方は、この番組に出てなければ、街ですれ違っても誰も気づかないただのねーちゃんでしかないと思われる。この二人がアメリカの片田舎で好き放題しまくるわけだが、これを見て快哉を上げるか、眉を顰めるかで、見ている者の精神年齢がわかる。因みに私は、思わず、社会を舐めんなよ、ねーちゃんと毒づいてしまう方だった。いずれにしても、パリスのHヴィデオ漏洩スキャンダルのタイミングがあまりにもできすぎなため、これは裏で手引きしたFOX関係者がいるに違いないと私は睨んでいるのだが、もちろん真相は藪の中だ。



4. ジョン・リッターの死と「パパにはヒ・ミ・ツ」の今後


今秋の新シーズンの開始を目前に控えてのジョン・リッターの死は、アメリカTV界にとっての一大事であった。リッターは70年代から80年代にかけて人気のあったシットコム「スリーズ・カンパニー (Three's Company)」で人気を不動のものにした俳優で、アメリカでの知名度は抜群である。そしてABCで昨シーズンから始まった新シットコムの「パパにはヒ・ミ・ツ (8 Simple Rules for Dating My Teenage Daughter)」によって、今度は思春期の子を持つ親として、芸幅を広げている真っ最中だった。


ところが、そのリッターが、今秋、番組撮影中に頓死してしまった。あっけないと言えばあっけないが、残された方も困る。番組は継続中であり、既に今シーズンの数話分は収録済みであった。秋の新シーズンは目前。プロデューサーや共演者も困ったが、番組を放映しているABCは、本当に困った。なぜなら、現在、ABCは大したヒット番組がないため低迷中であり、「パパにはヒ・ミ・ツ」は、そのABCの、数少ない人気シットコムの一つだったからだ。


しかし、主演のいない番組というのは考えられない。とはいえ既に何話かは収録済みであり、これらの帰趨も考えなければならない上に、今後、番組をどうしていくかを可及的速やかに決定しなければならない。しかし、もし番組を継続するとして、主人公のいなくなった番組というものを人々が見るだろうか。そんなこんなでABCの出した結論は、既に収録済みのエピソードを放送した上、リッターの死を事実として番組に折り込んで、製作を続けていくというものだった。


このことが大いに視聴者の興味を惹いたのは間違いなく、新シーズンの「パパにはヒ・ミ・ツ」は、最初から番組記録を上回る勢いの視聴率を獲得した。そして3週間の休みをとった後に編成されたリッターなしの「パパにはヒ・ミ・ツ」は、軽々と番組視聴率記録を打ち立てた。昨シーズンの約2倍の視聴者が、リッターのいない番組がどういうものになったのかを見るために、チャンネルを合わせたのだ。


この回の番組は、リッター扮するポールという大黒柱を失ったヘネシー家が、どうこの事実を受け止め、対応するかということを、通常の倍の1時間を割いて描いていた。急遽、祖父役としてジェイムズ・ガーナーも起用された。ただし、ポールの死自体は、ポールの妻のケイトが、電話でポールの事故死の知らせを受けるだけというさりげなさで描かれた。


それはいいのだが、当然のことではあるがその回の「パパにはヒ・ミ・ツ」は、最初から最後まで重苦しい雰囲気に包まれてしまった。シットコムのくせに、普段の倍の時間を費やしておきながら一度も視聴者を笑わさずに終わってしまった。もちろんこの回は特別であったわけだが、いかんせんギャグの中心であったリッターを失った痛手は大きく、その後のエピソードも、いくらヴェテランのガーナーを持ってきたり、他の出演者が頑張っていようと、他のシットコムと較べて、やはり笑える回数は少ないように思える番組になってしまった。視聴者数もいつの間にやら昨年同レヴェルまで後退した。


結局、父の死を乗り越えて強く明るく生きる一家を描くとなると、そのテーマでは、視聴者を笑わせることが唯一の命題であるシットコムとは、噛み合わないと言わざるを得ない。これがせめて30分ドラマなら、まだ悲喜劇タッチの番組として続いていけるだろうが、やはりシットコムという体裁に人々が求めているのは、何よりもまず笑いなのであり、そこには死という重いテーマはそぐわない。番組としては頑張っているが、「パパにはヒ・ミ・ツ」が今シーズン後、来シーズンまで更新される可能性は、かなり低いと思う。



5. ケーブル・ニュース・チャンネルのイラク戦争報道余話


現在、アメリカのケーブル・チャンネルでは、ニュース専門チャンネルによる熾烈な視聴者争奪戦が行われている。現時点で最も高い人気を誇るのは、FOX系のFOXニュース・チャンネル (FNC) で、次がマイクロソフトとNBCの提携によるMSNBC、そして老舗のCNNがあとに続く。一時ニュース・チャンネルと言えば誰でも即座に思い浮かべたCNNも、現在では青息吐息だ。


かれこれ10年以上も前の湾岸戦争時に、世界で唯一、米軍がイラクにミサイル攻撃を行った模様をとらえた、CNNの映像を覚えている者はまだ多いだろう。夜空を焦がすミサイル弾のために薄明るくなった空を、米軍のミサイルが尾ひれを引いて飛びかった。このスクープがいかにして成されたかは、HBOのTV映画「ライブ・フロム・バグダッド (Live from Baghdad)」に詳しいが、その時に一躍名を成した特派員のピーター・アーネットは、現在では既にCNNを辞めている。


で、そのアーネットが今どうしているかというと、NBC特派員として、MSNBCその他でイラク戦争をレポートしていた。それはそれで別に構わないんだが、何を思ったかそのアーネット、イラクの放送局のインタヴュウに応じ、その時に、よりにもよってアメリカによる開戦に疑問を投げかける発言をしてしまったのだ。そりゃまずいよ。もちろん、一市民として戦争反対の気持ちを持つのはまったく構わないし、よくわかる。むしろ意見としては諸手を上げて賛成だ。


しかし、NBCから金を貰って仕事をし、そのNBCが軍に協力して情報を貰っているというのに、その下請けのアーネットが軍を批判するのはどう考えてもまずいだろう。軍としては、飼い犬に手を噛まれたと思うに決まっている。真っ青になったNBC幹部の素早い手回しにより、当然、アーネットはNBCを首になった。ちょっと思慮が足りなかったと言われても仕方あるまい。


そのことを手ひどく論難したのが、ライヴァル・チャンネルのFNCだった。しかし、今度はFNCのレポーター、ヘラルド・リヴェラが、現地レポートの最中、ついうっかり、米軍の現在位置や次回攻撃目標等の、最重要機密のはずの情報を漏らしてしまった。もちろんこの失敗をNBCが黙って見過ごすはずがない。ここを先途とばかりにFNCバッシングを開始した。自チャンネルのコマーシャルで、我々は軍事機密を漏らして自軍の兵士を危機に陥れることなどしないと高々と宣言した。リヴェラ個人の名前こそ出さなかったが、誰のことを言っているかは明白だった。結局リヴェラは、「自主的に」イラクを去った。


結局今回のイラク戦争では、湾岸時のCNNのような、大々的スクープを収めたチャンネルや特派員は出現しなかった。むしろ現地局という地の利を生かし、さらにフセインのプレッシャーにも屈せず冷静な姿勢を貫いたアル・ジャジーラが、米大手ニュース・チャンネルより活躍したような印象がある。アメリカにおけるニュースでも、だいぶアル・ジャジーラ経由の映像が使われていた。おかげでアメリカの戦争報道は、今回はちと空転していたなという印象がなくもない。ついでに言うと、誰が見ても右寄りで、まったく公平を欠いた報道の多いFNCが、堂々と「バランスのとれた報道」を標榜することだけは腹が立つ。



6. 「ジョー・ミリオネア」以前と以降、そして参加者を騙し始めたリアリティ・ショウ


「ジョー・ミリオネア」については「バチェロレッテ (The Bachelorette)」と「ネクスト・ジョー・ミリオネア (The Next Joe Millionaire)」のところで詳しく書いたのだが、しかし、この1年を振り返ってみた場合、やはり今年最大のヒットとなったこの番組について何がしかの言及をしないわけには行くまい。「ジョー・ミリオネア」以前と以降では、確実にアメリカのリアリティ・ショウは変わったのだ。


特に「ジョー・ミリオネア」以降、番組が積極的に参加者を騙し始めたことは、特筆に価する。それまではリアリティ・ショウにおける番組参加者は、参加者内でパワー・ゲームや裏切りなどの行為に憂き身をやつしていたが、まさか番組プロデューサーに騙されるということはなかった。それが大逆転したわけで、「ジョー・ミリオネア」以降、確実にリアリティ・ショウに参加する、あるいは見る一般視聴者の意識は変わった。


その後、スパイクTVの「ジョー・シモ・ショウ (Joe Schmo Show)」は、進行自体をすべてデキ・レースとし、本当はたった一人の番組参加者を、その他の出演者やプロデューサーを含む全番組関係者が総出で騙すというものだった。ブラヴォーの「ボーイ・ミーツ・ボーイ (Boy Meets Boy)」は、一見、ゲイによるゲイのための勝ち抜き恋人獲得系のリアリティ・ショウであったが、実は全員ゲイと思われた参加者の中にストレートの男性がおり、その男性に騙されることなく、ゲイ同士でカップルになることができるかがポイントだった。このようにリアリティ・ショウも、徐々に進化、あるいは退化、あるいは変貌しつつある。さて、来年のこの種の勝ち抜き系のリアリティ・ショウは、いったいどういう変化を遂げるのだろうか。



7. アメリカのドラマ/シットコムの今後、および有名プロデューサーの光と影


「ジョー・ミリオネア」と「アメリカン・アイドル」という二大ヒット番組の陰に隠れてほとんど話題に上ることのなかった今年のドラマ/シットコムだが、人気番組がないわけではない。「CSI」(CBS)、「ER」(NBC)、「フレンズ (Friends)」(NBC) 等の番組は、今でも相変わらず人気があり、視聴率の点から言えば、前出のリアリティ・ショウとほとんど変わらないか、それ以上の成績を収めていたりする。ただ、ブームとなったリアリティ・ショウに押されて、影が薄いだけだ。


それでも、毎年何らかのヒット番組を輩出するリアリティ・ショウに較べ、最近始まった番組でこれといったヒット番組のないドラマ/シットコムは、やはり寂しい印象は否めない。昨年始まった「CSI: マイアミ (CSI: Miami)」のようなスピンオフ番組を除くと、誰の目から見ても成功したオリジナルのドラマ/シットコムは、2000年の「CSI」まで遡らなければないのだ。


それでも今年それなりにヒットした番組を探すとなると、ドラマではCBSの「コールド・ケース (Cold Case)」とNBCの「ラス・ヴェガス (Las Vegas)」、シットコムでは、CBSの「トゥー・アンド・ア・ハーフ・メン (Two and a Half Men)」が、人気番組ということになろう。さらにケーブルTVまで見渡した場合、FXの「ニップ/タック (Nip/Tuck)」を忘れるわけには行くまい。一ケーブル・チャンネルの番組だから視聴率という点ではネットワーク番組には遠く及ばないが、それでも大いに健闘した。


そういう中で気になるのが、大物プロデューサーの動向である。現在、アメリカTV界を代表するプロデューサーとして挙げられるのは、まず第一にジェリー・ブラッカイマーであろう。「CSI」、「ウィズアウト・ア・トレイス (Without a Trace)」、「CSI: マイアミ」、「コールド・ケース」、「アメイジング・レース (The Amazing Race)」と、プロデュース番組の成功率の高さはダントツである。しかし、今年ブラッカイマーがFOXでプロデュースしたティーン・ソープの「スキン (Skin)」は、その注目度にもかかわらず視聴率の点で惨敗、早々と姿を消した。いくら敏腕プロデューサーでも、打率10割はあり得ない。


そのブラッカイマーの前まで最も注目されていたと言えるデイヴィッド・E・ケリーは、今年はCBSで「ザ・ブラザーフッド・オブ・ポーランド、ニュー・ハンプシャー (The Brotherhood of Poland, NH)」を製作、しかし、やはりこれも早々にキャンセルされた。「アリーmyラブ (Ally McBeal)」が終わってからというもの、昨年の「ガールズ・クラブ (Girls Club)」といい、今回といい、ケリーも低空飛行が続く。


要するに、近年、リアリティ・ショウの興隆とは裏腹に、ドラマ/シットコムが成功する確率はどんどん低くなっている。いくら現在乗っているプロデューサーであろうと、成功作より失敗作の方が多いというのが実情だ。唯一の例外がブラッカイマーであったわけだが、それもいつまで続くかわからない。もちろんこの世からドラマ/シットコムが消えてなくなるということはないだろうが、リアリティ・ショウにばかりスポット・ライトが当たる昨今、ドラマ/シットコムはなんとなく肩身が狭い。



8. "Pop of King" マイケル・ジャクソンを巡る報道合戦


今春のマイケル・ジャクソンの幼児虐待に関する過熱報道は、まだ人々がマイケルに興味を持っていることを如実に示してみせた。というか、既にマイケルはこういう三面記事ネタでしか人々の関心を得ることができなくなってしまったとも言えるかもしれない。やはり物心つく前からスーパースターになってしまうということは、人心を歪めることにしかならないのかと、改めて思わせてくれた。


しかも、こういう問題を起こしておきながら、さらに今秋、新たな虐待訴訟問題が起きるとは、さすがに私も予想していなかった。あんた、まだ懲りてなかったのか。私個人の感想を言わせてもらうと、マイケルにいくらかの非があることはほぼ確実だとはいえ、マスコミによってその何倍もの尾ひれがついて回り、さらに心ない人間によってありもしない罪状が捏造されたのも、ほぼ確実だと思う。マイケルはいつぞやの虐待スキャンダル時に、穏便に金を積んで和解することなどせず、堂々と法廷で争えばよかったのだ。そうすればマイケルを訴えさえすれば金が入ると考える不届き者にも歯止めが利いただろうに。とはいえ、当時、法廷で自分のプライヴェイトなことに対する尋問に答えることに、マイケルがほとんど恐怖を覚えたであろうことも想像に難くない。


そんなこんなで、マイケルの裁判はついに始まろうとしている。一方で弁護士に払う金がなく、破産寸前という報道も飛びかっている。果たしてマイケルは、来年、どういう新しい話題を提供してくれるのだろうか。マイケル報道を見ていると、なまじっかのリアリティ・ショウでは、マイケル報道の衝撃には遠く及ぶまいとつくづく思うのであった。



9. ゲイは完全に市民権を得たか


今年最も注目を集めた番組の一つに、「クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ」があったが、それ以外にも、ゲイが主人公、あるいはゲイが主要な役柄を演じる番組が多々あった。同じブラヴォーの「ボーイ・ミーツ・ボーイ」は、ゲイによる、ゲイのための恋人獲得勝ち抜きリアリティ・ショウであったわけだし、今秋始まったABCの「イッツ・オール・レラティヴ (It's All Relative)」は、主人公のカップルの女性の方の育ての親がゲイで、男性の方の保守的な両親といがみ合うというところが笑いをとるポイントになっていた。


ゲイで知られるエレン・デジェネレスのトーク・ショウ「エレン・デジェネレス・ショウ」も始まり、わりと人気がある。年の瀬も押しつまった頃に放送されたHBOの6時間大作ミニシリーズの「エンジェルス・イン・アメリカ (Angels in America)」は、題材がAIDSということもあり、登場人物の大半をゲイが占めた。アル・パチーノもゲイを演じたのだ。他にも従来番組の「クイア・アズ・フォーク (Queer as Folk)」、「ウィル&グレイス (Will & Grace)」や「シックス・フィート・アンダー (Six Feet Under)」等、ゲイ・キャラクターが主人公であったり、あるいは重要な位置を占める番組には事欠かなくなってきた。特にシットコムを見ていると、ゲイを絡ませるギャグがここ数年で非常に増えたことに改めて気づかされることがよくある。


とはいえ、だからといってゲイに対する偏見が完全になくなったわけではもちろんない。今でも田舎に行くと、ゲイはやはり後ろ指を指されやすい存在だし、こないだ、ニューヨークでゲイ専門の学校を設立するという話が本気で取り沙汰された時、うちのアパートのスーパー (管理人のことだ) は、おれたちが納める税金であんな奴らのために学校を建てるのか、と本気で怒っていた (そういえばこの話はその後どうなったんだろう。)


それでも、今後も新番組にゲイのキャラクターが続々と登場してくるのは間違いないと思われるし、実際に都会を舞台とするドラマやシットコムでゲイが登場しない番組というのは、既にもはや考えられない時勢になっている。ポイントは、今後、ゲイが「主要な」キャラクターではなく、「主人公」として登場する番組がどれほど現れるかということになろう。「クイア・アイ」は、面白くはあるがキワモノ的印象は免れ得ないし、「クイア・アズ・フォーク」も、ニッチ向け以上の番組となるのは難しい。そうそう「エンジェルス・イン・アメリカ」みたいな番組を作ってもいられまい。とはいえ、あと数年以内に、ゲイがキワモノ視されない、主人公として登場してくる番組が製作されるのは、まず確実だと思われる。



10. リレイションシップ/結婚テーマのリアリティ・ショウの飽和


どんなに時が進み、世相が変わっても、変わらないことというのはある。「結婚」に対する人の考えも、その一つだと思われる。なんとなれば、近年流行りの恋人獲得の勝ち抜きリアリティ・ショウにおいて、ほとんどの番組は、最終的なゴールを、番組でできたカップルの「結婚」に置いているからだ。


結婚しても何か気に入らないことがあるとすぐ別れてしまうアメリカにおいて、それでもリアリティ・ショウのクライマックスが結婚に置かれるのは、やはり結婚というシステムが人生において一大転機となるという認識が、常識として広く行き渡っているからだろう。そしてまた、結婚する時期というものが、通常、人々が最も美しく、華のある時分と一致するために、結婚が人生の一つのクライマックスとしてとらえられているからだ。


結婚してしまった後は、普通の人生における重大イヴェントは、後はもう家を買ったとか子供が生まれたとか、それこそその子供の結婚式だとかくらいしか残されていない。つまり、結婚後の人生において、もうそれほど重要なイヴェントは残されていないのだ。あと、誰にでも残されている重大事件は、その人の「死」になるだろう。実際の話、その「死」に目をつけ、既に残り時間が僅かとなった主人公と、その主人公の遺産分配で頭を悩ます家族をとらえるリアリティ・ショウ製作の話も上がっているのだが、それはまた別の話になるので、ここでの詳述は控える。


話を元に戻すと、今年放送されたFOXの「メアリード・バイ・アメリカ (Married by America)」は、最終的に参加者を実際に結婚させる用意まで整えていた (実際にはカップルの一人が怖じ気づいたため、結婚は成立しなかったが。) また、それ以外にも、PAXの「48アワー・ウェディング (48 Hour Wedding)」、ライフタイムの「ザ・アイ・ドゥ・ダイアリーズ (The I Do Diaries)」、TLCの「パーフェクト・プロポーザル (Perfect Proposal)」、FOXの「ブライドジラス (Bridezillas)」等、結婚が焦点となっているリアリティ・ショウがかなりの数編成された。


その中でも、ABCの「ザ・バチェロレッテ (The Bachelorette)」で成立したカップルの、トリスタ・レーンとライアン・サターが、本当に結婚し、その結婚式までの模様をとらえた「トリスタ・アンド・ライアンズ・ウェディング (Trista and Ryan's Wedding)」は、この種のリアリティ・ショウとしては頂点を極めた番組だったと言えるだろう。二人のそもそもの出会いから結婚までをすべてカメラがとらえ、それを一つの番組として提供したのだ。私は今から断言するが、彼らに子供ができたら、好むと好まざるとにかかわらず、その子は既にセレブリティの仲間入りを約束されているも同然だ。



番外: 「サバイバー」の今後


ここ数年で始まったリアリティ・ショウで、最も息が長く、最も高い人気を維持しているのが、CBSの「サバイバー (Survivor)」だ。年明けからは、これまでのシリーズで人気のあったメンツを再度揃えての「サバイバー: オール-スターズ (Survivor: All-Stars)」放送が予定されているなど、流行りすたりの速いリアリティ・ショウという分野においてこれだけ長期間人気を維持しているというのは、番組がよくできている証拠である。


とはいえその「サバイバー」も、実は今後の展開に一抹の危惧が寄せられていないこともない。なんとなれば、もう、これまで舞台となった世界の秘境を、あらかた利用し尽くしてしまったことが挙げられる。「サバイバー」がまだ足を踏み入れてない残された大陸は、これで南極大陸だけになってしまったが、もちろんそんなところで番組を収録したら、それこそ本当に死人が出てしまう。参加者が大した宿泊設備もないところで雑魚寝したり、あるいは自生植物を採集したり動物を捕獲するためには、番組の舞台は、どうしても亜熱帯以上の暖かいところである必要があるのだ。


それで今後「サバイバー」が、果たしてどう展開していくかが取り沙汰されている。色々と、冗談とも本気ともつかぬ新しい「サバイバー」案が至る所で論議されているが、その中で私が最も面白いと思ったのをいくつか挙げると:


「サバイバー: ザ・ヴァチカン」最近問題となっている、子供にいたずらをする神父を集めて競争させる。

「サバイバー: デス・ロウ」デス・ロウ (Death Row) とは、死刑執行を待つ死刑囚たちの収容塔を言う。その死刑囚たちを争わせる。もちろん優勝は恩赦、負けたら即死刑だ。

「サバイバー: バグダッド」言うまでもなく、バグダッドでフセインとブッシュを争わせる。


結局、今後問題となるのは、場所ではなく人選となるようだ。実際そうだろうと思う。「サバイバー: オール-スターズ」が製作されるのも、要するに視聴者がもう一度見たいと思う参加者がいればこそだ。今後最終的に、たとえB級のメンツであっても、「サバイバー」がセレブリティ・ヴァージョンを製作するのもほぼ間違いないと思う。







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2003年アメリカTV界10大ニュース

 
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