6. 翳り始めた「アメリカン・アイドル」の天下 


今年、長らくFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」の一人勝ちが続いていた音楽関係番組の構造に多少の変動が見え始めた。既にNBCの「ザ・シング-オフ (The Sing-Off)」およびFOXの「グリー (Glee)」の放送が2009年から始まってこそいたが、まだ「アイドル」の牙城を脅かすものではなかった。そこに昨年、燦然と登場したのがNBCの「「ザ・ヴォイス (The Voice)」だ。同様にFOXの「ジ・エックス・ファクター (The X Factor)」も始まり、そして今年、同様の勝ち抜きリアリティではABCが「デュエッツ (Duets)」を編成、ミュージカル・ドラマではNBCの「スマッシュ (Smash)」、ABCの「ナッシュヴィル (Nashville)」が登場した。 


これらの番組は、依然として視聴者数でこそ「アイドル」に及ばないが、話題性だけをとれば、「ヴォイス」は既に「アイドル」と並ぶか、その上を行っている。「スマッシュ」、「ナッシュヴィル」もミュージカルという新分野で人気を獲得している。その「スマッシュ」主演のキャサリン・マクフィーは「アイドル」出身なのだが、「アイドル」出身者が本家を脅かす存在になりつつある。結局物事はこうやっていつの間にか新しい事態に移行して行くのだろう。 




7. トーク/ヴァラエティ・ショウのマイナー (メイジャー) チェンジ 

 

近年、日中、深夜を問わず、トーク・ショウやヴァラエティ、ニューズ関連番組においてパーソナリティの刷新が続いている。単発的、間歇的というには毎年必ずなんかあるし、連続して起こっているというほど頻繁に起きている感じもしない。 


今年はCBSの「ジ・アーリー・ショウ (The Early Show)」が「ディス・モーニング (This Morning)」に本家帰りし、NBCの「トゥデイ (Today)」のアン・カリーが更迭され、ABCの「グッド・モーニング・アメリカ (Good Morning America)」がほぼ20年ぶりに視聴率1位の座を奪還し、ABCの「ライヴ・ウィズ・ケリー (Live With Kelly)」の新共同ホストが決まり、元「トゥデイ」ホストのケイティ・コーリックが自分の名を冠した新トーク・ショウ「ケイティ (Katie)」のホストに就任し、シンジケーションの「フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア (Who Wants to Be a Millionaire?)」のメレディス・ヴィエイラが番組降板を発表した。 

 

新年度は早々にABCのジミー・キメルの「ジミー・キメル・ライヴ (Jimmy Kimmel Live)」の放送時間帯が30分早まり、夜11時半から「ジミー・キメル」、CBSのデイヴィッド・レターマンの「レイト・ショウ (Late Show)」、NBCのジェイ・レノの「トゥナイト (Tonight)」の、ネットワークが編成する3本の深夜トークが史上初めて同じ時間帯の編成で激突する。アメリカのトーク・ヴァラエティ・ショウの余震はまだまだ続く、というかこれから本格的な激震がやって来る気配だ。




8. イーストウッドあれこれ 

2012年アメリカTV界10大ニュース。その2

今年は演出家としてのクリント・イーストウッドの新作は公開されず、役者として「人生の特等席 (Trouble with the Curve)」が公開されただけだった。しかし新作が公開されなかろうと、オスカーにノミネートされなかろうと、例年同様イーストウッドは話題を提供し物議を醸した。今年はTV界で。4年に一度の大統領選は、TVイヴェントとしても注目されるしなにがしかの話題を提供するが、今年の共和党大会において壇上に登場し、誰も座っていない椅子を相手にオバマ大統領との対話を独演してみせたイーストウッドは、久しく巷の話題を独占した。あれがなんだったのか、今でも私はよくわからない。他の者も同様だろう。 


大統領選では、FOXニューズ・チャンネルのアナリストのカリ・ロウヴが、客観的な解説より自分の心証を優先してオバマが再選されたと認めることを頑なに拒み、これまた巷の嘲笑を浴びた。いずれにしても大統領選は色々な話題、ドラマを提供する。 


話を元に戻すと、イーストウッドは妻子が出演するE!の密着型リアリティ・ショウ「ミセス・イーストウッド・アンド・カンパニー (Mrs. Eastwood & Company)」にもちゃんと顔を出し、フットワークの軽いところを見せた。一方、「人生の特等席」のおしっこがあまり出ないというシーンが、批評家からは今年の映画のワースト・シーンの一つと言われる始末で、今年のイーストウッドを見ると、よくも悪くも彼は本当にフットワークが軽いんだなと思う。 




9. 「バックワイルド」は「ジャージー・ショア」の後を継げるか


MTVの若者密着リアリティ「ジャージー・ショア (Jersey Shore)」は、一時期ティーンエイジャーを中心に飛ぶ鳥を落とす勢いがあったが、その手の人気番組の常として、いったん人気に翳りが見え始めると、視聴者が離れていくのも早かった。


MTVは番組の主要出演者の一人だったスヌーキを起用してスピンオフの「スヌーキ&Jワウ (Snooki & JWOW)」を製作したがうまく行かず、本家の「ジャージー・ショア」もほどなくしてキャンセルが発表になった。


その後、即座に新しい代替番組である「バックワイルド (Buckwild)」および「ワシントン・ハイツ (Washington Heights)」が編成された。前者は今度は都会を遠く離れてウエスト・ヴァージニア州の片田舎でやはり破天荒な生活を送る若者に、後者はマンハッタンの北端部、主としてスパニッシュ系が人口のほとんどを占める地域の若者に密着する。


実は私がNYで通った学校はこのワシントン・ハイツにあり、通い始めてから知ったのだが、この地域、実はかなり柄が悪い。あまり富裕層がいず、夜、学校に籠もると、銃の発砲音が聞こえたことも一再ならずある。極寒の夜に腹が減ったのでせめて安上がりにチャイニーズでもと思って外に出ると、零下なのに裸足で外を歩いているどう見ても飛んでいる者がいたりした。


それでかつて見知った場所での撮影ということで、ほとんど懐かしさ半分で「ワシントン・ハイツ」を見始めたのだが、5分で飽きた。なるほど背景が画面に映ると、ここはどこだろうと興味が湧くのだが、いかんせん登場する男女に魅力がない。これならほとんど知能指数なしで本能の赴くままバカなことしまくる、「バックワイルド」の方がまだ面白い。実際「バックワイルド」の成績の方が「ワシントン・ハイツ」より断然いい。しかし「ジャージー・ショア」に伍す人気を獲得するのは、簡単なことではなさそうだ。


 

 

10. 動物は愛でるばかりではない。 


前回記したレッド・ネックものの「スワンプ・ピープル」に触発されて、南部、特にルイジアナやフロリダのスワンプ (沼沢) で、野生の動物、特にワニを素手で捕獲する人々に密着するリアリティ・ショウがいくつもできた。その他にもこの系統の番組は幾つもあり、要するに、そういうことに生き甲斐を見出したり生業にしたりする癖のある人々をとらえる。


   ビッグ・シュリンピン' (Big Shrimpin') ヒストリー

   スワンプ・ウォーズ (Swamp Wars) アニマル・プラネット 

   スワンプ・ブラザーズ (Swamp Brothers) ディスカバリー


さらに、害獣とされる動物を捕獲、退治するという趣旨の番組、あるいはサヴァイヴァルのために動物を捕獲して捌いて食す様をとらえる番組も出てきた。数年前ならこれらの番組は、残酷として番組化することにはかなり抵抗があったはずだが、その敷居は現在ではかなり低くなった。動物を撃ったり罠にかけたりして捕獲、屠殺し、腹を開いて内蔵を取り出し、皮をなめし、肉を切り出し、それらをどのように利用するかをちゃんと見せる。もちろん血まみれになる。


    ミートイーター (Meateater)」スポーツマン

    ラット・バスターズ (Rat B*stards) スパイク

    ユーコン・メン (Yukon Men) ディスカバリー

    アメリカン・ホッガーズ (American Hoggers) A&E


こないだブラヴォーの勝ち抜きシェフ・リアリティの「トップ・シェフ (Top Chef)」を見ていたら、頭付きのブタをまるまる一頭捌いていた。女性シェフが出刃を首根っこに突き刺して切り開き、瞬く間に解体、ほとんど元の体型を維持したままのブタを大きなオーヴンに突っ込んでいた。以前、「アイアン・シェフ (Iron Chef)」で、シェフがたかだか魚一尾の頭を落とすのすら見せずにカメラが切り替わった頃とは隔世だ。




番外: クロイ・セヴィニーの変態


変態とは性的に異常なことではなく、文字通り、身体が変わることを意味する。夏にディレクTVが編成した「ヒット&ミス (Hit & Miss)」では、セヴィニーは両性具有の暗殺者として登場、男性器も女性器も所有し、裸になるとおちんちんがぶら下がっていた。


それだけならただびっくりで特に記憶には残らなかったかもしれないが、その後始まったFXの「アメリカン・ホラー・ストーリー」の第2シーズン「アサイラム (American Horror Story: Asylum)」では、今度はセヴィニーは両足を切断されてしまう。おちんちんつけられたり両足切断されたり、今年これだけ身体に異常をきたした俳優は男性女性を問わず他にない。セヴィニーはその前はHBOの「ビッグ・ラヴ (Big Love)」で一夫多妻の男の妻の一人を演じていたし、常に極端な役ばかりだ。次にセヴィニーが挑戦する役は果たして何か。









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