アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。その2。




  1. 6.「ジェパディ (Jeopardy)」の転変 

 

昨年末、アメリカを代表する長寿クイズ・ショウ「ジェパディ」ホストのアレックス・トレベックが、膵臓がんで死去した。由緒ある番組の後継者探しということで、関係者は念入りに人選を進めた。その間、かつてのチャンピオンであるケン・ジェニングスをはじめ、ニューズ・ヴァラエティ界からケイティ・コーリック、アンダーソン・クーパー、ドクター・オズ、ロビン・ロバーツ、それにCBSの「ザ・ビッグ・バン・セオリー (The Big Bang Theory)」のメイム・ビアリク等が交代で臨時ホストを担当した。NFLのアーロン・ロジャースなんて変わり種もいた。 

 

最終的に夏に新ホストに任命されたのはマイク・リチャーズだったが、番組プロデューサーでもあるリチャーズは正直言って番組ファンにとっても無名で、大山鳴動して鼠一匹という印象は如何ともし難かった。さらに、間髪を入れずにそのリチャーズにパワハラ疑惑や人種差別発言問題が浮上、一週間分の収録を終えただけでリチャーズは番組を降板した。現在ではジェニングスとビアリクが、交互にホストを担当している。 

 

年末には、番組初のトランスの女性エイミー・シュナイダーが連戦連勝の破竹の快進撃を開始するなど、依然として番組はニューズ・ネタを提供している。ジェニングスはABCの別のクイズ・ショウ「ザ・チェイス (The Chase)」でもレギュラー出演しており、そのまま「ジェパディ」の正式ホストには就任しないだろうと私は見ているのだが。 

 

 

  1. 7.「シカゴ」、「FBI」、そして「ロウ&オーダー」復活か? ディック・ウルフの進撃は続く 

 

ディック・ウルフと言えばアメリカTV界の重鎮で、現在ネットワークで放送されている人気ドラマの4分の1くらいはウルフが製作、もしくは関係しているんじゃないかと思えるくらいの多作プロデューサーだ。 

 

元々はNBCの「ロウ&オーダー (Law & Order)」の成功で第一線に踊り出て、現在ではNBCで「シカゴP.D. (Chicago P.D.)」、「シカゴ・メッド (Chicago Med)」、「シカゴ・ファイア (Chicago Fire)」のシカゴ・フランチャイズ、および「ロウ&オーダー: 性犯罪特捜班 (Law & Order: Special Victims Unit)」、「ロウ&オーダー: オーガナイズド・クライム (Law & Order: Organized Crime)」をプロデュースしている他、CBSの「FBI (FBI)」、「FBI: モスト・ウォンテッド (FIB: Most Wanted)」、「FBI: インターナショナル (FBI: International)」のFBIフランチャイズと、ネットワークで8本の番組をプロデュースしている。これ以上多作のプロデューサーはいない。 

 

さらにNBCは来年、これで打ち止めかと思えた「ロウ&オーダー」フランチャイズから、基幹番組の「ロウ&オーダー」を再度復活させると発表した。番組の顔と言えたサム・ウォーターソン演じるジャック・マッコイも復帰するらしい。近年多いかつての人気番組のリメイク・リブート・リヴァイヴァル・ブームの中でも、特筆に値する出来事と言える。 

 

 

  1. 8.シャロン・オズボーンの「ザ・トーク (The Talk)」解雇とジェリー・オコネルの新ホスト就任 

 

CBSの女性ホスト陣によるトーク・ショウ「ザ・トーク」において、ホストの一人シャロン・オズボーン自身が起こした舌禍事件というわけでもないのだが、春先に英国でオズボーンの友人のピアース・モーガンがメーガン妃に対して差別的発言をしたのを擁護して共同ホストで黒人のシェリル・アンダーウッドから激しく非難され、最終的に番組を降板した。その後釜に座ったのが、ジェリー・オコネルだ。 

 

もちろんオコネルは男性であり、一方 「ザ・トーク」は、女性ホストらによる女性のためのトーク・ショウだ。一瞬、オコネルってゲイだったっけとも思ったがそんなことはなく、「ザ・トーク」が宗旨替えをして間口を広げたということらしい。女性がホストのトーク・ショウは山ほどあるが、複数ホストが全員女性ホストのトーク・ショウは、これでABCの「ザ・ヴュウ (The View)」だけになってしまった。それにしても周りを全員女性に囲まれて、一人黒一点のオドネルは、やはり最初違和感あった。やはりポイントは、女性目線のトーク・ショウという点にあったと思うんだが。 

 

 

  1. 9.CW、毎夜編成へ 

 

ABC、CBS、NBC、FOX、CWのアメリカの地上波5大ネットワークの一つといえども、最弱ネットワークのCWの場合、これまで毎晩番組を編成していたわけではなかった。だいたい、ネットワークは週日は夜8時から11時まで、日曜は7時から11時まで番組を編成するが、FOXとCWだけはいまだに10時までしか番組を編成しない。CWに至っては土曜は編成すらしておらず、この時間帯は各系列局にそれぞれ編成を任せていた。それがついに秋の番組改編から毎夜編成となった。 

 

そのCW、現在編成している番組の大半はティーンエイジャー向けのSF主体だ。特に「レジェンド・オブ・トゥモロー (Legends of Tomorrow)」、「バットウーマン (Batwoman)」、「スーパーマン&ロイス (Superman & Lois)」等、DCコミックスのTV化が目立つ。新たに編成する土曜夜は、リアリティ・ショウや特番編成が中心になるみたいだ。どちらかというとそちらの方が私の好みではある。 

 

 

  1. 10.観客がほぼ全員マスクをしているトーク・ショウ収録 

 

現在、トーク・ショウ収録はこれまでのようなホストの自宅収録ではなく、基本的にほとんどがステュディオに戻ってきて収録している。その時、ほとんどの番組において、ステュデュオ内の観客はマスクを着用している。 

 

コロナウイルスが蔓延し始めた時、その対策を判断するCDCからして、マスクは不要と堂々と言っていた。それを受け、コメントを求められたほぼすべての医者が、コロナに関してマスクをする必要はないと言っていた。 

 

しかし現在ではマスク着用は感染対策として効果があると、科学的に証明されている。そのため、観客をステュディオに入れて収録するタイプの番組は、観客にマスク着用を要請している。一時ワクチン接種証明があるならマスク着用は必須ではないとしている番組があったり、観客席を離して設置することで対応する番組もあったりしたが、オミクロンが現れると、結局ほぼすべての観客入場型番組、基本的にトーク/ゲーム・ショウは、観客のマスク着用を義務化した。カメラが観客席を捉えると全員マスクをしているという光景は、コロナが蔓延し始めた当初の頃と較べると、隔世の感がある。 

 

NBCの長寿スケッチ・コメディ・ショウ「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」では、年末にオミクロン株が流行の兆しを見せ始めた途端、いきなり観客にマスク着用を求めるどころか、無観客になった。既に前夜から路上に寝泊まりして先着順チケットを手に入れようとしていたファンもいたのに、骨折り損になった。 

 

もっとも、スポーツ中継や音楽コンサート中継等では、マスクが義務ではないことの方が多いようだ。屋外じゃなければ、人が大声を上げて声援するこれらのイヴェントの方が、トーク・ショウなんかよりよほどリスキーという気もするが。 

 

 

番外: イーロン・マスク、「サタデイ・ナイト・ライヴ」に出て200億ドル損失 

 

電気自動車のテスラと宇宙産業のスペースX経営によって、現在、amazon創業者のジェフ・べゾスと共に世界一の金持ち番付の1位と2位を交互に獲得しているという印象のあるイーロン・マスクは、人を食った発言や行動でも知られており、よくマスコミにも登場する。その一環でかどういう経緯だったかは知らないが、夏にマスクがNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」のゲスト・ホストとして登場した。 

 

そしてその翌週、テスラや、マスクが大株主の一人であるビットコインの株価が急落した。大元の原因は、マスクが擁護しなければいけないはずの、ビットコインを使用してのテスラの購入を禁じたことにあるようだ。これで、もしかしたらテスラの経営が危ないのではという危惧を抱いた投資家が、挙って株を売りに走ったらしい。 

 

つまり、正確にはマスクが巨額の損失を受けたのはSNLに出たからではないのだが、一般投資家、消費者、視聴者は、そうとは受け取らなかった者が多かった。むしろSNL出演が、テスラ経営から投資家の目を逸らせようとしたスタントと映ったのは、容易に理解できる。マスクが一夜にして失った金額は、200億ドルに達した。個人が一瞬にして2兆円強を失った。桁が違い過ぎてイメージが掴めない。 

 

 

 









< previous                                    HOME

 

2021年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
inserted by FC2 system