アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1.  チャーリー・シーン崩壊


これが年間を代表するニューズかとも思うが、一年を振り返って真っ先に頭に思い浮かぶのは、やはりこれだ。CBSの「チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ (Two and a Half Men)」主演のシーンがパーティ・アニマル化してドラッグ漬けになり病院搬送、その後番組収録をぶっちぎり、堪忍袋の緒を切らしたプロデューサーによって、ついにクビを通告された。番組はシーズン途中で製作中止になった。


しかし番組は自分で持っていると過信していたシーンは、ありとあらゆる芸能ニューズ番組に出てプロデューサー、のみならず自分を擁護しない共演陣を罵倒、気がついたら自分をサポートする人間は周りに一人もいなくなっていたというもので、孤立無援で「ウィニング! (Winning!)」を連呼すればするほど逆に自分のルーザーぶりが際立つという、近年では見世物としては最も面白いものであったのは確かだ。人格ってこうやって崩壊していくという過程を、まざまざと人々の眼前で実践して見せた。


今では多少落ち着いたシーンは、自分の非と敗北を認めている。さらには今度は自分ネタの、言い得て妙のコメディ「アンガー・マネジメント (Anger Management)」に主演することが既に決定している。この変わり身の速さ、転んでもただでは起き上がらないしぶとさ図太さこそが、芸能界では最も必要なものかもしれない。


しかしそれにしても邦題の「チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ」を見ると、まさか主演のシーンが交代するなんて、露ほども考えていなかったんだろうなということがよくわかる。今シーズンからは「チャーリー・シーンの」をとることでごまかすんだろうか、それとも「アシュトン・クッチャーのハーパー★ボーイズ」になるんだろうか。いや、クッチャーはハーパー家とは縁もゆかりものない通りすがりの人間だから、「ハーパー」もタイトルにそぐわない。配給会社も頭の悩ませどころだ。



2. ヴェテラン番組の意外な出演者交代、意外な成功


上のチャーリー・シーン騒動にも関係するが、長らく人気番組だったヴェテラン番組が、息切れしたり新風の吹き込みを図ったり、バーン・アウトした出演者が辞めていったりあるいは辞めさせられたりしたことで、主要登場人物/ホストが交代した番組がいくつかあった。


クッチャー主演で新シーズンを迎えた「ハーパー・ボーイズ」の場合は、世間が注目したおかげで、シーズン・プレミア・エピソードは、コメディやドラマをこんなに人が見たのはいつ以来か、たぶんNBCの「フレンズ (Friends)」の最終回以来? というくらいのこの数年の全番組で最も高い視聴率を獲得した (スポーツ、特番を除く)。全米で2,900万人がチャンネルを合わせた。もちろん番組記録だ。


「ハーパー・ボーイズ」はアメリカで最も人気のあるコメディであったわけだが、全番組中で最も人気のあるFOXのリアリティ・ショウ「アメリカン・アイドル (American Idol)」も、サイモン・コーウェル、ポーラ・アブドゥルという3人中二人のホストが交代した。二人の後釜に座ったジェニファー・ロペス、スティーヴン・タイラーが注目されたわけたが、これが意外に結構よく、感心させられた。一方、辞めたコーウェルとアブドゥルが新たにホストを担当したFOXの「ジ・X・ファクター (The X Factor)」は、期待外れだったという評価がほぼ定着、アブドゥルはまた職を追われることが既に発表になっている。


ドラマではCBSの「CSI」で、捜査主任のラングストンを演じていたロウレンス・フィッシュバーンが去り、新たにテッド・ダンソンが赴任してきた。これまたダンソンの持つ茶目っ気が意外に役柄にフィットして、私はむしろむっつりしたフィッシュバーンよりこちらの方がいいと感じる。シーズン半ばにはキャサリンを演じているマーグ・ヘルゲンバーガーも去った。


他にも、NBCの「ジ・オフィス (The Office)」で主演のマイケルを演じていたスティーヴ・キャレルが去り、代わってジェイムズ・スペイダーがダンダー・ミフリンに入社した。同じくNBCの「ロウ&オーダー: スペシャル・ヴィクティムズ・ユニット (Law & Order: Special Victims Unit)」でも、主演の一人クリストファー・メローニが去り、代わってデニー・ピノとケリ・ギディッシュが赴任してきた。


ヴェテラン番組は、好きな俳優、ホスト出演しているから見るという視聴者が多く、彼らの途中交代は番組にとっては大きな賭けだ。多くの場合において、これらの出演者交代は裏目に出る。それが今回はどの番組もうまく立ち回って視聴者を減らさずに済んでいる。こういうことはめったにない。


これらの番組は、主要登場人物が変化したことによる最初の注目も去り、本当の勝負はこれからだと言われている。実際、ホストが代わって2回目のシーズンに入った「アイドル」は、昨年からかなり成績を落としており、メディアで色々言われている。今後、多かれ少なかれ他の番組も似たような経路をたどるだろう。正念場はこれからだ。



3. 女性上位のコメディ界


秋の新番組で最も目についた傾向といえば、これだ。CBSの「2ブロウク・ガールズ (2 Broke Girls)」、NBCの「ホイットニー (Whitney)」、FOXの「ニュー・ガール (New Girl)」を筆頭とする女性主人公を持つコメディが、圧倒的に男性やカップルが主人公の番組より元気がよく、成績もよかった。


男性が主人公の番組は、引きこもりゲーマー・タイプが主人公のABCの「マン・アップ (Man Up)」、むやみにマッチョを強調する「ラスト・マン・スタンディング (Last Man Standing)」、過剰にむさいか紳士かのCBSの「ハウ・トゥ・ビー・ア・ジェントルマン (How to Be a Gentleman)」等、明らかに影が薄い。年が変わって編成されたABCの「ワーク・イット (Work It)」に至っては、二人の男性主人公は、女装しないと職すら得られないのだ。


むろん強い女性3人が主人公でも見るに堪えなかったABCの「チャーリーズ・エンジェルズ (Charlie’s Angels)」や、FOXの「アイ・ヘイト・マイ・ティーンエイジ・ドーター (I Hate My Teenage Daughter)」のような例もあるが、大局には影響しない。果たして現在唯一男性が主人公となって成功しているCBSの「ロブ (Rob)」は、主演のロブ・スナイダーの力によるものと言えるか、あるいはこれもやはり、彼の新妻になるクローディア・バッソルズのおかげという気もしないではない。



4. 「妻」だらけのTV番組


現在、番組タイトルに「妻 (WifeまたはWives)」を持つ番組を列挙してみた (一部キャンセル済みの番組もある。)



「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・オレンジ・カウンティ (The Real Housewives of O.C.)」ブラヴォー

「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・ニューヨーク・シティ (The Real Housewives of New York City)」ブラヴォー

「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・アトランタ (The Real Housewives of Atlanta)」ブラヴォー

「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・ニュージャージー (The Real Housewives of New Jersey)」ブラヴォー

「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・D.C. (The Real Housewives of D.C.)」ブラヴォー

「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・ビヴァリー・ヒルズ (The Real Housewives of Beverly Hills)」ブラヴォー

「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・マイアミ (The Real Housewives of Miami)」ブラヴォー

「ザ・グッド・ワイフ (The Good Wife)」CBS

「モブ・ワイヴズ (Mob Wives)」VH1

「バスケットボール・ワイヴズ (Basketball Wives)」VH1

「フットボール・ワイヴズ (Football Wives)」VH1

「ベイスボール・ワイヴズ (Baseball Wives)」VH1

「シスター・ワイヴズ (Sister Wives)」TLC

「アーミー・ワイヴズ (Army Wives)」ライフタイム

「プリズン・ワイヴズ (Prison Wives)」ID

「デスパレートな妻たち (Desperate Housewives)」ABC

「セレブリティ・ワイフ・スワップ (Celebrity Wife Swap)」ABC



このジャンルを牽引しているブラヴォーの「リアル・ハウスワイヴズ‥‥」フランチャイズを筆頭に、こんなにある。しかし正直言って、リアリティ・ショウを中心とするこれらの番組は一様にほぼクズ番組で、見る価値はほとんどない。ただのヒステリーおばさんの揃い踏みにいったい誰が興味を持つのかと思うが、結構皆、そこそこの視聴率を稼いでいたりする。「リアル・ハウスワイヴズ」シリーズは、ほとんどブラヴォーを代表する番組に成長している。


さらにこれらの番組から派生した、番組タイトルに「妻」のつかないスピンオフもいくつもある。既に「リアル・ハウスワイヴズ」フランチャイズからは、ブラヴォーの「ベセニー・ゲッティング・メアリード (Betheny Getting Married)」や、HGTVの「ダイナズ・パーティ (Dina’s Party)」が生まれている。VH1の、プロ・アスリートの妻たちに焦点を当てた番組も、フランチャイズ化する気配を見せている。


タイトルに「妻」こそないが、同様に有閑マダムに密着するリアリティ・ショウもある。TLCの「バマ・ベルズ (Bama Belles)」、CMTの「テキサス・ウーメン (Texas Women)」、スタイルの「ビッグ・リッチ・テキサス (Big Rich Texas)」等だ。これらも基本的に同種の番組であり、細かく見ればもっとこの数は増えるだろう。


一番の異色番組はTLCの「シスター・ワイヴズ」で、実はこれは現実に一夫多妻で生活している一家に密着する。彼らは合法かなどと一時問題になっていた。


一方、タイトルに「妻」がついても、リアリティ・ショウではなくドラマの場合はまた別の話だ。CBSの「ザ・グッド・ワイフ」、ABCの「デスパレートな妻たち」、ライフタイムの「アーミー・ワイヴズ」は、そこそこ評もいい。「ザ・グッド・ワイフ」の質の高さは定評があるし、「デスパレートな妻たち」も一時エミー賞の常連だった。しかし上記リアリティ・ショウが世に出るきっかけとなったと思える「デスパレートな妻たち」も、ついに最終回を迎えようとしている。一方でちり芥のようなリアリティ・ショウはこの世の春を満喫している。末世か。



5. ヴェテランTVパーソナリティの引退


今年、アメリカTV界の顔とも言えるパーソナリティが相次いで番組から退いた。「ジ・オプラ・ウィンフリー・ショウ (The Oprah Winfrey Show)」のオプラ・ウィンフリーと、「ライヴ!・ウィズ・リージス・アンド・ケリー (Live with Regis and Kelly)」のリージス・フィルビンだ。この2本は、日中のアメリカのトーク・ショウを代表すると言って差し支えない人気と歴史を誇る番組で、その2本のホストが相次いで番組からのリタイアを表明した。


さらにネットワークのワールド・ニューズで初の単独女性アンカーとなったCBSの「イヴニング・ニューズ (Evening News)」のケイティ・コーリックも番組を去ることを発表した。彼女がアンカーに就任してもう5年もなるのか。同様にNBCの「トゥデイ (Today)」ホストのメレディス・ヴィエイラも番組を去った。忘れてはならない御大、CNNの「ラリー・キング・ライヴ (Larry King Live)」のラリー・キングもいなくなった。


5年前にネットワークのワールド・ニューズのアンカーが揃って交代した時は、時代が大きく動いているという感じがしたものだが、そういう上からの交代劇ではなく、もっと視聴者に身近な存在であったパーソナリティが交代すると、実はこちらの方がもっとインパクトがあったように思う。彼らは完全にTVから引退したわけではなく、長年続けてきた番組が最終回を迎えただけだが、視聴者にとっては同じことだ。これからのアメリカTV界はどうなるのか。彼らの今後の動向にも、彼らの跡を継いだ新しいパーソナリティの動向にも、目が離せない。










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2011年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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