本当なら2001年9月16日に予定されていた今年のエミー賞授賞式は、ご存知の通り、9月11日のテロリスト・アタックによってそれどころではなくなったアメリカのごたごたのために、10月7日に延期された。しかし、延期されたエミーは、例年のような華やかな雰囲気とは縁遠くなり、ホストのコメディエンヌのエレン・デジェネレスがジョークを飛ばすような雰囲気ではなくなってしまったため、一時はデジェネレス交替も噂された。結局、デジェネレスはあまり羽目を外さないように釘を刺された上での続投となった。
HBOの番組 -- つまり「ザ・ソプラノズ」と「Sex and the City」のことだが -- は撮影がニューヨークとその隣りのニュージャージーであるため、ほとんどの関係者はニューヨーク近辺にいるが、当然のことながら会場があるLAまで飛行機で行くのを嫌がっていた。そこでエミーのプロデューサーは窮余の一策として、ニューヨークにも補佐的な会場を設け、LAおよびニューヨークからの二元中継をすることになった。
二元中継といっても、別に初めてのことではない。TV番組製作のほとんどが西海岸に移動した70年代後半になるまでは、エミー賞は元々LAとニューヨークからの二元同時中継だったのだ。だから今回はオリジナルの体裁に戻っただけで、なんということはないのだが、しかし、確かに一つの会場にスターたちが一堂に会した方が、華やかになって盛り上がるよなあ。それに慣れてしまうと、ホストもジョークを飛ばさない、会場にスターもあまり姿を現さないというのでは、やはりちょっと寂しい気は否めない。
と思っていたら、延期になった10月7日も、なんとアメリカ軍がアフガニスタンに対して空爆を開始するという日に重なってしまい、エミー賞はまたまた延期になってしまった。本当に今年のエミー賞はついてない。ここまで来ると、本当にエミー賞授賞式をやる意味があるのかということで喧々囂々の議論が起きたらしいが、とにかく、11月4日が再度延期されたエミーの受賞式として発表された。この段階では空のダイヤも平常通りに戻っており、やっぱりやるなら全員一堂に会した方がよかろうということで、ニューヨークにも会場を設けるのではなく、結局関係者を全員LAに呼んで、一つの会場でセレモニーを行うことになった。
ただし、例年エミー賞会場として使われていた6,000人の観客席を持つシュライン・オーディトリウムはその日は空いてなく、その上セキュリティ上の問題等もあり、観客席2,000人のシューバート劇場が新会場として発表になった。一時は安全が確保された軍施設内で内輪のパーティ形式でお披露目をするという案も出ていたらしいが、それはそれでスターの会場への移動等また新しい問題が起きるので、その案はご破算になった。
関係者の間では、こういう時だからこそ国民の士気を高めるこういうセレモニーはやった方がいいという意見と、この非常事態にこういう浮わついたセレモニーをやることに意味はないという意見とに分かれたらしい。それが結局とにかく何度延期しても開催ということに落ち着いたのは、とりもなおさず金の問題である。エミー賞はアメリカTV界最大の祭典なので、視聴率も高い。CBSがこれを中継して得るコマーシャル料は2,000万ドルに達する。そしてそのうち約300万ドルが、エミー賞を主催するアカデミー・オブ・テレヴィジョン・アーツ・アンド・サイエンスズ (ATAS) に支払われる。エミー賞が開かれないと、両者にとってこれらの金額のもろ損になるのだ。
しかも既にセレモニーは2度延期されている。特に2回目の延期は当日決まったものであるから、会場では着々と準備が続いていた。それにかかった費用は、会場代、花代、セキュリティ費用、ディナー料等、合計すると200万ドルを下らない金額になるそうだ。それが延期の一言で皆パアである。セレブリティ用として有名シェフが念入りに調理した2,500人分のディナーは、近くのホームレスのための慈善団体等に回されたそうだ。一人分100ドルとして、これで既に25万ドルの損失である。花代だけでも10万ドルの費用がかかったそうで、こちらは近くの病院等に寄付されたそうだ。当日はLAの一部の病院は花の匂いに溢れかえったに違いない。
これらの損失をそのままにして涙をのむということは、ビジネスという観点から見て、CBSにとってもATASにとっても、はいそうですかとそのまま簡単に引き下がるわけには行かなかっただろうということは、非常によくわかる。それでも、最後の方はほとんど意地で開催を決めたんではなかろうか。テロリストにいいようにあしらわれたままで終われるかというのが、最後の決定的な理由になったように思われる。最近のアメリカの好戦的な態度を見ていると、本当にそう思えるのだ。
ホストはデジェネレスがまたもや続投が決まったが、実は今回の再度にわたる延期で個人的に最も打撃を被ったであろうと思われるのは、誰あろうデジェネレスその人である。デジェネレスは、今秋からCBSの新シットコム「エレン・ショウ」に主演している。実はそのプレミア放送日は、9月17日月曜に予定されていた。そう、彼女がエミー賞でホストを担当し、全米の多くの視聴者が彼女の姿を目にしたはずの日の、その翌日である。エミー賞中継は毎年視聴率が高い。その勢いが冷めやらぬうちに、視聴者をデジェネレスの新番組に釘づけにしておくという腹だったのだ。因みに、エミー賞の中継ももちろんCBSが中継している。それがテロリスト・アタックにより、エミー賞どころか自分の番組まで余波を受けて放送日程が大きくずれてしまった。可哀想に「エレン」は放送は始まったものの、今のところ視聴率が稼げず、青息吐息である。
さて、今回はえらく前置きが長くなってしまったが、ここからが2001年11月4日に発表のあった第53回プライムタイム・エミー賞受賞番組と、私の予想成績と反省である。
コメディ・シリーズ
私の予想: 「マルコム・イン・ザ・ミドル」(FOX)
とったのは: 「Sex and the City」(HBO)
たとえ今回とっても、私はこの番組を評価する気にはやはりなれない。授賞式の翌日にアメリカ唯一の全国紙USAトゥデイを読んでいたら、この部門の「Sex and the City」の受賞だけはアカデミー会員の見識を疑ってしまう、と、私と同意見のコメントを寄せており、私は大いに溜飲を下げた。
ドラマ・シリーズ
私の予想: 「ザ・ソプラノズ」(HBO)
とったのは: 「ウエスト・ウィング」
まあ「ウエスト・ウィング」は昨年もとってるから2連覇の可能性は高く、「ザ・ソプラノズ」というのはどちらかというと希望であったわけだが、そうはうまく運ばなかったか。
ミニシリーズ
私の予想:「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド: ミー・アンド・マイ・シャドウズ」(ABC)
とったのは:「アンネ・フランク」(ABC)
もし「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド」がとれなかったらこれしかないとは思ったが、「アンネ・フランク」がとってしまった。しかし、それでも‥‥
TV映画(Television Movie)
私の予想:「61*」(HBO)
とったのは:「ウィット」(HBO)
そうですか。エモーショナルな番組であり、主演のトンプソンは素晴らしいとは思ったが、番組の作り自体はやはり好きじゃない。
コメディ・シリーズ主演男優
私の予想: フランキー・ムニツ (「マルコム・イン・ザ・ミドル」FOX)
とったのは: エリック・マコーマック (「ウィル&グレイス」NBC)
意外意外意外。これはまったく意外。他のノミニーの4人の誰が来ても納得だが、彼だけはないと思ったのに。
ドラマ・シリーズ主演男優
私の予想: ジェイムス・ガンドルフィーニ (「ザ・ソプラノズ」HBO)
とったのは: ジェイムス・ガンドルフィーニ (「ザ・ソプラノズ」HBO)
よしよしよし。シーンには悪いが、やはりガンドルフィーニの方がいいと思う。
ミニシリーズ/TV映画主演男優
私の予想: ベン・キングズリー (「アンネ・フランク」ABC)
とったのは: ケネス・ブラナー (「コンスピラシー」HBO)
キングズリーじゃなければペッパーかなと思ったんだが。要するに、ここは完全にはずれ。
コメディ・シリーズ主演女優
私の予想: ジェイン・カツマレク (「マルコム・イン・ザ・ミドル」FOX)
とったのは: パトリシア・ヒートン「エヴリバディ・ラヴス・レイモンド」
ヒートンの2連覇。「レイモンド」は助演女優もとって、来年辺りはコメディ番組部門も行くかも知れない。
ドラマ・シリーズ主演女優
私の予想: セーラ・ワード (「ワンス・アンド・アゲイン」ABC)
とったのは: イディ・ファルコ (「ザ・ソプラノズ」HBO)
ファルコがとれればいいと思いながらワードにしたのに、ファルコがとってしまった。自分の感情に正直に行けばよかった。
ミニシリーズ/TV映画主演女優
私の予想: ジュディ・デイヴィス (「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド: ミー・アンド・マイ・シャドウズ」ABC)
とったのは: ジュディ・デイヴィス (「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド: ミー・アンド・マイ・シャドウズ」ABC)
これが外れることはまずないと思っていた。予想通り。
コメディ・シリーズ助演男優
私の予想: ロバート・ダウニーJr. (「アリーmyラブ」FOX)
とったのは: ピーター・マクニコル (「アリーmyラブ」FOX)
「アリーmyラブ」という点では間違ってなかったんだけどねえ。
ドラマ・シリーズ助演男優
私の予想: リチャード・シフ (「ウエスト・ウィング」NBC)
とったのは: ブラッドリー・ホイットフォード 「ウエスト・ウィング」
「ウエスト・ウィング」という点では間違ってなかったんだけどねえ。
ミニシリーズ/TV映画助演男優
私の予想: ブライアン・コックス (「ニュールンベルグ」TNT)
とったのは: ブライアン・コックス (「ニュールンベルグ」TNT)
正直言って、当たったのはまぐれです。
コメディ・シリーズ助演女優
私の予想: メーガン・ムラリー (「ウィル&グレイス」NBC)
とったのは: ドリス・ロバーツ (「エヴリバディ・ラヴス・レイモンド」CBS)
確かに「レイモンド」は笑わせてくれるからなあ。
ドラマ・シリーズ助演女優
私の予想: モウラ・ティアニー (「ER」NBC)
とったのは: アリソン・ジャニー 「ウエスト・ウィング」
ジャニーの2連覇。別に異議はありません。
ミニシリーズ/TV映画助演女優
私の予想: タミー・ブランチャード (「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド」ABC)
とったのは: タミー・ブランチャード (「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド」ABC)
Way to go, Tammy.
ノン・フィクション (スペシャル・クラス)
私の予想: 「サバイバー」CBS
とったのは: 「サバイバー」CBS
とりたてて言うことはありません。
総評(反省と今後の対策)
今年は的中率5割を目標としていたのに、番組開始早々、コメディとドラマの助演男優/女優賞で続け様に外れ4連敗となった時には、非常にがっくりきた。ミニシリーズ/TV映画助演男優/女優のコックスとブランチャードを当てて少し持ち直したが、その後はたまさか当たる程度。思うに、エミーを当てるのは非常に難しい。アカデミー賞の10倍は難しいと言える。
というのも、たとえエミーのアカデミー会員といえどもノミネートされている番組を全回見ているわけではもちろんなく、数あるエピソードの中から最もできのよかった回が観賞用にアカデミー会員に回され、会員はその回だけを見て投票するからだ。それがどの回かというのは基本的に公表されないから、会員と我々一般視聴者ではそもそもの番組を評価する基盤が違う。しかし、それでも番組賞関係で一つも当たらなかったのはがっかりだ。本当にエミーを当てるのは難しい。結局、的中率5割どころか、全17部門中5部門、的中率2割9分4厘と、気合い入れて予想したわりには昨年より悪いという成績になってしまった。ああ、がっかり。
授賞式そのものは、普段ならスターたちがゴージャスに着飾るはずが、トーン・ダウンしてビジネス・スーツ着用とさすがにいつもよりは地味だったが、デジェネレスは非常にうまく式をまとめていた。ユーモアと愛国精神のブレンドが絶妙で、過去、これだけうまいと感じさせたホストはなかった。デジェネレスを替えずに残した番組プロデューサーの判断は、英断だったと言える。デジェネレスは自分の番組の「エレン」より、こっちの方がうまいと思えるだけでなく、こちらの方が可愛く見えた。ただし、ノミニーでも参加を見合わせたり、処々の都合から欠席した者も多く、その点ではやはりいつもの授賞式と較べて多少寂しい感じは否めなかった。
ドラマ部門の主演男優賞受賞のガンドルフィーニや、コメディ部門賞をとった「Sex and the City」のサラ・ジェシカ・パーカー、TV映画/ミニシリーズの主演女優賞のジュディ・デイヴィスと助演女優のタミー・ブランチャード、同じく主演男優賞のケネス・ブラナー等、主要部門で大挙して受賞者が欠席していたのは、残念といえば残念。授賞式の最後ではバーブラ・ストライサンドが登場して、ブロードウェイ・ミュージカルの「カルーセル (Carousel)」から「You'll Never Walk Alone」を歌ってテロリスト・アタックの犠牲者に捧げ、幕となった。
それにしても今回のエミー賞が開催された11月4日は、なんと裏番組がメイジャー・リーグ・ベイスボールのワールド・シリーズで最終第7戦までもつれ込んだ、その第7戦の中継と重なってしまい、うちのTVはピクチャー・イン・ピクチャーの機能がないから、リモート・コントロールを片手に、ひっきりなしにこっちを見たりあっちを見たりとチャンネルを替えながらのエミー賞視聴であった。エミーでもあまり当たらなかった上にヤンキースもリードしていて9回裏逆転サヨナラ負けと、私はダブル・パンチを食らった気分。
