アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1.  選挙、選挙、選挙


むろんアメリカ大統領選挙のことだ。始まったのは4年前からと言える。しかし選挙戦、およびその報道がヒート・アップしたのは昨年、あろうことかドナルド・トランプがあれよあれよという間に共和党指名を獲得してからだ。まさか、しかしいくらなんでも良識ある国民がトランプを本当に大統領に選出するようなことはあるまい、と私は高を括っていたのだが、その予想は見事に裏切られた。予想を覆す出来事やスキャンダル、大人とも思えない中傷合戦の連続とその報道は、これ以上ないリアリティ・ショウとも言えた。 

 

ニューズ以外で面白かったのが、リベラルなホストが大半の深夜トークだ。CBSの「レイト・ショウ (Late Show)」のスティーヴン・コルベアを筆頭に、HBOの「ラスト・ウィーク・トゥナイト (Last Week Tonight)」のジョン・オリヴァー、NBCの「レイト・ナイト (Late Night)」のセス・マイヤーズ、コメディ・セントラルの「デイリー・ショウ (Daily Show)」のトレヴァー・ノア等が、ここを先途とばかりにトランプ・バッシング的なトランプ・ネタを展開した。 

 

なかでもコルベアはとにかくトランプをコケにしまくった。毎夜毎夜よくもまあこれだけネタが尽きないよなと思わせるくらい、番組の冒頭の10分程度を使ってトランプを罵倒し続けた。これが私を含めたトランプ嫌いの溜飲を下げさせたのは言うまでもなく、おかげで「レイト・ショウ」は放送開始以来裏番組のジミー・ファロンがホストの「トゥナイト (Tonight)」の後塵を拝し続けて来たのだが、ここへ来て連続して「トゥナイト」より高い視聴率を獲得するようになっている。ある意味宿敵トランプがコルベアを助けたとも言える。コルベアにしては歯痒い思いに違いない。




  1. 2. 「CSI」フランチャイズの終焉と「シカゴ」フランチャイズの台頭


CBSの「CSI」フランチャイズは、長らくアメリカのドラマ・シリーズの顔だった。基幹番組の「CSI」を筆頭に、一時は「CSI: マイアミ (CSI: Miami)」、「CSI: ニューヨーク (CSI: NY)」も製作された。しかし2010年代に入るとさすがに息切れし、昨年「CSI」がついに最終回を迎え、最後のフランチャイズ番組となった「CSI: サイバー (CSI: Cyber)」も結局キャンセルされ、長らく続いた「CSI」シリーズも終焉を迎えた。 

 

NBCでは「CSI」と肩を並べてネットワークを代表するフランチャイズ番組だった「ロウ&オーダー (Law & Order)」フランチャイズの最後の生き残り「ロウ&オーダー: SVU (Law & Order: Special Victims Unit)」がまだ頑張っている。そしてその「ロウ&オーダー」プロデューサーのディック・ウルフが、今度はニューヨークではなくシカゴを舞台に製作している「シカゴ」フランチャイズが、現在人気を上げている。 

 

そもそものシカゴの消防隊の活躍を描く「シカゴ・ファイア (Chicago Fire)」が登場したのが2012年、さらに2014年にシカゴ警察を描く「シカゴP.D. (Chicago P.D.)」、そして2015年に救急隊の活躍をとらえる「シカゴ・メッド (Chicago Med)」がラインナップに加わり、2017年早々には十八番とも言える司法の活動を描く「シカゴ・ジャスティス (Chicago Justice)」も始まる。「ロウ&オーダー」でやっていたことを、風呂敷を広げてシカゴに移植したと言える展開だ。そして場所を移したことによる新風の吹き込みに成功し、着実に視聴者を獲得している。NBCの新しい基幹番組になるのも時間の問題だ。




  1. 3. 素人密着型リアリティ・ショウの今後


特異なキャラクターを持つ素人に密着するリアリティ・ショウは、人気が出るとだいたいにおいて瓦解して自滅する運命にある。特にこの手のリアリティ・ショウが多いTLCにおいてこの傾向が顕著で、六つ子を含めた8人の子がいる家庭をとらえる「ジョン・アンド・ケイト・プラス・エイト (Jon and Kate Plus 8)」、子供のビューティ・ページェント入賞に生き甲斐を燃やす「ヒア・カムス・ハニー・ブー・ブー (Here Comes Honey Boo Boo)」、19人の子がいる「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング (19 Kids and Counting)」、音楽をやる大家族「ザ・ウィリス・ファミリー (The Willis Family)」等、皆そうだ。 

 

特に「ナインティーン・キッズ‥‥」と「ウィリス・ファミリー」はセックス・スキャンダル絡み、それも家族の長や長兄が家族のまだ幼い女の子に手を出していたとかで、それまでの仲良し大家族的展開から一転してインセストの泥沼に陥り、番組はキャンセルされた。音楽家庭のウィリス・ファミリーはそれぞれが音楽に秀で、NBCのタレント発掘勝ち抜きリアリティの「アメリカズ・ガット・タレント (America's Got Talent)」にも登場して注目を集めていたのに、残念だ。 

 

その手の番組はそうやってこのまま消えていくのだろうと思いきや、実はそうじゃなかった。「ナインティーン・キッズ‥‥」からは長女ジルと次女ジェサ夫婦に密着する「ジル・アンド・ジェサ: カウンティング・オン (Jill and Jessa: Counting On)」が始まり、ジョンとの離婚のごたごたも解消してほとぼりの冷めた「ジョン・アンド・ケイト・プラス・エイト」のケイトは、一人で8人の子供たちを育てる「ケイト・プラス・エイト (Kate Plus 8)」を始め、ハニー・ブー・ブーではなく、その超強力な母親ジューンに密着するWeの「ママ・ジューン: フロム・ナット・トゥ・ホット (Mama June: From Not to Hot)」も放送が始まるなど、登場人物も放送局もただでは済まさなかった。もしかしたらさすがに業界から抹殺されただろうと思われる「ウィリス・ファミリー」も、やがてスピンオフが現れるかもしれない。




  1. 4. 塀の中の人たち


冤罪で長らく刑務所入りしていた男が釈放されて、元の生活に戻る難しさを描くサンダンスのドラマ「レクティファイ (Rectify)」が、近年の刑務所ものの走りと言えるかもしれない。そして昨年、長らく刑務所に入っていたがたぶん冤罪だったと思われる男をとらえたネットフリックスの「メイキング・ア・マーダラー (Making a Murderer)」がドキュメンタリーとしては異例の成功を収めると、機は熟したとばかりに刑務所の中での生活に注目するドキュメンタリー・リアリティ番組が次々と製作された。 

 

「ビハインド・バーズ: ルーキー・イヤー (Behind Bars: Rookie Year)」A&E。刑務所の新人刑務官の職務に密着する。 

「シックス・デイズ・イン (60 Days in)」A&E。一般人を60日間、本物の刑務所で囚人として過ごさせる。 

「24・トゥ・ライフ (24 to Life)」ライフタイム・ムービー・ネットワーク。刑務所に収監される直前の24時間をとらえる。 

「ジャッジメント・デイ: プリズン・オア・パロール? (Judgement Day: Prison or Parole?)」ID。囚人の保釈の判断を決める現場に同席する。 

「アンロッキング・ザ・トゥルース (Unlocking the Truth)」MTV。冤罪と思われる者に救済の手を伸べる。 

「サーティーンス (13th)」ネットフリックス。アメリカの刑務所システムを考える。 

 

ドラマでも、HBOの「ザ・ナイト・オブ (The Night of)」を筆頭に、現行ドラマのCBSの「クリミナル・マインド (Criminal Minds)」やUSAの「スーツ (Suits)」でも主要登場人物が刑務所入りし、塀の中での出来事を描くという展開が現れた。ついでに言うと、エル・チャポというメキシコの麻薬王が、逮捕されいったんは刑務所に入れられたが、トンネルを掘って脱走するというまるでTVか映画みたいな現実の出来事もあった。そうそう、ずばりFOXの「プリズン・ブレイク (Prison Break)」も装いも新たに新シーズンが始まる。当分は刑務所ものが続きそうだ。 




  1. 5. 「マネーの虎」の影響を受けた起業プレゼン・リアリティ 


フジテレビの「料理の鉄人」と東京放送の「SASUKE」は、アメリカのリアリティ・ショウに革命を起こした日本産の二大番組と言える。アメリカで両番組を模したり新しいアイディアを投入して発展させたリアリティ・ショウは、それこそ枚挙に暇がない。その列に連なりそうなのが、日本テレビの起業プレゼン・リアリティ、「マネーの虎」だ。 

 

「マネーの虎」のリメイクであるABCの「シャーク・タンク (Shark Tank)」は、2009年から放送が始まっている。放送開始時に特に注目されたわけでも成績がよかったわけでもないが、一獲千金を夢見る起業志向のアントレプレナーが多いアメリカでは、それでも地道に人気を獲得して現在まで続いている。この安定人気に目をつけた他の放送局も同様の番組の製作を開始、気がつけば、いつの間にか同様の番組がいくつもある定番ジャンルに発展している。 

 

「ウエスト・テキサス・インヴェスターズ・クラブ (West Texas Investors Club)」CNBC 

「ビリオン・ダラー・バイヤー (Billion Dollar Buyer)」CNBC 

「アメリカズ・グレイテスト・メイカーズ (America's Greatest Makers)」TBS 

「ブルー・カラー・バッカーズ (Blue Collar Backers)」ディスカバリー 

「アドヴェンチャー・キャピタリスト (Adventure Capitalist)」CNBC 

「クリーヴランド・ハッスルズ (Cleveland Hustles)」CNBC 

「プロジェクト・ランウェイ: ファッション・スタートアップ (Project Runway: Fashion Startup)」ライフタイム 

 

これらの番組の多くをビジネス・チャンネルのCNBCが編成してるのは、なるほどと思わせる。「ウエスト・テキサス・インヴェスターズ・クラブ」のジャッジの一人、マイク・「ルースター」・マコノヒーは、著名な俳優のマシュウ・マコノヒーと血縁関係で、「クリーヴランド・ハッスルズ」はNBAのスーパースター、レヴロン・ジェイムズがプロデュースしており、それで注目されてもいる。それにしても競争が入ると、アメリカ人は血が騒ぐのだった。 












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2016年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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