A Most Violent Year
アメリカン・ドリーマー 理想の代償 (ア・モスト・ヴァイオレント・イヤー) (2015年1月)
A Most Violent Year
アメリカン・ドリーマー 理想の代償 (ア・モスト・ヴァイオレント・イヤー) (2015年1月)
私はこういう、ニューヨークを舞台にしたクライムものには目がない。クライムものならだいたいなんでもOKだが、LAの陽光の下で光と影の落差が強烈なスタイリッシュなクライムものよりも、NYやボストンの寒い冬の弱い陽射しの下でのせめぎ合いという方が好みで、背景にうす汚れた雪が融けずに残っていたりすると申し分ない。最近では「ザ・ドロップ (The Drop)」なんてのもあった。特に一昔前を舞台にしていたりするとツボで、ジェイムズ・グレイなんかが贔屓の監督だったりする。要するに、まさに「ア・モスト・ヴァイオレント・イヤー」はそのツボど真ん中の作品で、予告編を見た時からこれは絶対見ると決めていた。
話は1981年、統計上NYで最も暴力的犯罪が多かった年、オイル販売業者として成り上がろうとする一人の男と周りの世界を描く。アベルは業務を拡大するために、イースト・リヴァー沿いに広がる土地をそこにある石油コンビナート基地もろとも買収しようとする。ただし交渉の相手は金銭に厳しいユダヤ人の中でもさらにきちきちのオーソドックスのユダヤ人で、支払いが一日でも遅れたら話はなかったもの、しかも前払い金は返さないという条件を飲まされる。
一方でアベルの周りには司直の手が伸びており、脱税がばれそうで後ろに手が回りそうになっていた。しかし業界の競争は厳しく、生き抜いて事業を拡大するチャンスは今しかなく、アベルは清水の舞台から飛び降りる気持ちで契約書にサインする。しかしオイルを配送するトラックは何度もハイジャックされてオイルを奪われ、新採用した従業員も何者かに拉致されてぼこぼこにされる。残りの金を支払う期限は目前に迫っていたが、しかしアベルの金策は万策尽きる‥‥
アベルの立場は、かなり「ゴッドファーザー (Godfather)」で、ギャング業から足を洗って真っ当な職業でやっていこうと考えるマイケルに似ている。アベルも脱税しているし、賄賂すれすれの献金を地域の政治家に行っている。しかし堂々と陽の当たるところで商売をしなければそのうち二進も三進も行かなくなるということはわかっている。そのための正念場が今なのもわかっている。しかし、どうにもこうにも四面楚歌だ。という状態で苦悩奔走するアベルを描く。
それにしてもアベルに扮するオスカー・アイザックは素性の知れない俳優だ。コーエン兄弟の「インサイド・ルーウィン・デイヴィス (Inside Llewyn Davis)」ではカントリー・フォークを歌ういかにもアメリカの田舎的青年だったのに、「ギリシャに消えた嘘 (The Two Faces of January)」ではギリシア系に見えなくもなく、「モスト・ヴァイオレント・イヤー」では何系かはわからないが、スパニッシュ系従業員の妻 (カタリーナ・サンディーノ・モレノが1シーンだけ出ている) に向かってスパニッシュで語りかけたりするところを見ると南米系にも見える。今後の出演作は「スター・ウォーズ: エピソード7 (Star Wars: Episode VII)」に「X-メン: アポカリプス (X-Men: Apocalypse)」だそうで、ほとんど節操がないという印象を受ける。グアテマラ、キューバ、フランスの血が入っているそうで、道理でどんな人種に扮してもそこそこその辺の人間に見える。
アベルの妻アナに扮しているのがジェシカ・チャステイン。近年の活躍を考えるともったいない使われ方と言えるかもしれないが、アナはちゃんと裏でやるべきことはやっている。地方検察官のロウレンスに扮するデヴィッド・オイェロウォは、公開中の「セルマ (Selma)」ではマーティン・ルーサー・キングJr.という清廉潔白の指導者に扮しているのに、ここでは同じ政治家でも後ろ暗い。清濁併せ呑む懐の大きさというところか。
オイル・トラックのドライヴァーのジュリアンに扮するエリス・ガベルは、見たことがあるなあ絶対どこかで見てるなあと思っても、それがどこかてっきり思い出せない。そしたらこないだTVを見ていて、いきなりガベルが出てきた時は、あっと思った。昨秋からの新番組、NBCの「スコーピオン (Scorpion)」でガベルが扮しているのは、FBIと組む天才ハッカーだ。映画では意志が弱くて、アベルから禁じられていても銃を携帯してニューヨークの街中で発砲して事件沙汰にしてしまい、自らドツボにはまっていくという貧乏くじを引いた人間役が非常によかったので、こちらの天才ハッカー役と隔たりが大き過ぎて思い出せなかった。
演出のJ. C. チャンダーは一昨年、ロバート・レッドフォード主演の「オール・イズ・ロスト (All Is Lost)」が評判になっていたが、たまたま目にしたネガティヴな評に影響された私は、予定を翻して代わりに普段は見ないお下劣系コメディの「jackass クソジジイのアメリカ横断チン道中 (Jackass Presents: Bad Grandpa)」を見ていたのだった。今回やっとチャンダー見れた。満足。
1981年冬、ニューヨーク、ブルックリン。この年は統計的に最も犯罪の多い年だった。オイル販売業経営のアベル (オスカー・アイザック) は事業を拡大したくて、川沿いに広がる港湾施設を買収しようと、施設所有者のオーソドックスのユダヤ人と交渉する。手付けを払い、残りは一と月以内に支払うことを約束する。もし遅れた場合は土地を手に入れられないのはもちろん、手付け金も返ってこない。一方、競争の厳しいオイル販売業界ではオイル輸送車をカージャックしてオイルを盗むだけでなく、時にドライヴァーもぼこぼこにされる事件が頻発しており、アベルの会社も大きな痛手を被っていた。ドライヴァーの一人ジュリアン (エリス・ガベル) はかつてそれで大怪我をしており、勝手に拳銃を携帯して業務に就いて、発砲事件を起こして警察が駆けつける騒ぎになる。アベルの家の周りにも狼藉者がうろつき、さらには脱税で当局の捜査が手が入るなど、残された時間で残りの支払いの金を調達できる見込みは、まったくと言っていいほどなかった‥‥
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