アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1.  セクハラ、モラハラ暴露の嵐と#MeToo ムーヴメントの台頭 

 

一番最初はFOXニューズのビル・オライリーの弾劾だったように思う。次がそのFOXニューズの元締めたるロジャー・アイルズの解雇と、保守の巣窟と言えるFOXニューズでセクハラ弾劾が連続したのも、今思うといかにもという感がある。 

 

とはいえ、年末のCBSの「ディス・モーニング (This Morning)」のチャーリー・ローズとNBCの「トゥデイ (Today)」のマット・ラウアーの連続解雇は、これは衝撃だった。なんとなればローズはアメリカのジャーナリズムを代表するとも言える、ほとんど「信用、信頼」と同義のパーソナリティだったからだ。だからこそネットワークのCBSだけでなく、公共放送のPBSでも自分のトーク・ショウを持っていた。そのローズがセクハラ解雇される。それはありか。 

 

という衝撃も束の間、今度は間髪を入れずラウアーの解雇も発表された。突然、ある朝、信頼していた同僚の解雇情報を受け、それをTV画面上で伝える共同パーソナリティのサヴァンナ・ガスリーの声も震えていた。ラウアーの場合はジャーナリズムというよりもパーソナリティ前面、つまり、いい人っぽい印象が第一だったから、これまた衝撃はでかかった。 

 

とはいえ、数年前、共同パーソナリティのアン・カリーが視聴率不振で電撃解雇された時、サポートする姿勢を見せなかったラウアーにカリーが不信感を持っていたのも事実なようで、ラウアー解雇の報に接したカリーは、驚くには値しないというようなことを言っていた。セクハラ、モラハラは、それを受けた本人以外は知ることがなく、周りの人間には張本人はいい人のままのように見える。それにしてもこれらのゲスの極み頂点のドナルド・トランプは、誰がどうやって解雇するのか。 



 

  1. 2.  スーパーヒーロー大安売り 

 

なんか、もう、いい加減うんざりという事態になりつつある。このスーパーヒーロー大挙出演番組の乱れ撃ちはいったいなんだ。映画でのアベンジャーズを筆頭とするマーヴェル・コミックスのスーパーヒーロー、そしてスーパーマン、バットマン、というか、既にワンダー・ウーマンがメイン・キャラクターのDCコミックスのスーパーヒーローも、既に飽和気味という感じがしていたのに、TVではそれに輪をかけたスーパーヒーローが次から次へと登場する。 

 

 

「パワーレス (Powerless)」NBC   2/2/2017 

「レギオン (Legion)」FX   2/8/2017 

「アイアン・フィスト (Iron Fist)」Netflix    3/17/2017 

「ザ・ディフェンダーズ (Marvel's the Defendersj)」Netflix   8/18/2017 

「ヴィクセン (Vixen)」CW   8/30/2017 

「インヒューマンズ (Marvel’s Inhumans)」ABC   9/29/2017  

「 ザ・ギフティド (The Gifted)」FOX   10/2/2017 

「フューチャー・マン (Future Man)」Hulu   11/14/2017 

「ザ・パニッシャー (Marvel’s The Punisher)」Netflix   11/17/2017 

「ランナウェイズ (Marvel's Runaways)」Hulu   11/21/2017 

 

中にはスーパーヒーローというよりもギャグもいるが、それでもこんなにスーパーヒーローがいて世の中全然よくならないとしたら、だったらスーパーヒーローなんかそもそも最初から要らないとしか思えない。実は悪人よりスーパーヒーローの方が多いんじゃないか? だいたい最近のスーパーヒーローは、悪者退治より自分自身の境遇や体験で悩んでいたりする。そんなうざいスーパーヒーローの存在そのものが邪魔になりつつあり、だからこそデッドプールのようなアンチヒーローがもて囃される。 




  1. 3.  朝のニューズ・トーク改編 

 

これは前々項とも関係してくるのだが、今秋、元FOXニューズのメギン・ケリーがNBCの「トゥデイ (Today)」フランチャイズで自分の番組、「メギン・ケリー・トゥデイ (Megyn Kelly Today)」を持った。元々ケリーはFOXエグゼクティヴのロジャー・アイルズをセクハラで弾劾していたのだが、その後のマット・ラウアーおよびCBSのチャーリー・ローズのセクハラ解雇により、朝のニューズ・トークの顔ががらりと変わってしまった。 

 

現在「トゥデイ」フランチャイズは、朝7時から9時までが本家「トゥデイ」で、9時「メギン・ケリー・トゥデイ」、10時「トゥデイ・ウィズ・キャシー・リー・アンド・ホーダ (Today with Kathy Lee & Hoda)」が続く。「トゥデイ」のメイン・パーソナリティの一人だったラウアーがいなくなったことで、NBCはニュー・フェイスで穴埋めするのではなく、「キャシー・リー・アンド・ホーダ」のホストの一人、ホーダ・コッブをラウアーの代わりに据えた。 

 

「トゥデイ」も「キャシー・リー・アンド・ホーダ」も同じニューヨークのロックフェラー・センター内のステュディオから放送しているから充分可能なのだが、ポイントは男性ではなく、女性の共同ホストを据えたことにある。NBCのサイトを見ると、共同ホストの一人としてお天気のアル・ローカーも挙がっているが、基本的に女性二人がメイン・ホストだ。これでNBCの朝の4時間はすべて女性パーソナリティがホストを務めることになる。 

 

一方CBSの「ディス・モーニング (This Morning)」は、しばらくして日曜の時事解説番組「フェイス・ザ・ネイション (Face the Nation)」の、ジョン・ディッカーソンを引き抜いてきて新しいホストに据えた。こちらは元々共同ホスト3人体制で、後の二人はノラ・オドネルとゲイル・キングという女性だから、3人共女性にするという選択肢は最初からなかったのだろう。 

 

いずれにしてもこれで、朝のネットワークの表情がかなり変わった。正直言うと、ABCの「グッド・モーニング・アメリカ (Good Morning America)」でもなんかないだろうな、いくらなんでもジョージ・ステファノポロスとマイケル・ストレイハンまでなんかしてたりしないよな、もう見かけの印象だけでは人信じられないし、ストレイハンは実際、「ライヴ・ウィズ・ケリー・アンド・マイケル (Live with Kelly and Michael)」辞める時結構ごたごたしたし、と、部外者ながら冷や冷やもんだった。こういうセクハラ・モラハラでパーソナリティの顔が変わるのを見るのは、あまり気持ちのいいもんではない。 




  1. 4.  リメイク・アクション花盛り 

 

アクション番組はTV番組の基本の一つではあるが、そのアクション・ドラマの、それもリメイクが今年いくつも、特に春に連続して編成された。 

 

「トレーニング・デイ (Training Day)」CBS    2/2/2017 

「24: レガシー (24: Legacy)」FOX    2/5/2017 

「ザ・ブラックリスト: リデンプション (The Blacklist: Redemption)」NBC    2/23/2017 

「テイクン (Taken)」NBC    2/27/2017 

「タイム・アフター・タイム (Time After Time)」ABC   3/5/2017 

「プリズン・ブレイク (Prison Break)」FOX    4/4/2017 

「S.W.A.T. (S.W.A.T.)」CBS   11/2/2017 

 

「テイクン」は、もちろんリーアム・ニーソン主演の「96時間」のオリジナル・タイトルであり、そのTVシリーズ化だ。これらのすべてがよい視聴率を獲得したわけではなく、むしろ成績としては平凡というものでしかない。いくら名を知られているオリジナルがあっても、そのシリーズ化が必ずしも成功するとは限らない。 

 

また、この流れは特に今年に限ることではなく、印象としては咋秋から続いている。とはいえ柳の下にドジョウは二匹もいないということを証明しているという印象の方が強い。 

 

「リーサル・ウェポン (Lethal Weapon)」FOX   9/21/2016 

「マクガイバー (Macgyver)」CBS   9/23/2016 

「ジ・エクソシスト (The Exorcist)」FOX   9/23/2016 

「ウエストワールド (Westworld)」HBO   10/1/2016 

「フリークエンシー (Frequency)」CW   10/5/2016 

「シューター (Shooter)」USA   11/15/2016 




  1. 5.  「ザ・レイト・ショウ (The Late Show)」の躍進とSNLのメリッサ・マッカーシー 

 

世界を滅亡に導いているとしか思えないドナルド・トランプに苦々しい思いを抱いているのは私だけではあるまい。しかしそのトランプに期待する者の方が多いから、あんな奴が大統領になる。 

 

とはいえ、そのことに黙っているわけではないアメリカ人が多いのももちろんだ。その代表が、深夜トーク「レイト・ショウ」ホストのスティーヴン・コルベアだ。コルベアはとにかく、毎晩よくこれだけネタが尽きないよなと思えるほどトランプをコケにしまくった。毎回冒頭の15分間は、トランプを罵倒するためだけに費やす。トランプが最低の男であることは疑いの余地はないが、しかし仮しも一国の大統領である男をこれだけバカにして、よく名誉毀損で訴えられないよなと思うくらいバカにする。あるいは、ある種核心を突いているとトランプ陣営でさえ認めざるを得ないから訴えられないのか。ある意味これだけのネタを提供し続けるトランプの言動に一種感心しさえする。 

 

そしてNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live: SNL)」におけるマッカーシーだ。正直言ってまったく似ていないのだが、それでも言語道断傍若無人という特徴だけはしっかりととらえたホワイトハウス報道官のショーン・スパイサー・ギャグは、本気で腹がよじれるほど笑わせてくれた。スパイサーからアンソニー・スカラムーチに代わった時は、残念でもありあるいはマッカーシーがスカラムーチもやるのかと期待させもした。それがあっという間にサラ・ハッカビー・サンダースとなり、むしろ強面のあの顔はスカラムーチよりやり甲斐があるかもと思わせた。現在まだこれというサンダース・ギャグがないのは、一応女性であるサンダースに手加減しているのかもしれない。 

 










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2017年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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