A Quiet Place


ア・クワイエット・プレイス  (2018年4月)

昨年のこの時期も、いきなりどこからともなくホラーの佳作「ゲット・アウト (Get Out)」が現れ、話題をさらったことを思い出した。今年は「ア・クワイエット・プレイス」が、私の印象では話題を独占している。そりゃあ「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー (Avengers: Infinity War)」や「ブラック・パンサー (Black Panther)」くらいの興行収入を得るまでは行かないが、それでもこれまでのところ、「クワイエット・プレイス」が今年ナンバー・ワンのスリーパー・ヒットであることには変わりはない。 

 

この手の、どちらかというとあまり製作費をかけないホラーの場合、何よりもオリジナルのアイディアが最も重要であるのは言うまでもない。「クワイエット・プレイス」の場合、地球が非常に聴覚が優れているエイリアンによって侵略され、ほぼ根絶やしにされた世界を描くというのが話の骨幹で、従って主人公一家以外は、登場人物はほとんどいない。 

 

音を立てると殺されるので、なんとか生き延びた人々は、音を立てずに生活することで、エイリアンに襲われることを免れていた。アボット家の場合は、元々長女のリーガンが聴覚障害で一家が手話でコミュニケイションをとれたため、できるだけ会話を抑えることで音を立てずに生活でき、これまで難を免れていた -- というのが話の発端だ。 

 

しかしもちろん、いつまでもこういう生活ができるわけではない。まったく音を立てない生活なんて不可能だ。特に母のイヴリンは身重で、ほぼ臨月だ。音を立てずに子供を出産できるわけがない。自分はともかく、生まれてきた子に泣くなと言えるわけがない。果たして彼らは生き延びていくことができるのか‥‥ 

 

発想の転換というか、登場人物が音を出すことを禁じられていることが、どのように作品に影響を与えるのか。絵と音の総合メディアである映画において、登場人物に喋るな、音を出すなというのは、かなり危険な行為だ。もちろんこれまでにも比較的音の少ない作品というのはあった。ここぞという時にむしろ無音なのは効果的という演出もある。どうなんだろう、もしかして音楽も使用していないということはあるか。ほとんど無音で最初から最後まで通すのか。 

 

と結構興味津々で見に行った「クワイエット・プレイス」、実はそこそこ音は使われている。バックに音楽も流れる。まったく無音というわけではない。さすがに音楽なしセリフなしでずっと乗り切れるわけもなかったか。現実には、自然界には風の音、雨の音、水の音、虫の音など、耳を澄ませば色んな音が存在している。一方で実際に登場人物が極力音を出さないように生活しているため、些細な音が効果的でもある。 

 

冒頭、生活必需品を手に入れるため、アボット家の面々が誰もいない町のドラッグ・ストアで棚を物色している。足音をできるだけ立てないように、皆、裸足なのだが、裸足で歩いてもリノリウム系のフロアに微かにぺたぺたと足音が聞こえる。そうか、周りが静かだと聞こえるもんだなと思った。 

 

ところで私が見に行った映画館で、途中でカバンをがさこそ言わせて、たぶんキャンディかなんかのようなものを探して口に運ぼうとしているおばさんが近くに座っていた。こういう作品である、普段なら気にも留めないようなそういう行為が超うるさく感じられた。よくこんな時にがさこそ音立てて平気だよな、その神経が信じられん。あんたは一発でエイリアンに食われて終わりだと思っていた。 

 

話としては面白く見たが、一点だけ気になったのが、アボット家が使用している電力だ。これはいったいどこから来るのか。たぶんもう発電所が稼働している可能性はほとんどないと思う。もしかしてあれだけうるさい場所だから、逆にそこで働いている人間はエイリアンから察知を免れていて発電所を動かし続けていた、という展開は可能か。かなり難しいと思う。太陽光発電で自家製電力を賄っていたというのはどうか。そういうパネルはまったく見えなかった。もちろんガソリン等を使ったジェネレイタによる発電は、うるさ過ぎて却下だ。 

 

いずれにしても、臨月のイヴリンがいるため、出産シーンが山場になることは、これはもう火を見るより明らかだ。定石なら嵐の晩に雷と共に子を産み落とす、というのが誰もが考える展開だろうが、果たして本当にそうなるか、それともこちらをあっと言わせる何かが待っているか。 

 

イヴリンを演じるのがエミリー・ブラントというのが納得だ。かつてブラントは、「アジャストメント (The Adjustment Bureau)」「ルーパー (Looper)」で、本人の意志に関わらず人類の未来を左右する存在として登場し、そして「オール・ユー・ニード・イズ・キル (Edge of Tomorrow)」、および「クワイエット・プレイス」では、自らの意志によって人類を存続さるために戦うことを決意する。人類の将来を一手に引き受けるブラントの本領発揮というところだ。なんにせよブラントが出ていると、人類の将来は安泰と、実は心の奥底では安心して見ているのが、彼女の出演の是でもあり非でもあるところだ。将来的には、こちらのそういう思い込みを見据えた、ブラント主演のアンハッピー・エンドの作品もいずれ作られるに違いない。 

 










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近未来、何ものかが地球上に現れ、地上に生きるものをことごとく殺戮する。それは異様に聴覚が鋭く、彼らに襲われずに生き延びるためには、物音を立てず、ひっそりと生活するしかなかった。アボット一家は当主のリー (ジョン・クラシンスキ)、妻のイヴリン (エミリー・ブラント)、長女のリーガン (ミリセント・シモンズ)、長男マーカス (ノア・ジューブ)、次男ボーの5人家族で、山奥でひっそりと生活し、家族のコミュニケイションは手話で行っていた。イヴリンは身重で、リーガンは耳が聞こえなかった。ある日、生活必需品の調達に町に降りたアボット家は、ボーが電池で音を出すロケットの模型に強く興味を持つが、それはおもちゃとしてはご法度だった。しかし気を利かしたリーガンが電池を抜いてボーにロケットを与える。しかし誰も知らないうちに、ボーは勝手にまた電池を手にしていた。ボーは、帰り道で電池を入れたロケットを鳴らしてしまう‥‥ 


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