アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。その2。




  1. 6.    必ずしも成功を約束されているわけではないリブート 

 

リメイクではない、リブートだ。かつての人気番組を別の俳優を起用して作り直すのではなく、オリジナルの俳優を用いて、一度は最終回を迎えた番組をまた立ち上げる。要するに間の空いたオリジナルの番組そのものに他ならない。前回書いたABCの「ロザンヌ (Roseanne)」もこれに当たる。 

  

このブームは「ロザンヌ」が嚆矢というわけではなく、昨年、既にNBCが「ウィル&グレイス (Will & Grace)」をリブートしている。その波が、今年は最高潮になった感がある。まず春先にはABCが「アメリカン・アイドル (American Idol)」を復活させ、そして「ロザンヌ」が続き、CBSが「マーフィ・ブラウン (Murphy Brown)」を甦らせた。終わったかのように見えたフード・ネットワークの「アイアン・シェフ (Iron Chef)」も甦った。 

  

ただしこれらの番組は、「ロザンヌ」を除いて必ずしも成功しているとは言い難い。その「ロザンヌ」も主演の舌禍事件のためにキャンセルされ、しかしスピンオフの「ザ・コナーズ (The Conners)」として再復活するなど、フィクションもかくやという意外な展開を見せている。来年にはショウタイムの「ナイトメア (Penny Dreadful)」が再製作されることも決まっている。「フレンズ (Friends)」や「サインフェルド (Seinfeld)」がリブートするのも時間の問題か。 


 

 

  1. 7.  リブートでもない、リザレクション   

 

上記とも関連があり、これまたここ数年来Netflixを中心に定着している動きが、人気番組のリブートではなく、人気が落ちてキャンセルされたものの、一部ではまだカルト的人気を持っていた番組を、他のネットワークで復活させるというものだ。強いて言えばリメイクでもリブートでもなく、いったん死んだかと思える番組を復活させる、リザレクションだ。 

  

Netflixはこの動きの先駆かつ中心といえる存在だったが、それが今ではNetflixだけではなく、業界全体で見過ごせない大きなムーヴメントになっている。上述の「アメリカン・アイドル」はFOXでキャンセルされた番組がABCで復活したものだが、逆にABCでキャンセルされた「ラスト・マン・スタンディング (Last Man Standing)」は、FOXで息を吹き返した。 

 

他にもCBSでキャンセルされた「スーパーガール (Supergirl)」がCWで甦り、FOXでキャンセルされた「ブルックリン・ナイン-ナイン (Brooklyn Nine-Nine)」がNBCで復活する。ABCの「サバイバー: 宿命の大統領 (Designated Survivor)」、FOXの「ルシファー (Lucifer)」は共にNetflixで息を吹き返し、SyFyの「ジ・エクスパンス (The Expanse)」はamazonに引き継がれるなど、この動きは今後もしばらくは続くものと思われる。 




  1. 8.  ディック・ウルフ・フランチャイズ   

 

かつてNYを舞台にしたNBCの「ロウ&オーダー (Law & Order)」フランチャイズで人気を博したクリエイターのディック・ウルフは、現在ではシカゴを舞台とする「シカゴPD (Chicago PD)」、「シカゴ・メッド (Chicago Med)」、「シカゴ・ファイア (Chicago Fire)」のシカゴ・フランチャイズでシカゴに活躍の場を移している。 

  

そのウルフが、CBSの「FBI (FBI)」で再びニューヨークを舞台とする番組を提供している。むろんシカゴ・フランチャイズは健在で、もしかしたらNBCのシカゴ、CBSのニューヨークという住み分けを計画しているのかもしれず、今後さらにウルフ製作のニューヨーク舞台の番組が現れる可能性もある。いずれにしても、ニューヨークの隅々まで知っているウルフの知識を捨ておくのは惜しいと思っていたのは私だけではないはずで、「FBI」を見る限り、ウルフの強みを充分発揮している。あるいは、そのうちCBSは「FBI」と「ブルー・ブラッズ (Blue Bloods)」をカップリングしてくるかもしれない。 




  1. 9.  週6日放送となったCW   

 

ほとんど誰も話題にしないが、弱小ネットワークのCWが、今秋から週6日編成になった。意外に思うかもしれないが、5大ネットワークで最も力の弱いCWは、これまで月-金の週5日しか番組を編成していなかった。それ以外の週末の時間帯は、系列局が独自に編成していた。 

 

それが今秋から日曜プライムタイムに「スーパーガール」と「チャームド (Charmed)」が編成された。果たして将来的には土曜も編成して毎夜編成を考えているのか。近年のアメリカTV界の熾烈な視聴率争いを見ていると、最も潜在的視聴者が少ないとされる土曜夜に番組を編成するメリットはあまりないように見えるが、しかし、仮にもネットワークという矜持から、毎夜番組を編成することにこそ意味があると考えていても不思議はない。だからこそ今、日曜に番組を編成し始めたんだろう。とはいえ競争は楽ではあるまい。 




  1. 10.  深夜トークの覇権争い  

 

だいたいこれまでは、深夜トークといえば誰でもまず真っ先に連想するのはNBCの「トゥナイト (Tonight)」およびそれに続く「レイト・ナイト (Late Night)」、そして対抗のCBSの「ザ・レイト・ショウ (The Late Show)」と「ザ・レイト・レイト・ショウ (The Late Late Show)」の4本と、相場が決まっていた。現在ではそれに、ABCの「ジミー・キメル・ライヴ (Jimmy Kimmel Live)」、NBCの「ラスト・コール (Last Call)」、コメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショウ (The Daily Show)」、TBSの「コナン (Conan)」、「フル・フロンタル (Full Frontal)」、HBOの「ラスト・ウィーク・トゥナイト (Last Week Tonight)」、「リアル・タイム (Real Time)」、E!の「ビジー・トゥナイト (Busy Tonight)」、BETの「ザ・ランダウン (The Rundown)」、その他諸々が加わり、とにかく百花繚乱という感じがする。 

 

その中で大きな動きは、これまで人気の点では盤石に見えたジミー・ファロンがホストの「トゥナイト」が、スティーヴン・コルベアがホストの「レイト・ショウ」に肉薄されている、少なくとも単純に視聴者数の点だけを見れば、逆転されているという点が挙げられる。若い視聴者数という点ではまだ「トゥナイト」に分があるものの、ほんの1年前には、両者には圧倒的な隔たりがあった。 

 

これは、ドナルド・トランプが大統領になったことと関係している。トランプは大統領ではあるが、都市部、正確には都市部に多いリベラル派からは、端的に嫌われている。コルベアの「レイト・ショウ」はそもそもの最初からトランプ蔑視、罵倒を貫いており、それが視聴者の溜飲を下げている。一方、悪く言えば八方美人のファロンは、トランプをゲストに呼んで、ヅラとしか見えない髪を触って確認するなどした行為が、民主党支持から反感を買った。そういう番組の傾向が、徐々に視聴率という成績となって現れてきている。 

 

コルベアは、トランプが大統領を辞めるなら視聴率が下がっても構わないと自虐的なギャグを飛ばしていたが、現在の深夜トークの隆盛は、そういう社会情勢、ポリティカルな話題を抜きにしては考えられない。私個人としては深夜トークには政治ではなく、肩の凝らない話題を求めたいところだが、おかげで深夜トークが熱いとも言える。 




番外: 裏の流行 -- 暗殺者


今シーズン印象に残ったドラマ、および印象に残ったキャラクターの共通点として、暗殺者、アサシンがある。BBCアメリカの「キリング・イヴ (Killing Eve)」のヴィラネル、スターズの「カウンターパート (Counterpart)」のボールドウィンという2大女性アサシンを別格として、HBOの「バリー (Barry)」のバリー、FXの「ジ・アサシネイション・オブ・ジャンニ・ヴェルサーチ (The Assassination of Gianni Versace)」のアンドリュウ等、一癖も二癖もある暗殺者がアクション・ドラマに華を添えた。アサシンではなくスパイであるが、これにAMCの「ザ・リトル・ドラマー・ガール (The Little Drummer Girl)」のチャーリーを加えれば、ヴィラネル、ボールドウィン、チャーリーという、今年の裏の世界の女性三羽烏の誕生だ。 

 

こういう、暗殺者が印象に残る年というのは、明らかに今の時代の趨勢を反映していると見てよかろう。その中でもさらに印象に残ったのが女性というのが、いかにも現在という気がする。今後この趨勢はさらに続くに違いない。 




 










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2018年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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