アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1. ストリーミング・サーヴィスの台頭と大人視聴 (一気視聴)


まだこの視聴形態に対する日本語が定着していないようなので勝手に大人視聴と名付けて呼ばせてもらっているが、今年だけでなく、将来のTV界の視聴形態を土台から揺るがせかねない火種がこれだ。放送局ではない、ストリーミングのコンテンツ・サーヴィスであるネットフリックス (Netflix) が主導して、HuluやAmazon、iTunesでも主流となりつつあるこの視聴形態は、TVの1シーズン、10本程度から多い時は20数本をまとめて一気に視聴するというもので、英語ではビンジ・ウォッチング (Binge Watching) と呼ばれている。


ストリーミングによってPC、スマートTV等で普通にTV番組を視聴できるようになったからこそできる新しい視聴形態で、一人で籠もって丸一日、時には数日かけてシリーズものをまとめて見る。思う存分その世界に浸れるが、むろんその分、外の世界とは没交渉になる。見る方に体力も必要だし、引きこもりも助長しそうだ。TVとは居間で家族で一緒に見るものではなくなっている。




  1. 2. ストリーミング・サーヴィスのオリジナル番組


上に挙げた大人視聴が新しいTVの視聴形態だとしたら、その傾向の促進に一役買っているのが、各ストリーミング・サーヴィスによるオリジナル・コンテンツだ。これもやはりネットフリックスが牽引しており、ポリティカル・ドラマの「ハウス・オブ・カーズ (House of Cards)」は今年のエミー賞にもノミネートされ、刑務所コメディ「オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック (Orange Is the New Black)」も来年ノミネートは確実であるなど、高く評価されている。むろんネットフリックスはこれらの番組を1シーズン分全エピソード一度に提供した。


TV受像機を持っているだけでは見れないコンテンツであり、正確にはTV番組ではない。したがってブロードバンドとは無縁の多くの高齢者家庭においてはまず誰も見てないと思われるが、それでも無視できないというところに番組の質の高さや勢いが窺われる。


一方Amazonによるオリジナル・コンテンツは一度に全エピソードが提供されているわけではなく、週一本ずつみたいな感じで、感覚としては今のTV番組のように配信されている。こちらはむしろ1シーズンを一度に提供するのではなく、小出しにしていった方が視聴者獲得に有効と考えている。これらの新規参入組が加わったことにより、アメリカのTV界、否、コンテンツ界は、活況を呈しているとも混乱を極めているとも言える、過去体験したことのない新世代に突入している。数年後には業界地図が塗り替えられている、というか、業界自体がまったく新しいものになっているかもしれない。




  1. 3. 「ダック・ダイナスティ (Duck Dynasty)」と「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」 


地盤沈下の進むネットワーク番組の代わりに躍進を続けるのが、ケーブルTVで放送されているチャンネルのオリジナル番組だ。その中でも特に、A&Eの「ダック・ダイナスティ」と、AMCの「ザ・ウォーキング・デッド」の人気は突出している。既にネットワーク番組と伍しても遜色ない成績を上げており、さらにまだまだ視聴者を獲得しそうな勢いだ。


「ウォーキング・デッド」はゾンビ・ドラマであり、「ダック・ダイナスティ」は南部の成り上がり一家の奇矯な振る舞いをとらえる密着型リアリティだ。それがなぜここまで人気を集めているかというと、やはり他では見ることのできない非常に面白い番組だからと言うしかない。


「ウォーキング・デッド」はゾンビ・ホラーであると同じく普通の人間社会内におけるパワー・ゲームをとらえたドラマでもある。こういう極限的状況であるからこそ、個人間の葛藤もドラマティックに描かれる。一方の「ダック・ダイナスティ」における主人公のフィル・ロバートソンは、いわゆる南部の洗練されていない人間を呼ぶヒルビリーとかレッドネックという言葉がぴたりと当てはまる田舎者で、事業が成功して超のつく金持ちのくせに、やることなすこと常識破りなところが受けている。


「ウォーキング・デッド」に関しては、ドラマ番組の常として、まず最初に企画はネットワークに持ち込まれた。しかしあまりにヴィジュアルが強烈過ぎるとしてどこでも製作が見送られた。その落ちこぼれた企画をケーブルのAMCが拾い上げ、ネットワーク番組を超える人気番組に育て上げた。他の人がびびって手を出さないところにこそ金鉱は眠っている。




  1. 4. ヒルビリー/レッドネック・リアリティ


「ダック・ダイナスティ」が超人気番組になる前から、この種のヒルビリー・リアリティは隆盛を極めていた。既に露出過剰と言っていいくらいだ。このジャンルの草分けと言えるヒストリー・チャンネルの「スワンプ・ピープル (Swamp People)」を嚆矢として、TLCの「ヒア・カムズ・ハニー・ブー・ブー (Here Comes Honey Boo Boo)」、アニマル・プラネットの「ヒルビリー・ハンドフィッシン’ (Hillbilly Handfishin’)」等、この手の番組は枚挙に暇がなく、今年になってからも続々と新番組が編成されている。



「ヒルビリー・フォ-・ハイヤ (Hillbillies for Hire)」CMT

「ハットフィールズ&マッコイズ: ホワイト・ライトニング (Hatfields & McCoys: White Lightning)」ヒストリー

「ザ・レジェンド・オブ・シェルビー: ザ・スワンプ・マン (The Legend of Shelby the Swamp Man)」ヒストリー

「ティックル (Tickle)」ディスカバリー

「ポーター・リッジ (Porter Ridge)」ディスカバリー

「ヒルビリー・スリル・ライド (Hillbilly Thrill Rides)」デスティネーション・アメリカ

「マッド・ラヴィン・レッドネックス (Mud Lovin Rednecks)」アニマル・プラネット



「ホワイト・ライトニング」のハットフィールズ&マッコイズというのは、むろんアメリカ史に残るいがみ合い殺し合いを演じた、あのハットフィールド家とマッコイ家のことだ。彼らが現在も仲違いしながら生活している様に密着するもので、そういや彼らもヒルビリーに分類される存在だった。現在の「ダック・ダイナスティ」人気から察するに、ヒルビリー・リアリティ人気はまだまだ今後も続きそうだ。




  1. 5. ネットワークによる猟奇ドラマ


今年、ネットワークがかなり猟奇サスペンス・ドラマに手を染めたのは、明らかに「ザ・ウォーキング・デッド」の成功に影響されたものだろう。



「ザ・フォロイング (The Following)」FOX

「ハンニバル (Hannibal)」NBC

「ドラキュラ (Dracula)」NBC

「カルト (Cult)」CW



これに意外に猟奇のNBCの「ザ・ブラックリスト (The Blacklist)」を入れてもいいかもしれない。これらの番組は、「ウォーキング・デッド」以前なら明らかにネットワーク番組ならここまでは描かなかっただろうと思える血みどろスプラッタが展開する。「ウォーキング・デッド」以降、血やグロさに関しての視聴者の閾値が下がったのは間違いないが、それにも増して、ネットワーク・スリラーも演出がうまくなったという印象を受ける。「フォロイング」や「ハンニバル」は、数年前ならこれがネットワークで放送されるとは想像もできなかった。











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2013年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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