アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。後編。




  1. 6. 人気番組のコンパニオン・ショウ


これは前回書いたAMCの「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」とも関係するのだが、ヒット番組の人気にあやかり、そのおまけ的なコンパニオン番組を編成するという試みが幾つか出てきた。しかも信じられないことにその手のわりと安手の番組が、これまた結構人気がある。


私が覚えている限りでは、CBSの「サバイバー (Survivor)」が、優勝者が決まった後に番組参加者を集めてリユニオン特集を組んだことが、そもそものこの種の番組の走りだと思う。爾来特に勝ち抜き系リアリティ・ショウで、シーズン終了後にリユニオン特集を放送することが定番化した。


近年は、その種の番組がリアリティ・ショウに限らなくなっただけでなく、さらにシーズンの終わりではなくシーズン中、本編と共に毎週コンパニオン・ショウが編成されるところに特徴がある。AMCの「ウォーキング・デッド」直後に番組について意見を戦わす「トーキング・デッド (Talking Dead)」は、本編に匹敵するとまでは行かないが、それでも充分その他の番組に勝る視聴率を毎回獲得している。


これに気をよくしたAMCは、「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」の最終シーズンでは、コンパニオン・ショウの「トーキング・バッド (Talking Bad)」を編成した。これを見てブラヴォーは人気リアリティの「ザ・リアル・ハウスワイヴズ‥‥ (The Real Housewives...)」フランチャイズを中心とするブラヴォー・リアリティのコンパニオン、「ウォッチ・ホワット・ハップンス・ライヴ (Watch What Happens Live)」を投入、ライフタイムは「プロジェクト・ランウェイ (Project Runway)」コンパニオンの「アフター・ザ・ランウェイ (After the Runway)」を、MTVは「ティーン・ウルフ (Teen Wolf)」コンパニオンの「ウルフ・ウォッチ (Wolf Watch)」を、ディスカバリーは「ネイキッド・アンド・アフレイド (Naked and Afraid)」コンパニオンの「ディスカバリー・アフター・ダーク (Discovery After Dark)」を編成するなど、この種のコンパニオン・ショウが続々と現れた。


これってちょっと見てみると、ゲストがそれぞれ好き勝手なこと喋ってたまさか笑いをとる日本のヴァラエティ・ショウと、ほとんど体裁は変わらない。あるいはABCの「ザ・ヴュウ (The View)」みたいな、トーキング・ヘッズものみたいになっている。私個人の意見としては、特に見たい気にさせるものではないが、こういうのが好きな視聴者もちゃんとアメリカにも存在するようだ。




  1. 7. 外国番組のリメイク


これは特に今年に限ったことではないが、暮れから年明けにかけ、外国で評判となった番組のアメリカでのリメイクが相次いだ。しかも、どれもリメイクする意味があるの、と思える番組ばかりが相次いだ。


「ブロードチャーチ (Broadchurch)」(英) → 「グレイスポイント (Gracepoint)」FOX

「ザ・スラップ (The Slap)」(豪) →NBC

「シークレッツ・アンド・ライズ (Secrets and Lies)」(豪) → ABC

「ザ・リターンド (The Returned (Les Revenants))」(仏) → A&E


特に「ブロードチャーチ」のリメイク「グレイスポイント」は、主演までが同じ俳優だ。場所を変えて、もしかしたらストーリーもちょっといじったかもしれないが、その、主演俳優が同一であるというそのことが、私の場合よけい見る気をなくさせたのだが、そうじゃない者も多いのだろうか。


オリジナルがオーストラリア製の「スラップ」は、既にアメリカでも放送済みで、英国製番組同様、オリジナルも英語を喋り、そのアクセントがアメリカと異なることでむしろエキゾティックな興趣が増していたのを、わざわざアメリカで撮り直してそういった面白さを減じてしまう。案の定、既に数回放送されただけで視聴率は低迷している。


リメイクは、「リターンド」や、ショウタイムの「ホームランド (Homeland)」、FXの「ザ・ブリッジ (The Bridge)」、AMCの「ザ・キリング (The Killing)」のように、オリジナルが外国語の場合なら効果的かもしれないが、オリジナルが英語で、しかもアメリカで既に放送済みの場合、リメイク製作には首を傾げざるを得ない。




  1. 8. 南部はレッドネックばかりではない


ヒストリー・チャンネルの「スワンプ・ピープル (Swamp People)」、A&Eの「ダック・ダイナスティ (Duck Dynasty)」、そしてTLCの「ヒア・カムズ・ハニー・ブー・ブー (Here Comes Honey Boo Boo)」は、南部のいわゆるレッドネックと呼ばれるブルー・カラーの奇矯な人々に密着するリアリティ・ショウというジャンルを定着させた。


とはいえ、もちろん南部にだってリッチな上流階級の人々は存在する。レッドネックものに業を煮やした? そういうレッドネックと対極の富裕層の人々の所業に密着するリアリティ・ショウが相次いで登場したのも今年の特色だ。


ビッグ・リッチ・アトランタ (Big Rich Atlanta) スタイル

コートニー・ラヴス・ダラス (Courtney Loves Dallas) ブラヴォー

サザン・チャーム (Southern Charm) ブラヴォー

クリスリー・ノウズ・ベスト (Chrisley Knows Best) USA

パーティ・ダウン・サウス (Party Down South) CMT

クレイジー・ハーツ: ナッシュヴィル (Crazy Hearts: Nashville) A&E

プライヴェイト・ライヴズ・オブ・ナッシュヴィル・ワイヴズ (Private Lives of Nashville Wives)」TNT

BAPs (BAPs) ライフタイム

ラヴ・サイ・シスター (Love Thy Sister) We

 



  1. 9. 「ママと恋に落ちるまで(How I Met Your Mother)」最終回の波紋


これだけ視聴者を待たした挙げ句、最終回になって初めて (というわけでは実はないが) 登場した、「ママ」。しかしそのママが判明した最終回で、ママはその後あっけなく死んでしまったことが明らかとなる。結局視聴者は待たされ続けた挙げ句、ママはレッド・へリングであったことが判明、当然視聴者は怒った。私は特に番組のファンというわけでもなく、ただ最終回に収まりの悪さを感じただけだったが、本気で怒った視聴者も多かった。


そこで事態に善処すべく、プロデューサーがとった対応策が、もう一つ別の、従来視聴者に目くばせしたハッピー・エンドの新ヴァージョンをDVDに挿入するというものだった。いかにも泥縄式の、行き当たりばったりの善後策に過ぎないが、しかし、これでは何年後かには、記憶している「ママと恋に落ちるまで」のエンディングが、人によって異なるという事態が発生してしまう。その時、本物のエンディングはどちらということになるのだろうか。今後、こういう例がいくつも起こってくることが予測される。




  1. 10. タイニー・ハウス


タイニー・ハウス番組 (Tiny House Shows) の項でも書いたのだが、やはりもう一度言っておきたい。アメリカでもタイニー・ハウスが市民権を獲得しつつある。あるいは、そういう狭小住宅に住むという選択肢しかない人々が増えている。マンハッタンのような大都会では、もう新築で平屋という物件はなく、高層ビルとして上に伸びて行かざるを得ない。その時、真っ先に犠牲になるのが部屋の広さであることは言うまでもない。


とにかくマンハッタンの近年の居住物件の値上がりは異常だ。東京も稼いでないといいとこは住めないなと思ったが、マンハッタンはさらに居住費は高い。ニューヨークは、食材に消費税はかからない上、食材自体がかなり安いので、自炊すればかなり食費を浮かすことができるため、それでも暮らせていける。しかしこれ以上家賃やローンが上がり続けると、マンハッタンを脱出せざるを得ない人々はもっと増えるだろう。タイニー・ハウスはもはやセカンド・ハウスとしてだけでなく、必要不可欠の選択肢としてそこにある。HGTVやFYIで主流を占める家のリノヴェイション・リアリティも、今後タイニー・ハウス関係がますます増えるに違いないと思う。




番外: 毒ヘビを扱う牧師の死


ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルの「スネイク・サルヴェイション (Snake Salvation)」は、毒ヘビを教会のサーヴィスに使用する、ケンタッキー州ミドルズボロのペンテコステ派の牧師ジェイミー・クーツらに密着するリアリティ・ショウだ。なんでも聖書には神の使徒はヘビの毒に侵されることはないという一節があるそうで、それを信じて実際に教会サーヴィスにがらがらヘビ等の毒ヘビを使用し続けている。このような毒を持つ生物を飼うのは危険であり、当然当局に届け出が必要で勝手に移動したりできないが、クルマでヘビを持ち運んだのが見つかって逮捕されたこともあるそうだ。それで人を教え導くってか。


クーツはこれまで無傷だったわけではなく、噛まれたのが原因で手の指がなかったりするそうだが、それでも教会の教えを忠実に守って、毒ヘビを使い続けていた。しかしついにある時、致命傷になりそうな咬み傷を負った。それでもクーツは教えに従って医療措置を拒否したそうで、結果、命を落とすことになった。殉教と言えるのだろうか。当然ではあるが、番組の第2シーズンは製作されなかった。












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2014年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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