アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 6.  グラミー賞のアデルの歌い直しと、アカデミー賞作品賞の発表ミス 

 

ライヴ番組というのはなんらかのミスや意図しなかったハプニングがつきもので、それがライヴの醍醐味でもある。とはいえ今年のグラミー賞のアデルとアカデミー作品賞の発表は、こちらの想像の埒外だった。 

 

アデルは昨年のグラミー賞でのパフォーマンスでも、ピアノの内部に設置してあったマイクが落ちて耳障りな反響音を出すというアクシデントがあったが、今回は自分が間違えた。キーを外してしまい、どうしたんだと思っていたら、途中で辞めて改めて最初から歌い直した。いっそ潔かったが、心中穏やかじゃなかったのは察するにあまりある。 

 

しかしこれを遥かに上回る決定的な出来事がオスカーで起こった。なんとなれば、最後の作品賞発表において、プレゼンターのフェイ・ダナウェイが作品賞を間違えて、本当の受賞作である「ムーンライト (Moonlight)」ではなく、「ラ・ラ・ランド (La La Lan)」と発表してしまったのだ。共同プレゼンターのウォーレン・ベイティに主演女優賞 (「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン) の間違った封筒が渡されてしまい、読み上げるのを躊躇していたベイティがギャグってると思ったダナウェイが、ベイティが持っていた封筒を奪って発表してしまったのだ。 

 

こんなミスが本当に起こるのかという信じ難い大ポカで、あるいは、こんなことが起こるのがライヴの面白さと言えなくもない。ホストのジミー・キメルがどんなに場を収めようとしても、既に壇上では「ラ・ラ・ランド」の面々が喜んでいた。それが糠喜びだったと知った時の失望と落胆は、これまた察するにあまりある。 

 


 

  1. 7.  アニメ供給サーヴィス、Netflix 

 

ストリーミング・サーヴィス最大手のNetflixは、TV /映画業界地図を塗り替えているというのはこのサイトでも何度も述べているが、特にこれまでは言及していないが、人々に意外と大きなインパクトを与えているのが、提供しているジャパニーズ・アニメだ。 

 

アニメがアメリカでも市民権を得ているのは何も今に始まったことではないが、そこここで単発のヒットがあって、それが全体的な知名度を押し上げているという印象が強かった。しかしNetflixは、これまでは色々なネットワークに散らばっていたそれらのアニメを一まとめにして、アニメ・ハブとして機能し始めている。 

 

「ブリーチ (Breach)」や「サイボーグ009 (Cyborg 009)」、「デビルマン (Devilman)」くらいなら知っていたが、ある時目にした「Castlevania」というタイトルの番組がどういうものか聞いたこともなくさっぱりわからず、調べて初めてそれがアニメ「悪魔城ドラキュラ」だったことを知った。「Children of the Whales」なんて、まったく内容の想像しようのないタイトルが「クジラの子らは砂上に歌う」だった。「Aggretsuko」とは「アグレッシブ烈子」のことだ。そういう、アニメ・オタクしか知らないような番組が、どんどんNetflixで提供されている。今やNetflixなくしてアニメの未来はない。 

 

さらに付け加えると、フジTVの「テラス・ハウス (Terrace House)」が、何も起こらない究極の出演者密着型のリアリティ・ショウとして、カルト的人気になりつつある。Netflixはアニメの聖地というだけでなく、ジャパニーズ・カルチャーの発信地として機能しつつある。 

 

現在世界でKポップが人気を得つつあるが、それができた最大の理由は、無償でKポップを配信していたことが大きいと、私は思う。音楽ストリーミング・サーヴィスのSpotify (スポティファイ) には、Kポップ・チャンネルがあって、無料で聴き放題だ。一方、Jポップは自分の利権を気にし過ぎてタダで配信することを嫌ったんだろう、そういうチャンネルはない。おかげでJポップはいつの間にか世界から取り残された。あれだけのこれまでの資産があるのに。ジャパニーズ・アニメだって衰退していく可能性は大いにあった。Netflixは当初、黒船だとか言われていたが、日本以外ではむしろ日本産番組の救世主としての一面を見せ初めている。 

 

 

 

  1. 8.  クラシック・カーや改造車のレース・リアリティ 

 

この流れのそもそもの発端は、ヒストリー・チャンネルの「ポーン・スターズ (Pawn Stars)」および「アメリカン・ピッカーズ (American Pickers)」だと思う。質屋に密着するリアリティ・ショウの「ポーン・スターズ」は、そこに質入れされるもののリストアをする必要があり、同様にアメリカ中を回って掘り出しものを見つけてくる「ピッカーズ」も、捨て置かれていたものをリストアする必要があった。それがクラシックのクルマである場合、「ポーン・スターズ」スピンオフの「アメリカン・リストレーション (American Restoration)」にてリストアされた。 

 

この、クルマのリストアという作業がアメリカのカー・マニアに大きくアピールし、その後、似たようなリアリティ・ショウが続々と生まれた。このジャンルを代表するのが、ディスカバリー・チャンネルの「ファスト・アンド・ラウド (Fast 'N Loud)」というのは、誰も異存のないところだと思う。 

 

現在このジャンルは、クラシック・カーのリストアだけでなく、それを実際にレースとして走らせて勝負させるというサブ・ジャンルを生み出し、さらにその勝負志向が改造車全般に向けられている。下に挙げた番組がすべてレースを主眼としているわけではないが、リストアしたクルマや改造車を走らせて勝負させてみたいというのは、カー・マニアの抑えられない欲求なんだろう。 

 

 

「デトロイト・スティール (Detroit Steel)」ヒストリー    1/28/2017 

「ガレージ・ドリームス (Garage Dreams)」ヴェロシティ   1/28/2017 

「ジ・オート・ファーム・ウィズ・アレックス・ヴェガ (The Auto Firm with Alex Vega)」ヴェロシティ   7/5/2017 

「カースポッティング (Carspotting)」ディスカバリー   7/31/2017 

「ガレージ・リハブ (Garage Rehab)」ディスカバリー   8/29/2017 

「ギア・ドッグス (Gear Dogs)」ディスカバリー   9/4/2017 

「ストリート・アウトローズ: ノー・プレップ・キングス (Street Outlaws: No Prep Kings)」ディスカバリー   2/27/2018 

「シフティング・ギアス・ウィズ・アーロン・カウフマン (Shifting Gears with Aaron Kaufman)」ディスカバリー   3/5/2018 

 


 

  1. 9.  スーパーリアリズム、または工作ケーキ 

 

元々はフード・ネットワークの「エース・オブ・ケーキス (Ace of Cakes)」、およびTLCの「ケーキ・ボス (Cake Boss)」に端を発する、食材としては二の次で、まずは工作、もしくはアートとしての視覚に訴えるケーキ製作番組は、フード・ネットワークの「テキサス・ケーキ・ハウス (Texas Cake House)」でひとまず頂点を極めた。そして類似番組は、その後も陸続として製作され続けている。 

 


「テキサス・ケーキ・ハウス (Texas Cake House)」フード・ネットワーク   7/10/2017  

「チョキウォッキドゥーダ (Choccywoccydoodah)」クッキング・チャンネル   7/21/2017 

「クレイジー・クッキー・ビルズ (Crazy Cookie Builds)」クッキング・チャンネル   8/4/2017 

「ヴェガス・ケーキス (Vegas Cakes)」フード・ネットワーク   11/5/2017 

 


味よりもまず視覚的に人を驚かせたり喜ばせたりすることに主眼が置かれるケーキは、やはり他の食材とは違う。何もわざわざ食べられるもので車や人や動物や死体を製作しなくてもと思うが、だからこそ食材でそういうものを作ることに意義や楽しみを見出す者も多い。 

 


 

  1. 10.  TV番組における外国語の増加 

 

アメリカは世界最大の多民族国家というのに、TV番組では少なくともネットワーク番組においてはほぼ英語しか話されていない。全国民の2割近くはラテン系であるのに、スペイン語番組は専らスペイン語チャンネル専門で、ネットワーク番組でスペイン語主体の番組というのはこれまでほとんどなかった。 

 

その傾向が変わりつつある。これはたぶん、TV番組の主人公に白人と黒人以外の俳優が起用され始めたからだろう。CWの「ジェイン・ザ・ヴァージン (Jane the Virgin)」は、ラテン系のジーナ・ロドリゲスが主人公だ。ABCの「フレッシュ・オフ・ザ・ボート (Fresh Off the Boat)」主人公一家は中国 (台湾) 人であり、たまさか中国語が聞こえる。ケーブルだとロシア語が頻出するFXの「ジ・アメリカンズ (The Americans)」や、ペルシア語が聞こえるショウタイムの「ホームランド (Homeland)」がある。FXの「ザ・ブリッジ (The Bridge)」では舞台は国境を越えてメキシコに入ることも多々あり、すると当然人々はスペイン語を話す。 

 

ABCの「アメリカン・クライム (American Crime)」は民族間の軋轢を描くドラマということもあり、英語以外にスペイン語、フランス語、メキシコの少数民族の言語が話される。Netflixの「ナルコス (Narcos)」に至っては、アメリカ製作のほぼ全編スペイン語ドラマだ。 

 

等々、視聴者は外国語の英語吹き替えではなく、現地で話されている言葉を字幕で読み取る方を好むようになってきている。安易な理解ではなく、よりオーセンティックな、リアルなドラマを求めている。この傾向は今後もしばらくは続くものと思われる。 


 

 

番外: NBCの「ブラインドスポット(Blindspot)」第2シーズンの回文タイトル 

 

最初はまったく気づかなかった。気づいたのは、たまたま連続でエピソード・タイトルを目にする機会があって、なんか、ヘンだな、これ、と違和感を覚えたからだ。なんか、意味をなしてないというか、無理がある。なんだ、これと思ってはたと気づいた。これ、回文だ。第2シーズンの後半の第11話からのエピソードのタイトルが、回文になっている。 

 

Nor I, Nigel, AKA Leg in Iron 

Droll Autumn, Unmutual Lord 

Devil Never Even Lived 

Name Not One Man 

Borrow or Rob 

Draw O Caesar, Erase a Coward 

Evil Did I Dwell, Lewd I Did Live 

Solos 

Senile Lines 

Regard a Mere Mad Rager 

In Words, Drown I 

Mom 

Lepers Repel 

 

Devil Never Even Lived なんて、傑作と思った。こういう言い回しが昔からあるのではなく、番組オリジナルとしたら大したものだ。こういう遊びが好きなミステリ作家の泡坂妻夫が手を叩いて喜びそうだ。わたし負けましたわ。 

 

調べてみたところ、実は「ブラインドスポット」はそもそもの第1シーズンからこの種の遊びがあって、プレミア・エピソードから第2シーズンの途中までは、タイトルが回文でこそないが、アナグラムになっているそうだ。つまり、第1話「Woe Has Joined」は「Who is Jane Doe」であり、第2話「A Stray Howl」は「Taylor Shaw」と主人公の名前になっており、内容を予告している。そうだったのか。第1シーズンは本当にまったく気づかなかった。要するにアナグラムの作り方がうまかったからだろう。第2シーズンの回分はさすがに多少無理があったから、私もヘンだと思って気づいたのだ。 

 

因みに番組の第3シーズンは、今度は回文ではなくて、タイトル中の同じアルファベットに囲まれたアルファベットを一つずつ拾うという作りになっている。つまり第1話の「Back to the Grind」では、最初と最後が同じアルファベットに囲まれたアルファベット、つまりここでは「--to t--」の o を選ぶ。第2話の「Enemy Bag of Tricks」では、「Ene--」の n だ。このようにして解いていくと、 

 

Back to the Grind = O 

Enemy Bag of Tricks = N 

Upside Down Craft = E 

Gunplay Ricochet = O 

This Profound Legacy = F 

Adoring Suspect = U 

Fix My Present Havoc = S 

City Folk Under Wraps = W 

Hot Burning Flames = I 

Balance of Might = L 

Technology Wizards = L 

Two Legendary Chums = G 

Warning Shot = I 

Everlasting = V 

Deductions = E 

Artful Dodge = O 

Mum's the Word = U 

lamorous Night = R 

Galaxy of Minds = L 

Let It Go = I 

Defection = F 

In Memory = E 

 

One of us will give our life となる。どうやらシーズン・フィナーレでは主要キャラクターの誰かが死ぬ確率が高そうだ。 


 










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2017年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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