放送日: 9/11/2002 (Wed)

内容: テロリスト・アタック1周年のアメリカのTV界の報道の模様。


_______________________________________________________________


全然考えてもいなかったのだが、うちのボス (女性) が、9月11日はオフィスを休んでもいいと言ってきた。一応最近またセキュリティが厳しくなり、新たなテロの可能性云々が取り沙汰されてはいたが、だからといって心配だからオフィスを休むというのは、私はまったく考えていなかった。しかしテロの危惧をしながらわざわざクイーンズからサブウェイに乗ってマンハッタンに来るのもなんでしょうというボスの意見をありがたく聞き入れ、お言葉に甘えて休ませてもらった。


そういうわけで9月11日の朝はなんとはなしにやはりTVを見ていたのだが、いきなり全ネットワークがコマーシャルなしの式典中継をやっていたのには多少驚いた。当然この日は朝からその手の番組が占めるだろうとは思っていたが、全ネットワークが全日コマーシャル・フリーでまた報道体制を敷くとは思っていなかったのだ。途中アナウンサーがここらでブレイクをとりますと言っても、結局コマーシャルを挟むのではなくて、公共のアナウンスが流れるだけで、わりと夜遅くになるまで普通の意味でのコマーシャルはなかった。


朝のセレモニーは前市長のルドルフ・ジュリアーニも呼んで、3,000人弱の亡くなった者たちの名をすべて読み上げるというものだった。実は私は時たまTVのコマーシャル撮影やインディ映画撮影の手助けをしており、ちょうどたまたまその話が舞い込んでいて、オフィスが休みなのをいいことにロケハンに出かけることにしていた。それで何人もの人が交替で名を読み上げている途中でアパートをあとにしたのだが、名を読み上げ始めて延々と1時間くらいたった時でもまだやっていた。一人の名を読むのに2秒かかるとして、1分で30人、1時間で1,800人だから、1時間半から2時間くらいはかかった勘定になる。しかし、やると言ったからにはどれだけ時間がかかっても本当に全員の名を呼んでしまうという根性は、なかなか見上げたものだと思う。因みにその間中、すぐそばではヨー・ヨー・マをはじめとするミュージシャンが、やはり交替で音楽を奏でていた。


そのセレモニーの時に、チャンネルを変えてネットワーク同士を見較べてみたのだが、基本的に全ネットワークが同じ映像を使用していた。昨年とは違い、今回は協定のようなものでもできていたのだろう。ただし、その加工の仕方はそれぞれ異なり、NBCとFOXはただ映像を流すだけだったが、ABCは犠牲者の名前をテロップで流し、CBSはさらにどこからか全員の写真を集めてきて、その顔写真と名前を同時に画面下部に挿入していた。昨年の事件直後の報道でも、私はCBSが一番うまくまとめているという感触を受けたが、今回は誰の目から見ても文句なしにCBSが他ネットワークより上を行っていた。じじばばチャンネルと文句を言われることの多いCBSだが、最近は「サバイバー」みたいな若者受けする番組の編成にも成功しているし、なかなか見直した。あるいは、もしかしたら私もそのじじばば化してきたということなのかもしれない。


ところで犠牲者の名前を読み上げる時、プロでもなんでもない人が何千人もの名前を読み上げるのだから、当然読み落としが懸念される。それで、チェック用にもう一冊名簿を作り、そばで係りの者が逐一読み落としがないかどうかチェックしていたということだ。結果、何名かはすっ飛ばされて名を読まれなかったのが確認され、その者たちは一応予定されていた全員の名が読み上げられた後に、追加の形で最後に忘れずに付け加えられた。なんというか、アメリカ人がこういう時に完全を期する時の徹底さや完璧主義、そしてそれを実行に移す時のリーダーシップというものには、本当に感心させられる。


この日、グラウンド・ゼロにはサークル・オブ・オナー (Circle of Honor) と呼ばれる、直径15mくらいの円形の祭壇が作られた。祭壇といっても、ただ柵で周りを囲っただけの何の変哲もないシンプルなものなのだが、集まった者たちが手に手に花束を投げ入れ、中に入り込んで中央にスターズ&ストライプスを立てる者が現れたりして、だんだんいかにも祭壇らしい雰囲気が漂ってくる。これをデザインした者は、なかなかセンスがいい。最初、人々が手に手をとってサークル・オブ・オナーを取り囲んだ時、一陣の風が吹いて周りに黒澤明の「用心棒」もかくやと思われる砂埃が舞い上がったのだが、それが独特の雰囲気を盛り立て、なんかスピリッツ (霊魂) を感じさせるとして話題になっていた。私も見ていて思わずあっと声を上げてしまった。こういう時は、人は運命論者になってしまうようだ。しかし、結局サークル・オブ・オナーは集まってくる人の数に較べ大き過ぎたのか、最終的にはその3分の1も埋まらず、結構空隙が残り、別の意味でまた物悲しい感じになってしまった。


その後私はデジカメ片手によりにもよって最も警備が厳しいと思われるタイムズ・スクエアやブルックリン・ブリッジまでサブウェイに揺られて赴いたのだが (この日の道路は封鎖が多く、車が使えなかったのだ)、記憶している限りで、昨年のハロウィーンのパレードに次ぐ物々しい警戒振りだった。よく晴れた日だったので、私は半袖シャツにショーツ、それにサンダル履きでバッグをたすきがけという出で立ちだったのだが、一人でブルックリン・ブリッジの周囲でいいアングルを求めてぶらぶらしている時に、いきなりNYPDのパトカーがじっと私の後ろに張り付き、私が歩くスピードでずっと後をつけてくるのには参った。私が立ち止まると向こうも止まるのである。確かに、変な格好で歩き回っている、どうも観光客のようには見えない東洋人が時々ポケットからカメラを取り出し、あちこち写真を撮っていたら、不審に思われるのもしょうがないとも思うが、しかし、やはりいい気はしない。しばらくして私が橋のふもとから離れる方向に歩き出したら向こうも離れていったが、まあ、ちゃんと仕事をしているわけだからよしとするか。


その日はネットワークの全部、およびケーブル・チャンネルもほとんどが特別編成で挑んだわけだが、日中はまあだいたいがセレモニーやら何やらの中継やニュースで、プライムタイムには各局の特別番組が並んだ。私は職業柄その種の特番もどこが何をやるのかをだいたい押さえていたのだが、基本的に内容が同じでタイトルが違う (それもだいたいが似たり寄ったりだ) 番組が延々と引きも切らずにラインナップに連なっているので、さすがに最後はそれらの番組をチェックするのにも音を上げてしまった。考えてもみて欲しい。夕方から深夜にかけ、2、30程度のチャンネルが、しかも本当のことを言うともうあまり見たくないほとんど同じ内容の番組を一斉に放送するのだ。


それでもわりと結構リモートを操作して色んなチャンネルをサーフして回ったのだが、その中で一番印象に残ったのは、その種の番組とはあまり縁のなさそうなMTVが放送した特番で、事件そのものではなく、事件がその後のTV放送にどういう影響を与えたかということを検証したドキュメンタリーだった。事件後、どうやってTV番組がこの事件に対応し、最初のショックから通常のスケジュールに戻っていったかということを実例を挙げて紹介していたのだが、久し振りに見る事件直後のデイヴィッド・レターマンの印象的なスピーチや、当時のジュリアーニNY市長が登場した「サタデイ・ナイト・ライヴ」のシーズン・プレミア等の映像を見て、またその時の気分がありありと蘇って来た。レターマンのスピーチは、今また聞いても感動ものである。


その後で結局、私はなんとはなしに3月に放送され、その時に一度見ているCBSの「9/11」をまた見てしまった。他に何十ものチョイスがあるのに、なんでまたわざわざ一度見た番組をまた見る気になったのか、自分でもよくわからない。後日この日の視聴率発表を見ると、私と同様「9/11」を見ていた者が多かったようで、この番組の視聴率が最も高かった。多分、中途半端にまた何度も何度も同じ映像を見せられ、何度も何度も犠牲者の話を聞かされるよりは、一つの作品として完結しているこの番組を見て、これで終わりにしたいと考えた者が多かったのではないか。


とはいえ「9/11」は強烈な番組で、私の知る限り、最初の飛行機が貿易センター・ビルに突っ込んだシーンをとらえた唯一の映像を含む。それだけでも歴史的価値があるが、この番組で最も印象に残るのは、ビルの中で消防隊がどこから救助活動を始めればいいかとまどっている時に、外でどしん、どしんと大きな衝撃音が起こる、というシーンである。地震か、それともまた新たな事故かと身構える救助隊に、それが地上100階の階上で火にくるまれ、救助の手が差し伸べられるのを待てずに窓から飛び降りた人たちが地上に叩きつけられる衝撃音だということが伝えられる。これは実際に外に出てそのシーンを見せるわけではないが、だからこそ想像力に強く訴えかける。不謹慎な話だが、見せないということが実際に見せることより大きなインパクトを持つという演出の要諦を目の当たりにしているような気がした。いずれにしても、このシーンで衝撃を受けない者はいまい。


この日は徹底した警戒網が奏功したのか、新たなテロは起こらなかった。いずれにしても、また充分その時の映像を見せてもらった。もう当分はあまり見たかないというのが正直な気持ちである。







< previous                                    HOME

 

9/11 Anniversary

テロリスト・アタック1周年報道   

 
inserted by FC2 system