アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。(後編)




  1. 6.大家族リアリティ・ショウおよび ディスカバリー社屋籠城事件


ケーブルのディスカバリー・チャンネルの姉妹チャンネルであるTLC (The Learning Channel) は、現在では真面目な教育ドキュメンタリーというよりもエンタテインメント系リアリティ・ショウが編成の主体だ。そして特に「ジョン・アンド・ケイト・プラス・エイト (Jon and Kate Plus 8)」(現在では二人が別れたため、「ケイト・プラス・エイト (Kate Plus 8)」) がチャンネルを代表する人気番組となって以降、この種の大家族番組に密着するという趣旨のリアリティ・ショウが増えた。

 

2008年に「セヴンティーン・キッズ・アンド・カウンティング (17 Kids and Counting)」として始まった番組は、さらに家族が増え、今では「ナインティーン・キッズ・アンド・カウンティング (19 Kids and Counting)」として、番組はさらに拡大している。他にも12人家族に密着する「テーブル・フォー・トウェルヴ (Table for 12)」、5つ子を持つ家庭に密着する「クインツ・バイ・サプライズ (Quints by Surprise)」、6つ子のいる「セクスタプレッツ・テイク・ニューヨーク (Sextuplets Take New York)」等の番組がある。そればかりでなく、日中のTLCは妊婦や出産、新生児に関係する番組ばかりだ。Weにも「レイジング・セクスタプレッツ (Raising Sextuplets)」なる番組がある。

 

こうなると、よほどの子供好きでもない限りかなりげっぷ状態になるし、この手の番組にうんざりする視聴者が出てくるのは、非常によくわかる。そしてその一人であるジェイムズ・ジェイ・リーは9月1日、拳銃その他の火器と共にワシントンD.C.近くのディスカバリー本社に乱入、3人を人質にして立てこもった。人類が増えすぎることは環境破壊に繋がるのに、そういう番組ばかり放送するディスカバリー/TLCはまかりならぬというのが、彼の意見だった。

 

リーは4時間後に包囲した警察によって射殺され、人質は無事釈放された。因みにリーの父は韓国系アメリカ人で、母は日本人である由。そういえば昨年、バカな親として世間の嘲笑を一身に受けて実刑判決を食らったバルーン・ボーイの両親も、母の方は日本人だったなと思い出した。

 

 

7. 危険な動物との遭遇系リアリティ・ショウ


自然、サヴァイヴァル、動物というのは、毎年なにかしら必ず現れるドキュメンタリー系リアリティ・ショウの基本とも言えるものだ。今年その中でも印象に残ったのが、険しい自然との遭遇、中でも獰猛な野生動物との遭遇、接触をとらえるリアリティ・ショウだ。

 

年初に始まったアニマル・プラネットの「ワイルド・レコン (Wild Recon)」を筆頭に、海専門の「マッドマン・オブ・ザ・シー (Madman of the Sea)」(AP)、ワニ専門の「ゲイター・911 (Gator 911)」(CMT)、ヘビ専門の「スネイクスキン (Snakeskin)」(AP)、サカナ専門の「フィッシュ・ウォリアーズ (Fish Warrior)」(ナショナル・ジオグラフィック) 等は、それぞれ登場人物/ホストが、自分の得意のジャンルで、飼い馴らされていない野生の動物を捕獲、接触する様をとらえるものだ。これにヒストリーの「スワンプ・ピープル (Swamp People)」を加えてもいいかもしれない。

 

これらの番組は、これまで連綿と製作されてきたサヴァイヴァル系リアリティ・ショウの亜種と言えるかもしれない。単に相手が大自然から動物になっただけと言える面がある。その主流のサヴァイヴァル系リアリティも、今年「デュアル・サヴァイヴァル (Dual Survival)」、マン、ウーマン、ワイルド (Man, Woman, Wild)」、「ワースト・ケイス・シナリオ (Worst-Case Scenario)」、「サヴァイヴィング・ザ・カット (Surviving the Cut)」、ビヨンド・サヴァイヴァル・ウィズ・レス・ストラウド (Beyond Survival with Les Stroud)」等、ほとんど専門チャンネル化したディスカバリーが、相変わらず途切れることなく製作している。人はカタストロフィかアルマゲドンは近いと考えているのか、それともただ冒険を求めているだけなのか。

 

 

8. ショウタイム・コメディ


わりと最近まで、ケーブルを代表するチャンネル、もとい、ケーブルを代表するドラマやコメディを提供するチャンネルと言えば、どこから見てもそれはHBOのことに他ならなかった。一時期の「ザ・ソプラノズ (The Sopranos)」、「セックス・アンド・ザ・シティ (Sex and the City)」、「シックス・フィート・アンダー (Six Feet Under)」等を筆頭とする、質、人気共に高い番組のつるべ打ちは、ネットワークをも霞ませた。それがいつの間にか、気がつくとケーブルのスクリプト番組、特にコメディで注目に値する番組を作っているのは、ショウタイムになってしまっている。

 

現在ショウタイムが放送しているコメディは、「ウィーズ (Weeds)」、「カリフォルニケイション (Californication)」、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ (United States of Tara)」、「ナース・ジャッキー (Nurse Jackie)」、そして「ザ・ビッグ・C (The Big C)」の5本だ。そのどれもが、番組として、あるいは主演俳優で毎年のエミー賞に絡んでいる。なかでも「カリフォルニケイション」を除いた女性主人公コメディが、圧倒的にできがいい。女性の方が元気がいいということかそれとも女性の方がトラブルに巻き込まれやすいということか、それとも女性視聴者が女性を主人公とする番組を見たいのか、あるいは逆に男性視聴者が女性を主人公とする番組を見たいのか。

 

もちろんこれらのコメディだけでなく、ショウタイムが頭角を現すきっかけともなった「デクスター (Dexter)」もいまだに健在だ。また、新たに始まった英国版同名番組のリメイク「シェイムレス (Shameless)」は、コメディ・ドラマと言えるジャンルで、番組が30分枠だったとしたらそのままコメディとして通用するだろう。今、アメリカのコメディを語るためには、ショウタイム・コメディを見ていないと話にならない。

 

 

9. ネットワーク・コメディ


ケーブルではなくネットワークに目を移すと、こちらでも近年枯渇状態にあったコメディが、徐々にではあるが復活してきている。「トゥ・アンド・ア・ハーフ・メン (Two and a Half Men)」を筆頭とする、「ザ・ビッグ・バン・セオリー (The Big Bang Theory)」、「ハウ・アイ・メット・ユア・マザー (How I Met Your Mother)」等のCBSシットコムは元々人気があったが、現在のコメディの復権は、昨年から始まった「モダーン・ファミリー (Modern Family)」、「ザ・ミドル (The Middle)」、「クーガー・タウン (Cougar Town)」等のABCコメディに多くを負っている。

 

さらに、ここ数年NBCが力を入れてきた、ラフ・トラックの入らないスタジオ撮影ではないシングル・カメラ撮影のコメディも、ここへ来てようやく市民権を得つつある。「コミュニティ (Community)」は、個人的には最も時代の先端を行っている番組だと思う。FOXの「グリー (Glee)」も、エミー賞ではコメディにノミネートされている。2000年代初期、「サインフェルド (Seinfeld)」や「フレンズ (Friends)」、「フレイジャー (Frasier)」といったシットコムが次々と最終回を迎えた後のコメディ氷河期が、やっと本格的に雪解けを迎えようとしている。

 

 

10. 恥知らずの家庭の主婦たち


これは「TV観賞ノーツ」の「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・D.C. (The Real Housewives of D.C.)」のページでも徹底的に罵倒したし、この10大ニューズでも「3. 新流行スポット、ニュージャージー?」で既に言及しているのだが、やはりここでわざわざもう一度言っておきたい。ケーブルのブラヴォーの編成する、おつむ空っぽしかし金は持っている家庭の主婦に密着する「ザ・リアル・ハウスワイヴズ‥‥ (The Real Housewives…)」フランチャイズには、本当に反吐が出る。

 

そもそもの発端の「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・O.C.」が登場した時ですら既にもういいよ状態なのに、それに後から後から新しいシリーズが加わった。さすがに「D.C.」がぽしゃった後、「ビヴァリー・ヒルズ (Beverly Hills)」が出てきた時はこれで打ち止めだろうと思ったら、その後さらに「マイアミ (Miami)」まで出てきた時には、目眩がした。

 

ブラヴォーはネットワークのNBC傘下のケーブル・チャンネルだ。それで現在、NBCは昼間の空いた時間に、暇のある奥様方を対象に「リアル・ハウスワイヴズ」を再放送している。要するに番組はこういう風に使い回せて利幅が大きい。だからどんどん拡大していくのだが、しかし、私は声を大にして言いたい。こんなクズ番組なんか放送するな! これならどんなに見る価値はなくとも、まだ俳優修業の場にはなっているソープ・ドラマの方がマシだ。たとえ人気番組の「トップ・シェフ (Top Chef)」を放送していようとも、その数倍「リアル・ハウスワイヴズ」を放送するくらいなら、ブラヴォーがなくなってしまっても構わない。

 

 

番外: タイガー・ウッズとレブロン・ジェイムズ


スポーツに限らず、セレブリティがプライヴェイトで問題を起こすと、世間の耳目が集まる。しかし、昨年末からのタイガー・ウッズの浮気発覚とその後の展開は、その他のすべてのスポーツ界のニューズを霞ませた。ウッズが謝罪会見を開くと、質問は一切受け付けない一方的会見であるにもかかわらず、朝早い時間なのに全ネットワークが放送中の番組を差し替えて生中継した。ほとんどマイケル・ジャクソンの追悼セレモニーの時並みの扱いだ。BPのフロリダ原油流出事故が起きるまでは、ウッズ・スキャンダルが巷の話題を独占していたような印象がある。さすがにこれだけ騒がれて自分が渦中の人となり、世間からも叩かれると、あの、それまではほぼ無敵だったウッズが勝てなくなった。やはり心身の動揺というのは、ウッズほどのゴルファーでもプレイに影響するようだ。

 

ウッズ以外に今年TVを舞台に注目を集めたアスリートが、NBAのスーパースター、レブロン・ジェイムズだ。ジェイムズは現在、NBAではコービー・ブライアントに匹敵する人気プレイヤーだが、その彼が今夏、契約更改に当たり古巣のクリーヴランド・キャヴァリアーズを去って新天地に行くかどうかを発表したESPNの独占生中継は、誰もが驚く視聴率を獲得した。NBA中継よりこちらの方が視聴者が多かった。ウッズ同様、記者会見ですらない、単に自分の去就を発表するという、スポーツ・ニューズで15秒で済むものが、ここまで注目される。いずれにしてもマイアミ行きを発表したジェイムズが、クリーヴランドで完全に悪者視されたのは言うまでもない。クリーヴランドでジェイムズが着ていた23番のユニフォームを燃やしているキャヴァリアーズ・ファンを見ていると、スポーツ界のスーパースターも大変だなと思う。

 

 

 

 

 

 


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2010年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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