放送局: NBC

プレミア放送日: 10/11/2006 (Wed) 20:00-20:30

製作: ブロードウェイ・ヴィデオ、NBCユニヴァーサルTV

製作総指揮: ティナ・フェイ、ローン・マイケルズ、ジョアン・アルファノ、マーリ・クライン、デイヴィッド・マイナー

共同製作総指揮: ロバート・カーロック、ジャック・バーディット

クリエイター/脚本: ティナ・フェイ

出演: ティナ・フェイ (リズ・レモン)、ジェイン・クラカウスキ (ジェナ・マロニー)、アレック・ボールドウィン (ジャック・ドナギー)、トレイシー・モーガン (トレイシー・ジョーダン)、レイチェル・ドラッチ (色々)


物語: リズは人気スケッチ・コメディ・ショウ「ザ・ガーリー・ショウ」のプロデューサーであるが、新しい親会社のボス、ドナギーは、番組製作のイロハも知らないくせになんやかやと口うるさく番組のことで口出ししてくる。ドナギーは番組梃入れのために人気コメディアンのトレイシーと出演交渉しろとリズを送り出し、そしてリズのいないうちに古参プロデューサーを首にしてしまう。怒ったリズは自分も番組を辞める決心をするが‥‥


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今シーズン、アーロン・ソーキンの「ステュディオ60・オン・ザ・サンセット・ストリップ」と共に、TV業界、端的に言ってNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」を題材にして作られているもう一本の番組が、この「30 (サーティ)・ロック」だ。


「SNL」も「ステュディオ60」も「30ロック」も全部NBCの番組であるが、スケッチ・コメディ・ショウの「SNL」、ドラマの「ステュディオ60」、コメディの「30ロック」と、それぞれやっていることは異なる。「SNL」はさすがに30年も続いているこの種の番組としては老舗中の老舗なので、それをネタに色々なことができる。


なぜだか「ステュディオ60」と「30ロック」と、番組タイトルに数字を組み合わせた感覚も似ている。「ステュディオ60」の方はこれが番組中番組のタイトルでもあるが、「30ロック」というのは、NBCが入っているミッド・マンハッタンのビルの所在地、30 Rockefeller Plaza から来ている。


ニューヨークのみならず、アメリカを代表する風物詩として知られるロックフェラー・センターのクリスマス・ツリーの写真を見たことのない者はいないと思うが、手前にアイス・スケート・リンク、その後ろにツリーがあって、その後ろにそびえるビルが、30ロックことロックフェラー・ビルだ。もちろん「SNL」を公開収録しているステュディオは、このビルの中にある。因みにアメリカの朝を代表するニューズ/トークの「トゥデイ」の公開ステュディオは、道を挟んだその隣りにある。


さらについでに言うと、これらのビルが並ぶ49丁目は、紀伊国屋やラーメン屋のサッポロ、寿司田等があり、わりとニューヨークの日本人には馴染みが深い。ブック-オフやZaiya、ちよだ鮨ができて、マディソンとフィフスの間の41丁目に抜かれるまでは、49丁目のフィフスからブロードウェイまでが、最も日本人人口密度が高いストリートだった。


さて、ドラマとコメディというジャンルの違いの他に、「ステュディオ60」と「30ロック」で決定的に異なるのが、「SNL」との関わり方である。「ステュディオ60」は、「SNL」をモデルにしているとはいうものの、番組自体はソーキンの想像上の番組であり、事実上両者は何の関係もない。ところが「30ロック」の場合、クリエイター/主演のティナ・フェイは、現実にその「SNL」のレギュラーだった。


フェイと共に製作総指揮に名を連ねているのは、本家「SNL」もプロデュースしているローン・マイケルズであり、製作はそのマイケルズのブロードウェイ・ヴィデオが受け持っている。共演のアレック・ボールドウィンは、「SNL」で最もゲスト・ホストの回数が多いことで知られており、これまた「SNL」とは縁が深い。さらにトレイシー・モーガンやレイチェル・ドラッチも、フェイと共に「SNL」のレギュラーだった。というふうに、実際に「SNL」関係者が製作しているのが、「30ロック」なのだ。


とはいえ、その「30ロック」の中でフェイがプロデューサーとして携わっているスケッチ・コメディ・ショウの名は「ザ・ガーリー・ショウ (The Girlie Show)」であり、ここだけは「SNL」とは縁もゆかりもない。女性出演者を中心としたスケッチ・コメディ・ショウという設定であり、ま、ここで番組内番組が「SNL」もどきになってしまうのを嫌ったのは、わからないではない。そんなことするくらいだったら、フェイも「SNL」辞めないで続けていればよかったのにと言われるのがオチだろう。


番組第1回では、フェイ演じるリズが、新しくNBCの親玉としてリズにあれこれ指図するようになったドナギーの命を受け、「ガーリー・ショウ」梃入れのために、人気コメディアンとして活躍しているトレイシー・ジョーダンと出演交渉してこいと追い出される。リズが気難しいトレイシーを相手に難渋し、やっとトレイシーを連れてステュディオに帰ってきた時には既に生番組のショウは始まっており、予定では本物を使うはずではなかったネコがドナギーの一存で使われており、当然生放送なんか関係ないネコは演技をしてくれず、ショウはぶち壊しの真っ最中だった。そこへ機転を利かしたトレイシーのアドリブにより、なんとか番組は続いてく‥‥というのがプレミア・エピソードである。


嫌味たっぷりで、自分はさも仕事ができるんだとばかりの態度でワンマンに場を仕切りたがる新上司のドナギーを演じるのが、ボールドウィンだ。ボールドウィンといえば、数多い「SNL」のゲスト出演の中でも人が最もよく覚えているスキットといえば、まだサラ・ギャステヤーとモリー・シャノンがいた時代に、ボールドウィンを加えた3人でやっていた公共ラジオのパロディだろう。あまり表情を出さないことで逆に笑いをとるいかにもボールドウィンらしい今のキャラクターが、あのスキットで固まったという感じが濃厚にする。このギャグのスキットは結構本人も気に入ったようで、一時「SNL」にゲスト出演する度にこのギャグをやっていたという記憶がある。


ちょっと話は逸れるが、マーティン・スコセッシ会心の一作である「ディパーテッド」では、主要登場人物の3人の周りを錚々たる顔ぶれの俳優陣が固めている。その中で、特に出番が多いわけではないながらも最も印象的な役を演じていたのがボールドウィンとマーク・ウォールバーグのコンビで、特に切れると暴力的になるボールドウィンの印象は強烈だった。なんでも聞くところによると、ボールドウィンは今年リーバ・マッキンタイアと共にステージ版「南太平洋」に出て歌も歌ったそうで、今年はどうやらボールドウィンの当たり年だったらしい。


「SNL」関係で他にレギュラーとして「30ロック」にも登場してくるのは、トレイシーを演じるトレイシー・モーガンと、端役ながら複数の役をいくつもこなすという設定で、レイチェル・ドラッチが出ている。モーガンは番組中では人気のある問題児みたいなキャラクター設定をされているが、つい先頃、実際に酒酔い運転で逮捕されたことが大きく報道されており、お、事実が虚構に追いついたってやつですかと思わされた。しかし番組内で、彼がお笑い界のスーパースターみたいな設定になっているのは、彼にはちょっと荷が勝ちすぎかと思わないでもない。


いずれにしても俳優が何か問題を起こした時、出演映画やTV番組が存続や公開の危機に見舞われたりする。最近ではメル・ギブソンが、飲酒運転舌禍事件で新作の「アポカリプト」公開が疑問視されたりもしたが、モーガンが何か問題を起こしたからといって、「30ロック」への影響云々は何も聞こえてこなかったところが、モーガンの本当の人気のレヴェルを物語っていると言えよう。一方、ドラッチは「SNL」さながらいくつもの役を代わりばんこに演じることになっている。「SNL」でよくやっていた、頭から手が突き出ている畸形役をここでもやったらすごいのに。


しかし「SNL」関係で言うと、最も興味深いのは、フェイの交友関係から誰が番組に出ているかではなく、誰が出ていないか、端的に言うと、「SNL」のウィークエンド・アップデイト・コーナーでフェイと長らくペアを組んでいたジミー・ファロンの不在だろう。毎回必ずペアを組んでやっていたフェイとファロンは、当然顔をつき合わせていた時間が最も長いはずで、傍目からだと最も近しい存在に見えた二人の間柄は、実はそれほどでもなかったのか。昔なんかのインタヴュウで、ファロンがフェイのことを誉めちぎっていたのを見たことがあるが、実はフェイの方でファロンのことをなんとも思っていなかったとか。ファロンは一時、MTVの「ヴィデオ・ミュージック・アウォーズ」等、かなり色んなところでホストに起用されるなど重宝されていたという記憶があるが、最近あまり見ない。何をやっているんだろう。


実は「30ロック」は、前評判とかはともかく、視聴率の上ではかなり苦戦している。それでもまだキャンセルされていないだけマシな方だが、放送時間帯を移されるなど、NBCも番組をどうしようか決めかねているという感じが窺える。結局NBCがとった策は、「30ロック」だけでなく、「スクラブス」や「マイ・ネイム・イズ・アール」、「ジ・オフィス」等のその他の30分コメディと共に、かつて栄華を誇った木曜夜8時から10時までの時間帯にまとめて放送してしまおうというものであった。


そう遠くない昔、この時間帯はNBCが誇る最強番組が軒を連ね、「マスト・シーTV (Must See TV)」のキャッチ・フレイズと共に他のネットワークを圧倒していた。特に8時「フレンズ」、9時「サインフェルド」という2大シットコムと共に、全盛期の「ER」が10時台に編成されていた90年代後半のNBCはほぼ無敵で、たぶんこの時期にNBC以外のチャンネルを見ていた視聴者はそう多くはないだろう。現在はCBSの「サバイバー」や「CSI」、ABCの「アグリー・ベティ」や「グレイズ・アナトミー」のために群雄割拠状態になってしまった木曜夜の復権をかけて、手薄になっている30分コメディで挽回を図るというのがNBCの策のようだ。


考えてみると、「30ロック」から「スクラブス」、「マイ・ネイム・イズ・アール」、「ジ・オフィス」まで、これらの番組は皆シングル・カメラ撮影、ロケ多用のコメディであって、ステュディオで一般観客と共に収録する、アメリカTV界の伝統であるシットコムではない。現時点で、NBCが放送しているシットコムは1本もないのだ。実際の話、アメリカTV界では現在、伝統的シットコムはすたれ気味で、今シーズンに限ると、この種のシットコムの新番組は、FOXが編成した「ティル・デス ('Till Death)」とCBSの「ザ・クラス (The Class)」のたった2本のみである。こんな事態は少なくともここ数十年出来したことがない。どのくらいシットコムの人気が低下しているかがよくわかる。


シットコムの場合、挿入される観客の笑い声 (ラフ・トラック) が笑いを強制されるようで好きじゃないという視聴者の割合が、ここ数年、加速度的に増えているように感じられる。実際私もそうであり、ネットワークもそういった視聴者の嗜好の変化には無関心ではいられないといったところだろうか。むろんよくできたシットコムの場合、ステュディオの観客の爆笑は視聴者も刺激して哄笑させるみたいなプラスの効用ももたらすので、一概に悪い面ばかりでもない。私は単にシットコムを否定するのではなく、シットコムもシングル撮影コメディも共存するのが最も望ましいと思っている。それが「マスト・シーTV」から10年でシットコム全滅という状態にまで状況が変化しようとは、まったく予想もできなかった。果たして「30ロック」のみならず、NBCのコメディ群は生き延びていくことができるのだろうか。ちょっと要注目である。






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30 Rock


30 ロック (サーティ・ロック)   ★★1/2

 
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