アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1.レッド・ネックの侵略 


昨年を代表するTVの顔がチャーリー・シーンだったとしたら、今年を代表する顔は、ハニー・ブー・ブーことアラナ・トンプソンが筆頭だろう。ハニー・ブー・ブー一家をとらえたTLCのリアリティ・ショウ「ヒア・カムズ・ハニー・ブー・ブー (Here Comes Honey Boo-boo)」は、あっという間に誰もが話題にする人気番組になった。 


そのハニー・ブー・ブー、および南部のいわゆるレッド・ネックという田舎者たちをとらえるリアリティ・ショウが、今年大流行りした。その嚆矢はヒストリー・チャンネルの「スワンプ・ピープル (Swamp people)」だろうが、昨年から今年にかけ、この種の南部のブルー・カラーたちをとらえるリアリティ・ショウが、大きくブレイクした。その3本柱が「スワンプ・ピープル」、「ハニー・ブー・ブー」、そしてA&Eの「ダック・ダイナスティ (Duck Dynasty)」だ。 


さらにこのジャンルに一部被る、南部を舞台とするリアリティ・ショウが、それこそ掃いて捨てるほどごまんとある。これらの番組は、だいたい南部の知性を感じさせないブルー・カラーの人々を笑い飛ばすという内容において一致している。あるいは、現代のぎすぎすした人間関係を笑い飛ばす、こういうゆるい者たちを見ることを人々が欲しているのかもしれない。 




2. 人の褌で相撲をとる 


こういうご時世だ。誰もがてっとり早く金を得る行動に走りたがる。下記のリアリティ・ショウは、そういう人々の気分を敏感に感じとって製作されたリアリティ・ショウと言える。各々の内容は微妙に異なるが、捨て去られた廃屋とか所有者不明の忘れもの、忘れ去られたストレージ・ルーム等が競売にかけられ、それを競り落として転売して利益を得る、というような内容は共通している。あるいはそれこそ、過去の遺物、値打ちものをどこぞで拾ったり探したりする。 


この種の番組のはしりが、ヒストリー・チャンネルの「ポーン・スターズ (Pawn Stars)」、および「アメリカン・ピッカーズ (American Pickers)」であるのは間違いない。そしてそれをエンタテインメント番組として定着させたのが、A&Eの「ストレージ・ウォーズ」だろう。このほど「ストレージ・ウォーズ: ニューヨーク」というスピンオフもできた。 


「ストレージ・ウォーズ」では、わざわざティームによる競争で利益を競わせるのだが、先頃出演者の一人が、番組はすべてやらせで仕込みありと内情をばらし、さらに契約不履行で番組を訴えた。そうかと思えばA&Eは逆訴訟するし、なんつーか、やはり苦労しないで金を得ようとすると、色々問題が起こる。 


  1. バゲッジ・バトルス (Baggage Battles) トラヴェル 

  2. アバンダンド (Abandoned) ナショナル・ジオグラフィック 

  3. ビッド&デストロイ (Bid & Destroy) ナショナル・ジオグラフィック 

  4. サルヴェイジ・ドウグス (Salvage Dawgs) DIY 

  5. ゴースト・タウン・ゴールド (Ghost Town Gold) ディスカバリー 

  6. ディガース (Diggers) ナショナル・ジオグラフィック 

  7. ストレージ・ウォーズ: ニューヨーク (Storage Wars: New York) A&E 




3. TVのガン・コントロールは実現するか 


アメリカは銃社会だ。それは間違いない。よくも悪くも一般市民が銃を所有することは合法的に認められており、銃器を使用するハンティングは一歩内陸部に入ると、それこそ生活の一部だったりする。私の知人のアメリカ人もハンティングが趣味で、毎年猟が解禁になると、狩猟仲間と共に山籠もりする。要するに「ディア・ハンター (Deer Hunter)」を地で行く。 


それで彼が仕留めた鹿肉をご馳走になったことがある。地下の冷凍庫に保存してある鹿肉をお土産にもらったことも何度もある。野趣があってなんとも美味だ。銃を所有している知人がいないと、こういう恩恵にはありつけない。それに本当に正直なところを言うと、銃を撃ってみたくない男の子なんて、いないと思う。 


アメリカのケーブル・チャンネルには、そういう銃愛好家のための番組が数多くある。中にはアウトドア・チャンネル、スポーツマン・チャンネル、パースート・チャンネルのように、チャンネルそのものがハンティング系番組で占められているのもある。ミリタリー・チャンネルという戦争戦闘専門チャンネルまである。そこまで筋金入りでなくとも、一般のエンタテインメント系チャンネルで、銃をテーマにしたリアリティ・ショウは多い。 


  1. サンズ・オブ・ガンズ (Sons of Guns) ディスカバリー 

  2. アメリカン・ガンズ (American Guns) ディスカバリー 

  3. コンバット・ポーン (Combat Pawn) TruTV 

  4. ファミリー・ガンズ (Family Guns) ナショナル・ジオグラフィック 


これらの番組はすべて銃器を専門に扱うショップや質屋に密着するリアリティ・ショウで、そこそこ人気がある。しかし、年末のサンディ・フックの小学校乱射事件の痛ましさは、さすがに銃社会アメリカといえども、これはいかん、このままではいけないと感じた者が多かった。 


こういう風潮を反映して、ディスカバリーでも上位の人気番組だった「アメリカン・ガンズ」が、事件発生直後にキャンセルされた。「アメリカン・ガンズ」はこの種の番組の中でも、最も能天気に裏山で銃をどんぱち撃ち放つみたいな乗りが大きかったから、製作に足踏みしたのはよくわかる。だからこそ人気もあったのだが。 ケンタッキーの射撃場経営者に密着するCMTの「ガンタッキー (Guntucky)」は、プレミア放送日が発表になっていたのに、一度も放送されることなく編成から消えた。


人気のあった番組も、現時点では将来は未定だ。なかなか環境は厳しいと思う。一方で、ドラマの中で殺し合いや銃乱射をするみたいな展開の話は、いまだによく見る。特にFXの「サンズ・オブ・アナーキー (Sons of Anarchy)」なんて、さすがにこういう事件が展開に影響しないかと思う。作り手は微妙な選択を迫られている。 




4. ゴールド・ラッシュ 


上で人の褌で相撲をとって簡単な金儲けに走る番組のことを書いたが、自分の才覚、というか体力勝負で金を稼ぐ、この場合は実際に埋もれている金、ゴールド、および埋もれている財宝や埋蔵金の発掘、難破船から金目のものを発見することに命をかける男たちに密着するリアリティ・ショウも、昨年から今年にかけいくつも編成された。 


  1. ゴールド・ラッシュ・アラスカ (Gold Rush Alaska) ディスカバリー 

  2. ベーリング・シー・ゴールド (Bering Sea Gold) ディスカバリー 

  3. ゴールドファーザーズ (Goldfathers) ナショナル・ジオグラフィック 

  4. ダイアモンド・ダイヴァーズ (Diamond Divers) スパイクTV 

  5. ベーリング・シー・ゴールド: アンダー・ジ・アイス(Bering Sea Gold: Under the Ice) ディスカバリー 

  6. ジャングル・ゴールド (Jungle Gold) ディスカバリー 

  7. バマゾン (Bamazon) ヒストリー 

  8. ロスト・トレジャー・ハンターズ (Lost Treasure Hunters) アニマル・プラネット 


これらの番組が、例えば「ストレージ・ウォーズ」と異なっているのは、彼らは実際にかなり危険なところに足を運び、時には文字通り命がけで発掘に取り組んでいるところにある。極寒のベーリング海だとか、周りを毒蛇毒虫に囲まれているジャングルだとかあるいは深海だとか、一歩間違うと本当に命を失いかねない場所で、ゴールドやダイヤモンド発掘に従事する。男のロマンかとらぬ狸の皮算用か。 




5. ハルマゲドン 


マヤの世界の終わりの予言は外れたが、そういう末世、文明の崩壊を意識した番組は、ドラマ、リアリティ・ショウを問わずに現れた。一昨年のAMCの「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」や昨年のTNTの「フォーリング・スカイズ (Falling Skies)」もそうなら、今シーズンのNBCの「レヴォリューション (Revolution)」もそうだ。FOXの「フリンジ (Fringe)」は、パラレル・ワールドで人類滅亡を防ごうとするピーターたちの活躍を描き、もうすぐ最終回を迎える。「ウォーキング・デッド」は現在ケーブルで視聴率1位のドラマ、一方でネットワークで今シーズンの新ドラマで最大のヒットが、「レヴォリューション」だ。映画でも「ハンガー・ゲーム (The Hunger Games)」「クラウド・アトラス (Cloud Atlas)」 ってのがあった。


さらに人類滅亡の危機に瀕してサヴァイヴァルを意識したリアリティ・ショウも登場してきた。数年前にはディスカバリーの「ザ・コロニー (The Colony)」が既に現れていたが、今回のナショナル・ジオグラフィック・チャンネルの「ドゥームズデイ・プレッパーズ (Doomsday Preppers)」およびディスカバリーの「ドゥームズデイ・バンカーズ (Doomsday Bunkers)」は、放送局の企画ではなく、一般人が世界の終末を予見してそれに準備しているという内容で、ますます文明の滅亡を身近に感じることになった。ハルマゲドンは近い。










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2012年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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