アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




新型コロナウイルス、アメリカTV界を蹂躙 

 

昨年、ナショナル・ジオグラフィックがエボラウイルスが蔓延するパンデミック・ドラマ「ザ・ホット・ゾーン (The Hot Zone)」を放送した時、なかなか目の付けどころは悪くない、時宜を得ていると感じたものだが、実際には時宜を得ているどころの話じゃなかった。世界はCOVID19という見えないウイルスにきりきり舞いとなり、活動が止まった。 

 

TV界においても基本同じだが、一方で人々が家にこもってTV番組やニューズを見る機会が増えたために、一概に視聴者が減ったとは言えない。しかし番組製作には大きな影響が出た。人々が移動できないため、基本的に番組製作は中断、シットコムやステュディオや会場に観客を集めてのリアリティ・ショウやトーク・ショウは、無観客、もしくは少人数での収録、あるいは自宅からのリモート放送となった。 

 

ただでさえ近年じり貧気味のネットワークから新番組の数がさらに減少、ドラマやコメディの視聴者数も減少した。これではいかにニューズだけが健闘しようとも、全体としての地盤沈下は避けられない。春先までに収録を終えていた番組以外のすべての番組は、スクリプト番組、ノンスプリクト番組を問わず、全部が影響を受けた。あまりにも影響が多大なため、他のなんの話をしてもコロナと無関係ではいられない。以下に分けて詳細を記す。 

 

 

ドラマ・コメディ 

 

番組のロケーション撮影が不可能となったため、基本的にドラマ製作はその時点までに収録を終えたところでシーズン終了となった。それでも、1話完結型ドラマならそれでも曲がりなりにも話は次シーズンに続いていけるが、シーズンを通して話が続いているようなドラマだと、そうはいかない。 

 

それでも尻切れとんぼのままほとんどの番組はそこでシーズンを終えざるを得なかったが、NBCの「ザ・ブラックリスト (The Blacklist)」の場合、急遽シーズン・フィナーレを、本当ならこうなったはずだというアニメーションを交え、しかもその状況を出演俳優が説明するという奇想天外な方法で製作した。こちらは出演者の密を避けるためだが、ABCの「ブラッキッシュ (Black-ish)」でも、秋のシーズン・プレミアでアニメーションを使用している。 

 

CBSの法廷ドラマ「オール・ライズ (All Rise)」では、コロナのために裁判がリモートになり、FaceTimeやZoomで裁判が進んだ。最終シーズンを迎えていたCWの「スーパーナチュラル (Supernatural)」は、残り数話で最終回というのが決まっており、しかも脚本もできていたため、製作を中断して秋に最後の数エピソードを撮影した。医療ドラマの場合、これだけ世界を席巻している医療危機を話に盛り込まないと逆に嘘臭くなってしまうため、秋からの新シーズンでは多かれ少なかれ新型コロナが話に絡む展開になっている。 

 

基本毎日収録毎昼放送ののソープ・オペラでは、ほとんどの関係者がほぼ毎日顔を合わせる。そのうち一人でも感染者が出たらアウトだ。そのため、特に登場人物が濃厚接触するシーン、つまりキス・シーンでは、お互いにマネキン相手にキスして、後で映像を合成するという手法がとられた。出演者もバカらしくてつい笑い出してしまうので、最初はNG続きで収録にいつもの倍の時間がかかったということだ。 

 

いずれにしても、コロナに乱されても番組が続いていくならまだいい。コロナ禍でスケジュールが変わったりしたおかげで、キャンセルされた番組もある。 ショウタイムの「オン・ビカミング・ア・ゴッド・イン・フロリダ (On Becoming a God in Central Florida)」、Netflixの「グロウ (Glow)」、ABCの「スタンプタウン (Stumptown)」等、人気があったり評価が高かったりした番組も、次シーズン製作が決まっていたにもかかわらず。コロナの影響を受けて結局キャンセルされた。 

 

さらにコメディ・セントラルの「ドランク・ヒストリー (Drunk History)」の場合、第7シーズンを製作中にキャンセルが決定、既に3話分の収録は終わっていたにもかかわらず、未放送分はお蔵入りのままキャンセルされた。いつかスペシャルとしてか、あるいはウェブサイトで提供されるに違いない。 

 

完全にコロナ影響下で始まった新番組としては、若者向けのフリーフォームの「ラヴ・イン・ザ・タイム・オブ・コロナ (Love in the Time of Corona)」がある。しかしこの舞台設定では、トレンディなドラマにはなり得なかった。コメディでもNBCの「コネクティング (Connecting)」は、コロナで外出禁止となりネットワーキングができない登場人物がZoomでコミュニケイトするという斬新な発想で始まったが、当然そこにフィジカルな動きはなく、画面上に登場人物の顔が映るという動きのないシーンが多く、ほとんどの媒体から退屈と一蹴された。 

 

シットコム撮影は、ステュディオに観客を入れての収録という構造上、撮影再開はロケーションを多用するドラマ撮影とは違った意味で細心の注意が求められた。ほとんどの番組では観客の数を減らす措置をとったが、中にはPopTVの「ワン・デイ・アット・ア・タイム (One Day at a Time)」のように、無観客で始まった番組もある。 

 

 

 

リアリティ・ショウ 

 

ABCの「ザ・バチェラー (The Bachelor)」のような恋人獲得リレイションシップ系のリアリティ・ショウは、登場人物が緊密なフィジカル・タッチをするのが番組のセールス・ポイントだ。それが禁じられてしまうと番組の製作意義がなくなってしまうと、最初番組の継続が危惧されていた。しかし、関係者が完全にコロナ陰性なら、逆に全員が隔離された環境なら最も安全と言え、登場人物が外部で豪遊するような設定を除いて番組は再開している。同様に一つ屋根の下で全員が暮らすCBSの「ビッグ・ブラザー (Big Brother)」も、最初に全員陰性が確認されるなら、後は外部との接触が完全に断たれるため、これ以上安全な条件はないと言える。 

 

素人勝ち抜き系のリアリティ・ショウ、例えばABCの「アメリカン・アイドル (American Idol)」では、地区オーディションの収録は既に終わっていたが、生放送となる本戦時にパンデミックとなり、途中から番組はリモートに切り替わった。コンテスタントは全米各地の自宅で歌い、ジャッジもそれぞれ自宅からコメントした。 

 

NBCの「ザ・ヴォイス (The Voice)」は、春のシーズンはリモートで、ジャッジは自宅からコメントしていた。しかもその時、自宅における機材の設置は、各自に任されていた。考えたら全米各地に散らばるジャッジやコンテスタントのそれぞれのために、人材を派遣して設置まで差配する余裕も時間もネットワークにはなかっただろう。明らかにテクノロジーは不得手と思われるジャッジの一人ブレイク・シェルトンが、何をどう配線するか四苦八苦するところもちゃんと映していた。 

 

また、この時、自宅設置のカメラはどうやらiPhoneだ。スマートフォンのカメラが、全米中継用のカメラとしてちゃんとプロ仕様のカメラ並みに機能している。たぶん生中継ではなかったようだが、それでも、それができる近年のテクノロジーの進歩には驚かされる。つい2、3年前には、この方法で全米を繋ぐのは不可能だった。 

 

「ヴォイス」は秋のシーズンでは、無観客でステュディオ収録となった。「ヴォイス」特有のブラインド・オーディションやバトル・ラウンドは、その場にコンテスタントとジャッジがいてこそのギミックだから、どうしてもステュディオで収録したかったに違いない。 

 

FOXの「ザ・マスクト・シンガー (The Masked Singer)」は、従来通りステュディオに観客を入れての収録、と思いきや、実は観客の部分だけ前シーズンからのヴィデオを流用していたことがバレて、マスコミからくさされていた。実際に観客を入れてコロナ感染を拡大することを考えればまだましか? 

 

基本的にステュディオ収録型リアリティ・ショウの場合、無観客で収録するか、どうしても観客の反応が必要なら客席に鑑賞中の観客の顔が映った大型スクリーンなりを置いて、リモートで鑑賞させるという方法がとられた。無観客の場合でも、事前録音の観客の反応を流すというのは、だいたいどこもやっていた。慣れると結構気にならない。 




 

以下、次項に続く



 










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2020年アメリカTV界重大ニュース。その1

 
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