All About My Mother

オール・アバウト・マイ・マザー  (2000年1月)

カンヌ映画祭監督賞受賞、ペドロ・アルモドヴァルの最新作は、息子を亡くした元娼婦が辿る悲喜劇を描く。これまでのアルモドヴァル作品に較べ、一般に受け入れやすいメロドラマ・タッチだが、おっとどっこい、登場人物は主人公が元娼婦、一番の友人は男性から性転換したトウのたつ現街娼、元夫も今は女性となっており、知り合いになった女優はレズビアンと、やはり一筋縄では行かない人物が入り乱れる。前夫の知り合いでまともに見えた若い尼さんも、実は現女性である彼の(ええい、まどろっこしいぜまったく)子供を宿している!と、アルモドヴァル・タッチは健在。健常さとは離れた地平にいる彼(女)らの切なくもおかしく悲しい世界を垣間見せる。


評がよかったのは知っていたが、ストーリー・ラインはまったく知らなかったため、実に楽しめた。タイトルからして、今上映中の「Tumbleweed」みたいな母親礼賛感動ものか、アルモドヴァルもついに大衆に迎合しないと映画を作れないようになったかと思っていたら、充分アルモドヴァルした上でしかも大衆を唸らせる作品を作っていた。お見事。これだけアブノーマルな人物ばっかり登場して、しかもしっとりした感動を与えることのできる手腕は並大抵のものではない。前回見た同じヨーロッパ映画の「ロゼッタ」はいくらなんでもすべての人々から受け入れられる作品とは思えないが、こちらの方はもっと広く一般にも受け入れられるだろう。アルモドヴァル会心の出来だったと見た。狙ったものを撮り、狙った反応を得て、満足に違いない。最近業界紙で見るアルモドヴァルの写真て、いつ見てもにやけたエロじじいにしか見えないからなあ。


これでニューヨークに住んでいながらヨーロッパ映画が続いたわけだが、これからの上映予定映画を見てみると、私が見たいと思うアメリカ映画がない。いや、本当ならオリヴァー・ストーンの「エニー・ギヴン・サンデイ」とか、フランク・ダラボンの「グリーンマイル」とか、評もいいし見たかったなと思うものはあるのだが、上映時間の長さで断念した。それに、どんなに評がよくても、「太陽がいっぱい」のリメイク、「タレンテッド・ミスター・リプリー」は見に行かない。予告編を見ると面白そうなんだよ、うん、きっと面白いに違いないと思うのだ。しかし、私は原則としてリメイクは意地でも見ないことにしている。


リメイクをヒットさせてしまうと、ハリウッドが二匹目の泥鰌にむらがって、またぞろあれこれ昔の作品を手を変え品を変えリメイクするに違いない。それだけは勘弁してもらいたいと思う。だいたい、なんで「サイコ」をリメイクしなければならないの?「ダイヤルMを廻せ!」をリメイクしなければならない理由は? 他にもまだいっぱいあったが、とにかく、スターを配しての売らんかなのリメイクはただ単に不愉快になるのだ。


「タレンテッド‥‥」の場合は、オリジナルの「太陽がいっぱい」が実はあまりアメリカでは知られていないという理由はあるだろうが、それでも、だったらオリジナルを再公開しろよと思ってしまう(私はこれを知った時驚いたのだが、アメリカで「太陽がいっぱい」を見たことがあるのはほとんどいないのだそうだ。大学の映画学科を出たのが、知識としてなら知っている、というのがほとんどであるらしい。日本では劇場で見てなくても、30歳以上のものなら「ゴールデン洋画劇場」か何かで少なくとも3回は見ているだろうに。米国映画でない外国映画が不当に虐げられているアメリカの、これが現実である。


多分、今世界で最もヴァラエティに富んだ世界中の映画を見られるのは、日本 (東京) をおいて他にないのではないか。それに、アラン・ドロンがやったトムを今度はマット・デイモンがやるのもなあ。デイモンは若手有望株の筆頭ではあるだろうが、私は「プライベート・ライアン」では彼が一番下手くそだと思った。それに彼にドロンのような怪しい負の魅力なんてないでしょう。あんなアメリカアメリカ丸出しで。「ダイヤルMを廻せ!」にも出ていたグウィネス・パルトロウも、彼女の演技力は認めるが、リメイクにばかり出るの止したら?と言いたくなってしまう。ジュード・ロウとケイト・ブランシェットはすごくよさそうだったけど。


まあ、とにかく、そういう次第で、今、私が長くても見に行こうかと思っているのは、アラン・パーカーの「アンジェラス・アッシュ」とマイク・リーの「トプシー・ターヴィー」くらいである。「アンジェラス・アッシュ」の方は、原作がここでもベストセラーになったこともあり、ハリウッド資本も多少は入っているだろうが、「トプシー・ターヴィー」は、英語作品ではあるが、ハリウッド映画というよりイギリス映画、あるいはヨーロッパ映画である。ふう。早く2時間程度の作品がずらりと劇場にかかるようにならないかなあ。






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