Alice  アリス

放送局: SyFy

放送日: 12/6 (Sun), 12/7/2009 (Mon) 21:00-23:00

製作: リユニオン・ピクチュアズ、ステュディオ・エイト、RHIエンタテインメント

製作総指揮: ロバート・ハルミSr.、ロバート・ハルミJr.、マシュウ・オコーナー、リサ・リチャードソン、ジェイミー・ブラウン

製作: マイケル・オコーナー、アレックス・ブラウン

脚本/監督: ニック・ウィリング

撮影: ジョン・ジョフィン

美術: マイケル・ジョイ

出演: カテリーナ・スコーソン (アリス・ハミルトン)、キャシー・ベイツ (ハートの女王)、フィリップ・ウィンチェスター (ジャック・チェイス)、アンドリュウ・リー・ポッツ (きちがい帽子屋)、コリン・ミーニー (ハートの王様)、マット・フリュウアー (白い騎士)、ティム・カリー (ドードー)、ハリー・ディーン・スタントン (芋虫)、アラン・グレイ (白ウサギ)、ユージーン・リピンスキ (ディー&ダム)


物語: 昔自分たちを捨てていなくなった父のためにいまだに男性と深い関係入りするのを拒むアリスだったが、やっとこれはと思えるジャックとめぐり合う。自宅にジャックを招いたアリスだったが、しかしゆっくりと事を運びたいアリスに指輪をプレゼントしようとするジャックに対して引いてしまう。ジャックを追い返してしまうアリスだったが、その後自分のポケットに指輪が落とされていることを発見する。なぜそんなことをしたのか、慌ててジャックの後を追うアリスは、何者かがジャックを拉致する現場に遭遇する。そこへ現れた白尽くめの謎の男は、アリスから指輪を奪うと、鏡を通ってどこかへ消えてしまい、後を追うアリスも思わず鏡の中に吸い込まれてしまう‥‥


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「アリス」とはむろん、ルイス・キャロルの児童文学のクラシック、「不思議の国のアリス (Alice in Wonderland)」、「鏡の国のアリス (Through the Looking-Glass)」のアリスのことだ。来年はジョニー・デップ主演 (とはいってももちろん彼がアリスを演じるわけではない) のティム・バートン版の「アリス」も公開するし、またまたアリスが注目されている。


今回の「アリス」はSF番組専門チャンネルのSyFyが製作放送した4時間ミニシリーズで、最大の特色が主人公が永遠の少女アリスではなく、既に妙齢の女性であることだ。オリジナルの「アリス」が、その少女性を永遠に閉じ込めることでクラシックとなりえたものを、わざわざ解体して主人公を大人にし、SF絡みのラヴ・ロマンスに再構築してしまう。オリジナルのファンからは怒りの鉄槌を食らわせこそすれ、あまり共感は得られないのではと、他人事ながら危惧してしまう。


SyFyは一昨年 (当時Si-Fi)、同様にクラシックの子供向け作品「オズの魔法使い」を翻案ミニシリーズ化した「ティン・マン (Tin Man)」を製作放送した。その時の成功が今回の「アリス」製作に繋がっているのは言うまでもない。その時に演出を担当したニック・ウィリングが今回も監督だし、製作総指揮のロバート・ハルミSr./Jr.というのも同じだ。


「ティン・マン」は、今年「(500) 日のサマー ((500) Days of Summer)」でブレイクしたゾーイ・デシャネルが主人公ドロシー (番組ではDGとイニシャルが愛称になっていた) を演じた。つまり、オリジナルの少女ドロシーが、ここでも満たされない思いを抱える成長した女性として造形されており、番組は彼女の自分探しの旅としても機能していた。「アリス」もその轍を踏んでいる。


さらに言うと、ウィリングは10年前にも「アリス」をTV映画化している。その時の「アリス」はほぼ原作通りで、アリスをティナ・マジョリーノが演じた他、ウーピ・ゴールドバーグ (チェシャ猫)、マーティン・ショート (きちがい帽子屋)、クリストファー・ロイド (白い騎士)、ベン・キングズリー (芋虫) といった面々がお馴染みのキャラクターを演じていた。ウィリングはたぶんその時に、やりたくてもできなかった色々なアイディアを得たのだろう。その映像化のチャンスが今回めぐってきたのだという気がする。


上述したように様々な翻案脚色が行われている今回の映像化で、最も原作と異なるのは主人公アリスが既に成長した妙齢の女性ということにある。今回そのアリスを演じるのはカテリーナ・スコーソンで、ライフタイムの「ミッシング – サイキック捜査官 -- (1-800 Missing)」に出ていたが、アメリカでは事実上無名と言っていいだろう。つやのある黒髪とよく動く大きな目が印象的で、考えたら、これまでの映像化からなんとなくアリスというとブロンドという印象があったが、そもそもルイス・キャロルがモデルにしたアリスは、確かにブルネット、というか、少なくともブロンドじゃなかった。その子が大きくなったとすると、こちらの方が本当のアリスに近いかもしれない。この人選に製作者側のこだわりがあるのだろう。


番組は過去、父に去られて多少男性恐怖症のアリスが、新しくできたボーイ・フレンドをうちに呼ぶというシーンから始まる。彼の名はジャックで、要するにハートのジャックなのだが、しかし、ハートのジャックの原作での役回りなんてまったく覚えてない。だいたい、昔原作を読んだことがあるというくらいの一般的成人読者で、ハートの女王以外のトランプ軍団を覚えている者なんているのか。どういう経緯でアリスのボーイ・フレンドに昇格したのやら。


そのジャック、求愛を急ぎすぎて逆にアリスから拒否されてしまう。その上何者かがジャックを誘拐して連れ去り、現場を目撃したアリスはそこで謎の白尽くめの男 (要するに白ウサギだ) と出会う。その後を追ったアリスは、穴の中ならぬ鏡の中に飛び込んでまったく別の世界で目を覚ますのだった。そこでハッター (きちがい帽子屋) や白い騎士と出会ったアリスは、その手引きでジャックに会おうとする。しかしその世界を牛耳るハートの女王は、アリスが持っている指輪を我が物にしようと画策していた。ジャックが黙ってアリスに託したその指輪こそ、その世界の将来を大きく左右する力を持っていたのだ‥‥


アリス以外の主要なキャラクターは、ハートの女王にキャシー・ベイツ、ハートの王様にコルム・ミーニー、ジャックにフィリップ・ウィンチェスター、ハッターにアンドリュウ・リー・ポッツ、白い騎士にマット・フリューアー、ドードーにティム・カリー、芋虫にハリー・ディーン・スタントン、白ウサギにアラン・グレイ等が扮している。個人的に印象に残ったのは「マックス・ヘッドルーム」のフリュウアーで、なかなか中世の騎士然としてはまっている。ベイツのハートの女王も、いかにも今にも首をはねよと言い出しかねない雰囲気たっぷりで楽しい。ただし動物や虫はすべて擬人化されているので、カリーやスタントンは、なるほどというキャスティングではあるが、実際にドードー鳥や芋虫として現れるわけではない。


これは白ウサギのグレイも一緒なのだが、ただし白ウサギの場合、番組後半から白ウサギのお面を被ったキャラクターが登場する。これがいかにもSFチックで不気味な感じで、なかなか印象に残る。それ以外にも、目玉に囲まれた部屋だとか、空飛ぶ大型昆虫だとか、なぜだか水上や廃墟然したビルの高層階ばかりという、いかにもSF番組らしいギミックは当然豊富だ。私個人の嗜好としては、こういうギミックを多用してもっと不可思議な感じを散りばめてくれたらと思ったんだが、そうすると年頃の女性の自分探し兼ラヴ・ロマンスという狙いから逸脱しすぎるんだろう。


実際、アリスとジャックの恋愛ものだと思っていたら、途中、道案内するハッターとアリスがキスしそうになるので、思わず、あれれ、そういう展開? と驚いた。きちがい帽子屋とアリスができそうになるというのは、さすがに予想外だった。あるいは、ちょっとお洒落目で若い造型でハッターが登場した時に、カンのいい視聴者なら展開が読めたかもしれない。しかし、とするとアリスを挟んだ三角関係か。「アリス」にも色々ある。


個人的には、「アリス」を代表するキャラクターの一人 (一匹) と思われるチェシャ猫の出番が、ほとんど一瞬で終わったことが残念。イメージとしては、チェシャ猫を強烈に覚えている読者は結構多いと思う。ここはチェシャ猫のイメージと出番をなんとかして膨らませてもらいたかった。


今回の映像化は、ウィリングの10年前の「アリス」と較べると、確かに別物だ。ただし、これはウィリングの功績というよりは、オリジナルのキャロルの、どのような解釈も許す間口の広さという印象の方が強いのも事実だ。だからこそのクラシックと言える。


ところで今ふと思い出したのだが、バートン版「アリス」のポスターでデップが扮していたのは、あれはきちがい帽子屋か! 考えたら「アリス」でデップが扮することのできる役柄というと、マッド・ハッター以外ではせいぜいハートのジャックくらいが関の山という気がする。むろん裏をかいてそれこそデップが白ウサギとか芋虫とかの可能性もあり得ないことではないかもという、裏切られる期待もなきにしもあらずなのだが、「チャーリーとチョコレート工場 (Charlie and the Chocolate Factory)」でのデップの格好から言っても、やはりここはハッターが最もありそうだ。帽子屋ってお洒落っぽいし。バートン/デップ版「アリス」のお手並みも早く拝見したいものだ。








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アリス   ★★1/2

 
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