アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1.  深夜トーク激震


この話は年頭に微に入り細を穿って書いたので詳細は繰り返さないが、しかし、これが今年のアメリカTV界最大の事件であったことは論を俟たない。元々はNBCのコナン・オブライエンの扱いの失敗から出たことが、連鎖が連鎖を呼んでNBCのみならず全ネットワーク、どころか全ケーブル・チャンネルをも含めた一大事件へと発展した。


オブライエンのみならず、重鎮レノだって、もしかしたらレターマンだって、成績が落ちたらいつ飛ばされるかわかったもんじゃないという、アメリカTV界の仁義なき戦いをこれでもかというくらい見せつけた。これだけが直接の原因ではないとはいえ、最終的にはそのオブライエンを飛ばした責任者のNBCのジェフ・ザッカーですら、NBCを辞めざるを得なくなった。それでもオブライエンもザッカーもNBCへの愛着を述べるなど、愛社精神はTV界ではほとんど不毛の感情であることを露呈した。


とはいえ現在のTV界の状態を見ると、最終的にすべて収まるべきところに収まったという感は無きにしも非ずだ。元々オブライエンのギャグのセンスはケーブル向きだったし、実際、ケーブルのTBSに移ってからの「コナン (Conan)」の方が、潜在的視聴者数では圧倒的に多かったNBCの「ザ・トゥナイト・ショウ (The Tonight Show)」の時よりいい成績を獲得している。元々若い視聴者は、深夜はネットワークよりケーブルを見ることの方が多い。むろん始まったばかりの「コナン」の最終的な成績の評価はまだまだ後のことになるだろうが、それでも深夜トーク界は落ち着きを取り戻し、それぞれがそれぞれの地盤を確立する群雄割拠の時代に入ったと言える。




2.  小屋にお宝は眠っているか。お宝発掘番組の時代


これも詳細は「ハリウッド・トレジャー (Hollywood Treasure)」で述べたので繰り返さないが、ヒストリー・チャンネルの「ポーン・スターズ (Pawn Stars)」と「アメリカン・ピッカーズ (American pickers)」に端を発するお宝発掘、質屋/オークション・ハウス密着型のリアリティ・ショウの跋扈には目を見張らされるものがあった。


失業率が落ちず、てってりばやく金を手に入れたいという視聴者が、うちのクローゼットか天井部屋、ガレージに放り込まれているガラクタの中に、もしかしたら値打ちもんが眠っていないだろうかという淡い希望をくすぐるこの手の番組は、今年ブームを巻き起こした最新の番組ジャンルになった。


最終的にはほとんどがその種の淡い期待を無残に打ち砕かれることになるのだが、その模様を一介の視聴者という立場で見るのは、それはそれでまた嗜虐的な快感があるし、本当にお宝が発見されたりすると、登場人物に感情移入して喜べる。さらにはその種のオークションの一喜一憂丁々発止のやり取りや、クズをお宝とカン違いする諸氏のお間抜けぶりなど、様々な視点から楽しめるジャンルであることを証明した。このブームはもうしばらくは続きそうだ。




3.  新流行スポット、ニュージャージー?


ニューヨークからハドソン川を渡った対岸のニュージャージーは、はっきり言ってその知名度をニューヨークにおんぶにだっこしている。ニューヨークのお荷物という感じが濃厚の州だ。その州に私は今では居を構えているのだが、そのことは置いといて、今年、そのニュージャージーが躍進した。


なんといっても筆頭に挙げないといけないのは、ジャージーの海沿いの町で共同生活を送る若者たちに密着するMTVの「ジャージー・ショア (Jersey Shore)」で、この番組、要はブラヴォーの愚劣素人密着型リアリティの「リアル・ハウスワイヴズ‥‥ (The Real Housewives…)」系の低俗リアリティなのだが、その低みを極めたため、一気に人気番組になってしまった。登場人物が考えていることはセックスと金とアルコールと見場のみという、その煩悩だけで生きていることが、逆に特にティーンエイジャーを中心とする視聴者に大きくアピールしてしまったのだ。


その後もオート・クチュールの店に密着したオキシジェンの「ジャージー・クチュール (Jersey Couture)」、ヘア・サロンに密着したスタイル・ネットワークの「ジャージリシャス (Jerseylicious)」、そしてもちろん忘れてはならない「リアル・ハウスワイヴズ」シリーズの一環「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ・ニュージャージー (The Real Housewives of New Jersey)」と、なぜだかいきなりニュージャージーにスポット・ライトが当たってしまった。


極めつけがコメディ・セントラルの「サウス・パーク (South Park)」において、「ジャージー・ショア」が完全におちょくられたことだ。このエピソードでは、「ジャージー・ショア」の一団を筆頭とする集団が全米を侵略、コロラドではゾンビのように町を襲い、撃たれて血まみれになりながらも前進、それを食い止めたのはアルカイダによる飛行機の自爆テロ。しかも顕彰のために呼ばれた会場でビン・ラディンは射殺されるなど、いつものように過激ギャグを満載連発した。徹底的にバカにされるスヌーキーを筆頭とする「ジャージー・ショア」の面々を見て、溜飲を下げたのは私だけではあるまい。




4.  ペイリン母娘、米TV界を席巻


不思議だがなぜだかアメリカの共和党を代表する政治家は、正直言ってちょっと知性という面で大丈夫かと思わせる者が多い。ジョージ・W・ブッシュ然り、サラ・ペイリン然り。選挙戦のコマーシャルに出て、大マジ顔で私は魔女ではありませんと訴える女性候補者を見ると、正気かと思ってしまうし、いきなり大の男が顔をくしゃくしゃにして私は感激屋なんだと泣き出されると、正直言ってドン引きする。こんなやつが今では国会のスピーカーだ。


元々南部や田舎に強い共和党は、そういう知性より感情で人々にアピールするため、こういう者が出現しやすい。特にティ・パーティ主宰のペイリンは、数々の失笑を催す言動にもかかわらず、いまだに人気が高い。というかブッシュの例を見てもわかるように、だからこそ人気があるとも言える。我々と同じ視点でものを考えると思われているのだ。


共和党支持者はそういうものの考え方をするため、ペイリンの娘ブリストルがABCの勝ち抜きダンス・リアリティ「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ (Dancing with the Stars)」に参加を決めると、本人のダンスの上手下手にかかわらず、とにかくサポートして投票した。そのため、一般的評価ではまったく下手という評価の定着しているブリストルが、あれよあれよという間に最終回の最後の二人まで残った。


正直言ってこの番組、私はつまらないとしか思ってないが、さすがにここまで八百長だやらせだなんだと大きく話題になってしまうと一応目を通さざるを得ず、シーズン・フィナーレを見たのだが、ブリストルは、本当に、まったく下手くそとしか言えない。彼女より下手なダンサーを探す方が難しいだろうに、こんなのがファイナルまで残っているわけ? これでは番組の信用問題だと唖然としてしまった。実はブリストル本人もさすがに組織票横行でここまで残っていることを認めざるを得ず、最終的に優勝はできなかったことに対して、安心したとコメントしていた。しかし、この手の番組がある種の人気投票になるのは避けようがないとはいえ、これではあんまりだ。


また、サラ・ペイリン自身も、TLCで彼女自身がホストになってアラスカの自然や観光を紹介する「サラ・ペイリンズ・アラスカ (Sarah Palin’s Alaska)」の放送を開始、これまた非常に高い視聴率を獲得した。一方で、特に深夜トーク界を中心に、あらゆるコメディアンから絶好のパロディ・ネタにされてもいた。ペイリンはこの他にも、FOX・ニュース・チャンネルで「リアル・アメリカン・ストーリーズ (Real American Stories)」ホストを務めたりと、積極的にマスコミに登場した。しかしこのペイリン人気、アメリカの将来にとっては大きな不安材料と思ってしまう。




5.  BP原油流出とチリ炭鉱落盤事故報道


昨年はバルーン・ボーイ事件等、一般人がTVに出よう、有名になろうとして起こしたバカげた事件が頻出したことが記憶に残ったが、今年はもっと社会的な事件がTVを通じて世界中に報道され、注目を集めた。特に春先のBPによるメキシコ湾原油流出事故、および夏のチリ炭鉱落盤事故は、ローカルのみならず、世界中の耳目を集めた。


インターネットの普及により、これらの映像はほとんど時差なしで世界中を駆け巡った。BPによる原油流出の場合、次々と発表される次善の策が失敗に終わり、責任のなすり合いや生態系における影響、地元漁業への影響、二次災害、果ては温暖化への関係等、どんどん話が膨らんだ。一方のチリ炭鉱事件の場合、なによりも生き埋めになった炭鉱者が全員生きていて、救出を待ち望むというドラマが格好のニューズ・ネタになった。


これらのニューズが一時ドラマやその他の番組よりも人々の注意を惹いたのは事実で、TVは報道媒体としていまだに大きな力を持つことが改めて知れた。スピードや即時性という点では、TVは今ではインターネットには劣るかもしれないが、画像に解説や客観性を加えるという点では、やはり経験あるニューズ・アンカーのコメントが最も頼りになる。正直言ってインターネットに速報や生の画像を求めても、今ではその内容を眉唾としてすぐに信用はしない者の方が多いだろう。たとえ絶対的な視聴者数の数は以前ほどではなくとも、TVの責任や社会的信頼は、増しこそすれ薄れてはいない。








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2010年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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