アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1. 「エンパイア (Empire)」はTV界の救世主となるか


FOXのドラマ「エンパイア」は、黒人ドラマであるにもかかわらず、あるいは黒人ドラマであるがために、2015年最大の新規ヒット・ドラマになった。近年、アメリカTV界、特にネットワークは、若いミレニアル世代がTVを見なくなり、ネットフリックス等の新規サーヴィスとの競争によって、年々視聴者を減らしている。ここ数年、ドラマだろうがコメディだろうがリアリティ・ショウだろうが、ヒットらしいヒット番組は現れなかった。


そこへ来て「エンパイア」のブレイクは、それが現在特に映画界で言われているような白人中心ではなく、黒人ドラマということでも注目された。現在ではTV界では映画ほど白人ばかりではなく、ABCの「スキャンダル (Scandal)」や「ハウ・トゥ・ゲット・アウェイ・ウィズ・ア・マーダー (How to Get Away with a Murder)」等、黒人が主人公の番組、黒人ホストのトーク・ショウ等は、既に結構見られる。それでも、黒人主人公ドラマが視聴率トップ争いをすると、やはり注目されるのだった。この勢いをどこまで維持していられるかが今後の課題だ。




  1. 2. 「ザ・ジンクス (The Jinx)」と、「メイキング・ア・マーダラー (Making a Murderer)」 


HBOの「ジンクス」もネットフリックスの「メイキング・ア・マーダラー」も、ドキュメンタリー・シリーズだ。通常、ドキュメンタリーが世間を賑わすことなぞまずないが、この2本は違った。


「ジンクス」は、過去に何件もの殺人事件に関係した金持ちのロバート・ダーストをとらえるもので、複数の妻を含め身近に何人もの殺された者がおり、心証ではどう見ても真っ黒だが、物的証拠がないために、これまで有罪を免れてきた。しかし彼をヴィデオに収めている時、収録が終わったと思ったダーストが、「全部オレがやったんだよ」という罪の告白ともとれる独白を思わず漏らしたのをマイクがちゃんと拾っていたもんだから、スキャンダルになった。彼は本当にクロなのか、この録音は証拠として有効なのか。事件はまだ終わっていない。


一方の「メイキング・ア・マーダラー」は逆に、過去に冤罪で懲役刑を受けたことがあり、出所後さらに殺人罪で有罪判決を受けたスティーヴン・エイヴリーをとらえたもので、これまたストリーミングされるや否や反響を巻き起こし、裁判やり直しや解放の署名運動が起こった。普段はまず注目されないドキュメンタリーというジャンルが滅多にないシリーズとして製作され、両者とも大きな関心を集めた。ドキュメンタリーというジャンルに改めて注目した視聴者も多かろう。




  1. 3. ネットフリックス/アマゾン/Hulu (フールー)


ストリーミング・サーヴィスの3強、ネットフリックス、アマゾン、Huluは、着実にその勢力を伸ばし、視聴者を取り込んでいる。ネットフリックスは「ハウス・オブ・カーズ (House of Cards)」、「オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック (Orange Is the New Black)」だけに留まらず「ビースツ・オブ・ノー・ネイション (Beasts of No Nation)」というオリジナル映画を製作、劇場公開とストリーミングを同時提供、ジャンルの垣根を飛び越えている。


アマゾンも「トランスペアレント (Transparent)」、「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル (Mozart in the Jungle)」「ザ・マン・イン・ザ・ハイ・キャッスル (The Man in the High Castle)」等の話題作を有し、Huluも「カジュアル (Casual)」、「ザ・ミンディ・プロジェクト (The Mindy Project)」等で追い上げを図る。


一方、なんでもありのネットフリックスのようだが、実はTV番組のラインナップに現行番組はほとんどない。ネットワークが経営母体のHuluの場合、今度は逆にあまりオリジナル番組製作に力を入れ過ぎて親ネットワークを食ってしまうのも考えものと、どこもウィークポイントはある。そんなこんなで今後もシェア争いはますます熾烈を極めるだろう。




  1. 4. LGBTは市民権を得たか


アメリカにはゲイやレズビアン、トランス等の、いわゆるLGBT (Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender) は多い。ロゴ (LOGO) という専門のチャンネルもあるくらいだ。これまではゲイがLGBTを代表しているという印象が強かったが、アマゾンの性転換した元父を描くドラマ「トランスペアレント (Transparent)」が注目され、さらに今年は性同一性障害を持つ者や、実際に性転換の手術を行った者をとらえるリアリティ・ドキュメンタリーがいくつも編成された。


  1. ニュー・ガールズ・オン・ザ・ブロック (New Girls on the Block) ディスカバリー・ライフ

  2. ビカミング・アス (Becoming Us) ABCファミリー

  3. アイ・アム・ジャズ (I Am Jazz) TLC

  4. アイ・アム・ケイト (I Am Cait) E!


中でもブルース・ジェンナーが女性化し、ブルースから女性のケイトリンになった後の様子を綴った「アイ・アム・ケイト (I Am Cait)」は、この種の番組としては異例とも言える注目を集めた。なんとなればジェンナーは、オリンピック十種競技の元金メダリストという著名人だからだ。彼のようなセレブがトランスしたことにより、トランスジェンダーは一気に市民権を得たと言える。それにしても彼 (女) はもし今オリンピックに出られるとしたら、女性として出場するのだろうか。それなら今でも充分メダルを狙えそうな気がする。




  1. 5. ブライアン・ウィリアムズの失脚 


今年最大のがっくりニューズがこれだ。元々私はネットワークのワールド・ニューズ・アンカーとしては、出たがり傾向のあるウィリアムズは、特に買ってなかった。とはいえ、実力のない者がネットワークのワールド・ニューズでアンカーを務められるわけもなく、好き嫌いはともかく、その力は認めないわけにはいかなかった。


その、NBCで「ナイトリー・ニューズ (Nightly News)」のアンカーを担当しているウィリアムズが、実はイラク戦争時に事実を歪曲して自分をヒーロー化してニューズ報道をしていたことが明るみに出た。事件としてはかなり前の出来事で、これまでばれなかったものを口を閉ざしていればたぶん今後もばれずに済んだと思われるものを、わざわざまた自ら口にして、今度はこれは事実じゃないと気づく者がいたためにスキャンダルになった。ニューズ・アンカーがニューズを捏造するのは、これはもう一発でアウトだ。イクメン議員が浮気しているのとどっちが罪が重いかってくらい、やってはいけないことの筆頭だ。当然ウィリアムズは間髪を入れずに閑職に飛ばされた。


話は変わるが、先頃、うちにネズミが出た。最初気づかなかったのだが、わざわざ縄張りだと宣言したいのか、いくつか通り道に糞をしてあったのに気づいた。気づけば、こちらも対応を考える。食事の後はカスは残さないようにキッチン回りは徹底的に綺麗にし、防害虫スプレー、ブリーチや香草等、いくつか罠や害獣対策を施し、さらに超音波や電磁波で撃退するという、本当に効果あるかわからないものまで買って、何重にも撃退法を試した。飼いネコにも言いくるめておいたのが奏功したのか、老ネコなのにある時ちゃんと一匹捕え、ま、それはよかったのだが、わざわざネズミの死骸を自分のエサ入れの中に置いてあった。いずれにしてもさすがにこれだけやると、その中の幾つかは効果あったようで、しばらくするとネズミの痕跡はなくなった。


このネズミ対策をしている時に、時々私が思い出したのがウィリアムズだ。自分がここにいるという痕跡を残さなければ私も気づかず、たぶん知らず知らずのうちにネズミに餌を与えながら共生しているということになったかと思う。しかし見えるところにわざわざこれ見よがしみたいに糞があれば、こちらも気づき、対応する。わざわざ不必要なことをして叩かれる。とはいえ、こういう者たちにとって自分の存在を見せびらかすのは、生きているのと同じことくらい意味のあることらしい。











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2015年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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