放送局: ABC

プレミア放送日: 2/25/2008 (Mon) 20:00-23:00

製作: ア・ストーリーライン・エンタテインメント、バッド・ボーイ・ワールド・ワイド・エンタテインメント・グループ、ソニー・ピクチュアズTV

製作総指揮: ショーン・コームス、カール・ランボー、スーザン・バットソン、デイヴィッド・バインダー、クレイグ・ゼイダン、ニール・メロン

監督: ケニー・レオン

脚本: パリス・クアリス

原作: ロレイン・ハンズベリー

撮影: アイアン・ストラスバーグ

美術: カレン・ブロムリー

音楽: マーヴィン・ウォレン

編集: マリッサ・ケント

出演: ショーン・コームス (ウォルター・リーJr.)、サナア・レイサン (ビニーサ・ヤンガー)、オードラ・マクドナルド (ルース・ヤンガー)、フィリシア・ラシャド (レナ・ヤンガー)、ジャスティン・マーティン (トラヴィス・ヤンガー)、ビル・ナン (ボーボー)、デイヴィッド・オイエロオ (アサガイ)、ロン・セファス・ジョーンズ (ワイリー)、ショーン・パトリック・トーマス (ジョージ)、ジョン・ステイモス (カール・リンダー)


物語: 1950年代末シカゴ。黒人のヤンガー家は貧窮に喘いでいたが、家長のウォルターが死去したことで、1万ドルという保険金が入ることになっていた。その使い道はウォルターの妻レナに一任されていたが、しかし白人の運転手としてこれまでを過ごしてきた長男のウォルターJr.は、その金を元に、友人らと共に酒場の経営を考えていた。気丈夫なウォルターの妻ルースは、目先のことしか考えないウォルターに落胆しレナに同情する。一方、ウォルターの妹ビニーサは学校で新しいボーイ・フレンドを見つけ、ウォルターとルースの息子トラヴィスもいるヤンガー家のアパートは手狭で、最近は家の中で小さな諍いが絶えることがなかった‥‥


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「ア・レーズン・イン・ザ・サン」は黒人女性作家ロレイン・ハンズベリーが1959年に発表した舞台劇である。シドニー・ポワチエ、ルビー・ディ等の当時を代表する黒人俳優が顔を揃えたこの舞台はその年のニューヨーク・ドラマ批評家賞を受賞、すぐに映画化もされ、高い評価を得た。その後1989年にはダニー・グローヴァー主演で再度、今度はTV映画化されている。


今回のTV映画は3度目の映像化であり、2004年にブロードウェイで再上演された舞台を基にした映像化でもある。この舞台ではフィリシア・ラシャドとオードラ・マクドナルドの二人が揃ってトニー賞の主演女優賞と助演女優賞を獲得している。そのラシャドとマクドナルドを含め、舞台の主要登場人物であったショーン・コームス、サナア・レイサン、ビル・ナンといった面々も揃って舞台と同じ役で出演している。


タイトルの「ア・レーズン・イン・ザ・サン」というのはラングストン・ヒューズの同タイトルの詩を借用したもので、番組冒頭のナレーションでも、「かなわなかった夢というのはいったいどうなるのか。陽の下の乾しブドウのように干からびてしまうのか、あるいは膿んだ傷口のようになってそこから逃げ出すのか」というその詩が語られる。因みにナレーションを担当しているのは、ノー・クレジットながらモーガン・フリーマンだ。ヒューズがこの詩を書いたのは1930年代のハーレムにおいてだが、50年代末期の将来の見えないシカゴ郊外の貧しい黒人家庭においても、一縷の希望と絶望がその一粒の乾しブドウという比喩に込められる状況には大差ない。因みに前回TV映画化された時の邦題は「黒い一粒のプライド」で、なかなかうまい。


シカゴのたいして広くもないアパートに住むヤンガー一家は、お世辞にも裕福とは言えなかったが、プライドをもって生きるよう教えられて育った。その大黒柱のウォルターが死去したことで、一家には1万ドルという予想外の保険金がおりる。今では家庭の柱として、白人の家のメイドとしてまだ働いているウォルターの妻レナは、その金でやっと引退して楽な暮らしができるはずだった。


しかし長男のウォルターJr.は仲間と共に酒場を経営したいと考えており、その金を切望していた。白人の車のお抱え運転手として働くウォルターは、見栄っ張りで、息子のトラヴィスにいい格好を見せるために金をやるが、その後で妻のルースに金を無心するのだった。ルースは家の中を切り盛りしながら洗濯の内職をして家計を助けていたが、実は彼女は妊娠していた。新しい生命が宿るのは嬉しいことだが、しかしそれはさらなる家計の圧迫を意味してもいた。ウォルターの妹ビニーサは大学に進み、青春をエンジョイしていたが、むろんそれは大きな出費を意味してもいた‥‥


等々、有り余る金を持っているわけではないが、少なくとも家族が力を合わせ、その中の一人をなんとか大学に進ませることはできる。その一方で末っ子はいまだに自分の部屋どころか専用のベッドすらなく、カウチで寝かされているという状態のヤンガー家が、それぞれの思いを胸に日々の生活を営々と営む様が描かれる。むろんその中で焦点となるのは、1万ドルというヤンガー家にとっては生まれて初めて手にする大金の行方に他ならない。ウォルターはその金を咽喉から手が出るほど欲しかったが、しかしレナはその金で家を買ったことを告白する。アパート住まいから離れ、生まれて初めて自分の家を持つのだ。


一方、レナはその残りの金をウォルターに渡す。酒場の経営には反対の立場を崩さないレナだったが、もう大人のウォルターを信頼してのことだった。しかしその金は、その話を持ってきた口のうまい詐欺師によって持ち逃げされる。さらにレナが買った家は、よりにもよって白人の住むエリアの真ん中にあった。まだ人種意識が強く残っていたその時代では、黒人が自分たちの近所に住むことを快く思わなかった白人コミュニティは、弁護士を雇ってヤンガー家と交渉に当てる。もしヤンガー家が引っ越しを取り止めてくれるならば、それ相応の金を出すというのだ。やはり一生、自分の家は持てずに終わるのか、ヤンガー家は途方に暮れる‥‥


「レーズン・イン・ザ・サン」は、TV映画としては長尺の3時間番組である。最初、ちょっと長いかなと思って見始めたのだが、すぐに惹き込まれた。よく書き込まれた原作もさることながら、その人物像を体現する俳優陣、特に、やはりトニー賞をとった二人、レナを演じるフィリシア・ラシャドと、ルースを演じるオードラ・マクドナルドが抜群にいい。両方ともいわゆる昔の、耐える女の部類に入る人物造型がされている。まあ、時代を考えるとそんなもんだろう。そしてやっと二人とも少しは楽になれるかと思ったその時、その金の多くがウォルターの思慮のない行動のおかげでネコババされる。


特に家を仕切る者として、これまでの人生のほとんどを人のために働くことのみで過ごし、しかしそのことに誇りを持って生きてきたレナは、その金が持ち逃げされたことを知って崩れ落ち、号泣する。それまで番組のほとんどを受け身の演技で通してきたラシャドが声を振り絞り感情を爆発させるこのシーンは、番組後半の最大の見せ場。トニー賞当然の渾身の演技で胸に迫る。


一方のマクドナルドも、ラシャドのような見せ場が用意されているわけではないが、それでも微妙な感情の起伏を使い分け、見事。思えばラシャドはNBCの「コスビー・ショウ」で長らくあのビル・コスビーを筆頭とするコスビー家を裏で仕切っていたという超ヴェテランだし、演技だけでなく歌でも一流のマクドナルドも、今さら特にその実力を強調する必要もあるまい。むしろ舞台では見えにくかったはずの微妙な表情を見ることのできるTVでは、徹底して受けに回るマクドナルドの巧さを堪能できると言ってもいいだろう。マクドナルドは昨秋からABCの「グレイズ・アナトミー」スピンオフの新番組「プライヴェイト・プラクティス (Private Practice)」にレギュラー出演中なのだが、ああいうトレンディ・ドラマよりもこちらの方が何倍もいいと感じた。


意外に好演しているのがウォルターJr.を演じるショーン・コームスで、その名前よりもパフ・ダディというラッパーとしての通り名/芸名の方が通りがいいだろう。そのパフ・ダディという名も、パフ・ディディとか単にディディとか始終マイナー・チェンジを施しているため、いったい今、彼をなんと呼べばいいのかよくわからない。以前デイヴィッド・レターマンがホストの深夜トーク「レイト・ショウ」にゲスト出演した時も、レターマンから、で、今の名前はなんていうんだ、なんて訊かれていたから、本人とその側近およびファン以外、現行ネイムを把握している者は少ないと思われる。


コームスは演技初体験というわけではなく、以前「チョコレート (Monster’s Ball)」では死刑囚を演じていた。その時は出番も小さく、特に印象を残したわけではなかったが、今回は基本的に彼こそが主演だ。しかしお株をラシャドとマクドナルドに奪われたとはいえ、実はコームスも悪くない。ここでのコームス演じるウォルターJr.の役柄は、見栄坊で見かけはともかく大人になり切れていないという人物像なので、家族と今ひとつしっくり来ず、浮いてもがいているという状況にうまくはまっている。演技では今イチうまくないという感じが、逆に話としてはうまく合致しているのだ。


その他、舞台でも共演していた、ビニーサを演じるサナア・レイサン、ボーボーを演じるビル・ナン、トレヴァー役のジャスティン・マーティンも同じ役で出演しており、それぞれいい味を出している。ビニーサの恋人役のアサガイと白人弁護士のカール・リンダーだけは舞台と異なり、デイヴィッド・オイエロオとジョン・ステイモスが新たに演じている。ただし私に言わせてもらえれば、オイエロオはともかく、ステイモスは残念ながらこの番組で唯一のミスキャストだ。彼はこの役をやるには見かけが善良すぎる。舞台のデイヴィッド・アーロン・ベイカーか、あるいはリチャード・ジェンキンスのようなバイ・プレイヤーなら完璧だったのに。


配役を言うなら、オリジナル舞台でウォルターJ.を演じたシドニー・ポワチエの娘シドニー・タミラ・ポワチエをビニーサ役でキャスティングしてもよかったのではという気もしないではない。そうしたら別の意味でまた見所が増えたろうが、もちろんレイサンのビニーサにも文句はない。いずれにしても今年のエミー賞のTV映画/ミニシリーズ部門の主演女優賞はラシャドで決まり、と言いたいところだが、彼女と、現在HBOが放送中の「ジョン・アダムズ」でポール・ジアマッティ扮するアダムズの妻を演じているローラ・リニーとの一騎打ちになるのはほぼ間違いあるまい。少なくとも助演女優は今のところマクドナルド以外考えられない。コームスがノミネートされる可能性は、あるかなあ。今年のエミー賞のノミネーション発表が楽しみだ。







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A Raisin in the Sun


ア・レーズン・イン・ザ・サン   ★★★1/2

 
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