アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1. なぜ実力者女優は犯罪者を演じたがるのか

 

いったいどういう巡り合わせなのか、パンデミックと何か関係があるのか、今年、多くの実際の犯罪事件をドキュドラマ化した番組が多く編成された。もっとも、犯罪実録もの自体は常にどこかで製作されているし、 2015年のHBOの「ザ・ジンクス (The Jinx)」とNetflixの「メイキング・ア・マーダラー (Making a Murderer)」以降、ブームになったこのジャンルが今では定着した感がある。

今年はそれがリアリティやドキュメンタリーとしてではなく、事件を再構成したドキュドラマとして多く編成され、しかもその多くで女性が犯罪者であり、ドラマ化に当たって、よく知られているハリウッド女優がキャスティングされたことに特徴がある。

「ザ・ガール・フロム・プレインヴィル (The Girl from Plainville)」hulu (エル・ファニング主演)
「キャンディ (Candy)」hulu (ジェシカ・ビール主演)
「ザ・シング・アバウト・パム (The Thing About Pam)」NBC (ルネ・ゼルウェガー主演)
「ザ・ドロップアウト (The Dropout)」hulu (アマンダ・サイフリッド主演)
「インヴェンティング・アナ (Inventing Anna)」Netflix (ジュリア・ガーナー主演)

「ザ・ガール・フロム・プレインヴィル」は、知人の男子学生に何度も自殺を教唆するテキストを送って自殺させ、殺人の罪に問われた女子学生を描く。「キャンディ」は1980年代テキサスで隣家の主婦を惨殺した、普通に見える家庭の主婦の話。「ザ・シング・アバウト・パム」も、これまた似たような、家庭の主婦が殺人犯だったという話だ。「ザ・ドロップアウト」は、あり得ない医療技術を捏造した、セラノス社の稀代のIT詐欺師を描く。「インヴェンティング・アナ」は、 貴族階級の振りをして多くの男を手玉にとったロシア人女性のドキュドラマだ。

これら以外にも、犯罪でこそないがセックス・ヴィデオが流出するなどスキャンダラスな話題になったパメラ・アンダーソンを描く「パム&トミー (Pam & Tommy)」にリリィ・ジェイムズが出ているなど、何かと問題の女性を描く話が何本も提供された。

犯罪を描くのは昔からドラマの基本ジャンルであり、その事自体は特に不思議はないが、しかし、これだけ癖のある女性犯罪者を描いた作品が並んだ例はあまりない。なぜ、皆、犯罪者・問題者になりたがるのか。今では犯罪だって男たちに独占させはしないという、近年のMeTooムーヴメントの延長線上にあるのか。  

 

 

  1. 2. 男性俳優も社会実録もの  

 

一方、これもたぶん上記のドキュドラマ路線と多少は軌を一にしていると思われるが、男性俳優の有名どころも、実録ものに出ている。特に犯罪実録ものだけに限るわけではないところが、やや異なる点と言える。

「ザ・ステアケイス (The Staircase)」HBO Max (コリン・ファース主演)
「スーパー・パンプト: ザ・バトル・フォー・ウーバー (Super Pumped: The Battle for Uber)」Showtime (ジョゼフ・ゴードン-レヴィット主演)
「ウィ・クラッシュト (WeCrashed)」AppleTV+ (ジャレッド・レト主演)
「ウェルカム・トゥ・チッペンデイルズ (Welcome to Chippendales)」hulu (クメイル・ナンジャニ主演)
「アンダー・ザ・バナー・オブ・ヘヴン (Under the Banner of Heaven)」hulu (アンドリュウ・ガーフィールド主演)
「ウィニング・タイム: ザ・ライズ・オブ・ザ・レイカーズ・ダイナスティ (Winning Time: The Rise of the Lakers Dynasty)」HBO (ジョン・C・ライリー主演)

妻殺しの容疑がかかったベストセラー作家を描く「ザ・ステアケイス」、ウーバー創業者を描く「スーパー・パンプト」、ウィワーク創業者を描く「ウィ・クラッシュト」、男性ストリップ・クラブの盛衰と犯罪を描く「ウェルカム・トゥ・チッペンデイルズ」、モルモン教内部でのカルト殺人事件を追う刑事を描く「アンダー・ザ・バナー・オブ・ヘヴン」、および1980年代のNBA、LAレイカーズを描くスポーツ・ドキュドラマと、こちらも自我肥大の人物を描いた作品が並ぶ。

こういう作品が並ぶのは、明らかに現代の人々が置かれている環境を反映していると見るのが妥当だろう。なんせ元ネタがすべて現実に起こった事件なのだ。コロナ以前からこういう事件が立て続けに起こっており、そしてコロナがさらに濃縮して閉じ込めていた人々の鬱屈や憤懣が、今、一気に解き放たれてしまったという感触は強い。個人的な印象では、既に業界のカオス、混乱傾向は飽和に近く、今後これだけ収拾がつかなくなった状況は、コロナ同様多かれ少なかれ収束するしかないと思う。しかしその着地点がどういうもので、将来にどういった影響をもたらすのかは、想像もつかない。  

 

 

  1. 3. 西部劇の復権

 

「ダット・ダーティ・ブラック・バッグ (That Dirty Black Bag)」AMC+
「ビリー・ザ・キッド (Billy the Kid)」Epix
「ウォーカー: インデペンデンス (Walker: Independence)」CW
「ジ・イングリッシュ (The English)」 amazon
「1923」パラマウント+

これらの番組は、明らかにパラマウントの「イエローストーン (Yellowstone)」の成功が大きく預かって力になっている。パラマウントはその後、昨年、その前日譚である「1883」を製作、そしてさらに今年、その続編である「1923」を製作投入した。「1923」主人公はハリソン・フォードとヘレン・ミレンという大物であることからしても、この番組、ジャンルが大いに注目されていることが窺える。

さらに、パンデミックに疲弊する社会から脱却し、ドナルド・トランプに代表される強いアメリカの復権を求める潮流が、このジャンルを後押ししているということもあるだろう。最終的に強さを正義として第一に求める西部劇というジャンルが、時代の要請に合致している。そこに女性ガン・スリンガーが主人公の「ジ・イングリッシュ」が加わるのが今風だ。それがアメリカ人ではなくイギリス人という設定も、今風のひねりが効いていると言える。ついでに現代まで幅を広げると、 amazon のSF西部劇「アウター・レンジ (Outer Range)」というけったいな作品まであった。

 

 

  1. 4. あなたの隣りのヴァンパイア  

 

「イルマ・ヴェップ (Irma Vep)」HBO
「ファースト・キル (First Kill)」Netflix
「ヴァンパイア・アカデミー (Vampire Academy)」ピーコック
「インタヴュー・ウィズ・ザ・ヴァンパイア (Interview With the Vampire)」CW
「レジナルド・ザ・ヴァンパイア (Reginald the Vampire)」SyFy
「レット・ザ・ライト・ワン・イン (Let the Right One In)」ショウタイム
「メイフェア・ウィッチズ (Mayfair Witches)」AMC+

これまたコロナ時代の風潮の顕れと言えるのが、ヴァンパイアものジャンルだろう。西部劇が、強いアメリカの復権を望む民衆の声の代弁だとしたら、ヴァンパイアものは、明らかに逃避エンタテインメントを代表している。とはいえ陽の光の当たらないところで生活しているはずのヴァンパイアが、明るく学校生活を送っていたりもする。

2014年にHBOの「トゥルー・ブラッド (True Blood)」、2017年にCWの「ザ・ヴァンパイア・ダイアリーズ (The Vampire Diaries)」が終わって以来、ヴァンパイアというと、FXの「ホワット・ウィ・ドゥ・イン・ザ・シャドウズ (What We Do in the Shadows)」が代表する、コメディ色が強くなっていた。ここに来てまた、日陰者に陽が当たり始めた。あまり当たり過ぎると本人たちにとってよくないはずなのだが。

 

 

  1. 5. ディズニー/ディズニー+のスーパーヒーロー囲い込み運動  

 

amazonには「ザ・ロード・オブ・ザ・リングス: ザ・リングス・オブ・パワー (The Lord of the Rings: The Rings of Power)」があり、HBOには「ゲーム・オブ・スローンズ(GameofThrones)」フランチャイズの「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン (House of the Dragon)」がある。正直この2作だけでファンタジーSF系は充分過ぎるくらいの気がするのだが、ここんとこのディズニー/ディズニー+のマーヴェル・コミックスと「スター・ウォーズ」スピンオフの固め打ちは、げっぷが出るくらいだ。

「ホウクアイ (Hawkeye)」
「ムーン・ナイト (Moon Knight)」
「ミズ・マーベル (Ms. Marvel)」
「シー-ハルク: アターニー・アット・ロウ (She-Hulk: Attorney at Law)」

「ザ・ブック・オブ・ボバ・フェット (The Book of Boba Fett)」
「オビ-ワン・ケノービ (Obi-Wan Kenobi)」
「アンドー (Andor)」
「テイルズ・オブ・ザ・ジェダイ (Tales of the Jedi)」

もちろん昨年以前も今年以降も、同種の作品は継続していくつも提供されており、いったいファンでもこれらを全部見ているか怪しいと思う。ポイントは、これだけディズニーがファンタジーSFに手を出しても、私見ではこの種の作品では、2023年の年明けに編成されたHBOのサヴァイヴァル・ホラー「ザ・ラスト・オブ・アス (The Last of Us)」が、話題をほぼ独占していることにある。小さな佳品をいくつも提供しても、メガヒット1本がすべてを総取りする。  

 

 

番外: GMA3: エイミー・ローバックとT. J. ホームズの更迭  

 

臭いものにすぐ蓋をするキャンセル・カルチャーというのは、何も今に始まったことではない。今年も、スキャンダルを起こしたクリス・ノスがHBO Maxの「アンド・ジャスト・ライク・ダット‥‥ (And Just Like That...)」から降ろされ、兄の政治家アンドリュウ・クオモのスキャンダルを隠蔽しようとしたとして、CNNアンカーのクリス・クオモがクビになった。

とはいえ、年末のABCの日中トーク・ヴァラエティの「グッド・モーニング・アメリカ3: ホワット・ユー・ニード・トゥ・ノウ (GMA3: What You Need to Know)」のホスト、エイミー・ローバックとT. J. ホームズの更迭には、耳を一瞬疑った。

最初、そういえば最近、臨時ホストばかりでこの二人見ないな、年末とはいえちょっと休み過ぎなんじゃないのと思っていたら、いきなり番組を降ろされたという話が入ってきた。なんでもこの二人、二人共家族持ちであるにもかかわらず浮気していたのがバレたらしい。

ローバックもホームズも、ABCの朝の基幹番組「グッド・モーニング・アメリカ (GMA)」出身で、白人でクール・ビューティ系のローバック、黒人でいつもにこにこして人好きのするホームズはよくかみ合い、好感度は高かった。あまりにはまっているので、この二人がそういう関係になるなど、逆に予想もできなかった。そういう風に感じている者が多いからこそ、その反動を懸念したABCが、騒ぎが大きくなる前に手を打ったというのが、いかにもありそうな展開という気がする。いずれにしても、生半可なドラマよりよほどインパクトある事件だったと言える。  

 

 

 









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2022年アメリカTV界5大ニュース。

 
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