放送局: シンジケーション (ニューヨーク地域ではFOX)

プレミア放送日: 3/21/2005 (Mon) 18:30-19:00

製作: 20世紀FOX TV

製作総指揮: ピーター・ブレナン、ジョン・トムリン、ボブ・ヤング

ホスト: ティム・グリーン


内容: 時事問題/ゴシップ系のニューズ・マガジン。


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既に遠い過去の話のようになってしまった気もするが、80年代末から90年代にかけて、アメリカTV界は、シンジケーションを中心に、時事/社会問題や、ややもすればゴシップ的な話題を掘り下げる、いわゆるニューズ・マガジンと呼ばれる番組が跋扈していた。その種の番組のはしりが、シンジケーションで編成されていた「ア・カレント・アフェア」である。


86年から始まった「カレント・アフェア」の成功は、同様の番組の乱立を促した。同じシンジケーション枠での「ハード・コピー (Hard Copy)」や「インサイド・エディション (Inside Edition)」は言わずもがな、それ以前から始まっていたCBSの老舗ニューズ・マガジン「60 ミニッツ」やABCの「20/20」も巻き込んで、一つのブームへと成長した。


ネットワークのニューズ・マガジンは、視点こそどちらかという硬派だったが、時としてスキャンダラスな題材を扱うこともあった。そのためゴシップ寄りのシンジケーションのニューズ・マガジンとネットワークのニューズ・マガジンでは、明らかに質の点では差があったが、結果として、全体としてのニューズ・マガジンの興隆に貢献し、それぞれに人気を得ることになった。3大ネットワークでは唯一このジャンルに手を出していなかったNBCが、92年から「デイトライン (Dateline)」を引っさげて新たに参入してきたのも当然だろう。


「カレント・アフェア」は今でこそ三面記事や芸能ゴシップ、スキャンダル、下ネタ系を追いかける破廉恥番組的な印象を残しているが、番組が始まった当初は、結構硬派な、それこそネットワーク番組に伍す題材を扱っていた。因みに当初の番組ホストは、現在シンジケーションで自分のトーク・ショウ「ザ・モーリー・ポヴィッチ・ショウ (The Maury Povich Show)」を持っているモーリー・ポヴィッチである。その、最初はかなりジャーナリスティックな味わいのあった「カレント・アフェア」が、ポヴィッチが去った後、段々軟派に傾いていってしまったのは、当然その方が視聴率をとりやすいからだ。しかし、結局視聴率はジリ貧になって96年に番組はいったんキャンセルされる。


この時、「カレント・アフェア」のみならず、この種のニューズ・マガジン全体に大きな痛手となったのが、ジョージ・クルーニーによるニューズ・マガジン番組排斥運動だ。NBCの「ER」の大成功により、ほとんど一夜にして全米の女性を虜にする大スターにのし上がったクルーニーに、マスコミは殺到した。プライヴァシーを侵害され、頭に来たクルーニーは、特にこの手の番組で最も性質の悪かった「ハード・コピー」を名指しで非難、共演者と連名で番組ボイコット運動を展開した。当時この種のニューズ・マガジンは灰色の印象が濃かったが、誰が見ても正義漢のクルーニーから本気で弾劾されことではっきりと黒色に転落、番組の信用はほとんど地に落ちた。


さらにこの手のスター・ゴシップや芸能ニューズを扱うなら、蛇の道はヘビで、ニューズ・マガジンではなく、「エンタテインメント・トゥナイト (ET)」という芸能情報専門の番組が既にちゃんと存在していた。その上、ニューズ・マガジン不利と見た番組製作会社は、94年「エキストラ」、96年「アクセス・ハリウッド」と、芸能プロパーの番組を立ち上げたため、シンジケーションのニューズ・マガジンはさらに不利な状況に追い込まれた。


結局「カレント・アフェア」が96年にキャンセルされた後、「ハード・コピー」も99年にキャンセル、たった一つ生き残った「インサイド・エディション」も、ニューヨーク地域では近年はほとんど誰も見ていないと思われる夜中に編成されるなど、ニューズ・マガジンは現在では青息吐息の状態だった。実を言うと、この項を書くためにTVガイドを見るまでは、私は「インサイド・エディション」がまだやってるなんてまったく思いもつかなかった。とうの昔にキャンセルされたものだとばかり思っていた。うーん、深夜のゴシップ系番組か‥‥一応はまがりなりにもそれなりに需要があるんだろう。


いずれにしても、というわけで、近年影を潜めていたシンジケーションのニューズ・マガジンに「カレント・アフェア」がまた復活するという話を聞いた時は、驚きもしたが、この手の番組の需要は完全になくなることはないのだなと納得もした。実際、時々、たまたまつけたTVでこの手の番組をやっていたりすると、なんとはなしにそのままずるずると全部見てしまうということはよくある。今、この手のくだらないが見てしまうという同種の傾向を持つチャンネルの代表がスパイクTVだろうと私は思っているのだが、そのスパイクTVが視聴率で健闘しているという話を聞くと、やはりニューズ・マガジンがなくなるということはないのだろうと思う。


さて、新装「カレント・アフェア」は、この3月から放送が始まった。番組プロデューサーはオリジナルの面々がまたそのまま務めているが、番組ホストは元NFLプレイヤーのティム・グリーンが新たに抜擢された。たぶん見場や押し出しのよさといったところが買われたんだろう。番組ロゴは、あの、ピラミッド・パワーを意識した以前と同じロゴがそのまま使われている。つまり、見かけ上変わったのは、スタジオのセットとホストだけだ。


その番組第1回の内容は、主要なセグメントが、スコセッシの「カジノ」にかぶれたラスヴェガスのティーン・ギャングが、映画の中でジョー・ペシが殺されたシーンを再現しようと、知り合いのティーンエイジャーを殺害して埋めた事件を追う。その後で、ジーンズからTバックの紐やケツの割れ目がのぞくのはけしからんと、法律によってその手の行為を取り締まろうと奔走する弁護士を紹介する。


こういう興味本位の主題の取り上げ方が、いかにもシンジケーションのニューズ・マガジンという気がする。むろんネットワークのニューズ・マガジンだって似たようなテーマを取り上げる時はあるが、やはりその題材に対する距離感や視点の差というものが歴然としてある。いくらなんでもジーンズからはみだすTバッグの紐防止運動を展開する弁護士を、ネットワークのニューズ・マガジンが特集するとも思えない。


因みにその後の番組テーマは、夫を殺害した容疑で逮捕された妻、雪男発見、完全犯罪を目論んだ学校の首席生徒、母親を殺してしまったできのいい娘、弁護士にジョークを言ったために逮捕されてしまった男、父が母を殺害するのを目撃してしまった息子、一夫多妻制をいまだに貫く男、フリー・セックスを標榜するカリフォルニアの新興宗教、幼稚園で暴れて先生に食ってかかったため警察官に逮捕されて手錠を掛けられた5歳児、等々で、シンジケーションのニューズ・マガジンの名に恥じないテーマの羅列だ。こういうテーマが尽きないところを見ると、やっぱりアメリカって広いんだなと思う。


「カレント・アフェア」は、以前、よせばいいものをスター・ゴシップにも手を出したために逆に視聴者離れを起こしてしまったという経緯があるため、今回の新生「カレント・アフェア」では、上記のような、アメリカのどこにでも転がっているような社会事件を中心に製作していくそうだ。確かに、番組としてはその方がいいと私も思う。そういう三面記事的な性格こそ、視聴者がシンジケーションのニューズ・マガジンに求めているものだからだ。


そしてアメリカというものは、時に、本当に誰もが本当にあっと言う大きな三面記事的事件が起きる。恋愛のこじれから殺人事件に発展するのは日常茶飯事だし、ティーンエイジャーですらその気になれば簡単に銃を手に入れることができる。そういうわけで、たぶんこういう番組の需要と供給が途切れることはないだろうと思えるし、実際、いったん番組を見始めると、くだらないなあと思いつつも、それがどうなるのか気になって、まず最後まで見てしまうのだ。こういう番組って、視聴者のそういう覗き趣味的な気分をうまく煽るよなあと思うのであった。






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ア・カレント・アフェア   ★★1/2

 
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